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『俺の彼女はグラビアアイドル』  作者: AQUARIUM【RIKUYA】
第一章 藤宮麗華編
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18/28

第8話 放送された学校訪問――テレビの中の麗華と、教室に映った俺


第8話「放送された学校訪問――テレビの中の麗華と、教室に映った俺」。


前回、テレビ番組の学校紹介企画で、主人公の高校を訪れた麗華。


家を出るまではいつもの恋人同士。


しかし学校では、人気グラビアアイドル・藤宮麗華と、一人の男子高校生。


教室で目が合っても話しかけることはなく、主人公が授業中に先生から指名されても、麗華はほかの生徒と同じように拍手するだけ。


二人は最後まで、“初めて会った芸能人と高校生”として振る舞いました。


そして今回は、その学校訪問の様子がついにテレビで放送されます。


問題は、主人公がどこまで映っているのか。


麗華は放送前から楽しみにしていますが、主人公は学校で話題になることを考えるだけで落ち着きません。


そして放送が始まると――。


教室の片隅に座る主人公。


後ろで授業を見学する麗華。


さらには、先生から主人公が突然指名されたあの場面まで……。


テレビの中では何の関係もない二人。


けれど、その放送を見ている本人たちは、同じ家の同じソファに並んで座っています。


学校の友人たち。


俊介と麗音。


美和子と美晴。


慶介と興毅。


そして事務所の社長とマネージャー。


二人の本当の関係を知らない人と、知っている人では、まったく違って見えるテレビ映像。


誰にも知られていないからこそ、二人だけには特別な意味を持つ“秘密の共演”。


今回は、そんな不思議な夜を描きます。



翌週の火曜日。


朝六時十分。


目を覚ますと、隣では麗華がまだ眠っていた。


少し前までなら、朝起きてすぐに今日の予定を確認するのは麗華のほうだった。


けれど今日は違う。


俺のほうが先に思い出してしまった。


「……今日か」


小さく呟く。


今日は、先週行われた学校取材の放送日。


テレビ番組の企画で、麗華が俺の学校へやって来た。


俺の教室にも入り。


授業を見学し。


そして俺が先生に指名されて答えたところまで、しっかり撮影されていた。


もちろん、その場では俺と麗華は他人。


学校では誰も知らない。


藤宮麗華が俺の彼女であること。


さらに俺たちが同じ家で暮らしていること。


それを知っているのは事務所の社長とマネージャー、それから互いの家族だけだ。


番組側も当然知らない。


だから。


今日の放送を見る一般の視聴者からすれば。


俺は単なる「取材先の高校にいた男子生徒」。


それだけだ。


問題は――。


本当に俺が映っているのか。


そこだった。


「……ん」


麗華が少し動いた。


「起きた?」


「まだ……」


「今日放送だぞ」


その瞬間。


麗華の目が開いた。


「今日!?」


「忘れてた?」


「忘れてない!」


勢いよく身体を起こす。


「何時?」


「夜七時だっただろ」


「そうだった」


麗華が少し安心する。


「朝じゃないよね」


「今放送だったら学校遅刻するまで見そうだな」


「見る」


「即答するな」


麗華が笑う。


「だって学校のあなた映ってるかもしれないんだよ?」


「そこを楽しみにするな」


「楽しみに決まってる」


「俺は恥ずかしい」


「問題正解してたじゃん」


「そこ使われるか分からないだろ」


「使われてほしい」


「やめてくれ」


麗華が楽しそうに笑っている。


本当に嫌な予感しかしない。


◇◇◇


朝七時。


二人で朝食。


テレビでは別の情報番組が流れている。


俺はパンを食べながら言った。


「今日学校、絶対この話になる」


「番組?」


「うん」


「放送前なのに?」


「先週麗華来た時点でまだ騒いでる」


「そんなに?」


「本人には分からないんだよ」


「何が?」


「藤宮麗華が学校に来るって結構すごいから」


麗華は少し照れたように笑う。


「でも家だと普通だよ」


「だからその差が変なんだって」


「私も思う」


麗華がコーヒーを飲む。


「学校で見たあなたも変だった」


「普通に生徒だっただけ」


「制服着てた」


「学校だから」


「先生に当てられてた」


「授業だから」


「ちゃんと答えてた」


「それはたまたま」


麗華がニヤニヤする。


「何?」


「やっぱり保存したい」


「何を?」


「もし放送で映ってたら」


「録画?」


「もちろん」


「削除して」


「永久保存」


「麗華」


「家族にも送ろうかな」


俺は箸を止める。


「絶対やめろ」


「美和子さん喜びそう」


「母さんは絶対面白がる」


「美晴も」


「そっちもか」


「麗音ちゃんも俊介君も」


「弟妹まで巻き込むな」


麗華が笑う。


「じゃあ二人だけで見る」


「それならまだ」


「でも面白かったら家族にも」


「条件変わってる」


こんな調子で。


今夜が不安になってきた。


◇◇◇


午前八時十五分。


学校。


教室へ入る。


「今日だぞ!」


いきなり言われた。


「何が?」


知らないふりをする。


「藤宮麗華の学校取材!」


「今日放送なの?」


「七時!」


「録画する!」


「俺も!」


周囲の男子たちは完全に盛り上がっていた。


女子も同じ。


「私も見る!」


「うちの教室映るかな?」


「絶対映ってるって」


「誰が抜かれてた?」


「先生じゃない?」


俺は席へ座る。


友人が寄ってくる。


「お前も映ってる可能性あるぞ」


「俺?」


「先生に当てられたじゃん」


やっぱりそこ。


「使われないだろ」


「いや、あれ結構いい場面だったぞ」


「何がいいんだよ」


「芸能人が来て緊張してる高校生感」


「俺そんな緊張してた?」


「してなかった」


「じゃあ違うじゃん」


「逆に冷静すぎて面白い」


「最悪」


友人が笑う。


「今日一緒に見る?」


「家で見る」


「家族と?」


「まあ」


正確には。


彼女本人と。


でも言えない。


「藤宮麗華本人も見るかな」


友人が言う。


俺は心の中で。


――隣で見る予定。


と答える。


「見るんじゃない?」


「自分出てる番組って見るのかな」


「さあ」


「芸能人ってどうなんだろ」


俺は何も知らないふりをした。


でも実際は。


麗華はかなり楽しみにしていた。


◇◇◇


昼休み。


スマートフォンを見る。


麗華からメッセージ。


『今日仕事早く終われそう』


続いて。


『七時には絶対帰れる!』


さらに。


『一緒に見ようね』


俺は返信する。


『分かってる』


すぐに。


『録画もしてるから安心して』


『消して』


『嫌』


やっぱり。


そして。


『学校で今も話題?』


俺は周囲を見る。


友人たちはまだ放送の話をしている。


『めちゃくちゃ』


数秒。


『なんか恥ずかしい』


『今更?』


『あなたの学校だから余計』


俺は少し笑う。


『俺も恥ずかしい』


『じゃあ一緒』


『何が』


『二人で恥ずかしい』


意味が分からない。


でも麗華らしい。


◇◇◇


午後四時。


学校終了。


「じゃあな!」


「七時絶対見ろよ!」


「映ってたら連絡する!」


「しなくていい!」


友人たちと別れる。


帰りの電車でも、俺は少し落ち着かなかった。


もし顔が大きく映っていたら。


学校中で話題になる。


ただそれだけならいい。


問題は。


麗華と同じ画面に映ること。


もちろん世間から見れば何でもない。


でも俺自身は関係を知っている。


家族も知っている。


事務所も知っている。


その人たちが見たら。


絶対に面白がる。


「……嫌な予感しかしない」


俺は小さく呟いた。


◇◇◇


午後五時。


帰宅。


「ただいま」


麗華はまだ帰っていない。


制服から部屋着へ着替える。


宿題。


そして夕食準備。


番組開始まであと二時間。


午後六時過ぎ。


玄関が開く。


「ただいまー!」


声が弾んでいる。


「おかえり」


麗華が入ってくる。


「間に合った!」


「まだ一時間ある」


「でも余裕大事」


「そこだけ慎重」


「今日は絶対リアルタイムで見る」


麗華は帽子とマスクを外す。


そして俺を見る。


「学校どうだった?」


「ずっと放送の話」


「やっぱり?」


「うん」


「あなたが映ってるかもって?」


「そこまで言われた」


麗華の目が輝く。


「やっぱり映ってるかも」


「嬉しそうにするな」


「だって」


麗華が俺の隣に立つ。


「私とあなたが同じテレビに映るんだよ?」


「仕事と学校取材な」


「でも記念」


「秘密の記念な」


麗華が少し笑う。


「そうだね」


◇◇◇


午後六時半。


夕食。


二人ともいつもより少し早い。


「急いで食べなくていい」


俺が言う。


「分かってる」


麗華はそう言いながら、明らかに食べる速度が速い。


「麗華」


「何?」


「楽しみすぎ」


「だって気になる」


「自分の出演じゃなくて俺だろ」


「両方」


「麗華は普通に映る」


「でも学校のあなたは初めて」


「先週見たじゃん」


「テレビでは初めて」


「理屈が分からん」


麗華が笑う。


そして午後六時五十分。


二人でソファに座る。


テーブルには飲み物。


録画ランプも確認済み。


麗華は完全に準備万端だった。


「消す気ないだろ」


「ない」


「最初からそう言え」


「言ってる」


「そうだった」


◇◇◇


午後七時。


番組開始。


最初は別の企画。


俺たちは普通に見る。


十分。


十五分。


そして。


『続いては、人気グラビアアイドル・藤宮麗華さんが高校生活をリポート!』


画面に麗華。


「来た」


本人が言う。


「本人が反応するなよ」


「いいじゃん」


番組では校門前に立つ麗華。


『今日は、こちらの高校へお邪魔します!』


明るい声。


俺は隣を見る。


今の麗華は部屋着。


完全に別人みたいだ。


「何?」


麗華が気づく。


「いや」


「テレビと私見比べてる?」


「うん」


「どっちがいい?」


「家」


即答。


麗華が少し止まる。


「……それ反則」


「何が?」


「嬉しい」


俺はテレビへ視線を戻す。


番組は校内紹介。


部活動。


図書室。


食堂。


そして。


「次だ」


俺が言う。


教室の映像。


『続いては授業中の教室へ』


嫌な予感。


カメラが教室へ入る。


生徒たち。


先生。


麗華。


そして――。


「いた!」


麗華が俺を指差す。


「声大きい!」


画面の端。


俺が普通に座っている。


一瞬だけ。


でも分かる。


麗華が嬉しそうに笑う。


「映ってる!」


「小さいだろ」


「でもあなた」


「俺には俺って分かる」


「私にも」


当たり前。


そして。


先生が問題を出す場面。


「あ」


俺は嫌な予感がした。


テレビの中。


先生が俺を指名する。


『そこの窓側後ろから二番目』


俺が立つ。


麗華が隣で息を呑む。


「来た!」


「やめてくれ」


画面の俺。


『○○です』


先生。


『正解』


その瞬間。


教室後方の麗華が拍手している。


番組ではテロップ。


『突然の指名にも冷静!』


俺は両手で顔を覆った。


「最悪」


麗華が大笑いする。


「何これ!」


「笑うな!」


「テロップ!」


「いらない!」


「冷静!」


「編集した人誰だよ!」


麗華は涙が出そうなくらい笑っている。


「ごめん……でも……」


「笑いすぎ」


「だって本当に冷静だったから」


「内心めちゃくちゃ緊張してた」


「知ってる」


「何で?」


「顔で分かった」


「友達には分からなかったって言われた」


「私には分かる」


麗華が少し得意そうに言う。


「彼女だから」


俺は何も返せない。


テレビでは次の場面へ。


でも。


録画には永久保存された。


嫌な予感的中。


◇◇◇


さらに番組が進む。


麗華が生徒へ質問する場面。


女子。


男子。


俺には話しかけない。


完璧に他人。


番組だけ見れば。


俺と麗華の間には何の接点もない。


「すごいな」


俺が言う。


「何が?」


「本当に他人に見える」


麗華も少し静かになる。


「うん」


「当たり前だけど」


「ちょっと寂しい」


「今隣にいるだろ」


「そうだけど」


麗華が俺の肩へ少し寄りかかる。


「テレビの中では他人」


「現実では?」


俺が聞く。


麗華が笑う。


「彼氏と彼女」


「ならいい」


「うん」


二人でそのまま番組を見る。


◇◇◇


午後七時四十分。


番組終了。


麗華がすぐ録画一覧を開く。


「何してる?」


「確認」


「何を?」


「あなたの場面」


「やめろ」


早送り。


巻き戻し。


そして。


俺が先生に当てられる場面。


再生。


『○○です』


『正解』


テロップ。


『突然の指名にも冷静!』


麗華がまた笑う。


「もう一回」


「見るな!」


「面白い」


「削除」


「絶対嫌」


「これ一生残す気?」


「うん」


「本気?」


「記念だから」


俺はため息。


そのとき。


麗華のスマートフォンが震えた。


「誰?」


「……美晴」


「嫌な予感」


麗華がメッセージを見る。


そして笑う。


「何?」


「『今見てたけど、あの子映ってたわね』」


「やっぱり!」


次。


『先生に当てられてたところ、ちゃんと正解してて安心した』


「母親みたいな感想!」


麗華が笑う。


さらに。


「美和子さんからも来た」


「母さん!?」


麗華が読み上げる。


「『うちの息子、テレビでも普通だったわね』」


「何だよそれ」


「あと」


「まだある?」


「『録画保存した?』」


俺は頭を抱える。


「母さん……」


麗華が返信する。


『もちろんです』


「何で答える!」


「だって保存するもん」


「協力するな」


もう遅い。


家族に知られた。


◇◇◇


次は俺のスマートフォン。


俊介。


『兄ちゃん映ってたwww』


「笑うな!」


続いて。


『テロップついてた』


さらに。


『麗華さんも普通に後ろにいた』


俺は返信。


『見れば分かる』


すぐ。


『すごいな。彼女に見られながら授業受けてたんだ』


『黙れ』


『麗音も見てる』


そこまで?


数秒後。


麗音からも。


『見たよ』


『お姉ちゃんと同じ画面に映ってたね』


『学校では秘密なのに面白い』


俺はスマートフォンを伏せる。


「全員見てる」


麗華が笑う。


「家族だから」


「興毅さんも?」


麗華のスマートフォン。


タイミングよく通知。


「お父さん」


「やっぱり」


『放送見た。学校での対応も問題なかったね』


さすが父親。


まとも。


と思ったら。


続き。


『彼も映っていたね』


やっぱりそこは見ている。


麗華が笑う。


「全員気づくよね」


「関係知ってるからな」


そして最後。


マネージャーから。


『放送確認しました。問題ありません。お二人とも自然でした』


俺は笑う。


「事務所からも評価された」


「よかった」


「何か変な感じ」


麗華も頷く。


「社長も見てると思う」


「絶対」


◇◇◇


午後八時半。


学校の友人たちからもメッセージが大量に来た。


『お前映ってた!』


『正解してたな!』


『藤宮麗華の前で答えてたとか羨ましい』


『一生自慢できるぞ』


その文章を読みながら。


俺は妙な気持ちになる。


――藤宮麗華の前で答えた。


確かにそう。


でも。


その藤宮麗華は今。


俺の隣で俺のスマートフォンを覗こうとしている。


「友達何て?」


「見ないで」


「気になる」


「学校の友達とのメッセージ」


「私のこと?」


「ほぼ」


「見たい」


「ダメ」


麗華が少し口を尖らせる。


「ケチ」


「秘密守ってる意味なくなる」


「名前出さないから」


「ダメ」


「じゃあ内容教えて」


俺は一つだけ読み上げた。


「『藤宮麗華の前で答えてたとか羨ましい』」


麗華が一瞬止まり。


笑う。


「確かに」


「何が?」


「友達から見たらそうだよね」


「そう」


「実際は朝一緒にいたのに」


「そこ言うな」


「ふふっ」


「学校のやつらが知ったらどうなるんだろ」


麗華も少し考える。


「……大変そう」


「だから今は秘密」


「うん」


二人とも。


改めて同じ結論だった。


◇◇◇


午後九時半。


ソファ。


番組をもう一度少しだけ見返す。


今度は笑うためではなく。


普通に。


麗華が学校を歩いている。


俺の普段いる場所。


廊下。


教室。


階段。


「変な感じ」


麗華が言う。


「まだ言う?」


「だって」


「俺も分かる」


「あなたの世界に、仕事の私が入ってる」


「うん」


「でも今は私の世界にあなたがいる」


「家だから?」


「うん」


麗華が俺を見る。


「家ってどっちの世界なんだろうね」


少し不思議な質問。


「俺たちの世界?」


俺は何となく答えた。


麗華が一瞬止まる。


「……それいい」


「適当に言っただけ」


「でも好き」


麗華は嬉しそうに笑った。


「学校はあなたの場所」


「うん」


「事務所は私の場所」


「うん」


「この家は二人の場所」


「そうだな」


簡単なこと。


でも。


今の俺たちには。


その分け方がすごくしっくり来た。


◇◇◇


午後十時。


麗華が急に言う。


「ねえ」


「何?」


「記念写真撮らない?」


「今日?」


「テレビの前で」


「何の記念?」


「一緒にテレビに映った記念」


「意味分からない」


「いいじゃん」


麗華はすでにスマートフォンを用意している。


テレビ画面を一時停止。


そこには。


教室後ろの麗華。


そして少し前に座る俺。


「これ背景にするの?」


「うん」


「絶対外に出すなよ」


「家族だけ」


「家族にも出すの?」


「……二人だけ」


「なら」


ソファに並ぶ。


麗華がスマートフォンを構える。


カシャ。


写真を見る。


画面の中。


テレビの中では他人。


ソファでは隣同士。


「これ面白い」


麗華が言う。


「確かに」


「保存」


「俺にも送って」


麗華がニヤッとする。


「気に入ってるじゃん」


「記念だから」


「さっき私が言った」


「いいだろ」


写真が送られてくる。


俺も保存する。


当然。


誰にも見せない。


少なくとも今は。


◇◇◇


夜十一時。


寝室。


麗華はまだスマートフォンで今日の写真を見ていた。


「まだ見てるの?」


「うん」


「番組より写真好きだな」


「思い出だから」


「学校に来ただけだぞ」


「彼氏の学校に仕事で行った」


「同じ」


「全然違う」


麗華が俺のほうを向く。


「今日、学校の友達からいっぱい連絡来たんでしょ?」


「うん」


「私のこと?」


「ほとんど」


「何て?」


「可愛かったとか」


「それだけ?」


「近くで見られて羨ましいとか」


麗華が少し笑う。


「本当は毎日近くで見てるのにね」


「そういうこと」


「なんか秘密って面白いときもある」


「今日だけはな」


「普段は?」


「大変」


「私も」


麗華が少し静かになる。


「でも」


「ん?」


「今日みたいなことがあると、ちょっとだけ嬉しい」


「何が?」


「誰も知らないけど」


麗華が俺の手を握る。


「私たちだけは本当の意味を知ってるから」


俺はテレビの場面を思い出す。


教室。


他人として映っている二人。


視聴者は知らない。


学校の友人も知らない。


でも。


俺たちは知っている。


そして家族と、社長とマネージャーだけは知っている。


「そうだな」


俺も手を握り返す。


「秘密の映像」


「うん」


「保存する?」


「永久保存」


「やっぱり?」


「絶対」


俺は諦めた。


◇◇◇


麗華が少し近づく。


「ねえ」


「何?」


「今日は放送記念」


「また新しい制度?」


「うん」


「何するの?」


聞くまでもない。


麗華が笑う。


俺も少し笑って。


顔を近づける。


唇が重なる。


一度。


そしてもう一度。


三度。


何度目か分からなくなる。


テレビの中では。


ただの人気グラビアアイドルと高校生。


でも。


今ここでは。


何度もキスを交わす恋人同士。


麗華が唇を離して小さく笑う。


「やっぱりこっちのほうが本当」


「テレビが嘘みたいに言うな」


「仕事も本当」


「じゃあ?」


「両方本当」


麗華は続ける。


「でも一番好きなのは、こっち」


「家?」


「うん」


「俺も」


「本当に?」


「本当」


麗華が嬉しそうに笑う。


「じゃあおやすみ」


「おやすみ」


最後にもう一度だけ。


静かにキスをする。


明かりを消す。


今日。


俺と麗華はテレビに一緒に映った。


確かに。


同じ画面。


同じ教室。


同じ時間。


それなのに。


誰も知らない。


その二人が。


同じ家へ帰り。


同じソファで放送を見て。


同じ寝室で眠る恋人同士だということを。


学校の友人たちは。


「藤宮麗華の前で答えて羨ましい」


と言った。


でも。


俺にとって一番嬉しかったのは。


テレビに映ったことでも。


麗華に見られながら正解したことでもない。


番組が終わったあと。


隣にいる麗華と。


「面白かったね」


と笑えたことだった。


テレビの中では他人。


でも。


画面を消せば。


俺たちはいつもの二人に戻る。


それが今の俺たちにとって。


一番自然で。


一番大切な日常だった。



第8話「放送された学校訪問――テレビの中の麗華と、教室に映った俺」を最後までお読みいただき、ありがとうございました。


今回は前回撮影された学校訪問の映像が、ついにテレビで放送されました。


放送前から主人公の学校では、


「今日放送だぞ!」


「教室映るかな?」


「藤宮麗華をもう一回見られる!」


と大盛り上がり。


しかし、その中で主人公だけは少し違う緊張を抱えていました。


なぜなら、その藤宮麗華本人と一緒に放送を見る予定だからです。


学校では誰も知らない。


けれど放課後に家へ帰れば、麗華も同じ家へ帰ってくる。


そして午後七時。


二人は同じソファに並び、自分たちが映っている番組を見ることになりました。


今回、やはり一番印象的だったのは教室での場面です。


主人公が画面の端に映っただけで、


「いた!」


と喜ぶ麗華。


そして先生から突然指名された場面まで、しっかり放送されてしまいました。


しかも、


「突然の指名にも冷静!」


というテロップ付き。


主人公にとっては恥ずかしい映像でも、麗華にとっては大切な記念映像。


何度も巻き戻して笑い、最後には永久保存を宣言してしまいます。


そして興味深いのは、同じ映像でも見る人によって意味がまったく違うことです。


学校の友人から見れば、


「藤宮麗華の前で問題に答えた男子生徒」。


一般の視聴者から見ても、それ以上の意味はありません。


しかし二人の家族から見れば違います。


「あの二人、本当は恋人同士なのに」


という事実を知ったうえで見る映像になります。


俊介や麗音からも連絡が入り、美晴や美和子も主人公が映ったことにすぐ気づく。


さらに事務所のマネージャーからも、


「お二人とも自然でした」


と連絡が届きました。


家族と事務所だけが知っている秘密。


その秘密があるからこそ、今回のテレビ映像は二重の意味を持つことになりました。


そして二人が改めて感じたのが、それぞれに違う“場所”があるということです。


学校は主人公の場所。


事務所や撮影現場は麗華の場所。


そして二人が一緒に暮らしている家は――二人の場所。


学校では普通の高校生として過ごす主人公。


仕事では人気グラビアアイドルとしてカメラの前に立つ麗華。


それぞれ別の世界を持ちながら、最後には同じ家へ帰ってくる。


だから主人公が何気なく口にした、


「俺たちの世界?」


という言葉は、今の二人の関係をよく表していたのではないでしょうか。


また今回は、テレビ画面を背景に二人で記念写真も残しました。


テレビの中では他人。


テレビの前では恋人。


一枚の写真の中に、“表の二人”と“本当の二人”が同時に写っています。


当然、その写真を外へ公開することはできません。


学校の友人にも見せられない。


SNSにも載せられない。


だからこそ、二人だけが持っている特別な一枚になりました。


そして夜。


麗華が口にした、


「私たちだけは本当の意味を知ってるから」


という言葉。


誰にも知られていないことには、寂しさもあります。


けれど同時に、二人だけが知っている思い出が増えていく楽しさもあります。


学校でのすれ違い。


テレビでの“秘密の共演”。


そして放送後、同じ家で笑い合う二人。


最後にはいつものように何度もキスを交わし、テレビの中とはまったく違う、本当の恋人同士へ戻りました。


第8話で生まれたのは、二人にとって初めての“テレビの中に残った秘密の思い出”。


いつの日か二人の関係を隠す必要がなくなったとき。


この録画をもう一度一緒に見れば、


「あの頃は、同じ画面に映っているだけでも秘密だったね」


と笑える日が来るのかもしれません。


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