保安隊海へ行く 25
「若者達はいいねえ」
隊長席でのんびりとタバコをふかしながら嵯峨は窓を開けて通用門に向かうバスを眺めていた。
「吉田の。お前も行けばよかったのに。あの明石や明華も有給取ってるんだ、そのうち騒がしくなったら遊びにも行けなくなるぜ」
「確かにそうなんですが……」
吉田はソファーに腰掛け、隣に立っている司法警察と同規格の制服を着た女性を見やった。黒いセミロングの髪の女性は、胸の前で手を組みながら嵯峨の様子を覗っている。
「安城さん、とりあえず腰掛けたら……」
嵯峨は笑顔でそう言って見せるが、同じようにやわらかい笑顔を浮かべながら安城秀美少佐はそれを断った。
「服が汚れるから止めておくわ」
静かだが明らかに軽蔑したような彼女の視線に嵯峨が身をすくめる。司法機関特務実働部隊隊長の彼女ははじっと子供のように窓から身を乗り出している嵯峨の様子を見守っていた。
「近藤資金のデータがなぜうちに来ないのか、説明して貰えるかしら?」
詰問するような調子で安城は嵯峨を見据えている。
「吉田の。あれだけだろ?ウチで把握してる資料って……」
ようやく執務用の椅子に戻って目の前の決済済みの書類の山をぺらぺらとめくる嵯峨。彼は決して秀美を見上げようとはしなかった。
「諦めてくださいよ、隊長」
吉田のその一言を聞くと嵯峨は手元にあった紙切れに四文字のカタカナを書き付けて机の端に置いた。
「それで正面からウチのシステムに入れますよ」
それを見ると安城は歩み寄ってその紙切れを拾い上げた。まるで欲しかった人形を手に入れた少女のような表情。嵯峨の視線か秀美に釘付けになる。
「秀美さん。今日はこんな紙切れのために来たんじゃないんでしょ?」
吉田が見ていることに気がつくと、嵯峨は咳払いをして椅子に深く座りなおす。
「そうね。法術特捜部隊の設立に関して同盟司法機関直属の実働部隊としての総意を取り付けようと思って」
ようやく穏やかな表情に戻った秀美が嵯峨を見つめる。
「それなら次の司法局の幹部会にでも……」
「あら、いつもそこで居眠りばかりしている人は誰なのかしら?おかげで司法局には無駄飯食いが多いと軍から突き上げを食らうのはいつだって私で……」
そこまで言うと参ったと言うように嵯峨は両手を頭の後ろに持ってきて苦笑いを浮かべる。
「きついなあ、秀美さんは」
嵯峨のそんな態度に秀美は明らかにいらだっているように大きく見せ付けるように息を吐いた。。
「正直、私のところでは対応しきれないの。確かに法術兵器を使用してのテロが行える組織が存在しない可能性の高い現状なのは確かよね。発火能力や干渉空間展開などはコストが低くテロリストがすぐにでも法術覚醒を向かえれば発動可能」
ここまで言うとさすがに嵯峨も関心がある話なのでそのまま秀美を見上げるようにして机の上に頬杖を付いて真剣に聞き入る。
「確かに小火器などで武装したチームと連携してテロ活動を行うとなればウチの領分だけど、ウチはには神前君や嵯峨さんみたいな法術適性上位クラスの隊員はいないの」
「確かに同盟機構の上層部の頭にあるのはせいぜいネットを駆使しての扇動により効果的に世論を動かすような電子戦は想定していても法術が絡むと言うことまで頭が回ってないみたいですからねえ」
諦めたように静かに呟く嵯峨。吉田も黙ってその様子を見つめている。
「こんな現状ですもの。法術特捜のフォローは嵯峨さんの所でしてもらわないと困るのよね。まあこちらの領分での事件ならいつでも引き受けるけど」
穏やかな口振りだが、語気は強い。ソファーに腰掛けた吉田が伸びをすると、困ったような目で秀美を見つめる嵯峨の姿があった。
「そんな顔したって無駄よ。先週の同盟司法会議でもちゃんとそのように上申しておいたわよ。まあ嵯峨さんはまた寝ていたみたいだけど」
「頭の固いお偉いさんに具体的な事例も挙げずに戦力強化のお話なんて……結果が見えてるのに話し聞くだけ体力の無駄だからね」
嵯峨はそう言うと一枚のディスクを取り出した。




