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保安隊海へ行く 33

「ありがとうございます……」 

 そう言うと誠はそそくさと豪勢な要の部屋から出た。いつもは粗暴で下品な要だが、この豪奢なホテルでの物腰は、故州四大公家の一人娘という生まれを思い出させる。

 廊下から沈みつつある夕暮れが見える。もしかしたら自分はかなり損をしたのではないだろうかと誠は考えたが、口の軽いアイシャが四人で露天風呂に入ったと島田達に言いふらすのは確実だ。

『菰田さん。怖いんだよなあ』 

 常に痛い視線を投げてくる経理課長の三白眼を思い出しながら自室に入った。島田もキムも帰ってきてはいなかった。誠は着替えとタオルを持つとそのまま廊下を出た。

 どうにも寂しい。

『やはり断らない方が・・・』

 そう考えながらエレベータでロビーに降りる。

「神前曹長!」 

 ロビーで手を振るのは明華の秘蔵っ子で技術部整備班のやり手の西兵長だった。後ろで小突いているのは菰田主計曹長。いつものことながら威圧するような視線を誠に浴びせてくる。

「もう行ってきたんですか?」 

 イワノフ少尉がニヤニヤ笑いながらうなづく。

「結構日本風の風呂というものもいいものだな」 

 そういいながら扇子で顔を仰いでいるのはヤコブ伍長だった。

「島田さんは?」 

「野暮なこと言っちゃだめですよ!きっとラビロフ少尉と……」 

 西はそう言うとにんまりと笑う。

「餓鬼の癖に詰まらんことを言うな!」 

 西を取り押さえたのはソン軍曹だ。菰田、ソン、ヤコブ。どれも誠が苦手とする先輩である。

『ヒンヌー教団』

 三人を保安隊の隊員達はこう呼んだ。

 アイシャ曰く『筋金入りの変態』と呼ばれる彼等は自らは『カウラ・ベルガー親衛隊』と名乗り、犯罪すれすれのストーキングを繰り返す過激なカウラファンである。出来れば係わり合いになりたくないと思っている誠だが、カウラの部下ということで菰田達から目をつけられているのは事実だ。

 今回の旅行でも、本来は菰田は管理部経理課長として、休みが取れないところを吉田に仕事を押し付けてやってきたほどのいかれた人物である。

『これでカウラさんと風呂に入っていたら……』 

 菰田達の視線が痛く感じる誠。

「どうしたんだ?」 

 いぶかしげに黙って突っ立っている誠の顔を覗き込んでくる菰田。悟られたらすべてが終わる。その思いだけで慌てて誠は口を開く。

「なんでもないですよ!なんでも!じゃあ僕も風呂行こうかなあ……」 

「そっちは駐車場だぞ」 

 ガチガチに緊張している誠を見る目がさらに疑いの色を帯びる。ソンなどは誠の周りを歩き回り異変を探り当てようとしているような感じすらする。

「そうですか?仕方ないなあ……」 

 誠は逃げるようにして菰田達がやってきた露天風呂のほうに向かった。

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