保安隊海へ行く 24
「島田の旦那ー!」
窓を開けようとする島田を待っていた誠に向けて叫ぶ声が聞こえて振り向いた。オリーブ色のTシャツにジーンズの小夏、桜色の日傘を手にする紫の和服の春子がハンガーから出てバスに向かってきていた。
「俺も旦那に昇格か」
窓を開けると照れるように笑う島田。整備班員の統率を買われていた島田は技術部部長の明華の推薦で准尉に昇進していた。笑顔でバスに駆け寄って来た小夏を迎える。
「師匠はもう中ですか?」
バスの先頭を指差す小夏。誠は周りを見回すが、自分以外は全員バスに乗っていることに気づいて苦笑いを浮かべた。
「そうみたいだな。それにしてもお前も少しは女らしくしろよ」
「それはグリファン少尉みたいにしろってことですか?」
にやける小夏。サラとのことを弄られてムッとする島田。
「下らないこと言ってないでとっとと乗れ!」
柄にもなく照れている島田と笑顔の春子が誠の目に入る。誠はそれを暖かく見守るとそのまま。春子のかばんと小夏のリュックを荷物置き場に押し込んでロックをかける。
「じゃあ全員そろったわけだ。行くか?」
誠は島田の言葉で春子を連れてバスの前を回ってバスに乗り込む。
「神前!こことって有るからな!」
要が隣の席を指差しながら手を振る。誠はしかたなく奥の方へと歩き出した。
「ここだ。座れ」
イカの燻製を咥えながら、もう既にウィスキーの小瓶を手にして飲み始めている要の隣に席を占める。通路を隔てて隣は不機嫌そうに要をにらみつけるアイシャ。そして窓際に二人の動向を静かに見守るカウラが座っている。
「オメエも喰うか?」
燻製を差し出す要にしかたなく受け取る誠。
「行くのは永峰海岸ですか。随分ありますよね、ここからだと」
運用艦『高雄』の停泊先が東に150kmの新港。それに対して永峰は南の戸蔵半島の付け根のリゾート地である。渋滞とかのことを計算に入れれば今から出ても着くのは夕方になる。
「いいじゃない。着いたら温泉が待ってるのよ」
アイシャがそこでニヤリと笑う。大体彼女が笑うときは何かあるので冷や汗が流れるのを感じる誠。
「まさか混浴じゃないですよね?」
誠は何となくそう言ってみた。それに答えるつもりはまるで無いというようにじっと笑顔を保ち続けるアイシャ。
「まあなんだ。アタシの顔が利くところだからな」
「何かたくらんでますね、西園寺さん」
誠は恐る恐る要を見る。いかにもたくらんでいますというように要は満面の笑みを浮かべていた。




