第2話 初めての事務所訪問――白河綾音の彼氏として、社長とマネージャーの前へ
第二章「白河綾音編」第2話。
前回、白河綾音は所属事務所の社長と担当マネージャーへ、
「彼氏ができました」
と正式に報告しました。
相手は芸能関係者ではなく、綾音が偶然出会った一般男性。
事務所は二人の交際そのものには反対しませんでしたが、綾音を守るため、そして一般人である主人公を守るためにも、
「一度、相手の男性と直接会いたい」
ということに。
そして今回。
いよいよ主人公自身が、初めて綾音の所属事務所を訪れました。
ただの来客ではありません。
人気グラビアアイドル・白河綾音の“彼氏”として。
これまで芸能界とはほとんど縁のなかった主人公にとって、芸能事務所へ足を踏み入れるだけでも未知の経験。
さらに待っているのは、社長と担当マネージャーとの初対面です。
二人はどこで出会ったのか。
なぜ綾音を好きになったのか。
芸能人と付き合うということを、どこまで理解しているのか。
もし週刊誌に二人の関係を報じられたら、どう対応するのか。
そして――。
綾音との交際は、本当に真剣なのか。
次々と投げかけられる質問。
まるで面接のような時間の中で、主人公は自分の言葉で一つずつ答えていきます。
今すぐ簡単に「結婚します」と約束することはできない。
けれど、遊びで付き合っているわけでもない。
これから綾音と一緒に時間を重ねていきたい。
そして何より――。
「グラビアアイドルだから好きになったわけではありません。白河綾音だから好きになりました」
主人公が伝えた、飾らない気持ち。
その答えを聞いた社長が、最後に二人へ伝えた言葉とは。
さらに今回の最後には、次の大きな展開につながる出来事も。
事務所から理解を得た綾音が、次に恋人の存在を打ち明けたいと思った人物。
それは――藤宮麗華。
一般男性との秘密の恋を経験し、現在はその相手と結婚している仕事仲間だからこそ、綾音は麗華へ自分の恋を話したいと思い始めます。
藤宮麗華と白河綾音。
そして、それぞれを支える二人の一般男性。
別々に始まった二組の物語が、いよいよ少しずつ交わり始めます。
綾音が所属事務所の社長と担当マネージャーに、
「彼氏ができました」
と報告してから数日。
今度は。
俺の番になった。
午前九時。
休日。
俺は自宅の鏡の前に立っていた。
「……これでいいか?」
普段より少しだけきちんとした服装。
スーツほど堅くはない。
でも、いつもの休日よりは明らかに真面目な格好。
理由は一つ。
今日。
俺は初めて。
白河綾音の所属事務所へ行く。
しかも。
ただの来客としてではない。
白河綾音の――彼氏として。
スマートフォンが鳴った。
綾音。
『起きてる?』
『起きてる』
すぐに返す。
『緊張してる?』
『してる』
『大丈夫だよ』
『綾音はもう終わったから言えるんだろ』
少しして。
『まだ言ってる』
続いて。
『私も一緒にいるから』
俺は画面を見ながら少し笑う。
『分かった』
すると。
『あと、社長は怖い人じゃないよ』
『それ先に言われると逆に怖い』
『本当に大丈夫!』
『マネージャーさんは?』
少し間が空いた。
『大丈夫』
『何で間があった?』
『気のせい』
絶対。
気のせいじゃない。
◇◇◇
午前十時四十分。
俺は綾音の所属事務所から少し離れた場所にいた。
待ち合わせ。
事務所の前で直接会うのは避ける。
まだ交際は非公表。
誰が見ているか分からない。
数分後。
帽子。
眼鏡。
マスク。
見慣れてきた変装姿。
綾音がやって来た。
「お待たせ」
「おはよう」
「おはよう」
綾音が俺を見る。
上から下まで。
「何?」
「ちゃんとしてる」
「失礼だな」
「いつもより」
「今日、社長に会うんだぞ」
「面接じゃないよ?」
「俺からしたら面接みたいなものだよ」
綾音が笑う。
「大丈夫」
「落とされることある?」
「何を?」
「彼氏審査」
「そんな制度ありません」
「でも信用できないって言われたら?」
綾音の表情が少し変わった。
「それでも」
「うん」
「私は付き合うよ」
即答だった。
「綾音」
「もちろん社長にもマネージャーさんにも認めてもらいたい」
「うん」
「でも」
綾音は俺を見る。
「私が好きになった人だから」
少し照れる。
俺が。
「朝からそういうこと言う?」
「何よ」
「余計緊張する」
「何で?」
「ちゃんとしないとなって思う」
綾音が少し笑う。
「じゃあ」
「うん」
「ちゃんとしてきてください、彼氏さん」
「頑張ります」
◇◇◇
午前十一時。
所属事務所。
綾音とは少し時間をずらして建物へ入った。
受付。
名前を伝える。
すでに話は通っている。
「少々お待ちください」
待つ。
数分後。
見覚えのない女性がこちらへ歩いてくる。
「こんにちは」
「こんにちは」
「白河の担当マネージャーです」
来た。
俺は立ち上がる。
「初めまして」
「初めまして」
頭を下げる。
マネージャーは。
俺をじっと見る。
一秒。
二秒。
三秒。
長い。
「……あの」
「すみません」
「はい」
「ちょっと確認してました」
「何をですか?」
「綾音の彼氏さん」
やっぱり。
「本人です」
「ですよね」
「何か変ですか?」
「いえ」
マネージャーが少し笑う。
「普通の方なんだなと思って」
「普通です」
「芸能関係では?」
「まったく」
「業界経験も?」
「ありません」
「芸能人の知り合いは?」
「綾音以外いません」
「なるほど」
すでに。
面接が始まっている気がする。
「こちらへ」
「はい」
案内される。
廊下を歩く。
スタッフと何人かすれ違う。
当然。
その人たちは。
俺が誰なのか知らない。
白河綾音の彼氏。
そんなことを知っているのは。
この事務所では。
今のところ社長と担当マネージャーだけ。
そして。
今日。
俺自身。
◇◇◇
応接室。
扉を開ける。
そこには。
社長。
そして。
綾音。
「こんにちは」
俺が頭を下げる。
「こんにちは」
社長が立ち上がる。
綾音は。
俺を見る。
ほんの少し笑った。
でも。
ここでは仕事中。
恋人だからといって近づいたりはしない。
「どうぞ」
「失礼します」
俺は座る。
向かいに社長。
隣にはマネージャー。
綾音は俺の少し横。
四人。
社長が最初に口を開いた。
「今日は来ていただいてありがとうございます」
「こちらこそ、お時間をいただいてありがとうございます」
「緊張しています?」
「かなり」
正直に答えた。
社長が少し笑う。
「そんなに構えなくて大丈夫です」
「綾音にも言われました」
社長が綾音を見る。
「ちゃんと伝えたんだね」
「はい」
「でも全然安心できませんでした」
俺が言う。
綾音が。
「ちょっと!」
社長とマネージャーが笑う。
少し。
空気が柔らかくなった。
◇◇◇
しかし。
ここから。
本題。
社長の表情が少し真剣になる。
「まず」
「はい」
「綾音さんから、出会いについては聞いています」
「落とし物ですよね」
「そうです」
「はい」
「最初は綾音さんだと分からなかった?」
「まったく」
綾音が横から。
「本当に気づいてなかったんですよ」
「帽子と眼鏡とマスクだっただろ」
「それでも気づく人いるから」
「俺は分からなかった」
社長が聞く。
「普段からグラビアは見ない?」
「ほとんど見ません」
「芸能人にも詳しくない?」
「有名な方なら多少は」
「藤宮麗華さんは?」
その名前。
俺でも知っている。
「知っています」
綾音が少し笑う。
「麗華ちゃんは知ってたんだ」
「有名だから」
「私もそれなりに出てるんだけど」
「今は知ってる」
「今はって何」
また。
社長が笑った。
◇◇◇
「では」
社長が続ける。
「少し踏み込んだことも聞きます」
「はい」
「綾音さんと交際しようと思った理由は?」
来た。
想像していた質問。
俺は。
迷わなかった。
「好きになったからです」
「どこを?」
「最初は」
少し考える。
「普通の女性として知りました」
綾音が静かに俺を見る。
「芸能人だと知らなかったから?」
「はい」
「それから正体を知った」
「はい」
「気持ちは変わらなかった?」
「驚きました」
「それは当然ですね」
「でも」
俺は続ける。
「グラビアアイドルだから好きになったわけではありません」
社長。
マネージャー。
綾音。
全員が聞いている。
「白河綾音だから」
少し恥ずかしい。
でも。
言う。
「綾音自身を好きになりました」
横を見る。
綾音が。
明らかに照れている。
「こっち見ないで」
小声。
「何で」
「恥ずかしい」
社長が少し笑う。
「本人の前で言うのは緊張しますね」
「はい」
◇◇◇
マネージャーが質問する。
「芸能人との交際について、どこまで理解していますか?」
「正直」
「はい」
「まだ全部は分かっていないと思います」
マネージャーが頷く。
「例えば?」
「普通に外でデートできない」
「はい」
「写真を撮られる可能性がある」
「はい」
「俺自身も特定されるかもしれない」
「その通りです」
「家族とか仕事にも影響が出る可能性がある」
「はい」
「SNSも気をつける」
「そうですね」
「それくらいは」
「十分です」
俺は少し驚く。
「十分?」
「最初から全部分かる人はいません」
マネージャーが言う。
「むしろ」
「はい」
「分かったつもりになられるほうが困ります」
なるほど。
「何か起きたとき」
「はい」
「自分だけで解決しようとしないでください」
「分かりました」
「必ず綾音か私たちへ相談する」
「はい」
「特に週刊誌や記者から直接接触された場合」
「はい」
「勝手に答えない」
「分かりました」
「SNSで反論もしない」
「しません」
「友人へ相談するのも慎重に」
「はい」
社長が続ける。
「今のところ」
「はい」
「交際を公表する予定はありません」
「分かっています」
「綾音さんの仕事仲間にも?」
「言わない?」
俺が綾音を見る。
綾音が答える。
「基本的には」
「麗華さんにも?」
俺が聞く。
少し沈黙。
綾音は考える。
「麗華ちゃんには」
「うん」
「いつか私から話したい」
社長も。
「藤宮さんについては、綾音さんが信頼しているなら止めません」
「ありがとうございます」
「ただし」
「はい」
「相手の個人情報は必要以上に話さない」
「分かりました」
◇◇◇
社長が俺を見る。
「もう一つ」
「はい」
「少し厳しい質問をします」
空気。
少し変わる。
「もし」
「はい」
「綾音さんとの交際が報道されたら」
「はい」
「どうしますか?」
俺は。
少し考えた。
簡単には答えられない。
「まず」
「はい」
「綾音と話します」
社長が頷く。
「それから?」
「事務所にも相談します」
「自分から公表は?」
「しません」
「記者に囲まれたら?」
「答えません」
「友人から聞かれたら?」
「……」
これは。
難しい。
「否定しますか?」
社長。
俺は考える。
「事務所の方針に合わせます」
社長の表情が少し変わった。
「どうして?」
「俺が勝手に否定して」
「うん」
「綾音側と話が違ったら困るから」
社長。
マネージャー。
少し顔を見合わせる。
「なるほど」
社長が言う。
「分かりました」
◇◇◇
次。
社長が。
「では最後」
「はい」
「綾音さんとの交際を」
少し間。
「遊びだと思っていますか?」
俺は即答。
「思ってません」
「将来まで考えている?」
付き合って。
まだ。
そんなに長くない。
結婚。
そこまで言うのは。
さすがに早い。
だから。
嘘はつかない。
「結婚すると今すぐ約束できるほど」
綾音が俺を見る。
「まだ長く付き合ってはいません」
「そうですね」
「だから」
俺は続ける。
「軽々しく結婚しますとは言えません」
社長が静かに聞く。
「はい」
「でも」
俺は綾音を見る。
「遊びで付き合うつもりはありません」
綾音の表情。
少し柔らかくなる。
「これから」
「はい」
「ちゃんと綾音と一緒に時間を重ねたいと思っています」
社長は。
しばらく何も言わなかった。
そして。
「分かりました」
その一言。
◇◇◇
数秒後。
社長が少し笑った。
「私は」
「はい」
「二人の交際に反対しません」
綾音が。
「本当ですか?」
「うん」
マネージャーも頷く。
俺は。
思っていた以上に安心した。
「ありがとうございます」
深く頭を下げる。
「ただし」
やっぱり。
条件。
「はい」
「綾音さんの仕事に影響が出ないように」
「はい」
「そして」
社長が俺を見る。
「あなた自身の生活も守ってください」
少し意外だった。
「俺の?」
「そうです」
「はい」
「芸能人と付き合ったからといって」
社長は言う。
「あなたまで芸能人になる必要はない」
その言葉。
俺は。
少し心に残った。
「今まで通り生活してください」
「はい」
「ただし、困ったときは相談する」
「分かりました」
「それで十分です」
「ありがとうございます」
綾音が。
隣で。
本当に嬉しそうに笑っていた。
◇◇◇
話し合いが終わったあと。
社長は仕事へ戻った。
マネージャーも少し席を外す。
応接室。
俺と綾音。
二人だけ。
「はぁ……」
俺は背もたれへ寄りかかる。
「緊張した」
綾音が笑う。
「お疲れさま」
「面接だった」
「違うって」
「完全に面接だっただろ」
「でも合格」
「合格なの?」
「交際を認めてもらえたから」
「じゃあ合格か」
「うん」
綾音は。
少し俺へ近づく。
でも。
ここは事務所。
誰が入ってくるか分からない。
「近い」
俺が言う。
「今二人だけ」
「マネージャーさん戻ってくる」
「少しくらい」
「綾音」
「何?」
綾音が。
俺の手を。
少しだけ握った。
「ありがとう」
「何が?」
「ちゃんと来てくれて」
「当たり前だろ」
「私のために」
「彼氏だから」
綾音が笑う。
「もう一回言って」
「何を?」
「彼氏」
「俺が?」
「うん」
「彼氏です」
「違う」
「何が?」
「私の」
「面倒くさいな」
「言って」
俺は少し笑う。
「俺は綾音の彼氏」
綾音が。
満足そうに笑った。
「うん」
その瞬間。
扉。
「失礼しま――」
マネージャー。
俺と綾音。
手。
つながっている。
沈黙。
綾音が。
すぐ離す。
「……」
「……」
マネージャーが。
「まあ」
少し笑う。
「付き合ってるんだから、そのくらいはね」
「すみません」
綾音。
「でも事務所内では気をつけて」
「はい……」
顔。
赤い。
俺も。
かなり恥ずかしい。
◇◇◇
午後一時。
事務所を出る。
当然。
俺と綾音は別々。
先に俺。
少し時間を置いて綾音。
そのあと。
少し離れた場所で合流。
「疲れた」
俺が言う。
「まだ言ってる」
「人生で一番緊張したかも」
「そんなに?」
「だって」
俺は綾音を見る。
「彼女の会社の社長に会うんだぞ」
「会社じゃなくて事務所」
「似たようなもの」
「違います」
二人で歩く。
少し距離。
人がいるから。
手はつながない。
でも。
さっきまでとは。
少し気持ちが違う。
事務所が。
俺たちを知っている。
社長が。
認めてくれた。
マネージャーも。
理解してくれた。
「ねえ」
綾音。
「何?」
「次」
「うん」
「麗華ちゃんに話したい」
やっぱり。
来た。
「藤宮麗華さん?」
「うん」
「大丈夫?」
「麗華ちゃんだから話したい」
「どうして?」
綾音は少し考える。
「同じだから」
「同じ?」
「麗華ちゃんも」
「うん」
「一般男性と秘密で付き合ってた」
「そうなの?」
「そう」
俺は知らなかった。
「今は結婚してるけど」
「ニュースでは一般男性って」
「うん」
「私も旦那さんの詳しいことは知らない」
「綾音も?」
「名前とか顔とかはね」
意外。
仕事仲間でも。
そこまで徹底している。
「だから」
綾音が言う。
「私も全部話すつもりはない」
「うん」
「でも」
少し笑う。
「彼氏ができたことは話したい」
「いいんじゃない?」
「本当に?」
「綾音が信頼してるなら」
「ありがとう」
「俺の名前は?」
「言わない」
即答。
「そこは言わないんだ」
「守らないと」
「そうだな」
「でも」
綾音が少し楽しそう。
「麗華ちゃん、絶対驚く」
「昨日もう気づきかけてたんだろ?」
「うん」
「じゃあ驚かないんじゃない?」
「いや」
綾音が言う。
「一般男性って言ったら驚くと思う」
◇◇◇
その日の夕方。
藤宮麗華のスマートフォンへ。
綾音から。
一通のメッセージが届いた。
『麗華ちゃん』
『今度、二人で話したいことがある』
麗華は。
そのメッセージを見た瞬間。
少し笑った。
隣にいる夫が聞く。
「どうした?」
麗華はスマートフォンを見ながら。
「綾音」
「また?」
「うん」
「何て?」
「話したいことがあるって」
「仕事?」
麗華は。
首を横に振る。
「たぶん違う」
「じゃあ?」
麗華は。
ほぼ確信していた。
「恋愛」
夫が。
「女の勘?」
「今回は絶対」
「本当かな」
「絶対」
麗華は返信する。
『いいよ』
そして。
『いつでも聞く』
送信。
数秒後。
綾音から。
『ありがとう』
麗華は。
まだ知らない。
数日後。
綾音の口から。
自分とよく似た言葉を聞くことを。
『実は私、一般の人と付き合い始めたの』
そして。
俺もまだ知らない。
その報告がきっかけとなって。
藤宮麗華と白河綾音。
二人のグラビアアイドルだけではなく。
麗華の夫。
そして俺。
二人の一般男性の人生までもが。
少しずつ交わり始めることを。
俺の彼女はグラビアアイドル。
白河綾音。
今日。
俺は初めて。
彼女の所属事務所へ行った。
社長に会った。
マネージャーに会った。
いろいろ聞かれた。
緊張した。
それでも。
最後に言われた。
「二人の交際に反対しません」
その言葉だけで。
十分だった。
俺と綾音の恋は。
まだ秘密。
でも。
二人だけで守る秘密ではなくなった。
社長。
マネージャー。
そして次は――。
藤宮麗華。
綾音が信頼する仕事仲間へ。
俺たちの秘密が。
ほんの少しだけ。
明かされようとしていた。
第二章「白河綾音編」第2話を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は、
「初めての事務所訪問――白河綾音の彼氏として、社長とマネージャーの前へ」
ということで、主人公にとってかなり緊張する一日となりました。
前回は綾音自身が交際を報告する側でした。
そして今回は、その相手である主人公が事務所へ。
普段より少しだけきちんとした服装を選び、待ち合わせの時点から、
「俺からしたら面接みたいなものだよ」
と緊張していた主人公。
綾音は、
「大丈夫」
と言ってくれますが、芸能界とは無縁だった主人公にとっては、そう簡単に緊張が消えるはずもありません。
そして事務所で初めて顔を合わせた担当マネージャー。
主人公を見た最初の感想は、
「普通の方なんだなと思って」
というもの。
芸能関係者でもない。
業界経験もない。
芸能人の知り合いも、綾音以外にはほとんどいない。
本当に普通の一般男性です。
しかし、だからこそ事務所側も確認しなければならないことがありました。
主人公が綾音へ近づいた理由。
芸能人との交際に対する理解。
交際が報道された場合の対応。
そして二人の将来について。
中でも主人公が伝えた、
「グラビアアイドルだから好きになったわけではありません」
「白河綾音だから好きになりました」
という言葉。
第0話から変わらない、主人公の気持ちです。
最初に出会ったとき、主人公は目の前の女性が白河綾音だとは知りませんでした。
グラビアアイドルだから声をかけたのでもない。
芸能人だから仲良くなりたかったわけでもない。
最初はただ、落とし物を拾っただけ。
その後、何度も話して。
一人の女性としての綾音を知って。
好きになった。
だからこそ、綾音にとっても主人公の存在は特別なのだと思います。
そして将来について聞かれた主人公も、無責任に、
「絶対に結婚します」
とは答えませんでした。
二人はまだ付き合い始めたばかり。
だから今すぐ将来のすべてを約束するのではなく、
「遊びで付き合うつもりはありません」
「これからちゃんと綾音と一緒に時間を重ねたいと思っています」
と、自分が今約束できることを正直に伝えました。
その答えを聞いた社長から告げられた、
「二人の交際に反対しません」
という言葉。
これで主人公と綾音の交際は、所属事務所からも理解を得ることができました。
ただし、二人の恋はまだ世間には秘密です。
外で自由に手をつなぐことも難しい。
週刊誌にも注意しなければならない。
主人公自身の個人情報も守らなければならない。
恋人として認めてもらえたからといって、何でも自由になったわけではありません。
それでも――。
二人だけで抱えていた秘密を知り、支えてくれる人が増えた。
これは二人にとって、とても大きな一歩です。
そして今回、個人的に少し微笑ましい場面となったのが、社長との話し合いを終えたあとの応接室。
二人きりになった瞬間。
綾音は主人公の手を握り、
「ありがとう」
と伝えました。
さらに、
「俺は綾音の彼氏」
と言ってもらって満足そうにしていたところへ、まさかの担当マネージャー登場。
まだ交際が始まったばかりだからこその、初々しい二人の姿でした。
そして物語は次へ進みます。
綾音が次に恋人の存在を打ち明けようと決めた相手。
藤宮麗華。
第一章のヒロインであり、綾音の仕事仲間。
麗華自身も、かつて一般男性との交際を秘密にしていました。
そして現在、その男性は麗華の夫になっています。
そんな麗華だからこそ、綾音も自分の恋を打ち明けたい。
すでに麗華のもとには、
「今度、二人で話したいことがある」
というメッセージが届きました。
そして麗華は、その内容をほぼ察しています。
ただし。
麗華が知っているのは、
「綾音に好きな人ができたかもしれない」
というところまで。
相手が一般男性であること。
すでに正式に付き合っていること。
所属事務所の社長とマネージャーにも報告済みであること。
そこまではまだ知りません。
次に綾音の口から、
「実は私、一般の人と付き合い始めたの」
と聞いたとき。
同じ経験をしてきた麗華は、どんな反応をするのでしょうか。
そして、麗華の夫と綾音の彼氏。
それぞれ別々の人生を歩んできた二人の一般男性も、いつか顔を合わせることになるのか――。
第一章と第二章。
別々だった二つの物語が、ここから本格的につながり始めます。
俺の彼女はグラビアアイドル。
第二章「白河綾音編」。
主人公と綾音の秘密の恋は、また一歩前へ進みました。




