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目を開く。
薄暗い部屋。
パソコンから漏れるわずかな光だけが辺りを照らしている。
見慣れた天井。
使い慣れた椅子の感覚。
座ったまま寝ていたせいか、身体の節々が痛む。
時刻は23時過ぎ。
あのおかしなメールが届いてから5時間しか経っていないことを鑑みると、おそらく今までの出来事は夢だったのであろう。
「ふわぁ……」
あくびがてら固まった身体を伸ばす。
そしてそのままゆっくりと上げた手を机に落とす。
カチン。
音がなる。
その音の正体は──あのブレスレット。
「夢……じゃなかった?」
恐る恐るボタンを押して起動させる。
するとステータス画面が開いた。
ならばこれはどうだろうか……
「召喚!」
しかし俺の声は虚しく響いただけ。
「なんだか厄介なことが起こりそうだが、気にしててもしょうがないな」
腹の虫が鳴る。
喉も渇き、とても頭を働かせられるような状態ではない。
「腹が減ってはなんとやらってな」
エアコンのタイマーがきっちりと作動したことにより、汗ばんでしまった部屋着を脱ぎ捨て、じっとりと肌にまとわりつく汗を拭う。
風呂に入るかどうか少し逡巡したが、多少の不快感よりも本能とも言える欲求の方が勝った。
「さあ、コンビニにでも行くとしますか」
畳まれている服を適当に着て外に出る。
夏ではあるが、今日は思ったよりも熱帯夜ではない。
時折吹く風はとても涼しく、どこか懐かしい匂いがした。
「いらっしゃーせー」
もう日付が変わる時間ということもあってかやる気のない店員が出迎える。
客の姿はもちろんまばら。
俺の言えた義理ではないが暇人と思しき大学生っぽい若者が立ち読みをしている。
そんないつもの光景だった。
「飲み物と弁当でも買ってさっさと帰るか」
誰に聞かせるでもなく独り言ちる。
そんな自分に対して変な人間に見られるんだろうなと戒めを込め、ツッコミを入れたところで店内を物色することにした。
「まずは飲み物だな」
大きなペットボトルを入れるには小さい不便なかごに、立てかけるようにしてお茶を入れる。
続いては弁当。
品揃えが多く何にするか迷ったが、結局あっさりしたものがいいと思い冷やし中華を手にしてレジへと向かう。
「こちら温めますかー?」
「……いえ、大丈夫です」
店員は億劫そうに対応している。
それにしても冷やし中華を温めるか聞くのはどうかと思うが。
そんなこんなで会計を済ませて店を出る。
帰り道の途中、ふと空を見上げて思う。
満天の星空。
いつか見上げたものとは違い、何も考えることなく見上げられるそれは、本当に元の世界に戻ってくることができたんだと思わせてくれる。
別に何か面白いことがあるわけではない。
いつもと変わらず、ただただ平和な日常を過ごしていける多大なる安心感。
しかし、どこか心は空虚だった。
その空虚さは飯を食っても収まることはなかった。
むしろ一人。
味気ない。
今までもこうだったはずなのに。
人の温もり……いや、リリィはエルフだから人と捉えていいのか分からないが、一度蝕まれてしまうと逃れるまでに時間がかかるみたいだった。
「まあ、どちらにしても戻る術などないんだけどな」
自傷するように声に出す。
これが自分の決定だ。
そういい聞かせるように声に出す。
そんな中、空気を読むことなくいつかのようにメールを知らせる通知音がなった。
『冒険者様にご連絡です。誠に勝手ではございますが、残り72時間が経過しますとRPGの世界に戻ることが出来なくなり、それと同時にブレスレットが消失します。再挑戦をお望みの方は忘れずにグリフィスの羽根を使用してください』
文面を見てハッとした。
もしかしてと思いステータス画面を開き、アイテム欄を確認する。
何もあるはずのないアイテム欄。
そこにあるのはかつて着けていた装備品。
そして一番下。
グリフィスの羽根の文字。
「どうして……」
答えなら既に出ている質問が宙に浮かぶ。
こんなことができるのは彼女しかいなかった。
「……とりあえず寝るか」
走馬灯のように思い返す記憶を振り払い布団に入──らない。
「やっぱりその前に風呂入らないとな」
久しぶりに落ち着いて風呂に入れる。
そんなわずかばかりの幸福に心を満たしつつ、夜は更けていった。




