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「──とそういうわけなんです」
リリィが説明を終える。
要約すればこういうことみたいだ。
幼少期に力が強すぎたリリィは、その力を暴走させないようにと力の大半を封印されていた。
そしてその封印の解除方法が忠誠を誓った相手とキスをすることだった。
それで今に至る──そういうわけらしいが……
「やはり重かったでしょうか?」
言葉の意味を反芻して俯き気味だった俺に、心配そうにリリィが問いかけてくる。
リリィがそこまで俺のことを思っていてくれていた。
それはとても嬉しい限りだ。
ただこの問題はそんな楽観できるものでもなく、リリィの質問に素直に答えるならば、その回答はイエスになるだろう。
「正直実感がわかない。ただリリィはこれで良かったのかなって思ってな」
嘘。
そしてもうひとつの真実。
こんな自分が反吐が出るほど嫌いで、おそらくこう答えなかった自分も俺は嫌いなのだろう。
「私は構いません。封印が解けたということはこれが私の決めた答えだったということですから」
照れながらも、そう答える彼女にただならぬ罪悪感を覚える。
そんな自分を正面から見つめるのが嫌で、嫌で仕方がなくて俺は話をそらした。
「封印が解けたってことはリリィは前よりも強くなったってことでいいんだよな」
「おそらくそうだと思います。ステータス上には変化がないのでこの世界で適応している保証はありませんが……」
「それは追々試してみるしかないな」
「そうですね。それで今日はどうしましょうか?」
「不確定要素は取り除いておきたい。だからできれば別行動を取りたいんだが」
「別行動ですか?」
「ああ、リリィには一人で街の外に出てもらおうと思っている。それでリリィが今の状態を確認している間に俺は街に残って仲間を探すわ」
「分かりました。一朝一夕で仲間が見つかるとは思いませんが、行動をしないことには始まりませんからね」
「ああ、それじゃ早速宿を出るか」
「はい」
そうして俺たちは宿を出る。
別れ際にリリィから、
「何かあった際にはいつでも戻ってくるのでコンタクトをとってくださいね」
と言われたが、おそらくコンタクトを取ることはないだろう。
俺は独りになったところで大きく溜息を吐く。
溜息を吐くと幸せが逃げていくなんてよく言うが、そのくらいで逃げてしまう幸せなんて所詮はそんなもの。
瑣末なことを気にしていたらこんなクソみたいな人生やってられたもんじゃない。
とりあえず行動を起こすことにしよう。
歩くほど10分程度と言ったところだろうか。
俺がやって来たのは人気のない入り組んだ路地裏だった。
人を──仲間を探しているはずなのに人気がないところに来てどうするんだという話だが、これにはこれでちゃんと理由がある。
「──そろそろ出てきたらどうだ?」
端からみたら怪しい人間にしか見えないことは間違いないが、そもそもそれを客観的に見る人がいないわけだからこれはノーカウントということにしておきたい。
そんな誰に言い聞かすわけでもない保険を自分の中だけで完結させる。
もちろんその言葉に反応する人もいるわけはない。
「──出てこないならこちらからいくぞ」
それでも俺はいるはずのない誰かに向かってそう忠告をする。
振り向き様の間合いはおよそ3メートルほど。
しかしそれだけあれば事足りるだろう。
「──敵対するつもりはござらん。得物をしまってはくれぬか?」
聞こえてきた声に思わず吹き出しそうになった。
抜刀術だから刃をしまって構えているのに、得物をしまえとは中々のセンスだ。
まあ、どこの誰かも分からないやつの言うことなど信用するに当たらないが。
「一方的にそう言ったところで警戒を解く痴れ者などいるわけがないでござるな……」
そういうと声の主は意を決したのか姿を見せる。
黒装束を身に纏った男。
声のトーンからして分かっていたことだが、その姿は若いを通り越して幼いという印象を受ける。
その両の手は無抵抗を表すためか天に向けて上げられているが、それでも俺は彼を信用することはできなかった。
「これでも警戒を解いてはくれないでござるか!?」
「忍は迂闊に信じてはいけない気がするからな」
「……正しい判断でござるが、何故か心が痛むでござる」
「それで昨晩から俺たちのことを尾行していたみたいだが、何が目的だ?」
最初はリリィが狙いだと思っていた。
しかし別行動を取った際に俺の方についてきたということは全くの見当違いだったわけだ。
そうなってくると俺を狙う理由は分からないが、分からないからこその恐怖というものがどうしてもでてくる。
「然るお方から指示を受けてのことでござるが、それが誰なのかは教えられないでござる」
全く物好きなやつもいたものだとほとほと呆れるばかりだ。
しかし、その然る方が誰なのかというのはある程度予想はついた。
「それで用件は?」
刀から手を離す。
予想通りの人物の差し金ならばもう警戒する必要はない。
違った場合は見る目がなかったということで片付けるべきだろう。
「貴公らの冒険を影ながらに支えることでござる。気取られてしまうとは拙者もまだまだ未熟でござった……」
「それでバレてしまったが、これからどうするんだ?」
「また新たな指示を受けるまでは拙者にも分からないでござる」
「そう弟子が言っているが、どうするんだ爺さん?」
「ほう、私の方にまで気が付いていましたか……」
「師匠!」
次に現れたのは予想通り、昨日よった喫茶店の爺さん。
あの絡繰の扉や酒を持ってきたときに気配を全く感じなかった事を鑑みればそういう結論に辿り着く。
口にはしないが、決して爺さんの気配を読み取ったわけではない。
ただ、この場にいるだろうという勘のみだ。
「昨日貴公とリリィ殿が仲間を探していると仰っていたのを小耳に挟んだらものですから、こやつの修行も兼ねて共に冒険に出してみようと考えておりました。忍ですから隠密にと思っていましたが、気付かれてしまってはこと仕方ありません。貴公がよろしければこやつも冒険に同行させてはいただけないでしょうか?」
その問いかけに考える素振りを取る。
もちろん答えはイエスだ。
しかし即答してしまうには何かくだらないプライドが邪魔をしていた。
「……分かりました」
「そういうわけだ。正成、これからはお前も魔王討伐の為に冒険に出てもらう」
「御意!」
「それでは召喚士様、弟子のことをよろしくお願いいたします」
爺さんはそう言い残すと風のように姿を眩ませた。
そして新たな仲間が増えたところで早すぎる休息をとることにした。




