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願わくば夢であらんことを──
そんな儚い願いは音もなく、あっさりと崩れ去ってしまう。
寝たらきっと元に戻っているだろう。
これは酔いか夢かは知らないが、現実ではないだろう。
半ば自暴自棄に、眠りについた昨晩。
そして朝目が覚めて、それが現実であったことに気付かされる。
──動き始めたばかりの頭で昨晩何があったのかを思い起こす。
発端は酔っ払ったリリィが俺にキスをした事だろう。
その後突然倒れ込むようにして眠りに落ちたリリィをそのままにしているわけにはいかなかったからベッドまで運んだ。
そして願わくば夢であらんことをと現実逃避のために俺も眠りについて今に至るわけだが……
「はぁ……」
このまま一人で考えていても埒があかない。
とりあえずリリィを起こす事にしよう。
そう思い立って立ち上がったところで、偶然にもリリィが起きた。
「マスターおはようございます」
寝惚け眼を擦りながら、何事もなかったかのように挨拶をするリリィ。
そのまま洗面所へと入っていき、ここまで慌てている俺の方がおかしいのではないかと思えてくる。
「──きゃあああ!」
わけでもなかったようだ。
リリィは鏡を見てようやくその異変に気が付いたらしい。
「あ、あの、マスター……」
リリィはドアの隙間から少しだけ顔を覗かせる。
その顔はトマトくらい紅く、見ているこちらまで恥ずかしくなってきて思わず目を逸らした。
「やっぱり無理です──」
勢いよくドアが閉められる。
無理。
何が無理なのかによって意味合いは変わってくるが、結構精神的にくるものがある。
しかし落ち込んでいるわけにもいかないだろうと声をかけることにした。
「──あの、リリィさん?」
しかしその声は虚しく響いた。
「とりあえず話がしたいから落ち着いたら出てきて欲しい」
もう一言言葉を告げる。
返事はないが、落ち着いたら出てきてくれるだろう。
そう高を括っていたのが間違いだと気付いたのはそれから数十分が経った後だった。
洗面所から出てくる気配がないどころか、洗面所にいる気配すらがない。
「リリィ、開けるぞ!」
念のために呼び掛けてドアを開く。
もちろんそこはもぬけの殻。
「さて、これからどうするか……」
部屋に備え付けられている時計を見る。
時刻は既にチェックアウトの時間に迫っていた。
「金がねぇ……」
リリィの心配よりも、我が身が大事。
薄情かもしれないが、今は形振り構ってはいられない。
「コンタクト──リリィ」
「コンタクトが拒否されました」
拒否って……
え、あの無理って俺の事が無理ってことだったやつ?
もう色々と心が折れそうになりながらも最終手段に頼ることにした。
「召喚!」
リリィを召喚すると、逃げられないようにその身体をしっかりと抱きしめる。
何故こんなことをしているのかは自分でも分からない。
ただ、こうしなければいけないような気がしていた。
「……あのマスター、離してください」
「リリィが嫌がるなら離す。でも話だけは聞いて欲しい」
「……………………」
リリィが何か小さい声で言った。
それが何と言ったのかは分からないが、とりあえず離した方が良いことだけは分かる。
「俺は正直何が起こっているのか分かっていない。どうしてリリィが──いや、心当たりは色々とあるんだが、急に俺の事を避けるようになったのかも分からない」
「……………………らです」
最初の方がよく聞き取れなかった。
もう一度聞き返してもいいものかこれは迷うところだが……
「マスターが私にき、キスをしたからですっ」
聞き間違いだろうか?
そうでないならばリリィは勘違いをしているということになる。
「キスをしたのはリリィだからな?」
「そんなわけは…………あるかもしれませんね」
そして簡潔に昨晩起こったことを詳らかにしていく。
「謎が解けました」
「謎が解けん」
その結果二人の主張はおもいっきりすれ違う。
「なあ、リリィ」
「マスター、改まって何ですか?」
「どうしてリリィは大きくなっているんだ?」
昨晩からずっと信じられなかった事の核心。
キスをしたと同時にリリィが大人になった。
そう、比喩でもなんでもなく、物理的に大きくなった理由を聞いてみることにした。




