第1話 社長への報告――白河綾音、秘密の彼氏ができました
第二章「白河綾音編」第1話。
第0話では、一つの落とし物をきっかけに偶然出会った白河綾音と主人公。
一週間後の偶然の再会。
綾音から誘ったカフェ。
そして何度も連絡を取り合い、少しずつお互いの素顔を知っていった二人は、ついに恋人同士となりました。
しかし、綾音は普通の女性ではありません。
雑誌やテレビで活躍するグラビアアイドル。
主人公は芸能界とは何の関係もない一般男性。
二人が付き合い始めたからといって、普通の恋人のように堂々と外を歩けるわけではありません。
そして何より、綾音には最初にやらなければならないことがありました。
それは――。
所属事務所への交際報告。
恋人になって三日。
綾音は覚悟を決め、担当マネージャーと社長へ、
「彼氏ができました」
と自分自身の口から打ち明けます。
相手は芸能人ではなく一般男性。
出会いは、綾音が落とした大切なケースを拾ってもらったこと。
しかも最初、主人公は綾音がグラビアアイドルであることさえ知りませんでした。
そんな二人の出会いから交際までを聞いた社長とマネージャーは、どんな答えを出すのでしょうか。
さらに今回。
綾音と同じ撮影現場を訪れた藤宮麗華も、彼女のちょっとした変化に気づき始めます。
「好きな人できた?」
その質問に大きく動揺してしまった綾音。
まだ麗華には本当のことを伝えていません。
しかし、一般男性との秘密の恋を経験し、現在はその相手と結婚している麗華だからこそ、何かを感じ取っているようです。
そして事務所への報告を終えた綾音に、社長とマネージャーから告げられた新たな条件。
「私たちも相手の人に一度会いたい」
次は主人公自身が、白河綾音の“彼氏”として芸能事務所へ向かうことになります。
まだ始まって三日目の秘密の恋。
第1話では、その関係を初めて事務所へ報告する綾音の覚悟と、二人に最初の理解者が生まれるまでを描きます。
白河綾音と俺が恋人になってから、三日が経った。
付き合い始めたからといって、何かが劇的に変わったわけではない。
俺は今まで通りの日常を送っている。
朝起きて。
仕事へ行って。
帰ってきて。
飯を食べて。
風呂に入って。
寝る。
ただ一つ。
大きく変わったことがある。
スマートフォンを見る回数が、明らかに増えた。
午前七時十二分。
『おはよう』
綾音から届いたメッセージ。
俺はすぐに返信する。
『おはよう。今日仕事?』
一分もしないうちに既読。
『うん。午前中から撮影』
『何時まで?』
『予定では夕方』
そして。
『終わったら連絡していい?』
俺は少し笑った。
付き合う前にも連絡はしていた。
でも。
恋人になってから届く、
『連絡していい?』
は、何となく意味が違って聞こえる。
『もちろん』
送信。
すぐに。
『ありがとう』
さらに。
『行ってきます』
俺も。
『行ってらっしゃい』
送信する。
普通。
本当に普通のやり取り。
でも。
その相手が。
テレビや雑誌に出ているグラビアアイドル・白河綾音。
未だに。
少しだけ現実感がない。
俺の彼女は。
グラビアアイドルなのだ。
◇◇◇
同じ頃。
撮影スタジオへ向かう車内。
綾音はスマートフォンを見ながら、少しだけ笑っていた。
隣にいる担当マネージャーが、その変化に気づく。
「綾音」
「はい?」
「最近、機嫌いいね」
「そうですか?」
「うん」
「普通ですよ」
「本当に?」
「本当です」
そう言いながら。
またスマートフォンを見る。
マネージャーは何も言わない。
しかし。
明らかに怪しい。
「誰かと連絡してた?」
「……友達です」
一瞬。
綾音の返事が遅れた。
「ふーん」
「何ですか?」
「別に」
「絶対何か思ってますよね?」
「何も」
綾音はスマートフォンをバッグへ入れた。
まだ。
マネージャーには話していない。
もちろん。
社長にも。
でも。
今日。
仕事が終わったら話すつもりだった。
第0話で。
彼と恋人になった夜。
綾音は決めていた。
隠したまま仕事を続けることはしたくない。
世間には言えない。
ファンにも言えない。
仕事仲間にも簡単には話せない。
それでも。
自分の芸能活動を支えてくれている社長と担当マネージャーには、きちんと伝える。
それが。
綾音なりの覚悟だった。
◇◇◇
午前十時。
撮影スタジオ。
「綾音ちゃん、お願いします!」
「よろしくお願いします!」
撮影が始まる。
カメラの前。
そこにいるのは。
俺が知っている綾音とは少し違う。
プロのグラビアアイドル。
カメラマンの指示に合わせて表情を変える。
笑顔。
少し大人っぽい表情。
自然な表情。
何度もシャッター音が響く。
「いいですね!」
「ありがとうございます!」
撮影は順調。
そして。
今日は同じスタジオに。
もう一人。
綾音と親しい人物が来ていた。
「綾音、お疲れさま」
聞き慣れた声。
「あっ、麗華ちゃん!」
藤宮麗華。
第一章のヒロイン。
そして現在は。
一般男性と結婚しているグラビアアイドル。
綾音にとっては仕事仲間であり。
プライベートでも話をする相手。
「今日一緒だったんだ」
綾音が言う。
「午後からね」
「私、もう少しで終わる」
「早いじゃん」
「今日は順調」
麗華は綾音を見る。
「……何?」
「いや」
「何?」
「綾音」
「うん」
「何かあった?」
心臓。
一瞬。
跳ねる。
「何が?」
「なんか雰囲気違う」
「違わないよ」
「違う」
「どこが?」
「何となく」
綾音は目を逸らす。
麗華は。
妙に鋭い。
「……好きな人できた?」
「えっ!?」
綾音の声。
少し大きかった。
近くのスタッフがこちらを見る。
「あ、ごめんなさい!」
綾音は慌てて頭を下げる。
麗華が笑いをこらえている。
「ちょっと!」
「ごめんごめん」
「麗華ちゃん!」
「でも」
麗華が小声になる。
「当たり?」
「……」
「その顔」
「……今は言わない」
「え?」
「ちゃんと話せるようになったら言う」
麗華は少し驚く。
さっきまでは冗談半分。
でも。
綾音の言葉で。
何かあると察した。
「分かった」
麗華はそれ以上聞かなかった。
「ありがとう」
「ただし」
「何?」
「話せるようになったら絶対教えて」
「うん」
「約束」
「約束」
綾音は笑った。
まだ。
麗華にも言えない。
今日。
まずは。
社長とマネージャー。
◇◇◇
午後四時四十分。
撮影終了。
「ありがとうございました!」
綾音が頭を下げる。
スタッフたちへ挨拶。
着替えを済ませ。
マネージャーのところへ行く。
「お疲れさま」
「お疲れさまです」
「今日は予定より早かったね」
「はい」
「このあと事務所寄る?」
綾音は。
一度息を吸った。
「寄ります」
「何かある?」
「あります」
「ん?」
「社長に話したいことがあって」
マネージャーが綾音を見る。
いつもと違う。
「仕事の相談?」
「……仕事にも関係するかもしれません」
「分かった」
マネージャーは深く聞かなかった。
「じゃあ社長の予定確認する」
「お願いします」
◇◇◇
午後五時三十分。
所属事務所。
綾音は社長室の前に立っていた。
隣には担当マネージャー。
「緊張してる?」
「……ちょっと」
「そんなに大事な話?」
「はい」
「仕事辞めるとかじゃないよね?」
「違います!」
「ならよかった」
「辞めません」
「じゃあ入ろう」
ノック。
「どうぞ」
扉を開ける。
「失礼します」
社長がデスクに座っている。
「お疲れさま」
「お疲れさまです」
「話があるそうだね」
「はい」
「座って」
ソファ。
綾音。
マネージャー。
向かいに社長。
三人。
社長が聞く。
「どうしたの?」
「……」
綾音は。
膝の上で手を握る。
緊張する。
テレビ出演より。
雑誌の表紙撮影より。
ずっと緊張する。
「社長」
「うん」
「私……」
一度。
止まる。
マネージャーが見る。
綾音は。
はっきり言った。
「彼氏ができました」
沈黙。
社長。
マネージャー。
二人とも。
数秒。
何も言わない。
「……彼氏?」
マネージャーが先に反応した。
「はい」
「いつ?」
「三日前です」
「三日前!?」
「はい」
社長は比較的落ち着いている。
「相手は?」
「一般の方です」
「芸能関係者ではない?」
「違います」
「年齢は?」
綾音が答える。
「私と大きく離れてはいません」
「仕事は?」
「普通に働いています」
「出会いは?」
綾音は。
少し恥ずかしそうに。
「私の落とし物を拾ってくれました」
社長とマネージャー。
また。
沈黙。
「……それが出会い?」
「はい」
「ドラマみたいだね」
社長が言う。
「私もそう思います」
「それから?」
綾音は説明する。
駅前で落としたケース。
拾ってもらったこと。
そのときは自分が白河綾音だと気づかれなかったこと。
一週間後に偶然再会したこと。
綾音からカフェへ誘ったこと。
そこで正体を明かしたこと。
連絡先を交換したこと。
何度も会ったこと。
そして。
互いに好きだと分かり。
交際を始めたこと。
社長は。
最後まで黙って聞いていた。
◇◇◇
「なるほど」
社長が言う。
綾音は緊張している。
「怒ってますか?」
「どうして?」
「アイドルなのに」
「綾音」
「はい」
「うちは恋愛禁止じゃない」
「……はい」
「ただ」
社長の表情が少し真剣になる。
「君の仕事を考えれば、慎重にならないといけない」
「分かっています」
「本当に?」
「はい」
「外で堂々とデートはできない」
「はい」
「写真を撮られれば記事になる可能性もある」
「はい」
「相手の男性にも影響が出る」
「……はい」
綾音は。
そこまで考えていた。
自分だけではない。
彼は一般人。
もし。
白河綾音の彼氏。
そう知られれば。
仕事。
家族。
友人。
生活。
全部に影響する可能性がある。
「だから」
綾音が言う。
「ちゃんと報告しようと思いました」
社長が少し表情を緩める。
「それは正解」
「ありがとうございます」
マネージャーも。
「隠したまま後から発覚するより、先に知っていたほうが対応できる」
「はい」
「ただし」
「はい」
「私たちも相手の人に一度会いたい」
綾音が顔を上げる。
「彼に?」
「うん」
「どうして?」
「信用できる人なのか確認したい」
綾音は少し複雑な顔。
「疑ってるんですか?」
社長が答える。
「綾音を疑っているわけじゃない」
「……」
「でも相手が一般男性だからこそ、こちらは何も知らない」
確かに。
「芸能人に近づきたいだけの人ではないか」
「違います」
綾音は即答。
社長は頷く。
「綾音はそう思っている」
「はい」
「でも事務所としても確認する必要がある」
「……分かりました」
「責めるためじゃない」
「はい」
「今後二人を守るため」
その言葉。
綾音は少し安心した。
「分かりました」
◇◇◇
午後六時十五分。
社長室を出る。
綾音は。
大きく息を吐いた。
「はぁ……」
マネージャーが笑う。
「そんな緊張してた?」
「してましたよ!」
「顔に出てた」
「怒られると思ってました」
「だから恋愛禁止じゃないって」
「でも……」
マネージャーが歩きながら聞く。
「好きなの?」
綾音は止まる。
「彼のこと」
少し照れる。
でも。
「はい」
「そんな即答するんだ」
「だって好きだから」
「そっか」
マネージャーは笑った。
「なら大切にしなよ」
「……はい」
「ただし仕事も」
「もちろんです」
「そこは切り替える」
「はい」
「それと写真」
「気をつけます」
「外で会う場所も相談して」
「はい」
「何かあったら絶対連絡」
「はい」
「あと」
「まだあるんですか?」
「彼氏できたからって撮影中ニヤニヤしない」
「してません!」
「今日してた」
「嘘!」
「ちょっとだけ」
「……気をつけます」
二人で笑った。
◇◇◇
事務所を出たあと。
綾音はすぐ。
俺に電話してきた。
スマートフォンが鳴る。
表示。
『綾音』
俺は出る。
「もしもし」
『終わった』
「仕事?」
『それも』
「それも?」
少し間。
『社長に話した』
俺は。
すぐ分かった。
「俺のこと?」
『うん』
「何て?」
『彼氏ができましたって』
「……大丈夫だった?」
『大丈夫』
声が明るい。
安心する。
「怒られなかった?」
『怒られなかった』
「よかった」
『ただ』
「ただ?」
『会いたいって』
「誰が?」
『社長とマネージャーさん』
「俺に?」
『うん』
「……マジ?」
『マジ』
今度は。
俺が緊張する番。
「何話すの?」
『分からない』
「怖いな」
『大丈夫だよ』
「綾音はもう終わったから言えるんだろ」
『そうかも』
「おい」
電話の向こうで笑う。
『でも』
綾音の声が少し優しくなる。
『私も一緒にいるから』
「うん」
『ちゃんと紹介したい』
「俺を?」
『私の彼氏として』
その言葉。
少し。
嬉しい。
「分かった」
『来てくれる?』
「もちろん」
『ありがとう』
「いつ?」
『日程はこれから』
「了解」
少し沈黙。
そして。
綾音が言う。
『ねえ』
「何?」
『今日会える?』
「今から?」
『うん』
「仕事終わった?」
『終わった』
「じゃあ」
俺は時計を見る。
「いつもの場所?」
『うん』
「分かった」
『じゃああとで』
「気をつけて」
『はーい』
電話を切る。
俺は。
少し笑った。
社長。
マネージャー。
グラビアアイドルの彼女。
芸能事務所。
今まで。
自分の人生にまったくなかった言葉ばかり。
それが。
急に現実になっている。
◇◇◇
午後七時。
人通りの少ない場所。
俺は綾音を待つ。
しばらくして。
帽子。
眼鏡。
マスク。
完全変装。
綾音が来た。
「お待たせ」
「お疲れ」
「待った?」
「全然」
周囲を見る。
人はいない。
綾音も確認する。
そして。
少しだけ俺へ近づいた。
「本当に大丈夫だった?」
俺が聞く。
「うん」
「社長」
「ちゃんと話聞いてくれた」
「マネージャーさんも?」
「うん」
「俺、怒られない?」
「たぶん」
「たぶん?」
「大丈夫」
「不安になる言い方」
綾音が笑う。
「でもね」
「うん」
「嬉しかった」
「何が?」
「ちゃんと報告できたこと」
「そっか」
「今まで」
綾音は少し考える。
「誰にも言えない恋愛になるのかなって思ってた」
「うん」
「でも社長とマネージャーさんには言えた」
「うん」
「だから」
綾音が俺を見る。
「少なくとも二人だけの秘密じゃなくなった」
「確かに」
「味方が増えた感じ」
「味方なの?」
「たぶん」
「またたぶん」
二人で笑う。
◇◇◇
そのあと。
二人で少し歩く。
当然。
人がいる場所では距離を取る。
手もつながない。
普通の恋人なら。
何も考えずできること。
でも。
俺たちには難しい。
「ねえ」
綾音が言う。
「何?」
「ごめんね」
「何が?」
「普通にデートできなくて」
俺は綾音を見る。
「今さら?」
「でも」
「付き合う前から分かってた」
「……うん」
「俺が好きになったのは」
少し間。
「グラビアアイドルじゃなくて綾音だから」
綾音が止まる。
「それ」
「何?」
「第0話でも言った」
「第0話?」
「……何でもない」
「何だよ」
「同じこと何回も言うなってこと」
「嫌?」
「逆」
「じゃあいいじゃん」
綾音は少し顔を伏せる。
マスクで見えないけれど。
たぶん。
照れている。
◇◇◇
夜。
別れる前。
人目のない場所。
綾音が俺を見る。
「次」
「うん」
「社長に会うんだね」
「緊張する」
「大丈夫」
「何聞かれるかな」
「私を本当に好きか」
「それは答えられる」
「何て?」
「好きです」
「それだけ?」
「大好きです?」
「疑問形やめて」
俺は笑う。
綾音も笑う。
そして。
少しだけ。
二人の距離が近づく。
まだ付き合って三日。
恋人になった実感も。
少しずつ。
綾音が小さく言う。
「今日はありがとう」
「何が?」
「待っててくれて」
「普通だろ」
「社長に報告するの、結構怖かったから」
「お疲れ」
「うん」
綾音が。
少しだけ俺の服の袖をつかむ。
「もう少しだけ」
「何?」
「ここにいて」
俺は頷く。
「いいよ」
しばらく。
二人で並ぶ。
何もしない。
ただ。
同じ場所にいる。
それだけ。
でも。
綾音にとっては。
十分だった。
◇◇◇
一方。
その頃。
藤宮麗華は。
自宅でスマートフォンを見ていた。
今日の撮影現場。
綾音の反応。
『好きな人できた?』
そう聞いた瞬間。
明らかに動揺した。
そして。
『ちゃんと話せるようになったら言う』
あの言葉。
麗華は少し笑う。
「絶対何かある」
隣には。
第一章の主人公。
今では麗華の夫。
「何が?」
「綾音」
「白河綾音?」
「そう」
「仕事仲間の?」
「今日会ったんだけど」
麗華は少し考える。
「たぶん」
「うん」
「好きな人できた」
夫が麗華を見る。
「何で分かるの?」
「女の勘」
「怖いな」
「何よ」
麗華は笑う。
まだ。
知らない。
綾音が。
本当に一般男性と交際を始めたことを。
しかも。
その日の夕方。
すでに社長とマネージャーへ報告したことを。
そして。
近いうちに。
綾音自身の口から。
麗華へ。
「彼氏ができた」
と報告される日が来る。
◇◇◇
俺と綾音。
付き合って。
まだ三日。
でも。
今日。
一つ前へ進んだ。
事務所の社長。
担当マネージャー。
二人が。
俺たちの関係を知った。
世間は知らない。
ファンも知らない。
仕事仲間も。
麗華でさえ。
まだ知らない。
俺が。
白河綾音の彼氏だということを。
そして次。
俺は。
芸能事務所へ行く。
社長と。
マネージャーに。
正式に会う。
ただの一般人だった俺が。
グラビアアイドル・白河綾音の恋人として。
彼女を支える人たちの前に立つ。
正直。
怖い。
何を聞かれるのか。
何を言われるのか。
分からない。
でも。
一つだけ。
答えは決まっている。
どうして白河綾音と付き合っているのか。
そう聞かれたら。
俺は。
こう答える。
グラビアアイドルだからじゃない。
白河綾音だから。
好きになった。
それだけ。
俺の彼女はグラビアアイドル。
第二章「白河綾音編」。
俺たちの秘密の恋は。
ようやく。
最初の理解者を得たのだった。
第二章「白河綾音編」第1話を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は、綾音と主人公が恋人になってから三日後のお話でした。
付き合い始めたばかりの二人。
朝の、
「おはよう」
から始まり、
「今日仕事?」
「終わったら連絡していい?」
という何でもないメッセージ。
恋人になる前にも連絡を取り合っていた二人ですが、“恋人になってから交わす言葉”となると、同じ内容でも少し違って感じられるものです。
主人公自身も、
「俺の彼女はグラビアアイドル」
という現実を、まだ完全には実感できていません。
一方の綾音も。
仕事へ向かう車の中で主人公とのメッセージを見ながら笑ってしまい、早くも担当マネージャーから、
「最近、機嫌いいね」
と変化を指摘されてしまいました。
そして撮影現場では、藤宮麗華とも再会。
第一章では麗華自身が一般男性との秘密の恋を経験しました。
だからなのか。
綾音の小さな変化をすぐに感じ取り、
「好きな人できた?」
と質問。
綾音は思わず大きな声を出してしまいます。
この時点で麗華は、まだ主人公の存在を知りません。
それでも、
「ちゃんと話せるようになったら言う」
という綾音の返事から、ただならぬものを感じ取ったようです。
そして今回の中心となった、所属事務所への報告。
綾音は撮影終了後、自分から社長へ時間をもらい、
「私……彼氏ができました」
と報告しました。
恋愛禁止ではない。
だから交際そのものを否定されたわけではありません。
しかしグラビアアイドルとして活動している以上、普通の恋愛とは違った注意も必要になります。
外でのデート。
週刊誌。
写真。
SNS。
そして何より、一般人である主人公の生活。
もし交際が知られれば影響を受けるのは綾音だけではありません。
だからこそ社長は、二人を否定するのではなく、
「慎重にならないといけない」
と伝えました。
そして綾音自身も、そのことを理解しています。
隠したまま付き合い、何かが起きてから事務所へ知られるのではなく。
自分から最初に報告する。
そこには綾音なりの誠実さと、主人公との関係を遊びで終わらせたくないという気持ちが表れていたのではないでしょうか。
そして社長とマネージャーから出された一つの希望。
「私たちも相手の人に一度会いたい」
次に試されるのは主人公です。
これまで芸能界とはまったく関係のなかった一般男性が、今度はグラビアアイドル・白河綾音の“正式な恋人”として所属事務所を訪れることになります。
もちろん主人公は緊張しています。
しかし。
もし、
「どうして綾音と付き合っているのか」
と聞かれたときの答えだけは、すでに決まっています。
グラビアアイドルだからではない。
白河綾音だから好きになった。
第0話で綾音の心を動かしたその気持ちは、恋人になった今も変わっていません。
また今回。
第一章とのつながりも、少しずつ強くなり始めました。
麗華はすでに、
「綾音に好きな人ができたのではないか」
と感じています。
そして自宅では、自分の夫にまで、
「たぶん好きな人できた」
と話していました。
まだ麗華は知りません。
その予想が当たっていることを。
綾音の相手もまた、自分の夫と同じ“一般男性”であることを。
そして近いうちに、綾音本人からその事実を打ち明けられることになるでしょう。
第一章では藤宮麗華とその主人公。
第二章では白河綾音と別の主人公。
二組の物語は別々に始まりました。
しかし麗華と綾音が仕事仲間である以上、少しずつ二つの秘密の恋が交わり始めます。
そして次に待っているのは――。
主人公と事務所社長・担当マネージャーとの初対面。
主人公は、綾音の彼氏として何を聞かれるのか。
社長は彼を認めてくれるのか。
そして綾音は、いつ藤宮麗華へ恋人の存在を打ち明けるのか。
第二章「白河綾音編」。
まだ始まったばかりの二人の秘密の恋は、少しずつ“二人だけの秘密”ではなくなり始めています。




