第三話
「ふ〜ぅ、スッキリした」
夜月がハンカチで手を拭きながら戻ってきた。
「お前なあ……タイミングを考えろよ……」
「いやずっと我慢してたんだよね〜。てか、ここトイレもめっちゃ広いんだけど! 私の部屋と同じくらい広い!」
「いや、そんなに広くないから」
夜月の大袈裟な説明に葉子が強めのツッコミを入れた。もっとキツく言ってやって欲しいと虎一は思った。
「では閑話休題といきましょうか」
夜月が定位置に戻り、コホンと一つ咳払いをした。
「その前に、トイレで思いついたんですが、先にダンボールを開けて中身を確認しちゃいましょうか」
「え? だ、大丈夫なの? 警察とかにやってもらった方が……」
「大丈夫大丈夫。サクッと開けちゃお」
躊躇している葉子にヒラヒラと手を振りながら答えた。
「そんな渋谷のギャルみたいに軽く言うことか?」
「まあいいじゃん。じゃ、虎一よろしく」
「俺が開けるのかよ」
虎一はしょうがないなあとごちながら、ダンボールの継ぎ目に貼ってあった粘着テープをベリベリと剥がした。日向家の三人は怯えた表情でその様子を窺っている。
テープを剥ぎ終えてダンボールを開くと、中には大量の緩衝材が入っていた。通販で買うと無駄にデカい箱に緩衝材をパンパンに詰めるよなあ〜とうんざりしながら、虎一はガサガサと緩衝材を取り出していった。
その緩衝材の海をかき分けていくと、ダンボールの底にラップに包まれた小さな箱が現れた。
「ようやく出てきたぞ。はいこれ」
虎一はその箱を手に取って夜月の前に差し出した。
「スマホ?」
その箱を見て葉子が呟いた。
「そうみたいだね。大体予想通りだよ。まあ機種まではわからなかったけどね」
虎一がくるくるとラップを外すと、箱の印刷がはっきりと見えた。
「わあ! iPhoneの最新機種だ! いいなあ」
葉子が黄色い声を出した。やはりiPhoneは女子高生に人気のようだ。
「と、言うことで中身はスマホでしたと。これで、私の推理の裏付けができました」
夜月は虎一からスマホの箱を受け取ると、ある人物の前へと歩いて行った。
「このスマホを送ったのはあなたですね?」
そう言って夜月はスマホの箱を突き付けた。
「な、私!?」
慌てたような表情で純也は一歩後ずさった。
「お父さん!?」
「あなた!?」
葉子とやよいが信じられないといった表情で純也を見た。
「ど、どうして私がこ、これを送ったというんだ?」
上ずった声で純也が反論をする。夜月は三つ編みをピンと指で弾いて待ってましたと言わんばかりに説明を始めた。
「純也さん、あなたはさっき、この荷物がこの家に届いたことを知ったはずですよね?」
「あ、ああ、そうだが……」
「でもあなたは言いました。「郵便で届いた荷物」だと。どうしてこの荷物が郵便で届いたことを知っているんですか?」
純也が言葉に詰まった。そんなこと言ってたかな? と虎一は思い返してみたが覚えていなかった。
「そ、それは……葉子がそう説明していなかったかい?」
「いえ、葉子は荷物が届いたと言っただけで、運送会社については説明していません」
「ぐっ……そう、だったかい? それなら、荷物が送られてくるなら郵便配達だろうという思い込みだったみたいだ」
「そうですか、まあいいでしょう。ですが、理由はもう一つあります」
夜月は人差し指を立て、その指を口元に動かした。
「あなたは、「こんな大きな箱には入れない」と言いました。なぜ、この箱が中身に対して大きいと分かったのですか?」
「え!? そ、それは、君がそう言ったんじゃないか?」
「いいえ、私は「思ったより軽い」や「振っても振動がない」とは言いましたが、「中身が小さい」とは一言も言っていません。つまり、あなたはこの箱の中身が、この箱に対して小さすぎることを知っていたんだ」
夜月は腰に手を当てて、勝ち誇ったような顔を純也に向けた。意地が悪いなあと虎一は険しい顔をした。
「ぐっ……そ、それは……」
「それに、あなたは私がダンボールを振った時に異常に中身を心配していました。それは、あなたが中身が何なのか知っていたからではないですか?」
夜月のその言葉に、純也は観念したかのようにため息を一つ吐いた。
「……そうだ、それは私が買ったものだ」
「お父さん!?」
葉子が困惑した表情で純也を見た。やよいも口に手を当てて固まっている。夜月はなぜかドヤ顔でグルグルと首を回していた。
「ちなみに、このダンボールは純也さんが用意したんですか?」
「そうだ。私がこの箱で送ってくれと店舗の人にお願いしたんだ」
「なぜそんな面倒なことを?」
虎一が純也へ尋ねた。こんな面倒なことをするなんてよっぽどの理由があるはずだ。
「このスマホは家電量販店で購入したんだが、その時は在庫が無くてね。メーカーから取り寄せないといけなかったんだ。でも、その、このことを家族には知られたくなかったんだ。だから、この怪しい箱に入れれば家族の誰もこの中身を開けることはないだろうと思った。そして、後からこのダンボールを私が回収すればいいと思ったんだ。でも、第三者に相談されてしまったのは予想外だった……」
「なるほど。でも、そんなに家族に知られたくなかったのは、なぜなんですか?」
「そ、それは……」
虎一の質問に純也がもごもごと言い淀む。別に如何わしい物でもないし、スマホを買ったことを隠しておきたい理由はなんだろう? もしかして犯罪に使うとかか? 虎一は少し身構えた。
「そのスマホ、葉子へのプレゼントなんじゃないですか?」
横から夜月が口を挟んできた。
「え? わたし?」
葉子が急に名前を呼ばれて驚いた表情で夜月を見た。
「そ、それは……」
「葉子にサプライズでプレゼントを渡したかったんじゃないですか?」
「でも、葉子の誕生日は少し前だったけど……」
やよいが恐る恐る声を上げた。
「元々は先週の誕生日に買ってあげたかった。しかし、在庫が無かったので仕方なく後日配送してもらうことにした。でも、純也さんは葉子にどうしてもサプライズで渡したかった。なので、急遽このような方法を取った。違いますか?」
夜月は一気に捲し立てた。純也はおどおどと落ち着きのない様子だったが、肩を落として話し始めた。
「あ、ああ、そうだ。葉子が新しいスマホを欲しがっていたのを知っていたから、誕生日にこっそり買ってあげようと思ったんだ。そ、それで、まあ、そんな感じだよ」
「お父さん、そうなの!?」
葉子が口に手を当てて笑顔で驚いた。
「はい、それじゃあこれ、純也さんから手渡してあげてください」
そう言うと、夜月は持っていたスマホの箱を純也へと渡した。
「あ、ああ。は、はい、葉子。誕生日おめでとう」
純也は苦笑いをしながら、受け取った箱を葉子へと手渡した。
「わあ! ありがとうお父さん! でも、よく私がiPhoneを欲しいって知ってたね? お父さんスマホとか全然知らないのに」
「え? あ、いや、会社の人にね、聞いたんだよ。何がいいかなって。そしたらそれがいいんじゃないかって言われてさ」
「そうなんだ〜。あ、でもこれ、SIMフリー版だ。すぐには使えないのかな?」
「え? えっと、今度の休みに一緒にケータイショップに行って手続きしようか」
「うん!」
葉子が満面の笑みで純也を見上げた。純也はその笑顔を見て苦笑を浮かべていた。
「全くもう、そう言うことだったら私に言っておいてくれればよかったのに」
やよいは真相が判明したからか、ホッとしたような柔らかい表情になっていた。
「いや、まあ、敵を騙すなら味方からって言うだろ? あははは」
純也が乾いた笑いを上げると、つられて葉子とやよいも笑った。
やれやれ一件落着だな、虎一はそう思いながら夜月の方を向いた。すると、夜月は三人の方の様子を見ながら、右手で三つ編みを解いていた。




