番外編⑵ 興毅と慶介
番外編⑵「興毅と慶介」。
第4話では、主人公と藤宮麗華、それぞれの家族が集まった顔合わせの中で、両家の思いがけないつながりが次々と明らかになりました。
母親同士――美和子と美晴は、小学校から高校まで一緒だった幼馴染であり、今でも続く大親友。
弟と妹――俊介と麗音は、同じ中学校に通い、一年生から三年生まで三年間ずっと同じクラス。
そして父親同士――慶介と興毅にも、以前から仕事上の接点がありました。
慶介が勤める会社は親会社。
興毅が勤める会社はその子会社。
二人は合同会議や打ち合わせなどで何度か顔を合わせたことのある、いわば仕事仲間同士でした。
けれど、その頃はもちろん知りません。
まさか自分たちの子ども同士が恋人になり、しかもすでに一緒に暮らしているなどとは――。
今回の番外編では、そんな二人の父親に焦点を当てます。
仕事仲間としてではなく、
「娘を持つ父親」
「息子を持つ父親」
として初めて二人きりで向き合う慶介と興毅。
二十歳の人気グラビアアイドルである麗華。
そして十八歳、高校三年生の主人公。
年齢差はわずか二歳でも、芸能活動と高校生活という大きく異なる環境にいる二人です。
さらに交際も同棲も秘密。
もし世間に知られれば、麗華だけでなく主人公の生活にも大きな影響が出るかもしれません。
だからこそ、父親たちには父親たちなりの心配があります。
それでも実際に二人を見たことで、少しずつ変わっていった気持ち。
自分の娘を託す側。
自分の息子を見守る側。
そしていつか、その立場がもっと近いものになる可能性も――。
今回は、母親たちとはまた違う、二人の父親ならではの本音を描いていきます。
家族同士の顔合わせから、一週間ほどが過ぎた金曜日。
午後六時半。
都内のオフィス街にある一棟のビルでは、仕事を終えた社員たちが次々と帰宅していた。
その中に、主人公の父――慶介の姿もあった。
「……今日はこれで終わりか」
デスクの書類を整理し、パソコンを閉じる。
今日は特に大きな残業もない。
帰ろうとした、そのときだった。
スマートフォンが震えた。
画面には、一通のメッセージ。
送り主を確認した慶介は、少し驚いた。
『藤宮興毅』
麗華の父親。
そして――。
慶介の勤める会社を親会社とする、子会社に勤める仕事仲間でもある。
家族の顔合わせで改めて互いの関係を知ったあと、二人は連絡先を交換していた。
メッセージを開く。
『お疲れさまです。もし今日お時間がありましたら、少し飲みませんか?』
慶介は思わず笑った。
仕事関係で何度か顔を合わせたことはある。
しかし、二人きりで酒を飲んだことは一度もない。
以前なら、
『仕事の相談だろうか』
と考えただろう。
しかし今は違う。
慶介の息子と、興毅の娘は恋人同士。
しかもすでに同棲している。
慶介は少し考えてから返信した。
『ちょうど仕事が終わったところです。行きましょう』
数秒後。
『ありがとうございます。では駅前で』
慶介は鞄を持った。
「……父親同士の話、か」
小さく呟き、会社を後にした。
◇◇◇
午後七時。
二人が入ったのは、駅近くの落ち着いた居酒屋だった。
個室へ通される。
向かい合って座る。
「改めまして、お疲れさまです」
興毅が言う。
「お疲れさまです」
「今日は突然すみません」
「いえ。私もちょうど一度ゆっくり話したいと思っていたところです」
「本当ですか?」
「ええ」
飲み物が運ばれてくる。
二人はグラスを持った。
「では」
「お疲れさまです」
軽くグラスを合わせる。
一口飲む。
しばらくは仕事の話だった。
「来月の合同会議、慶介さんも出席されますよね?」
「その予定です」
「私も出ます」
「また仕事でも一緒ですね」
「まさか以前会議で何度かお会いしていた方が……」
興毅が苦笑する。
「娘の彼氏のお父さんだったとは」
「私もですよ」
慶介も笑った。
「藤宮さんの娘さんが、あの藤宮麗華さんだということすら知りませんでした」
「仕事では家族の話なんてほとんどしませんからね」
「そうですよね」
以前から二人は互いの顔を知っていた。
慶介の勤務先が親会社。
興毅の勤務先が子会社。
合同会議。
共同プロジェクト。
業務上の打ち合わせ。
何度か顔を合わせ、名刺も交換したことがある。
しかし、あくまでも仕事上の関係。
互いの家族構成まで詳しく話したことはなかった。
それが今では――。
「不思議なものですね」
慶介が言った。
「本当に」
興毅が頷く。
「妻同士まで大親友だったとは」
「それが一番驚きました」
「美晴から昔から仲のいい友人がいるという話は聞いていました」
「私も美和子から聞いていましたよ」
「でも名前まで意識しないんですよね」
「まさか家族同士がこういう形でつながるなんて思いませんから」
二人は笑った。
◇◇◇
料理が運ばれてくる。
仕事の話が一段落すると、興毅の表情が少し真剣になった。
「慶介さん」
「はい」
「今日誘ったのは、実は仕事の話だけじゃないんです」
「やっぱり」
「分かってました?」
「何となく」
興毅は少し笑った。
そしてグラスを置く。
「……二人のことです」
慶介も表情を改めた。
「息子と麗華さんですね」
「はい」
少しの沈黙。
興毅が言った。
「率直に聞いてもいいですか?」
「もちろん」
「慶介さんは、二人の交際をどう思っていますか?」
父親同士だからこそ聞ける質問だった。
慶介は少し考える。
「最初は驚きました」
「やっぱり」
「息子から『付き合っている人がいる』と聞くだけなら、ここまで驚かなかったでしょう」
「高校三年生ですからね」
「ええ。ただ、相手の名前を聞いて……」
慶介は苦笑する。
「藤宮麗華です、と」
興毅も笑ってしまう。
「それは驚きますよね」
「最初は同姓同名だと思いました」
「でしょうね」
「テレビや雑誌に出ている藤宮麗華さんだと分かったときは、何度も聞き返しましたよ」
「私も逆でした」
「逆?」
「麗華から『高校生の彼氏がいる』と聞かされまして」
「はい」
「最初は、父親として少し複雑でした」
慶介は黙って聞く。
「娘は二十歳。相手は十八歳」
「二歳差ですね」
「年齢差だけなら何とも思いません。ただ、まだ高校生ですから」
「そこですよね」
「しかも同棲したいと言われた」
興毅は当時を思い出すように息を吐いた。
「正直、『待ちなさい』とは言いました」
「当然だと思います」
「麗華の仕事もあります。相手の学校生活もある。簡単な話じゃありませんから」
慶介は頷いた。
「私も息子に同じようなことを言いました」
「何と?」
「恋愛そのものを反対するつもりはない。ただ、相手の人生まで背負ったつもりになるな、と」
興毅が少し驚いた。
慶介は続ける。
「まだ十八歳です。社会に出てもいない。麗華さんには麗華さんの仕事と人生がある。『好きだから全部何とかできる』なんて簡単に考えてはいけない、と」
「……なるほど」
「それでも一緒にいたいなら、まず自分のやるべきことをやれ。学校を卒業する。進路を考える。麗華さんの仕事を尊重する」
「それを聞いて、少し安心しました」
「安心?」
「はい」
興毅は慶介を見る。
「私も娘に似たことを言ったからです」
二人の父親が顔を見合わせる。
そして少し笑った。
「妻同士だけじゃなく」
「父親同士も考えることは似るんですかね」
◇◇◇
しばらくして。
興毅が静かに言った。
「でも、実際に彼と会ってみて印象は変わりました」
「どうでした?」
「普通の高校生でした」
「普通でしょう」
「いや、それが良かったんです」
慶介は少し意外そうに興毅を見る。
「芸能人の藤宮麗華と付き合っているからといって、浮かれている感じがない」
「本人の前では分かりませんよ」
「父親が自分の息子を疑ってどうするんです」
二人で笑う。
興毅は続けた。
「麗華の仕事に必要以上に口を出さない。自分が表に出ようともしない。それに……」
「それに?」
「娘が自然なんです」
慶介は黙った。
「家族の顔合わせのときも思いました。彼の隣にいる麗華は、グラビアアイドルの藤宮麗華じゃない」
興毅の表情が父親のものになる。
「私が昔から知っている、普通の娘なんです」
「美晴さんも同じようなことを言っていたそうですよ」
「妻が?」
「美和子から聞きました」
「そうですか……」
興毅は少し嬉しそうだった。
「仕事を始めてから、麗華は本当に忙しくなりました」
「今かなり人気がありますからね」
「親としては嬉しいです。でも、心配もある」
「当然でしょう」
「芸能界は普通の会社とは違いますから」
興毅は少し黙る。
「自分の娘の顔がコンビニに並んでいる雑誌の表紙に出ている。テレビをつければ娘がいる。街を歩けば知らない人が娘の名前を知っている」
「不思議でしょうね」
「未だに慣れません」
興毅が笑った。
「父親にとっては、何歳になっても娘なんです」
「分かります」
「だからこそ、家に帰ったときくらい普通の二十歳でいてほしいと思っていました」
慶介は頷いた。
「今、その場所が息子さんとの家なんでしょうね」
「たぶん」
興毅は静かに笑った。
「それなら、私は少し安心しています」
◇◇◇
慶介もグラスを置いた。
「私からも一ついいですか?」
「もちろん」
「興毅さんは、息子のことを認めてくれているんですか?」
興毅はすぐには答えなかった。
数秒考える。
「交際相手としては認めています」
「ありがとうございます」
「ただし」
父親らしい強い目になる。
「何でも許しているわけではありません」
「もちろん」
「娘を泣かせたら、父親として黙ってはいません」
慶介が思わず笑う。
「それは当然です」
「笑い事じゃないですよ」
「いえ、安心しました」
「なぜ?」
「私も息子が麗華さんを傷つけるようなことをしたら叱りますから」
興毅が目を丸くする。
「息子さんの味方をしないんですか?」
「悪いことをしたならしません」
「厳しいですね」
「父親ですから」
今度は興毅が笑う。
「では逆に、麗華が彼を泣かせたら?」
「そのときは……」
慶介は少し考える。
「興毅さんに連絡します」
「私に?」
「『娘さんと話してください』と」
「なるほど」
「私が麗華さんを直接叱るわけにはいきませんから」
「じゃあ私も同じにします」
「何を?」
「彼が麗華を泣かせたら、慶介さんに電話します」
「息子本人じゃなく私ですか?」
「父親同士で解決しましょう」
「子どもの喧嘩に親が入りすぎですよ」
二人は大笑いした。
◇◇◇
酒が進むにつれ、話はさらに家族のことへ移っていった。
「それにしても俊介君と麗音まで同級生とは」
興毅が言う。
「私も驚きました」
「三年間同じクラスですよ?」
「確率としてどれくらいなんでしょうね」
「しかも二人とも普通に知り合いだった」
「親より先に顔見知りですからね」
興毅は笑う。
「麗音に聞いたんですよ」
「何を?」
「『俊介君がお姉ちゃんの彼氏の弟だって知ってたのか?』って」
「何て?」
「『知らないよ』って」
慶介も笑う。
「俊介も同じでしたよ」
「やっぱり?」
「『麗音がお兄ちゃんの彼女の妹なんて知るわけない』って」
「まあ当然ですよね」
「学校で兄や姉の恋人の話なんてしませんから」
「しかも秘密ですからね」
二人は頷く。
そして興毅が言う。
「妻同士は大親友」
「父親同士は仕事仲間」
「下の子同士は三年間同じクラス」
「上の子同士は恋人で同棲」
二人とも黙る。
数秒後。
慶介が言った。
「……つながりすぎじゃないですか?」
「私も思いました」
また二人で笑った。
◇◇◇
午後九時。
店内は少しずつ客が増えていた。
興毅がふと真剣な表情になる。
「事務所のことなんですが」
「はい」
「社長とマネージャーが、私たちの関係まで把握していたでしょう?」
「あれは驚きました」
「私も最初聞いたとき驚きました」
「興毅さんは先に知っていたんですか?」
「麗華から交際について相談を受けたあと、事務所から家族について確認されましたから」
「なるほど」
「美晴と美和子さんが幼馴染だということも、私と慶介さんの会社関係も、俊介君と麗音の学校関係も確認していました」
「徹底してますね」
「麗華を守るためです」
興毅の言葉には迷いがなかった。
「そして、息子さんを守るためでもあると思います」
慶介は少し黙った。
「息子も?」
「当然でしょう」
興毅は言う。
「もし二人の交際が公になれば、世間から注目されるのは麗華だけではありません」
「……そうですね」
「彼は一般人で、しかも高校生です」
「はい」
「学校を特定されるかもしれない。友人関係まで調べられるかもしれない」
慶介の表情も真剣になる。
「だから事務所は彼のことも守ろうとしている」
「ありがたいですね」
「私もそう思います」
興毅は続けた。
「社長からも言われました。二人が真剣に付き合っている以上、片方だけを守ることはできない、と」
慶介は静かに頷いた。
「いい社長ですね」
「はい」
「マネージャーさんも」
「麗華がかなり信頼しています」
「それなら安心です」
◇◇◇
午後十時前。
二人は店を出た。
夜風が少し冷たい。
駅へ向かって並んで歩く。
仕事で一緒になったときには、こんなふうに二人で歩くことなどなかった。
以前は親会社と子会社の社員。
今日は――。
子ども同士が付き合っている父親二人。
「慶介さん」
「はい」
「一つだけ聞いてもいいですか?」
「何でしょう」
「もし……」
興毅が少し言いにくそうにする。
「何年か先にですよ」
「はい」
「二人が結婚したいと言ったら、どうします?」
慶介は足を少し緩めた。
「美和子と美晴さんも似たような話をしたらしいですよ」
「妻から聞きました」
「だから私にも?」
「父親として聞いておきたくて」
慶介はしばらく考えた。
「今なら反対します」
興毅が少し驚く。
「今なら?」
「息子はまだ高校生ですから」
「なるほど」
「でも何年か経って、息子が自分で生活できるようになって」
「はい」
「麗華さんも自分の仕事を続けながら、それでも二人が一緒にいたいと思っているなら」
慶介は興毅を見る。
「そのときは、本人たちが決めればいいと思っています」
興毅は静かに頷いた。
「私も同じです」
「反対しませんか?」
「今の二人がそのまま成長しているなら」
興毅は少し笑った。
「たぶん、しないでしょうね」
「娘さんですよ?」
「だから複雑ですよ」
「でしょうね」
「父親としては、いつまでも家にいてほしいくらいです」
「それは無理でしょう」
「分かってます」
「麗華さん、もう家を出てますし」
「それを言わないでください」
慶介は笑った。
「でも」
興毅が続ける。
「娘が選んだ人が、信頼できる人であればいい」
「はい」
「今のところ、息子さんはその候補には入っています」
「候補ですか」
「まだ満点はあげません」
「厳しいですね」
「娘の父親ですから」
二人で笑った。
◇◇◇
駅前に着いた。
二人の帰る方向は途中で分かれる。
「今日はありがとうございました」
興毅が頭を下げる。
「こちらこそ」
「誘ってよかったです」
「私もです」
「仕事では何度か会っていたのに、こんな話をする日が来るとは思いませんでした」
「本当に」
二人は握手を交わす。
すると慶介が少し笑った。
「でも、今後は仕事で会うと変な感じですね」
「分かります」
「会議で『藤宮さん』って呼びながら」
「頭の中では『息子の彼女のお父さん』」
「私も『娘の彼氏のお父さん』になります」
「集中できるかな」
「仕事は仕事です」
「それはそうですね」
二人は再び笑った。
そして興毅が言う。
「慶介さん」
「はい」
「これからもよろしくお願いします」
その言葉には二つの意味があった。
仕事仲間として。
そして――。
子どもたちを見守る父親同士として。
慶介もその意味を理解していた。
「こちらこそ。よろしくお願いします」
◇◇◇
その夜。
帰宅した慶介を、美和子がリビングで待っていた。
「おかえり」
「ただいま」
「遅かったわね」
「興毅さんと飲んでた」
美和子の目が丸くなる。
「二人で?」
「ああ」
「何話したの?」
「いろいろ」
「仕事?」
「それも」
慶介は上着を脱ぐ。
美和子がニヤニヤしながら見る。
「息子たちの話でしょ?」
「まあな」
「何て?」
「男同士の秘密」
「何それ」
「美和子だって美晴さんと二人で話してただろ」
「私たちは親友だからいいの」
「こっちも今日から父親仲間だ」
「何よそれ」
美和子が笑った。
慶介も笑う。
その頃。
藤宮家でも。
「ただいま」
興毅が帰宅する。
「おかえり」
美晴が出迎える。
「遅かったわね」
「慶介さんと飲んでた」
美晴が止まる。
「美和子の旦那さんと?」
「そう」
「何話したの?」
「いろいろ」
「麗華たちのこと?」
「まあ」
美晴が笑う。
「男同士の秘密?」
興毅が驚く。
「なんで分かった?」
「美和子の旦那さんなら言いそう」
「実際、同じこと言った」
「やっぱり」
美晴は楽しそうに笑った。
◇◇◇
母親同士は、小学校から続く大親友。
父親同士は、親会社と子会社を通じて出会った仕事仲間。
そして今。
慶介と興毅の間にも、新しい関係が生まれようとしていた。
どちらも、自分の子どもが大切。
どちらも、二人の交際に心配がないわけではない。
まだ高校生の息子。
芸能界で活躍する二十歳の娘。
秘密の交際。
秘密の同棲。
普通の恋人たちとは違う難しさもある。
それでも。
慶介は、麗華といる息子を見ていた。
興毅は、主人公といる娘を見ていた。
二人とも気づいている。
子どもたちは遊び半分で付き合っているわけではない。
互いの生活を尊重しながら、本気で相手を大切にしようとしている。
だからこそ。
今すぐ将来を決める必要はない。
急いで答えを出す必要もない。
高校を卒業して。
進学して。
社会へ出て。
麗華も芸能活動を続けて。
何年もの時間を重ねた先で。
それでも二人が隣にいたいと願うなら――。
そのときは。
二人の父親もきっと、今夜と同じようにグラスを合わせながら。
少し寂しそうに。
少し嬉しそうに。
子どもたちが選んだ未来を認めるのだろう。
慶介と興毅。
以前は、ただ何度か仕事で顔を合わせただけの二人だった。
けれどこれからは違う。
仕事仲間として。
父親同士として。
そして、いつか本当に二つの家族が一つの縁で結ばれる日が来るのなら――。
その未来を一緒に見守っていく、もう一人の仲間として。
二人の新しい関係は、静かに始まったばかりだった。
番外編⑵「興毅と慶介」を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は主人公と麗華の父親である、慶介と興毅の二人を中心に描きました。
もともと二人は、まったく知らない者同士ではありません。
慶介が勤める親会社。
興毅が勤める子会社。
合同会議や業務上の打ち合わせで何度か顔を合わせ、名刺も交換していた仕事仲間でした。
けれど当時は、お互いの家族について深く知っていたわけではありません。
それが今では――。
「息子の彼女のお父さん」
「娘の彼氏のお父さん」
という、まったく別の関係まで加わることになりました。
今回、興毅から慶介を誘った二人だけの食事。
そこで話されたのは、仕事のことだけではありません。
むしろ中心になったのは、主人公と麗華のことでした。
興毅にとって麗華は、どれだけテレビや雑誌に出るようになっても大切な娘。
慶介にとって主人公も、まだ高校三年生の息子です。
だからこそ、二人とも最初から何の不安もなく交際や同棲を認めたわけではありませんでした。
麗華は芸能界で人気が上昇している時期。
主人公はまだ高校生。
もし交際が発覚すれば、麗華の仕事だけでなく、主人公の学校生活まで注目される可能性があります。
それでも二人が交際を続けるなら、
学校を疎かにしない。
仕事を尊重する。
好きだからという気持ちだけで相手の人生を背負ったつもりにならない。
困ったときには一人で抱え込まない。
そんな当たり前だけれど大切なことを、二人の父親はそれぞれ子どもたちへ伝えていました。
そして今回、興毅が語った、
「彼の隣にいる麗華は、グラビアアイドルの藤宮麗華じゃない」
という言葉。
それは父親だからこそ分かる娘の変化でもありました。
仕事では、多くの人に見られる藤宮麗華。
けれど主人公といるときは、父親が昔から知っている普通の二十歳の娘に戻っている。
だからこそ興毅は、主人公との関係に少しずつ安心できるようになっています。
一方の慶介も、自分の息子だからと無条件に味方をするわけではありません。
もし主人公が麗華を傷つければ、自分が息子を叱る。
逆に麗華が主人公を傷つけたなら、興毅に相談する。
冗談交じりに交わされた、
「父親同士で解決しましょう」
という言葉からも、二人の距離が以前より近づいたことが伝わる回となりました。
さらに二人が語った、もっと先の未来。
もし何年か後。
主人公が高校を卒業し、自分の道を歩き始め。
麗華も芸能活動を続けながら。
それでもなお二人が一緒にいたいと望んだなら――。
結婚という選択を、二人の父親も完全には否定しませんでした。
もちろん今はまだ早い。
だからこそ、今すぐ答えを出す必要はありません。
数年先。
もっと長い時間を重ねた先。
そのときも二人が隣にいるなら、父親たちはきっと子どもたち自身の答えを尊重するのでしょう。
母親同士は大親友。
父親同士は仕事仲間から、子どもたちを見守る“父親仲間”へ。
弟と妹は三年間同じクラス。
そして上の子どもたちは、秘密の恋人同士。
改めて見ると、二つの家族の縁は不思議なくらい深く結ばれています。
慶介と興毅。
以前は仕事で何度か顔を合わせただけの二人でした。
けれどこれからは、仕事仲間としてだけではなく。
自分たちの大切な子どもが選んだ恋を、一緒に見守っていく父親同士として。
二人の新しい付き合いも、ここから少しずつ始まっていきます。




