保安隊海へ行く 166
「ラーナさん、まだ要さん達はお見えにならないの?」
上座に座っている茜が鋭い視線を投げるので、思わず誠は腰が引けた。
「ええ、呼んできたほうがいいっすか?」
「結構よ。それより話し方、何とかならないの?」
茜は静かに目の前に携帯端末を広げている。
「すまねえ、コイツがぶつくさうるせえからな」
「何よ要ちゃん。ここは職場よ。上官をコイツ呼ばわりはいただけないわね」
要、アイシャ、そしてカウラが部屋に到着する。
「じゃあ、席についていただける?」
三人を刺す様な目つきで眺めながら、茜は端末を操作している。
「おい、それは良いんだけどよ。法術特捜の部長の人事はどうなったんだ?一応看板は、『遼州星系政治共同体同盟最高会議司法機関法術犯罪特別捜査部』なんて豪勢な名前がついてるんだ。それなりの人事を示してもらわねえと先々責任問題になった時に、アタシ等にお鉢が回ってくるのだけは勘弁だからな」
誠の隣の席に着くなり切り出す要。アイシャもその隣で頷いている。
「その件ですが、しばらくはお父様が部長を兼任することになっているわ。まあ本当はそれに適した人物が居るのだけれど、まだ本人の了承が取れていないの。それまでは現状の体制に数人の捜査官が加わる形での活動になるわ」
そう言いながら、茜はなぜか視線を誠に向かって投げた。要もその意味は理解しているらしく、それ以上追及するつもりは無いというように腕組みをする。
「僕の顔に何かついてますか?」
真っ直ぐに見つめてくる茜の視線を感じて思わず誠はそう口にしていた。
「いいえ、それより今日は現状での法術特捜の人事案を説明させていただきます」
「そうなんですの。とっととはじめるのがいいですの」
要は茜の真似をして下卑た笑みを浮かべて見せる。茜はそれを無視するとカウラの顔を見た。
「階級的にはクラウゼ少佐が適任なのですが、少佐の運用艦『高雄』の副長と言う立場から言えば、常に前線での活動と言うわけには行きません。ですのでベルガー大尉、捜査補助隊の隊長をお願いしたいのですがよろしくて?」
茜の言葉に頷くカウラ。要は怒鳴りつけようとするが、茜の何もかも見通したような視線に押されてそのままじっとしていた。
「つまり私は後方支援というわけね。それよりその子、大丈夫なの?」
アイシャはテーブルの向かいに座っているラーナを見ながらそう言った。ラーナは何か言いたげな表情をしているが、それを制するように茜が口を開いた。
「彼女は本人の希望による遼南山岳レンジャー部隊への出向の時にナンバルゲニア中尉の下でのレンジャー訓練を受けたことがありますの。それに法術適正指数に於いては神前曹長に匹敵する実力の持ち主ですわ」
シャムの教え子。その言葉だけで誠達は十分にラーナの実力を認める形となった。




