第3話 初めて俺の家へ――家族との対面と、二人だけで迎える夜
第二章「白河綾音編」第3話。
今回は、主人公と白河綾音の関係が、さらに大きく前へ進む一夜を描きました。
これまで二人の交際を知っていたのは、綾音の所属事務所の社長と担当マネージャーだけ。
しかし今回は、綾音が初めて主人公の家を訪れます。
そこで待っているのは――。
主人公の父・亮介。
母・稀衣。
妹・珠香。
これまで芸能界とはほとんど縁のなかった主人公の家族にとって、息子や兄が連れてきた彼女が人気グラビアアイドル・白河綾音だという事実は、あまりにも大きな驚きです。
特に妹の珠香は、もともと綾音をテレビや雑誌で見ていた一人。
画面の向こう側にいた女性が突然、
「彼とお付き合いさせていただいています」
と自宅に現れることになります。
主人公と綾音がどうやって出会ったのか。
なぜ惹かれ合ったのか。
芸能人と一般男性という立場の違いを抱えながら、これからどのように付き合っていくつもりなのか。
初対面の緊張が少しずつ解けていく中で、綾音は主人公の家族にも、自分自身の言葉で彼への気持ちを伝えていきます。
そして今回。
綾音はそのまま主人公の家へ泊まることに。
主人公の部屋で二人きりになった夜。
恋人になってから、まだ一度もしていなかったこと。
それは――初めてのキス。
触れるだけの一度目。
少し長くなった二度目。
そして「んっ」と小さな声を漏らしながら、互いの気持ちを確かめるように重ねる三度目。
付き合い始めたばかりの二人が、少しずつ本当の恋人同士になっていく夜です。
一方、その日の昼間。
主人公の勤務先では、偶然にも白河綾音の話題で大盛り上がり。
二十人ほどの同僚が、
「彼氏いるのかな?」
「付き合えたらすごいよな」
と話している中、その答えを知っているのは主人公ただ一人。
もちろん誰にも言えるはずがありません。
会社では“白河綾音を知っている一人の一般人”。
家では“白河綾音の恋人”。
そんな秘密の二重生活も、第二章らしい見どころとなります。
綾音の所属事務所へ行き、社長と担当マネージャーに正式に挨拶をしてから数日が経った。
俺たちの交際を知っている人は、まだ本当に少ない。
綾音。
俺。
綾音の所属事務所の社長。
担当マネージャー。
今のところ、それだけ。
藤宮麗華にも、まだ正式には伝えていない。
もちろん。
俺の会社の人間も誰一人として知らない。
そんなある日の昼休み。
俺は、自分が勤めている会社の休憩スペースで昼飯を食べていた。
周囲には同僚たち。
俺を含めれば二十人ほどが、それぞれ弁当を食べたり、コンビニで買ってきたものを広げたりしている。
いつも通りの昼休み。
――のはずだった。
「なあ、昨日の白河綾音見た?」
突然。
少し離れた席から聞こえてきた名前。
俺の箸が止まった。
白河綾音。
俺の彼女。
もちろん。
誰も知らない。
「見た見た!」
「最近めちゃくちゃテレビ出てない?」
「雑誌の表紙もやってたぞ」
「コンビニに並んでた」
「俺買った」
「マジで?」
「普通にファンだから」
一気に話題が広がった。
一人。
二人。
三人。
気づけば周囲にいた二十人近くが、程度の差こそあれ綾音の話をしている。
「白河綾音って彼氏いるのかな?」
その言葉。
俺は危うくむせそうになった。
「大丈夫?」
隣の同僚が聞く。
「大丈夫」
水を飲む。
頼む。
こっちを見るな。
「いないんじゃない?」
「いや、あれだけ可愛かったら絶対いるだろ」
「でも週刊誌とか出てないじゃん」
「隠してるだけかもしれない」
正解。
いる。
しかも。
その彼氏は今。
お前たちと同じ休憩スペースで弁当を食べている。
「もし白河綾音と付き合えたらどうする?」
「どうするって、人生勝ち組だろ」
「絶対緊張する」
「普通にデートできるのかな?」
「芸能人だから無理じゃない?」
「家デートばっかりになりそう」
家デート。
その言葉に。
俺は今夜のことを思い出した。
今日。
綾音が。
初めて俺の家に来る。
◇◇◇
仕事を終えた俺は、一度家へ帰った。
玄関を開ける。
「ただいま」
「おかえり」
リビングから母さんの声。
俺の家族は四人。
父親の亮介。
母親の稀衣。
妹の珠香。
そして俺。
リビングへ行くと、母さんと珠香がいた。
「兄ちゃん」
珠香が俺を見る。
「今日なんだよね?」
「何が?」
「とぼけなくていいから」
母さんまで笑う。
「もう聞いてるから」
そう。
今日。
綾音を家へ連れてくることは、すでに家族へ伝えてある。
ただし。
俺は最初。
彼女がグラビアアイドルだということまでは詳しく説明していなかった。
「何時頃?」
母さんが聞く。
「八時くらい」
「夕飯は?」
「食べてから来るって」
「そう」
珠香がニヤニヤしている。
「何だよ」
「兄ちゃんが彼女連れてくるとか」
「悪いか」
「悪くないけど」
珠香は楽しそう。
「どんな人?」
「会えば分かる」
「写真は?」
「見せない」
「何で?」
「本人来るからいいだろ」
「名前は?」
「……白河綾音」
「へえ、白河綾――」
珠香が止まった。
母さんも。
数秒。
沈黙。
「……え?」
珠香が俺を見る。
「今何て言った?」
「白河綾音」
「同姓同名?」
「本人」
「本人って?」
「グラビアアイドルの」
「はぁ!?」
大声。
「うるさい」
「ちょっと待って!」
珠香がスマートフォンを出す。
検索。
白河綾音。
画面。
俺。
画面。
俺。
「この人!?」
「そう」
「兄ちゃんの彼女!?」
「そう」
「嘘!」
「本当」
母さんも驚いている。
「あなた……芸能人と付き合ってるの?」
「うん」
「いつから?」
「まだそんなに経ってない」
「どこで知り合ったの?」
「落とし物」
「落とし物?」
俺は簡単に説明した。
綾音が落としたものを拾ったこと。
そのときは俺自身、綾音だと気づいていなかったこと。
偶然再会したこと。
そこから連絡を取るようになったこと。
そして。
付き合い始めたこと。
珠香は。
ずっと信じられない顔。
「兄ちゃん」
「何?」
「人生何があるか分からないね」
「俺もそう思う」
◇◇◇
午後七時半。
父さんが帰宅。
「ただいま」
「おかえり」
そして。
俺の彼女について説明。
「白河綾音?」
父さんも。
やっぱり知っていた。
「テレビで見る人か?」
「そう」
「本当に?」
「本当に」
父さんは俺を見る。
「何で?」
「何でって何だよ」
「どうやって知り合うんだ?」
また説明。
落とし物。
偶然の再会。
カフェ。
交際。
父さんは最後まで聞いて。
「なるほど」
それだけ。
珠香が。
「お父さん反応薄くない?」
「驚いてる」
「全然見えない」
「かなり驚いてる」
父さんはそう言いながらお茶を飲む。
そして。
俺を見る。
「事務所は?」
「知ってる」
「報告したのか?」
「綾音が先に報告して、そのあと俺も社長とマネージャーさんに会った」
「ならいい」
父さんらしい。
でも。
「一つだけ」
「何?」
「相手が有名人でも普通の人でも」
父さんは言う。
「付き合うなら大切にしろ」
俺は。
「分かってる」
と答えた。
◇◇◇
午後八時。
インターホン。
鳴った。
珠香が立ち上がる。
「来た!」
「何でお前が一番テンション高いんだよ」
「だって白河綾音だよ!?」
「俺の彼女な」
「それが一番信じられない」
俺が玄関へ。
扉を開ける。
帽子。
眼鏡。
マスク。
完全変装。
綾音。
「こんばんは」
「お疲れ」
「遅くなってごめん」
「大丈夫」
綾音が小声で聞く。
「家族いる?」
「全員」
「……緊張する」
「俺も事務所で同じだった」
「仕返し?」
「違う」
綾音が。
深呼吸。
「行こう」
「うん」
玄関へ。
綾音が靴を脱ぐ。
そして。
リビング。
俺が先に入る。
「来たよ」
父さん。
母さん。
珠香。
三人。
綾音が俺の後ろから入ってくる。
帽子。
眼鏡。
マスクを外す。
テレビや雑誌で見る。
白河綾音。
その本人が。
俺の家のリビングに立っている。
「初めまして」
綾音は丁寧に頭を下げた。
「白河綾音です」
そして。
少し照れながら。
「彼とお付き合いさせていただいています」
母さんが立つ。
「初めまして。母の稀衣です」
父さんも。
「父の亮介です」
そして。
珠香。
固まっている。
「珠香?」
俺が呼ぶ。
「……本物」
「おい」
「だって本物だよ!」
綾音が思わず笑う。
「本物です」
「すみません!」
珠香が慌てて頭を下げる。
「妹の珠香です!」
「初めまして」
「いつもテレビ見てます!」
「ありがとう」
「雑誌も!」
「本当?」
「はい!」
俺は。
「お前ファンだったの?」
「普通に好きだよ!」
初耳。
綾音が俺を見る。
「妹さん、いい子じゃん」
「今ので?」
「うん」
珠香。
完全に嬉しそう。
◇◇◇
最初は。
かなり緊張していた。
でも。
十分。
二十分。
三十分。
時間が経つにつれ。
少しずつ普通になっていった。
母さんが聞く。
「本当にこの子でいいの?」
「母さん」
綾音が笑う。
「はい」
「即答?」
「即答です」
「どこがよかったの?」
「ちょっと!」
俺が止める。
「いいじゃない」
綾音は少し考える。
「最初」
「うん」
「私のことを知らなかったんです」
母さん。
「そうなの?」
「はい」
「芸能人だって?」
「全然」
珠香が。
「兄ちゃん、芸能人詳しくないもんね」
「悪かったな」
綾音が続ける。
「だから」
少しだけ俺を見る。
「最初から白河綾音というグラビアアイドルじゃなくて」
「うん」
「普通の私として接してくれたんです」
父さんが静かに聞いている。
「それが嬉しくて」
母さんが。
少し笑う。
「なるほどね」
「はい」
「この子も」
俺を見る。
「綾音さんのこと大切にしてる?」
「してるよ」
「本人の前で言って」
「今言っただろ」
綾音が笑う。
珠香も。
「兄ちゃん照れてる」
「うるさい」
◇◇◇
午後九時半。
話は続いた。
芸能活動。
撮影。
テレビ。
雑誌。
ただし。
仕事の細かい内容を聞きすぎないよう。
父さんも母さんも配慮している。
珠香だけは。
「撮影って何人くらいいるんですか?」
「緊張しません?」
「麗華さんとは仲いいんですか?」
質問が多い。
「珠香」
俺が止める。
「いいよ」
綾音は笑う。
「答えられる範囲なら」
「本当ですか?」
「うん」
「じゃあ藤宮麗華さんとは?」
「仕事仲間」
「仲いい?」
「結構仲いいよ」
「すごい……」
珠香。
完全にファン。
「そういえば」
綾音が俺を見る。
「麗華ちゃんには近いうちに話すつもり」
「俺のこと?」
「彼氏ができたことだけ」
「名前は?」
「秘密」
「やっぱり」
母さんが聞く。
「麗華さんも一般の方と結婚されてるのよね?」
「はい」
「お相手は非公表だったわね」
「そうなんです」
綾音が少し笑う。
「だから私も、少し相談したいことがあって」
そのとき。
俺は。
第一章と第二章が。
少しずつつながっていることを。
改めて感じていた。
◇◇◇
午後十時半。
父さんが時計を見る。
「綾音さん」
「はい」
「帰りは?」
綾音が。
俺を見る。
少し。
言いにくそう。
「実は……」
俺が代わりに言う。
「今日、泊まる」
沈黙。
珠香。
母さん。
父さん。
三人。
俺たちを見る。
「俺の部屋で」
母さんが。
「そう」
意外と普通。
父さんも。
「事務所は?」
「マネージャーさんには伝えてあります」
綾音が答える。
「場所は?」
「もちろん伝えてあります」
「なら」
父さんが頷く。
「分かった」
珠香だけ。
ニヤニヤ。
「何だよ」
「別に」
「絶対何か思ってるだろ」
「何も?」
「顔」
「兄ちゃんの彼女が泊まるんだなって」
「それだけ?」
「それだけ」
絶対違う。
◇◇◇
午後十一時。
俺の部屋。
綾音が入る。
「ここが」
部屋を見る。
「あなたの部屋」
「普通だろ」
「うん」
「何だよ」
「もっと散らかってると思ってた」
「今日掃除した」
「やっぱり」
「悪いか」
「可愛い」
「何が?」
「私が来るから掃除したんでしょ?」
「まあ」
綾音が笑う。
ベッド。
机。
棚。
何でもない部屋。
でも。
綾音にとっては。
初めて見る。
彼氏の生活空間。
「なんか不思議」
「何が?」
「ここで毎日寝てるんだ」
「そうだけど」
「ここで私とメッセージしてる?」
「する」
「電話も?」
「する」
「へえ」
「何が面白いんだよ」
「嬉しい」
綾音がベッドへ腰掛ける。
俺も。
少し離れて座る。
◇◇◇
しばらく。
話をした。
今日のこと。
家族のこと。
事務所。
仕事。
そして。
会社。
「そういえば」
俺が言う。
「今日会社で綾音の話題になってた」
「え?」
「二十人くらいで」
「何それ?」
「休憩中」
「何て?」
「最近テレビ出てるとか」
「うん」
「雑誌の表紙とか」
「うん」
「彼氏いるのかなとか」
綾音が止まる。
「……何て答えたの?」
「何も」
「言わなかった?」
「言えるわけないだろ」
「そっか」
「いるんだけどな」
「誰?」
綾音がわざと聞く。
「俺」
「本当に?」
「何だよ」
「確認」
「俺です」
綾音が笑う。
「会社の人たち」
「うん」
「まさか目の前にいる人が彼氏だと思ってないんだ」
「絶対思ってない」
「ちょっと面白い」
「俺は冷や冷やした」
「もし聞かれたら?」
「知らないって言う」
「寂しい」
「仕方ないだろ」
「分かってる」
綾音は。
そう言って。
少しだけ俺へ近づいた。
◇◇◇
日付が変わる少し前。
部屋の明かりは。
少し暗くしていた。
俺と綾音。
二人。
今まで。
手を握ったことはある。
近くに座ったことも。
でも。
まだ。
キスはしていなかった。
付き合ってから。
初めて。
二人きりで。
誰にも見られない場所。
綾音が。
俺の肩へ。
そっと頭を預けた。
「眠い?」
「まだ」
「疲れてるだろ」
「少し」
「寝る?」
「その前に」
綾音が。
顔を上げる。
近い。
いつもより。
ずっと。
「ねえ」
「何?」
「私たち」
「うん」
「まだしてないよね」
何を。
聞かなくても分かった。
俺も。
少し緊張する。
「……キス?」
「うん」
綾音の声が。
小さい。
テレビの中。
雑誌の中。
カメラの前。
いつも堂々としている綾音。
でも。
今。
目の前にいる綾音は。
少し頬を赤くしている。
ただの。
一人の恋人。
俺は。
綾音の頬へ。
そっと手を添えた。
「嫌だったら言って」
「嫌じゃない」
「本当に?」
「うん」
綾音が目を閉じる。
俺も。
ゆっくり近づく。
そして。
初めて。
唇が触れた。
短い。
本当に。
一瞬。
離れる。
綾音が目を開ける。
俺を見る。
「……終わり?」
「え?」
「短い」
「初めてだから」
綾音が。
少し笑う。
そして今度は。
綾音から近づいた。
二度目。
さっきより。
少し長い。
唇が重なる。
「……んっ」
綾音の小さな声。
俺は。
少し驚いた。
でも。
離れない。
数秒。
そして。
ゆっくり離れる。
近い距離。
綾音が。
恥ずかしそうに俺を見る。
「今の声」
「言わないで」
「何も言ってない」
「絶対聞こえたでしょ」
「聞こえた」
「忘れて」
「無理」
「もう」
俺たちは。
小さく笑った。
そして。
三度目。
今度は。
どちらからともなく。
もう一度。
唇を重ねる。
さっきまでより長く。
お互いを確かめるような。
恋人になってから。
初めて交わす。
少し深いキス。
離れたあと。
綾音は。
俺の胸元へ顔を埋めた。
「……恥ずかしい」
「俺も」
「嘘」
「本当」
「心臓速い?」
「速い」
綾音が。
俺の胸に耳を当てる。
「本当だ」
「確認するな」
「ふふ」
俺は。
綾音を優しく抱き寄せる。
しばらく。
二人。
そのまま。
◇◇◇
午前零時半。
「そろそろ寝る?」
俺が聞く。
「うん」
「ベッド使って」
「あなたは?」
「床でも」
「嫌」
「じゃあ俺どこで寝るんだよ」
綾音が。
少しだけ場所を空ける。
「ここ」
「いいの?」
「うん」
俺たちは。
同じベッドへ。
ただ。
並んで横になる。
綾音が。
俺を見る。
「今日」
「うん」
「来てよかった」
「家?」
「うん」
「家族どうだった?」
「優しかった」
「珠香うるさかっただろ」
「可愛かった」
「綾音のファンだったみたい」
「嬉しい」
「父さんは?」
「緊張した」
「顔怖い?」
「そうじゃなくて」
綾音は笑う。
「彼氏のお父さんだから」
「母さんは?」
「もっと緊張した」
「何で?」
「彼氏のお母さんだから」
「同じだろ」
「違うの」
「何が?」
「何となく」
そして。
綾音が。
少し近づく。
「おやすみ」
「おやすみ」
少し迷って。
もう一度だけ。
今度は。
本当に軽く。
唇を重ねる。
綾音は。
俺の隣で。
目を閉じた。
◇◇◇
その夜。
白河綾音は。
初めて。
俺の家で夜を明かした。
父・亮介。
母・稀衣。
妹・珠香。
俺の家族と。
初めて顔を合わせた。
そして。
俺と綾音も。
初めてキスをした。
一度。
二度。
三度。
最初は。
触れるだけ。
二度目は。
少し長く。
三度目は。
お互いの気持ちを確かめるように。
付き合って。
まだ長くない。
でも。
少しずつ。
俺たちは。
恋人になっていく。
◇◇◇
翌朝。
まだ。
家族は知らない。
昨夜。
俺と綾音が。
初めてキスをしたことを。
会社の二十人ほどの同僚たちも知らない。
昨日。
「白河綾音って彼氏いるのかな?」
と盛り上がっていた。
答えは。
いる。
しかも。
その彼氏は。
同じ会社にいる。
俺。
所属事務所の社長。
担当マネージャー。
そして。
新しく。
父・亮介。
母・稀衣。
妹・珠香。
俺たちの秘密を知る人が。
また三人増えた。
次は。
藤宮麗華。
綾音が。
自分自身の言葉で。
仕事仲間へ。
大切な秘密を打ち明けようとしている。
「実は私――彼氏ができたの」
その言葉から。
藤宮麗華と白河綾音。
そして。
それぞれの恋人。
二つの物語は。
さらに近づいていくことになる。
俺の彼女はグラビアアイドル。
第二章「白河綾音編」。
綾音が初めて俺の家へ来た夜。
それは。
俺の家族にとっても。
俺と綾音にとっても。
忘れられない。
初めてだらけの夜になった。
第二章「白河綾音編」第3話を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は、主人公と綾音にとって“初めて”がいくつも重なる一話となりました。
まず大きかったのは、綾音が初めて主人公の家を訪れたこと。
これまで主人公の家族は、彼に恋人がいることは知っていても、その相手が人気グラビアアイドル・白河綾音だとは詳しく知らされていませんでした。
主人公から、
「白河綾音」
と名前を聞いた瞬間。
妹・珠香が、
「この人!?」
とスマートフォンを見せながら驚く場面。
そして実際に綾音本人が家へやって来ると、
「本物……」
と固まってしまう姿。
画面越しに見ていた芸能人が、突然“兄の彼女”として目の前に現れたのですから、無理もありません。
一方、父・亮介は比較的落ち着いていました。
綾音が有名人だから特別扱いするのではなく、
「相手が有名人でも普通の人でも、付き合うなら大切にしろ」
と主人公へ伝えています。
これは、これから二人が交際を続けていくうえでも大切な言葉になりそうです。
母・稀衣も、
「本当にこの子でいいの?」
と綾音へ尋ねました。
それに綾音は迷うことなく、
「はい」
と即答。
そして主人公との出会いを話しながら、
「最初から白河綾音というグラビアアイドルじゃなくて、普通の私として接してくれた」
と、自分が主人公に惹かれた理由を家族へ伝えました。
芸能人として知られている自分ではなく。
一人の女性としての自分を最初に知ってくれた。
第0話から続いているこの部分は、綾音にとって主人公が特別な存在になった一番大きな理由なのだと思います。
そして今回。
主人公と綾音は、ついに初めてキスを交わしました。
これまで手を握ったり、近くに座ったりすることはあっても、まだ唇を重ねたことはなかった二人。
主人公の部屋。
夜。
家族は同じ家にいるけれど、部屋では二人きり。
そこで綾音自身が、
「私たち、まだしてないよね」
と切り出します。
最初はほんの一瞬。
一度目のキス。
けれど綾音から、
「……終わり?」
と言われ。
今度は綾音自身から顔を近づける二度目。
そのとき思わず、
「……んっ」
と小さな声が漏れ、恥ずかしがる綾音。
そして三度目は、どちらからともなく自然に距離を縮め、先ほどよりも長く唇を重ねました。
グラビアアイドルとして大勢の人の前に立つときには堂々としている綾音。
しかし主人公との初めてのキスでは、普通の恋人のように緊張し、照れてしまう。
仕事で見せる白河綾音と、主人公だけが見る綾音。
その違いも、これから少しずつ増えていきそうです。
また今回、二人とは別の場所でも面白い出来事が起こっています。
主人公の勤務先。
昼休み。
二十人ほどの同僚たちが白河綾音について盛り上がり、
「彼氏いるのかな?」
という話題にまで発展しました。
もちろん答えは――。
います。
しかもその彼氏本人が、同じ場所で弁当を食べています。
しかし誰も知らない。
主人公も絶対に言えない。
同僚たちからすれば、白河綾音はテレビや雑誌の中にいる有名人。
主人公からすれば、その日の夜に自分の家へ泊まりに来て、初めてのキスを交わす恋人。
その差が、二人の秘密の交際をより際立たせる場面になりました。
そして今回。
二人の秘密を知る人も増えました。
事務所の社長。
担当マネージャー。
そして新たに――。
父・亮介。
母・稀衣。
妹・珠香。
主人公の家族にも正式に綾音を紹介したことで、二人の関係はさらに一歩前へ進みました。
しかし、まだ伝えていない大切な人物がいます。
藤宮麗華。
第一章のヒロインであり、綾音の仕事仲間。
麗華はすでに、綾音に好きな人ができたのではないかと気づき始めています。
そして綾音自身も、
「麗華ちゃんには近いうちに話すつもり」
と決めています。
次に明かされる秘密は――。
「私、彼氏ができたの」
という綾音から麗華への告白。
しかも相手は、かつての麗華と同じ一般男性。
第一章と第二章。
それぞれ別の主人公によって進んできた二つの物語は、少しずつ同じ場所へ近づいています。
主人公の家族との初対面。
会社で飛び交う綾音の恋愛話。
そして二人にとって初めてとなった、二度、三度と重ねるキス。
第二章「白河綾音編」。
秘密の恋は今回、事務所だけではなく主人公の家族にも認められ、二人自身も少しずつ“本当の恋人”としての時間を重ね始めました。




