第9話 週刊誌の影――二人の秘密に近づく、知らない視線
第9話「週刊誌の影――二人の秘密に近づく、知らない視線」。
これまで主人公と藤宮麗華は、学校や芸能界で交際を知られないよう細心の注意を払いながら、秘密の恋人として生活してきました。
家族。
所属事務所の社長。
担当マネージャー。
本当の関係を知っているのは、ごく限られた人たちだけ。
そんな中、今回はこれまでとは少し違う“外からの視線”が二人へ近づき始めます。
麗華の担当マネージャーから届いたのは、
「最近、週刊誌関係者らしき人物が麗華の周辺を調べている可能性がある」
という注意の連絡。
現時点では、主人公との交際が狙われているとは限りません。
別の芸能ニュースを追っているだけかもしれない。
麗華個人の仕事について調べているだけかもしれない。
けれど、万が一を考えれば警戒しないわけにはいきません。
麗華は人気が高まり、テレビや雑誌への出演も増えています。
注目される存在になればなるほど、仕事だけではなく私生活まで追われる可能性も高くなっていきます。
もし二人の交際が知られれば。
麗華の芸能活動だけではありません。
まだ高校三年生である主人公。
その学校。
友人。
そして俊介や麗音を含む家族にまで視線が向けられるかもしれません。
だからこそ今回は、二人だけではなく、家族や事務所も一緒になって秘密を守ることになります。
普通に恋愛しているだけなのに。
外を歩くこと。
同じ場所へ帰ること。
誰かに見られること。
その一つひとつへ注意しなければならない二人。
これまで幸せな同棲生活を中心に描いてきた二人に、初めて本格的な“週刊誌の影”が近づく第9話です。
水曜日の朝。
午前六時二十分。
「……おはよう」
目を開けると、すぐ隣から麗華の声が聞こえた。
「おはよう」
今日は珍しく、麗華のほうが先に起きていた。
ベッドの上でスマートフォンを見ている。
いつもなら朝から眠そうにしているのに、今日は表情が少し違った。
「どうした?」
俺が聞く。
「ん?」
「朝から真面目な顔してる」
「失礼」
「いつもならあと五分って言ってるだろ」
「今日はちゃんと起きました」
麗華がスマートフォンを伏せる。
「仕事?」
「マネージャーさんから連絡」
「何かあった?」
少しだけ間があった。
俺はそれに気づく。
「麗華」
「うん」
麗華は小さく息を吐いた。
「最近ね」
「うん」
「週刊誌の人が、私の周りを少し調べてるかもしれないって」
一気に眠気が消えた。
「……週刊誌?」
「まだ確定じゃないよ」
「でもマネージャーさんから?」
「うん」
麗華が画面を見せる。
そこには細かな内容までは見えなかったが、担当マネージャーからの注意喚起が届いていた。
最近、麗華が利用した撮影スタジオやイベント会場の周辺で、芸能記者らしき人物を見かけたという。
「俺たちのこと?」
俺が聞く。
「分からない」
麗華は首を横に振る。
「私だけかもしれないし、別の話かもしれない」
「そっか」
「でも念のため、しばらく外で会うのは控えたほうがいいって」
俺は頷いた。
「分かった」
麗華が少し驚く。
「それだけ?」
「何が?」
「もっと嫌そうな顔するかなって」
「嫌ではあるよ」
「やっぱり?」
「でも、バレるほうがもっと嫌だろ」
麗華はしばらく俺を見ていた。
「……うん」
「家では会えるし」
「同棲してるもんね」
「だから外でデートできなくても、まだいい」
「でも」
麗華は少しだけ寂しそうになる。
「学校帰りとか、また水族館みたいに行きたかった」
「また行ける」
「いつ?」
「落ち着いたら」
「本当に?」
「うん」
麗華が俺のほうへ少し近づく。
「じゃあ約束」
「約束」
「あと」
「何?」
「朝の分」
もう分かっている。
俺は少し笑って、麗華の頬へ手を添える。
唇が重なる。
一度。
離れて。
もう一度。
麗華が少し長く唇を重ねてくる。
「……ん」
そして三度目。
「朝から多い」
「今日ちょっと不安だから」
麗華が正直に言う。
俺はそれ以上何も言わなかった。
代わりに、もう一度だけキスを返した。
◇◇◇
午前七時。
朝食。
今日の麗華はいつもより静かだった。
テレビでは芸能ニュース。
雑誌の発売情報。
映画。
イベント。
その中に麗華の名前は出ていない。
俺は少し安心する。
「今日の予定は?」
「午前中から雑誌撮影」
「グラビア?」
「うん」
「午後は?」
「取材一本。そのあと事務所」
「帰りは?」
「八時くらいかな」
「分かった」
麗華が俺を見る。
「あなたは?」
「普通に学校」
「部活ない?」
「ない」
「じゃあ先に帰ってる?」
「たぶん」
「ご飯待っててくれる?」
「待つ」
麗華が少し笑う。
「ありがとう」
俺はパンを食べながら聞く。
「週刊誌のこと、社長も知ってる?」
「もちろん」
「家族には?」
「今のところ、お父さんとお母さんには言ってない」
「大丈夫?」
「まだ確定してないから」
「そっか」
麗華は少し考える。
「でももし本当に私のこと調べてるなら」
「うん」
「家族にも話すと思う」
「俊介たちにも?」
「場合によっては」
俺の弟・俊介。
麗華の妹・麗音。
二人は中学三年生で、三年間ずっと同じクラス。
もし俺たちの関係を追われるようになれば。
弟や妹まで巻き込む可能性がある。
それは避けたい。
「絶対バレないようにしないとな」
俺が言う。
麗華も頷いた。
「うん」
◇◇◇
午前八時十五分。
学校。
教室へ入ると。
いつも通り。
「藤宮麗華、また雑誌出るらしいぞ」
いきなりその名前。
今の俺には少しだけ重く聞こえた。
「どれ?」
「来週発売」
「絶対買う」
「表紙?」
「たぶん」
友人たちが楽しそうに話している。
俺は席へ座る。
昨日までなら普通に聞き流していた。
でも今日は違う。
『週刊誌が周りを調べてるかもしれない』
麗華の言葉が頭から離れない。
「お前どうした?」
友人が聞く。
「何が?」
「元気なくない?」
「眠いだけ」
「朝弱いタイプだったっけ?」
「今日はちょっと」
俺は適当にごまかす。
すると別の男子が言った。
「そういやさ」
「何?」
「芸能人って週刊誌とか大変だよな」
心臓が一瞬跳ねた。
「急に何?」
「昨日テレビで見た。俳優が熱愛撮られたやつ」
「ああ」
「もし藤宮麗華に彼氏いたら絶対狙われるよな」
やめてくれ。
今その話。
「相手誰だろうな」
「俳優とか?」
「モデル?」
「スポーツ選手?」
俺は何も言わない。
その中に。
『普通の高校三年生』
という答えはない。
当然だ。
「お前どう思う?」
また聞かれる。
「何が?」
「藤宮麗華の彼氏」
「知らない」
「いると思う?」
俺は少し考えるふりをする。
「いてもおかしくないんじゃない?」
「夢ないな!」
いつもの反応。
でも今日は。
笑えなかった。
◇◇◇
昼休み。
麗華からメッセージが届いた。
『撮影終わったよ』
俺はすぐ返信する。
『大丈夫?』
数秒。
『大丈夫』
そして。
『マネージャーさんと一緒だから』
少し安心する。
『変な人いない?』
『今のところ大丈夫』
そのあと。
『心配してくれてる?』
『するだろ』
少し間が空く。
『嬉しい』
続いて。
『でも学校では普通にしててね』
『分かってる』
『無理に私のこと調べたりしないでね』
『しない』
『絶対?』
『絶対』
麗華は俺が変な行動をすることまで心配しているらしい。
俺はそこまで無茶しない。
でも。
何かできることがないかと思っているのは事実だった。
◇◇◇
午後四時半。
学校を出る。
そのとき。
校門の少し離れた場所。
一人の男が立っていた。
カメラを持っている。
俺は一瞬立ち止まりそうになった。
でも。
よく見ると。
学校行事の写真を撮る業者らしい。
教師と話している。
「……気にしすぎだな」
俺は小さく呟く。
でも。
こういうことが毎日続くのかもしれない。
誰かに見られている気がする。
誰かが麗華を追っているかもしれない。
そう思うだけで。
普通の景色まで違って見える。
◇◇◇
午後五時半。
帰宅。
「ただいま」
返事はない。
麗華はまだ仕事。
制服を脱ぐ。
部屋着。
そしてキッチン。
今日は簡単に夕食を作る。
料理をしながら。
時々スマートフォンを見る。
連絡なし。
大丈夫だろうか。
午後六時。
まだなし。
六時半。
一件。
『今事務所』
俺はすぐ返信。
『大丈夫?』
『大丈夫』
『社長とマネージャーさんと話してる』
『週刊誌?』
『うん』
そして。
『帰ったら話す』
俺はそれ以上聞かなかった。
◇◇◇
午後八時十五分。
玄関の鍵が開く。
「ただいま」
いつもより静かな声。
俺はすぐ玄関へ向かった。
「おかえり」
麗華が立っている。
帽子。
マスク。
眼鏡。
外出時の変装。
いつもより少し疲れて見える。
「大丈夫?」
「うん」
麗華が家へ入る。
扉を閉める。
鍵をかける。
それを確認したあと。
麗華が俺を見る。
そして。
「……会いたかった」
俺に抱きついた。
「朝会っただろ」
「今日は長かった」
「何かあった?」
「あとで話す」
「分かった」
俺は麗華の背中へ腕を回す。
しばらく。
何も言わない。
ただ抱き合っていた。
◇◇◇
夕食。
麗華は少し落ち着いていた。
「それで?」
俺が聞く。
麗華は箸を置く。
「社長とマネージャーさんが言うには」
「うん」
「今のところ、私の交際を狙ってるって確証はない」
「じゃあ別件?」
「可能性はある」
「でも」
「注意は続ける」
俺は頷いた。
「当然だな」
「それと」
麗華が俺を見る。
「しばらく、私の移動ルートを少し変えるって」
「家に帰るときも?」
「うん」
「送迎も?」
「直接近くまで来ないようにする」
「なるほど」
「あなたも」
「俺?」
「学校から家に帰るルート、毎日同じにしないほうがいいかもって」
そこまで?
「俺も対象?」
「念のため」
麗華は少し申し訳なさそうだった。
「ごめんね」
「謝るなよ」
「でも」
「麗華のせいじゃない」
「……うん」
「俺も気をつける」
「本当に?」
「うん」
麗華は少し安心した。
「あと家族にも、今日話した」
「美晴さんたち?」
「うん」
「何て?」
「気をつけなさいって」
「だろうな」
「俊介君と麗音にも、余計なこと学校で話さないようにって」
「元々話してないけどな」
「念のため」
「父さんたちも?」
「うん」
「慶介さんと興毅さん?」
「そう」
「全員で秘密守ってるな」
麗華が少し笑う。
「本当にね」
◇◇◇
午後九時。
食後。
ソファ。
麗華は俺の肩へ頭を預けていた。
「ねえ」
「ん?」
「怖くない?」
「何が?」
「こういう生活」
俺は少し考える。
「怖いときはある」
麗華が静かになる。
「でも」
俺は続ける。
「麗華と付き合ってること自体を後悔したことはない」
麗華が俺を見る。
「本当に?」
「うん」
「芸能人じゃなかったら楽だったのにって思わない?」
「思うときはある」
麗華の表情が少し曇る。
「でも」
「うん」
「それは麗華が嫌って意味じゃない」
「分かってる」
「普通に外歩けたらいいのに、とか」
「うん」
「学校で彼女いるって普通に言えたらいいのに、とか」
「うん」
「そういう意味」
麗華が少し笑う。
「私も同じ」
「何が?」
「あなたが芸能人だったら、もう少し楽だったのかなって思うときある」
「それはそれで大変そう」
「確かに」
二人で少し笑った。
「でも」
麗華が俺の手を握る。
「普通の高校生だから好きになった部分もある」
「どういうこと?」
「芸能界と関係ないから」
「うん」
「私を藤宮麗華じゃなくて、麗華として見てくれた」
俺は少し恥ずかしくなる。
「またその話?」
「大事だから」
「そう」
「だから」
麗華が少し近づく。
「今はこれでいい」
「秘密でも?」
「うん」
「週刊誌気にしても?」
「うん」
「外で会えなくても?」
少しだけ間。
「……それは寂しい」
「正直」
「でも我慢する」
俺は笑った。
「俺も」
◇◇◇
そのとき。
麗華のスマートフォンが鳴った。
マネージャー。
麗華がすぐ確認する。
「何て?」
「明日の移動変更」
「早いな」
「うん」
そして。
麗華が少し驚いた顔をする。
「社長からも」
「何て?」
麗華が読み上げる。
「『二人とも普段通りでいてください。過度に警戒しすぎると逆に不自然です』」
「なるほど」
確かに。
俺は今日。
学校の外にカメラがあるだけで週刊誌かと思った。
警戒しすぎ。
「あと」
「まだある?」
「『家では普通に過ごしてください』」
俺は少し笑った。
「社長、そこまで」
「分かってるんだよ」
「何を?」
「私が不安だと家でも引きずるって」
「さすが」
麗華は少し照れくさそうだった。
「長く見てもらってるから」
◇◇◇
午後十時。
テレビをつける。
芸能ニュース。
麗華が出るわけではない。
それでも。
週刊誌。
熱愛。
スクープ。
そんな単語が出るたび。
少し意識する。
麗華も同じらしい。
「消す?」
俺が聞く。
「大丈夫」
「無理しなくていいぞ」
「うん」
麗華は少し考えて。
テレビを消した。
「やっぱり今日はいい」
「了解」
静かになる。
俺は聞く。
「映画見る?」
「今から?」
「気分変える」
「じゃあコメディ」
「また?」
「笑いたい」
「いいよ」
映画を選ぶ。
しばらくして。
麗華は普通に笑い始めた。
「そこ面白い」
「さっきまで暗かったのに」
「今はいいの」
「切り替え早い」
「プロだから」
「家ではただの麗華じゃなかった?」
「あ」
麗華が止まる。
「今日はプロの切り替え借りました」
「都合いいな」
二人で笑った。
少しずつ。
いつもの空気に戻る。
◇◇◇
午後十一時。
寝室。
麗華はベッドへ入る。
俺も隣。
「明日、早い?」
「六時起き」
「また?」
「仕事」
「大変」
「でも今日は早く寝る」
「そうしろ」
麗華が俺を見る。
「今日、ありがとう」
「何が?」
「普通にいてくれて」
「俺何もしてない」
「それがいい」
「社長と同じ?」
「うん」
麗華は少し笑う。
「変に『守るから』とか言われたら、逆に怖くなるかも」
「俺そんな格好いいこと言えない」
「知ってる」
「ひどい」
「でも」
麗華が俺の手を握る。
「一緒にいてくれるだけでいい」
俺は握り返す。
「いるよ」
「絶対?」
「同棲してるからな」
「そういう意味じゃなくて」
「分かってる」
麗華が少し笑う。
「じゃあ」
「うん」
「これからも?」
俺は答えた。
「うん」
短い。
でも。
麗華にはそれで伝わったらしい。
「ありがとう」
顔が近づく。
唇が重なる。
一度。
そしてもう一度。
今日は朝とは違う。
不安を消すように。
静かに何度もキスを交わす。
「……ん」
麗華が小さく息をつく。
「少し安心した」
「キスで?」
「うん」
「便利だな」
「彼氏限定」
「前も聞いた」
「何回でも言う」
最後にもう一度。
唇を重ねる。
「おやすみ」
「おやすみ」
◇◇◇
翌朝。
午前六時。
アラームが鳴る。
麗華が先に止めた。
「起きる?」
俺が聞く。
「うん」
昨日より。
表情は少し明るい。
「大丈夫そう?」
「うん」
「本当?」
「大丈夫」
麗華が起きる。
そしてカーテンを開ける。
朝日。
いつもと同じ朝。
週刊誌の存在。
知らない視線。
秘密を守るための注意。
確かに。
昨日までとは少し違う。
でも。
俺たちの日常そのものは変わらない。
朝起きて。
一緒に朝食を食べて。
俺は学校。
麗華は仕事。
夜になれば。
同じ家へ帰ってくる。
そして。
誰にも見られないこの家では。
俺たちはただの恋人同士。
それでいい。
少なくとも今は。
麗華が振り返る。
「今日も頑張ろう」
「ああ」
「学校」
「麗華も仕事」
「うん」
「気をつけて」
「あなたも」
二人で顔を見合わせる。
そして笑う。
秘密の恋には。
楽しいことだけではない。
不安。
心配。
我慢。
そういうものもある。
それでも。
二人で守ろうと決めた。
家族も。
社長も。
マネージャーも。
同じ秘密を守ってくれている。
だから俺たちは。
今日もそれぞれの場所へ向かう。
いつか。
誰にも隠さなくていい日が来るまで。
藤宮麗華は人気グラビアアイドル。
そして俺は。
その誰にも知られていない――彼氏だった。
第9話「週刊誌の影――二人の秘密に近づく、知らない視線」を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回はこれまでとは少し雰囲気を変え、主人公と麗華が抱えている“秘密の交際だからこその不安”を描きました。
きっかけは、担当マネージャーから届いた一通の連絡。
麗華の周辺で、週刊誌関係者らしき人物が動いている可能性がある。
まだ二人の関係を狙っていると決まったわけではありません。
それでも、可能性がある以上は無視することができません。
外でのデートはしばらく控える。
麗華の送迎方法を変える。
主人公も学校から毎日まったく同じ道で帰らないようにする。
家族にも改めて注意を伝える。
一見すると少し大げさに思えるかもしれません。
けれど麗華が人気グラビアアイドルである以上、たった一枚の写真や一つの目撃情報から、二人の生活が大きく変わってしまう可能性があります。
そして今回、主人公自身もその緊張を初めて強く感じました。
学校の外にカメラを持った人物がいる。
ただそれだけで、
「週刊誌かもしれない」
と思ってしまう。
実際には学校関係の撮影スタッフだったとしても、一度意識し始めると、いつもの景色まで違って見えてしまいます。
誰かに見られているかもしれない。
麗華が追われているかもしれない。
そんな不安は、少しずつ二人の日常にも入り込んでいきました。
それでも今回、大切だったのは主人公が必要以上に格好をつけなかったことです。
麗華から、
「怖くない?」
と聞かれて、
「怖いときはある」
と正直に答える。
さらに、
「芸能人じゃなかったら楽だったのにって思わない?」
という麗華の問いにも、完全に否定するのではなく、
「普通に外を歩けたらいいのにと思うことはある」
と伝えています。
秘密にする必要がなければ。
学校で普通に「彼女がいる」と言えれば。
堂々と手をつないで歩ければ。
きっと今より楽でしょう。
けれど、それは麗華を好きになったことを後悔しているという意味ではありません。
主人公がはっきり伝えた、
「麗華と付き合ってること自体を後悔したことはない」
という言葉。
それが今回の二人にとって、とても大きな言葉になりました。
そして麗華もまた、
「普通の高校生だから好きになった部分もある」
と本音を話しています。
芸能界とは関係のない主人公だからこそ。
藤宮麗華という芸能人ではなく、一人の女性として接してくれた。
主人公にとって麗華が“普通の彼女”であるように、麗華にとって主人公もまた、“芸能界の外にある大切な居場所”なのだと思います。
また今回、事務所の社長から届いた、
「過度に警戒しすぎると逆に不自然です」
「家では普通に過ごしてください」
という言葉も印象的でした。
秘密を守ることばかり考えてしまえば、二人の日常そのものが壊れてしまいます。
外では慎重に。
しかし家では、これまで通り。
一緒に食事をして。
映画を見て。
笑って。
不安になったら話して。
何度もキスを交わして眠る。
その“普通”を失わないこともまた、二人にとって大切なことなのでしょう。
そして今回は、二人だけではなく家族全員が改めて秘密を共有することになりました。
美和子と慶介。
美晴と興毅。
俊介と麗音。
そして事務所の社長とマネージャー。
秘密を知る人数は少ない。
けれど、その全員が二人を守ろうとしてくれています。
だから主人公と麗華は、決して二人だけで不安と向き合っているわけではありません。
最後。
「一緒にいてくれるだけでいい」
という麗華の言葉。
それに対して主人公は、
「いるよ」
と答えました。
特別な約束でも。
大げさな言葉でもありません。
ただ隣にいる。
同じ家へ帰る。
それだけでも、今の麗華には十分でした。
これまで比較的穏やかに守られてきた二人の秘密。
しかし今回、初めて週刊誌という存在が、その周囲へ影を落とし始めました。
本当に狙われているのか。
それとも単なる警戒で終わるのか。
まだ誰にも分かりません。
それでも主人公と麗華は、必要以上に恐れるのではなく。
今までと同じ日常を大切にしながら、自分たちの関係を守っていくことを選びました。
第1章「藤宮麗華編」。
秘密の恋が続いていく中で、二人は少しずつ“好きなだけでは乗り越えられない現実”とも向き合い始めています。




