6
「コンタクト──リリィ!」
上空への急上昇が終わり、ライドラの身体が安定したところでリリィに連絡をする。
「無事に街は抜けられましたか?」
「肉体的には無事だ。精神的には大事故が起こったけどな……まあ、今はそれよりも始まりの街まで向かってくれ。召喚を解除した3人が待ってるから」
「分かりました」
「それと3人の回収が終わったらまた連絡をくれ。俺とライドラじゃどこが魔法を使えないエリアなのかが分からない」
「了解です。──ではまた後ほど」
プツン──なんて音がなるわけではないがリリィとの通話が切れる。
さて再び連絡が来るまで猶予はない。
さっさとライドラにも説明をしてしまうか。
「話を聞いててもう分かってるかもしれないが、ここからしばらく魔法を使えないエリアが続くらしい。だから今日はそれを抜けるまで帰れないものと思っておいてくれ」
「ふむ……距離にしてどれくらいだ?」
「話によると人が歩いて1週間かかるらしい。単純計算なら──330バルユーレくらいだな」
「そうか──」
さすがというかなんというか。
仕事の早いリリィから連絡が返ってきた。
自動起動したエスシュリー(仮)の画面をタッチして通話をオンにする。
「マスター、3人との合流が完了しました」
「そうか。ならこっちに来て貰うから少し待っていてくれ」
「はい」
もう1度通話を切る。
そしてそのままエスシュリー(仮)を操作していつもの言葉を口にする。
「解除! ──そして召喚!」
呼び出したリリィを受け止める。
いくら時間がないとはいえ、空を移動しながらの召喚はやはり一瞬ヒヤッとするな……
「召喚士、無事に拾えたか?」
「ああ、大丈夫だ。──リリィ、もう離しても大丈夫か?」
「マスター、ちょっと待ってください! 早すぎて振り落とされそうです」
「分かった。とりあえずこっちの風が少ないところに来てくれ」
「はい。──どうしてマスターはそんなに平然としているんですか?」
「よく分からんがこいつはセンスがあるみたいだ」
センスがあろうと時速200キロ超で飛行するドラゴンの上には乗ってられないだろ……
ホント、なんでリリィは風に煽られてるのに、俺は平然としていられるんだろうな。
「ここならまだ大丈夫みたいです」
「そうか。とりあえず飛ばされないように後ろについておくが、しっかり捕まっていてくれ」
「はい」
リリィの後ろにピッタリとくっついて座る。
リリィの身体が安定したのはいいが、風でなびいた髪が顔に当たるし、その度にいい匂いがするしで結構辛い。
思い返せば前にリリィやゼノと一緒に乗ったときはこんなにスピードを出してなかったな。
それを考えずにリリィを呼び出したのは失敗だったかもしれない。
でもリリィがいないと魔法が使えるようになったかどうかも分からないし今は耐えるしかないか……
そしてそのまま間を埋めるために他愛のない話をしながら青い空を移動していった。
「マスター、ここ辺りなら魔法を使えそうです」
あれから5時間ほど経ったところでようやく魔法を使えないエリアを抜けることができた。
移動距離にして500バルユーレほど。
まったく1週間とはなんだったんだ……
歩いたら2週間くらいはかかるじゃねぇか。
「うむ、ならば1度降りるぞ」
「分かった。ただいつもよりゆっくり降りてくれ」
「分かっている」
そういうとライドラは緩やかに着陸動作に入る。
さすがにいつものように急降下されるとリリィがどうなるか分かったもんじゃないからな。
「はぁ……やっと地面です」
リリィは長い空の旅に疲れ果てたのか俺にもたれるように倒れ込んでくる。
俺は実感したことないが、振り落とされないように5時間もライドラの身体にしがみついていたんだからこうなるのも仕方がない。
「ライドラ、すまないがしばらくリリィが動けそうにないからこのまま休憩を取っていいか」
「構わんが敵襲があったら急に動くかもしれんからお前は気を付けておけよ」
「分かったよ」
さすがに体長5メートルほどのドラゴンに喧嘩をうってくるような向こう見ずなモンスターはいないと思うが、なんせここは初めて来た場所だからな。
警戒しているに越したことはないのだろう。
「リリィ、大丈夫か?」
「大丈夫ですけど、明日は腕が筋肉痛になっていそうです。マスターは毎日こんな大変な思いをしていたんですね……」
「召喚士は俺の上でたまに寝ているくらいだからそんな大変ではないぞ」
「よくそれで落ちませんね」
「ホント謎だよな」
ああ、寝てたのバレてたのか……
ライドラと2人で移動している時はそんなに話さないからな。
風が気持ちよくてうたた寝してしまっても仕方がないことなんだよ。
多分。
「──いつまでもこうしているわけには行きませんし移動ポイントを探しましょうか」
「リリィが大丈夫ならそれでいいんだが」
「早く帰ってベッドで休みたいです」
「乗り心地が悪くてすまなかったな」
「あ、いえ、そういうわけではないんですが……」
「冗談だ。別に怒っているわけではない」
まったく笑えない冗談だった。
てか、あの言い方は本気で言ってるだろこいつ。
「ま、とりあえず降りるか」
「はい」
そしてようやくライドラから降りる。
冒険当初のような草原ではなく、見渡す限りの荒野。
その中にポツンと佇む建物のようなものを頼りにライドラが地上に降りたみたいだが、この先鬼が出るか蛇が出るかはまだ分からない。
まあ何も出ないか、お茶でも出してくれたら嬉しいんだけどな。
「俺はまだ残っていた方がいいか?」
「どうだ? リリィ?」
「多分戦えると思います。──敵のレベルが分からないのはいつものことですから」
「ならライドラの仕事はここまでだな。まあ、最悪の場合はゼノでも呼び出せばどうにかなるだろ……」
「そうか。ならまた明日だな」
「ああ、また明日も頼むぞ。──解除!」
ライドラの召喚を解除して、荒野にリリィと2人だけになる。
さて、まずはあの建物に向かうとしますか──




