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『俺の彼女はグラビアアイドル』  作者: AQUARIUM【RIKUYA】
第一章 藤宮麗華編
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第4話 家族同士の顔合わせ――初対面のはずが、誰も初対面じゃなかった


第4話「家族同士の顔合わせ――初対面のはずが、誰も初対面じゃなかった」。


今回は、主人公と藤宮麗華、それぞれの家族が一堂に集まる“家族同士の顔合わせ”の回です。


これまで二人の関係を知っているのは、麗華の所属事務所の社長と担当マネージャー、そして互いの両親だけでした。


秘密の交際。


秘密の同棲。


学校にも芸能界にも知られていない二人の関係だからこそ、家族に理解してもらえていることは、二人にとって大きな支えになっています。


そんな中、改めて両家が顔を合わせることになりました。


ところが――。


その場で次々と明らかになっていく、思いもよらない過去のつながり。


主人公の母・美和子と、麗華の母・美晴。


実は二人は、小学校から高校まで同じ学校に通っていた幼馴染であり、長い付き合いの腐れ縁、そして今でも続く大親友でした。


さらに主人公の父・慶介と麗華の父・興毅にも、仕事上の接点がありました。


慶介が勤める会社は親会社。


興毅が勤める会社はその子会社。


これまでにも合同会議や打ち合わせで何度か顔を合わせたことのある、いわば仕事仲間同士だったのです。


そして、それだけでは終わりません。


主人公の弟・俊介と、麗華の妹・麗音。


二人は同じ中学校に通う中学三年生。


しかも一年生から三年生まで、三年間ずっと同じクラスでした。


主人公と麗華が知らなかっただけで、実は二つの家族はずっと前からさまざまな場所でつながっていた――。


さらに麗華の所属事務所の社長とマネージャーは、そんな家族同士の関係まですでに把握済み。


“初めての顔合わせ”になるはずだった一日は、思わぬ再会と驚きの連続になっていきます。


二人だけの秘密の恋が、実はずっと昔から続く家族同士の縁の上にあったことが分かる第4話。


今回は、恋人同士だけではなく、その周囲にいる家族たちのつながりにも注目です。



土曜日の午前十時。


今日は学校もない。


麗華も、事務所に前々から予定を空けてもらっていて仕事は休みだった。


そして俺たちが暮らしている家では、朝からいつもとは違う空気が流れていた。


「ねえ、これで大丈夫かな?」


「十分だろ」


「でも今日、ちゃんとした顔合わせだよ?」


「分かってる」


「お茶は?」


「ある」


「お菓子は?」


「ある」


「部屋、変じゃない?」


「昨日二人で掃除しただろ」


「そうなんだけど……」


麗華は朝から落ち着かない。


今日は俺たち二人の家へ、それぞれの家族が集まることになっていた。


俺の父――慶介。


俺の母――美和子。


そして弟――俊介。


麗華の父――興毅。


麗華の母――美晴。


そして妹――麗音。


俺と麗華が付き合っていることも。


同棲していることも。


両家ともすでに知っている。


それぞれ個別には話もしている。


ただ――。


両家全員が一堂に会して、正式に顔を合わせるのは今日が初めてだった。


「緊張する……」


「テレビの収録より?」


「全然こっち」


「マジ?」


「だって仕事なら台本とか流れとかあるもん」


「今日はないな」


「でしょ?」


麗華が俺を見る。


「もし気まずい空気になったら助けてね」


「分かった」


「本当に?」


「大丈夫だって」


俺はそう答えた。


だが、このときの俺たちはまだ知らなかった。


今日の顔合わせが――。


俺たちの想像とはまったく違う方向へ進むことを。


◇◇◇


午前十一時。


最初に到着したのは俺の家族だった。


インターホンが鳴る。


「来た」


「うん」


俺が玄関を開ける。


「いらっしゃい」


「お邪魔します」


母の美和子。


その後ろに父の慶介。


さらに弟の俊介。


「兄ちゃん、久しぶり」


「そんな久しぶりじゃないだろ」


「こっち来るのは久しぶりじゃん」


「まあな」


そこへ麗華もやってきた。


「こんにちは」


美和子が笑顔になる。


「麗華ちゃん、こんにちは」


「今日はありがとうございます」


「そんなに固くならなくていいのよ」


「はい」


父の慶介も麗華へ頭を下げる。


「今日はよろしくね」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


そして俊介。


「こんにちは、麗華さん」


「こんにちは、俊介君」


俊介は普通に挨拶した。


とはいえ、兄の彼女がテレビや雑誌に出ている藤宮麗華なのだから、最初に知ったときは相当驚いていた。


今でも時々、


『兄ちゃん、本当に藤宮麗華と付き合ってんの?』


と聞いてくる。


家族がリビングへ入る。


「いいところね」


母が室内を見渡した。


「二人でちゃんと生活できてる?」


「できてるよ」


俺が答える。


すると麗華が、


「家事も分担しています」


と付け加えた。


「へえ」


美和子が俺を見る。


「この子、ちゃんとやってる?」


「母さん、俺を何だと思ってるの?」


「昔、脱いだ靴下そのままにしてた子」


「いつの話だよ」


麗華が吹き出した。


「ちょっと麗華」


「ごめん。でも想像できる」


「できなくていい」


父と俊介まで笑っている。


とりあえず俺の家族だけなら、いつも通りだった。


問題は――。


あと少しで麗華の家族が来ること。


◇◇◇


午前十一時十五分。


再びインターホンが鳴った。


麗華が立ち上がる。


「来た!」


急に緊張した表情になる。


「俺も行くよ」


二人で玄関へ向かう。


扉を開ける。


「こんにちは」


麗華の母、美晴。


その後ろに父の興毅。


さらに妹の麗音がいた。


「いらっしゃい」


麗華が言う。


「今日はありがとう」


美晴が笑った。


「こっちこそ来てくれてありがとう」


「お邪魔します」


三人が家へ入る。


俺も頭を下げた。


「こんにちは」


興毅が俺を見る。


「こんにちは。今日はよろしく」


「こちらこそよろしくお願いします」


俺と麗華は三人をリビングへ案内する。


俺の家族はすでに座っている。


いよいよ両家の顔合わせ。


俺と麗華は少し緊張しながら入った。


その瞬間だった。


母の美和子が、美晴を見た。


美晴も美和子を見る。


二人の動きが止まった。


「…………」


「…………」


数秒。


俺は何となく嫌な予感がした。


そして。


「……美晴?」


母が言った。


「……美和子?」


麗華の母が答えた。


俺と麗華が同時に顔を見合わせる。


「え?」


そして次の瞬間。


「美和子じゃない!」


「美晴!」


二人が同時に立ち上がった。


「ちょっと待って! なんで美晴がここにいるの!?」


「それはこっちの台詞よ! 美和子こそ何してるの!?」


「何って息子の彼女の家族との顔合わせよ!」


「私だって娘の彼氏の家族との顔合わせ!」


沈黙。


美和子が俺を見る。


美晴が麗華を見る。


再び互いを見る。


「……息子?」


「……娘?」


そして二人同時に――。


「えええええっ!?」


部屋中に声が響いた。


俺と麗華は完全に置いていかれていた。


◇◇◇


「どういうこと?」


麗華が聞いた。


美晴と美和子は隣同士に座っている。


さっきまで顔合わせの緊張感があったはずなのに、今では完全に同窓会だった。


母の美和子が答える。


「どういうことも何も……」


美晴を見る。


「私たち幼馴染なのよ」


「幼馴染!?」


俺と麗華が同時に声を上げた。


美晴が笑う。


「小学校から一緒」


美和子が続ける。


「小学校、中学校、高校までずーっと同じ学校」


「しかも家も近かったの」


「何度喧嘩したか分からない」


「でも次の日には一緒に学校行ってたわね」


「高校のときなんて同じ部活だったし」


「修学旅行も同じ班」


「卒業旅行も一緒」


俺は呆然と聞いていた。


「ちょっと待って」


「何?」


母が俺を見る。


「俺、そんな話一度も聞いたことない」


「聞かれなかったから」


「いや、普通話すだろ」


麗華も母親を見る。


「私も知らなかったんだけど」


「美和子の話はしてたわよ」


「名前まで聞いてない!」


美晴と美和子は顔を見合わせる。


そして笑った。


「腐れ縁なのよね」


「本当に。何十年よ」


「小学校からだから……」


「もう数えるのやめましょう」


「そうね」


麗華が俺の隣で小さく呟いた。


「……大親友じゃん」


「そうみたいだな」


「何これ……」


俺たちの顔合わせだったはずなのに。


母親二人の再会会になっている。


しかし。


驚きはそれだけでは終わらなかった。


◇◇◇


「いやあ、世間は狭いな」


父の慶介が笑った。


すると麗華の父、興毅が慶介をじっと見る。


「……あれ?」


「どうしました?」


「失礼ですが……以前、お会いしてませんか?」


今度は父親同士。


俺と麗華が同時にそちらを見る。


慶介も興毅を見る。


「……あ」


何か思い出したらしい。


「もしかして藤宮さん?」


「やっぱり!」


興毅が驚く。


「以前の合同会議で!」


「そうですよね?」


「はい!」


俺は頭を抱えたくなった。


「今度は何?」


慶介が俺を見る。


「実は父さんの会社と、藤宮さんの会社は取引関係があるんだ」


興毅が説明を加える。


「正確には、慶介さんがお勤めの会社が親会社で、私の会社がその子会社なんだよ」


「……マジ?」


「何度か合同の会議や打ち合わせで顔を合わせてる」


慶介が頷く。


「直接一緒に仕事をしたことも何回かありますよね」


「あります、あります」


麗華が両手で顔を覆った。


「嘘でしょ……」


俺も同じ気持ちだった。


母親同士が幼馴染。


父親同士が仕事仲間。


こんな偶然あるのか?


「ということは」


美和子が笑う。


「私たち夫婦、二人とも麗華ちゃんのご両親と昔から接点あったってこと?」


「そういうことになるな」


慶介が答える。


美晴が楽しそうに笑った。


「すごいわね」


「本当にね」


俺と麗華だけが状況についていけていない。


しかし。


さらにもう一組いた。


◇◇◇


「……ねえ」


それまで静かだった麗音が俊介を見る。


俊介も麗音を見る。


二人とも妙な顔をしていた。


「まさか……」


俊介が言う。


麗音も、


「やっぱり俊介?」


と答えた。


俺は弟を見る。


「お前らも知り合い?」


俊介と麗音が同時に俺を見る。


「知り合いっていうか……」


麗音が続ける。


「同じクラス」


「え?」


麗華が妹を見る。


「同じ中学校なの?」


「うん」


「聞いてない!」


「聞かれなかったから」


どこかで聞いた台詞だ。


俊介が説明する。


「俺たち、中学一年からずっと同じクラス」


俺は耳を疑った。


「一年だけじゃなく?」


「一年、二年、三年」


麗音が指を三本立てる。


「三年間ずっと」


「そんな偶然ある?」


麗華が驚く。


「私も毎年クラス発表見るたびに『また俊介いる』って思ってた」


俊介も頷く。


「俺も」


「しかも席近いこと多いし」


「去年なんて文化祭同じ係だった」


「今年も掃除当番一緒」


俺と麗華は再び顔を見合わせた。


母親同士。


父親同士。


弟と妹。


全部つながっている。


「……俺たちだけ知らなかった?」


俺が聞く。


「たぶん」


麗華が答える。


そして二人同時に笑ってしまった。


◇◇◇


昼十二時。


全員で昼食を囲む。


もはや顔合わせという雰囲気ではない。


「美和子覚えてる? 小学校六年の運動会」


「覚えてる! 美晴がリレーで転んだやつ!」


「それ言わないで!」


「泣いてたじゃない」


「あなたが笑ったからでしょ!」


「違うわよ。励ましてたの」


「笑いながら?」


「ちょっとだけ」


母親二人は昔話。


父親二人は仕事の話。


「そういえば来月の合同会議ですが」


「たぶん私も出ます」


「ではまた会社でもお会いしますね」


「まさかこんな関係になるとは」


そして弟と妹は学校の話。


「俊介、数学の課題終わった?」


「まだ」


「月曜提出だよ?」


「麗音は?」


「終わった」


「見せて」


「ダメ」


「ケチ」


「自分でやりなさい」


俺と麗華は隣同士に座りながら、それぞれの家族を見る。


「……顔合わせってこんな感じだっけ?」


麗華が小声で聞く。


「絶対違うと思う」


「私たちより仲良くない?」


「そうだな」


特に母親二人。


「そういえば美晴、昔――」


「ちょっと! それは言わないで!」


「何?」


麗華が食いつく。


「お母さんの昔の話?」


「麗華、聞かなくていいの!」


「聞きたい!」


美和子が笑う。


「高校一年のときね――」


「美和子!」


一気に賑やかになる。


俺は笑った。


昨日まで心配していたのが馬鹿らしくなった。


両家がうまくいくか。


気まずくならないか。


そんな心配は必要なかった。


だって。


俺たちが出会うずっと前から、家族同士の縁はすでに始まっていたのだから。


◇◇◇


昼食後。


話題は当然、俺と麗華のことになった。


美和子が俺たちを見る。


「それにしても、本当に驚いたわ」


美晴も頷く。


「まさか麗華の彼氏が美和子の息子だったなんて」


「私だって麗華ちゃんのお母さんが美晴なんて知らなかった」


「私もよ」


俺が尋ねる。


「母さんたち、最近会ってなかったの?」


「連絡は取ってたわよ」


「たまに会ってもいたし」


麗華が驚く。


「じゃあなんで分からなかったの?」


美晴が答える。


「だって麗華から彼氏の名前を聞いても、お母さんの名前までは聞かないでしょう?」


美和子も、


「私も同じ。息子の彼女が麗華ちゃんだとは知ってたけど、芸能活動してる藤宮麗華ちゃんと、昔からの親友の娘が頭の中でつながらなかったの」


「名字同じなのに?」


「藤宮さんなんて他にもいるでしょう」


確かに。


「しかも」


美晴が麗華を見る。


「芸能活動については、あなたがデビューした頃から必要以上に周囲へ話さないようにしてたし」


「そっか」


麗華は納得した。


すると興毅が口を開く。


「しかし、これなら少し安心だな」


俺を見る。


「君のご両親が慶介さんと美和子さんなら」


「お父さん……」


麗華が少し照れた。


慶介も言う。


「こちらとしても同じですよ」


そして両家の父親が俺たちを見る。


「二人とも」


俺は姿勢を正した。


麗華も同じ。


「今の関係については、もちろん理解している」


「はい」


「麗華の仕事が特殊なのも分かっている」


興毅が続ける。


「君が高校生であることもね」


「はい」


「だからこそ、二人だけで無理をしないこと」


慶介も頷く。


「困ったら必ず相談すること」


美晴も続ける。


「秘密を守るために嘘を重ねすぎないこと」


そして美和子。


「家族には何でも話していいのよ」


俺と麗華は顔を見合わせた。


「分かった」


「はい」


麗華が答えた。


すると美和子が急に笑う。


「でも安心した」


「何が?」


俺が聞く。


「麗華ちゃんがお嫁さんなら」


「お母さん!」


麗華が真っ赤になる。


「まだそういう話じゃないから!」


「将来の話よ」


「それでも!」


美晴まで笑う。


「私は賛成だけど」


「お母さんまで!」


「美和子とは昔から『将来子ども同士も仲良くなったら面白いね』なんて話してたのよ」


俺と麗華が固まる。


「……そんな話してたの?」


「冗談でね」


美和子が笑う。


「まさか本当に付き合うとは思わなかったけど」


「しかも同棲までしてる」


美晴が付け加える。


「やめて!」


麗華が両手で顔を隠す。


俺も恥ずかしくなってきた。


俊介がニヤニヤしている。


麗音まで笑っていた。


◇◇◇


午後三時。


そこへ麗華のスマートフォンが鳴った。


「マネージャーさんだ」


麗華が電話に出る。


「もしもし。はい」


少し話す。


「え? 今日の顔合わせですか?」


全員が麗華を見る。


「はい。今ちょうど……」


麗華が俺たちを見回した。


「すごいことになってます」


俺は吹き出しそうになる。


『すごいこと』で間違ってはいない。


「はい……え?」


麗華が驚く。


「知ってたんですか?」


俺たちも反応する。


「何を?」


俺が小声で聞く。


麗華が電話をスピーカーに切り替えた。


マネージャーの声が聞こえる。


『事務所では把握しています』


「全部?」


麗華が聞く。


『はい』


「お母さん同士が幼馴染なのも?」


『把握しています』


「お父さん同士が仕事で知り合いなのも?」


『はい』


「俊介と麗音が同じクラスなのも?」


『それも把握しています』


俺と麗華は顔を見合わせた。


「……なんで俺たちより詳しいんですか?」


俺が思わず聞く。


マネージャーが苦笑する。


『二人の交際と同棲を事務所として認める以上、最低限の周辺関係は確認していますから』


なるほど。


麗華ほど注目される芸能人なら当然なのかもしれない。


『社長もすべて把握しています』


麗華が額を押さえる。


「私たちだけ知らなかったんだ……」


『そういうことになりますね』


「教えてくださいよ!」


『ご家族から直接聞いたほうがいいと思いまして』


「もう……」


マネージャーの笑い声が聞こえた。


『でも、今日でより安心できたんじゃないですか?』


麗華は家族全員を見る。


「……はい」


俺も頷いた。


「かなり」


『それならよかったです。今日はご家族との時間を大切にしてください』


「ありがとうございます」


電話が終わった。


しばらく沈黙。


そして俊介が一言。


「事務所ってすげえな」


麗音も頷く。


「本当だね」


全員が笑った。


◇◇◇


夕方五時。


楽しい時間はあっという間だった。


玄関。


「じゃあ、またね」


美和子と美晴は最後まで隣にいる。


「今度二人でご飯行きましょう」


「いいわね」


「昔の写真持ってくる」


「それだけはやめて!」


「麗華に見せようかな」


「お母さんのも見せてよ」


麗華が笑う。


「そうしよう」


「ちょっと!」


今度は親子で騒いでいる。


父親同士も、


「では会社でも」


「よろしくお願いします」


と握手。


俊介と麗音は、


「じゃあ月曜」


「宿題やってきなよ」


「分かってる」


まるで家族の顔合わせではなく、いつもの学校帰りのような会話だった。


やがて全員が帰っていった。


玄関の扉を閉める。


静かになった。


俺と麗華はその場で顔を見合わせる。


「……疲れた」


麗華が言った。


「俺も」


「でも楽しかった」


「うん」


リビングへ戻る。


二人でソファに座る。


麗華が俺の肩へ頭を預けた。


「ねえ」


「何?」


「すごくない?」


「何が?」


「全部」


確かに。


母親同士は小学校から高校まで同級生。


幼馴染。


腐れ縁。


そして大親友。


父親同士は親会社と子会社の関係で、以前から何度も顔を合わせたことのある仕事仲間。


弟の俊介と妹の麗音は同じ中学校。


しかも一年生から三年生まで、三年間ずっと同じクラス。


「俺たちが知り合う前から全部つながってたんだな」


「うん」


麗華が俺を見る。


「なんか運命みたい」


「それ言う?」


「いいじゃん」


麗華が笑う。


「だって、本当に偶然すぎるもん」


「確かにな」


「私たちが付き合ってなかったとしても、いつか家族経由で会ってたかもしれないね」


「ありそう」


「じゃあ結局付き合ってたかな?」


「それは分からない」


「そこは付き合ってたって言ってよ」


「はいはい。付き合ってた」


「適当!」


麗華が俺の肩を軽く叩く。


俺は笑いながら、その手を握った。


麗華も握り返す。


「でも」


麗華が静かに言う。


「嬉しかった」


「何が?」


「みんなが認めてくれてること」


俺も同じだった。


秘密の交際。


秘密の同棲。


外では誰にも言えない。


学校でも。


芸能界でも。


ファンにも。


だけど俺たちは、完全に二人きりで秘密を抱えているわけではない。


俺の父、慶介。


母、美和子。


弟、俊介。


麗華の父、興毅。


母、美晴。


妹、麗音。


そして事務所の社長と担当マネージャー。


俺たちのことを知り、理解し、支えてくれている人たちがいる。


「麗華」


「ん?」


「これからもよろしく」


麗華が一瞬驚く。


そして笑った。


「何それ。今日結婚の挨拶じゃないよ?」


「分かってるよ」


「でも……」


麗華が俺の手を少し強く握る。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


二人で笑った。


◇◇◇


夜。


夕食を終え、二人で今日の写真を見ていた。


家族全員で撮った一枚。


中央には俺と麗華。


その左右に両家の家族。


美和子と美晴は肩を組んでいる。


慶介と興毅も笑っている。


俊介と麗音も、いつものクラスメイト同士らしい自然な表情。


「これ、絶対SNSに載せられないね」


麗華が言う。


「当たり前だろ」


「もし載せたら?」


「大事件」


「『藤宮麗華、謎の男子高校生一家と家族写真』」


「翌日には特定されそう」


「怖い怖い」


二人で笑う。


麗華はその写真を大切そうに保存した。


「これは私たちだけの写真」


「家族も持ってるけどな」


「じゃあ、私たちと家族だけの写真」


「それなら正解」


麗華がスマートフォンを置く。


そして俺の肩へ寄りかかった。


「今日、お母さんが言ってたじゃん」


「何?」


「お嫁さんなら安心って」


「ああ」


「……どう思った?」


俺は麗華を見る。


麗華は少し恥ずかしそうだった。


「まだ高校生だから、先のことは分からないけど」


「うん」


「嫌じゃなかった」


麗華が少し目を見開く。


「本当に?」


「うん」


「私も」


小さな声だった。


「今すぐじゃなくていい」


「当たり前だろ」


「高校卒業して、大学とか仕事とか……いろいろあるもんね」


「そうだな」


「でも」


麗華が俺を見る。


「いつか本当に、今日みたいに両家が集まる日が来たらいいな」


俺は頷いた。


「そうだな」


麗華が笑う。


「約束?」


「それはまだ早い」


「もう!」


「でも」


俺は麗華の手を握った。


「そういう未来になったらいいとは思ってる」


麗華はしばらく俺を見つめた。


そして、とても嬉しそうに笑った。


「私も」


俺たちの交際は、世間には知られていない。


同棲していることも知られていない。


学校では俺に彼女はいないことになっている。


芸能界でも麗華の恋人については秘密。


だけど今日。


俺たちは改めて知った。


二人の関係は、決して二人だけで成り立っているわけではない。


俺たちが生まれるよりずっと前から続いていた、母親同士の友情。


偶然仕事でつながっていた父親たち。


そして同じ教室で三年間を過ごしている弟と妹。


まるで、俺と麗華が出会うより先に――。


二つの家族の間には、何本もの見えない糸が結ばれていたようだった。


そして、そのすべてを事務所の社長とマネージャーはすでに把握していた。


「ねえ」


麗華が俺を見上げる。


「何?」


「私たちって、出会うことになってたのかな」


「さあな」


「またそれ」


「でも」


俺は少し笑った。


「出会えてよかったとは思ってる」


麗華が黙る。


そして数秒後。


「……私も」


そう答えた麗華の笑顔は、テレビでも雑誌でも見ることのできないものだった。


人気グラビアアイドル・藤宮麗華ではない。


俺の家族ともつながり。


俺と同じ未来を少しだけ想像してくれている。


俺の大切な彼女の笑顔だった。


今日、初めて行われたはずの両家の顔合わせ。


しかし蓋を開けてみれば――。


初対面らしい人間は、ほとんどいなかった。


俺たちが知らなかっただけで。


二つの家族は、ずっと昔からどこかでつながっていたのだから。



第4話「家族同士の顔合わせ――初対面のはずが、誰も初対面じゃなかった」を最後までお読みいただき、ありがとうございました。


今回は主人公と麗華、それぞれの家族が一堂に集まる顔合わせを描きました。


しかし、いざ顔を合わせてみれば――。


「美晴?」


「美和子?」


という、まさかの再会から始まることになりました。


主人公の母・美和子と、麗華の母・美晴。


二人はただの知り合いではありませんでした。


小学校から高校まで同じ学校へ通い、喧嘩をしても翌日には一緒に登校し、修学旅行や卒業旅行まで共にした幼馴染。


長い腐れ縁でありながら、今でも続く大親友。


主人公と麗華にとっては、まさに「どうして今まで知らなかったの?」と言いたくなるような関係でした。


そして驚きは、それだけではありません。


父親同士にも仕事での接点がありました。


主人公の父・慶介が勤める会社は親会社。


麗華の父・興毅が勤める会社はその子会社。


二人はこれまでにも何度か合同会議や仕事の場で顔を合わせており、今回改めて互いの正体を知ることになります。


さらに弟と妹まで。


主人公の弟・俊介と麗華の妹・麗音は、なんと同じ中学校に通う同学年。


しかも中学一年生から三年生まで、三年間連続で同じクラス。


主人公と麗華の周囲には、二人自身が知らなかったつながりがいくつも存在していました。


母親同士は幼馴染で大親友。


父親同士は親会社と子会社を通じた仕事仲間。


弟と妹は三年間同じクラスの同級生。


こうして並べてみると、主人公と麗華が出会うよりずっと前から、二つの家族の間にはいくつもの縁があったことが分かります。


そして、その事実をすでに把握していた麗華の所属事務所。


社長と担当マネージャーは、二人の秘密の交際と同棲を認めるうえで、周辺の家族関係まできちんと確認していました。


主人公たちより事務所のほうが家族関係に詳しいという、少し不思議で面白い状況にもなりました。


ただ、今回の顔合わせで一番大切だったのは、偶然のつながりそのものではありません。


両家の家族が、主人公と麗華の関係をきちんと受け入れてくれていること。


二人がまだ若く、麗華には芸能活動があり、主人公には高校生活がある。


だからこそ無理をせず、困ったときには家族へ相談する。


そんな約束を改めて確認できたことが、二人にとって何より大きな安心につながりました。


そして美和子から飛び出した、


「麗華ちゃんがお嫁さんなら安心」


という一言。


まだ先の話。


すぐに結婚を考える段階ではありません。


それでも麗華も主人公も、その言葉を完全に否定することはありませんでした。


「いつか本当に、今日みたいに両家が集まる日が来たらいいな」


そんな麗華の言葉からは、二人が少しずつ将来を意識し始めていることもうかがえます。


今はまだ秘密の恋人同士。


世間には交際も同棲も知られていません。


それでも二人の周りには、すでに支えてくれる家族がいます。


そして何より――。


主人公と麗華が出会うよりもずっと昔から、二つの家族はさまざまな形でつながっていました。


偶然なのか。


それとも、どこかで決まっていた縁なのか。


二人にはまだ分かりません。


ただ一つ確かなのは、


「出会えてよかった」


と、お互いに思えていること。


第1章「藤宮麗華編」。


秘密の恋人同士だった二人の世界は、少しずつ家族へ、そしてその先へと広がり始めています。


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