34
「あ、あれ?」
目を開く。
すると目の前にあったのは知らない天井だった。
いや、そもそも暗くてまともに見えてないんだけどな。
「やっと目を覚ましたか……」
「ゼノ? ここは……いててて」
身体を起こそうとしたところで激痛が走る。
ホントに頭が割れそうだ。
「ここは宿屋だ。それと今はまだおとなしく寝とけ」
なぜ頭が痛いのか。
なぜ俺は寝ているのか。
その答えは分かっている。
ただの酔い潰れだ。
いや、まさか4杯で潰れるなんて思ってもなかった。
「そうする、それで他のやつらは?」
「エルフとシェイル族の女2人は隣の部屋に泊まっている。ござるは『見張りも拙者の大事な役目でござる』とか意味の分からんことを言ってどっか行った」
シェイル族?
聞き慣れない言葉だが、おそらくエリスのことを言っているのだろう。
正成は……まあ、好きにやらせておけばいいな。
「時間は?」
「今21時を回ったところだ」
「ありがと。それならまだ寝てないだろうし問題はないな」
アルコールが抜けきっていないせいか、少し二重に見える液晶を操作する。
メッセージ。
リリィ。
エリスを連れて部屋に来てほしい。
送信っと。
「今から何をするつもりだ?」
「明日からの作戦会議」
「ござるも呼んでくるか?」
「あいつは……明日でいいよ」
「──マスター、お待たせしました。お身体はもう平気ですか?」
「まだ頭が少し痛いけど、これくらいなら慣れてるから大丈夫」
まあ、これくらいなら一晩寝れば治るだろうし、心配されるようなことでもない。
そんなことより役者は揃ったしそろそろ本題へと入ろうか。
「それで明日からの事なんだが、俺は街の裏手にある雪山に黒龍を探しに行く。その間でそれぞれに役割を与えたい」
「こくりゅー?」
「黒い大型の飛龍だ」
「この世界にはそんなモンスターもいるんですね」
「はい。その黒龍を仲間にして魔王城へ移動する際の足にしようという計画です」
「龍の背に乗って冒険ってなんか冒険みたいです!」
冒険初心者のエリスにゼノとリリィが説明をする。
これは正直、喋ってるだけでも少し辛いから助かる。
てか、エリスってこんなアホな子だったのか……
言いたいこともそう思う気持ちもは分かるがな。
「まあ、話を戻すぞ。明日は様子見をかねて俺とリリィの二人で登山する。その間にゼノはエリスと正成に戦闘の指南をしてくれ」
「指南ったって何すればいいんだよ」
「町を出て二人を戦わせて、ただ死なんように見張っててくれればいい。まあ、時折アドバイスとかしてくれれば助かるが」
リリィが何故かクスッと笑う。
俺何か変なことを言っただろうか?
「ま、それくらいなら」
「はい、私がんばります!」
「リリィ、明日は道中に移動呪文のポイントとなる場所があるか探すのが目的だ。頼りにしてるぞ」
「はい!」
うん、これでほとんど話が終わってしまった。
「作戦会議ってこれだけか?」
「今のところはな。ただもう1つ大事な用があってな」
それがエリスをなぜ仲間に加えたのかの理由。
まともな方法でレベルを上げていくのであれば、エリスを仲間に加える必要はなかった。
いくらパラディンが上級職とはいえ、時間は限られてるからな。
しかし、それを覆せるだけの秘策がある。
「エリス、俺と契約してほしい」
契約とスキルによる基礎能力の増加。
これが生み出す効果はレベルアップのスピードの上昇に他ならない。
本来ならば倒せない敵を倒せるようになればスムーズにレベルアップができる。
それを彼女にはやってもらう。
──ってなんでエリスは赤くなってんだよ!
「あの、その、初めてだから優しくして欲しいな……なんて」
契約ノットイコール契り。
そういう意味じゃねぇよ……
「エリスさん、契約というのは召喚契約のことです。マスターは私やゼノさんのようにエリスさんも召喚できるようにしたいと言っています」
「えっ、あっ、はい?」
「マスターの召喚能力には呼び出した召喚獣の能力を増加させるスキルがあるので、それを使ってなるべく早くレベルを上げて欲しいということですね」
「なるほど……よく分からないけど分かりました!」
俺の狙いを分かってるリリィすげぇな。
そしてエリスは本当に大丈夫か?
まあ、ダメならダメで別のやつを探すだけなんだが、最悪ミリスを仲間に引き入れるためのエサくらいにはなるだろう。
「リリィが説明した通りだ。それじゃ契約!」
「えっと、もう終わりですか?」
「ああ、これで完了だ」
これでスロットが5つ埋まった。
本当ならば正成も支配下に入れておくべきなのだろうが、今はまだその時ではない。
いくら枠に余裕があるとは言えど、限りがあるものだからな。
まあ、あいつの出番が来るとしたらそれは最悪の場合。
雪山で自然のトラップを潜り抜けないといけなくなった時。
捨てゴマとして俺の前を歩かせないといけなくなった場合になるだろう。
「これで召喚士様に絶対服従の奴隷が増えたな」
おいゼノ、言い方が悪いぞ。
俺がいつ絶対服従なんてさせた。
「ぜ、絶対服従ですか!?」
「ああ、召喚士よりもレベルの低い奴は、その命令に逆らえないからな」
「つまり、命令されればあんなことやそんなことまでしないといけないんですか!?」
何を考えているかは聞かないでおくが、俺は能力をそんな横暴に使うつもりはない。
多分。
「ゼノさん、マスターはそんなことはしませんから!」
「そうだ! 俺はそんなことはしないから!」
「分かってるから、んなむきになるなよ」
「えっ、えっと……」
「命令に逆らえないのは本当だが、こいつは絶対服従させるなんてしない。そんな甲斐性もないからな」
おい!
あっ、頭痛い……
「確かに……」
えっ、リリィまで賛同するの?
小声で漏らした声聞こえてますよ?
「まあ、それは人それぞれですよ」
エリスもかよ……
もういいよ。
「これで話は終わりだ。もう俺は寝る」
「はい、マスター。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
リリィとエリスはそう言うと邪魔をしないようにと自分達の部屋へ戻っていった。
「召喚士、もしかして拗ねてる?」
「いや、普通に頭が痛い」
何が普通なのかは自分でも分からない。
ただ、本気で頭が痛い。
頭痛が痛いって言いそうになるくらい頭が痛い。
「ま、無理せず寝ろ。ベッドは気にせず使っていいから」
やべぇ、ゼノが優しい。
魔族なのに優しくて腹立つ。
でも今日は床で寝れるだけの元気もないからお言葉に甘えさせてもらおう。
「ああ、そうする。おやすみ」
ゼノは何も言葉を返さなかった。
もしかしたら返してくれたのかもしれないが、それすら分からないほどに、俺の意識はすぐに深い眠りへと落ちていった。




