閑話 俊介と麗華――俊介が麗華の居る事務所へ遊びに行く❷
閑話「俊介と麗華――俊介が麗華の居る事務所へ遊びに行く❷」。
前回、初めて麗華の所属事務所を訪れた俊介。
受付や控室、宣材写真の撮影などを通して、普段家族の前で見せている姿とは違う、“仕事中の藤宮麗華”を間近で見ることになりました。
そして今回は、さらに一歩踏み込みます。
俊介が初めて正式に顔を合わせるのは、麗華の所属事務所の社長と担当マネージャー。
二人は以前から、主人公と麗華の秘密の交際や同棲だけでなく、双方の家族関係についても把握しています。
美和子と美晴が幼馴染で大親友であること。
慶介と興毅が仕事上のつながりを持っていること。
そして俊介と麗音が、中学一年生から三年間ずっと同じクラスであること。
しかし俊介自身は、社長とマネージャーの二人とゆっくり話したことがありません。
そんな中、麗華はグラビア撮影へ。
社長室に残されたのは、俊介、社長、マネージャーの三人。
麗華本人がいないからこそ話せること。
主人公と麗華の関係。
芸能人との交際によって家族にどんな影響が及ぶ可能性があるのか。
そして俊介自身が、兄の彼女である麗華をどう見ているのか。
少し緊張しながら始まった三人だけの会話は、思っていた以上に温かく、時には麗華本人には絶対聞かせられない話にまで広がっていきます。
俊介が初めて知る、“麗華を仕事の外側から守っている二人”。
今回は、芸能事務所の社長とマネージャーが、主人公と麗華、そしてその家族たちをどのように見守っているのかにも注目です。
土曜日、午前九時四十分。
俺――俊介は、前回と同じ芸能事務所のビルを見上げていた。
「……二回目なのに、まだ緊張するな」
前回。
俺は初めて、麗華さんが所属している芸能事務所へ遊びに来た。
受付。
控室。
会議室。
小さな宣材写真の撮影。
そして、普段とはまるで違う“仕事中の藤宮麗華”。
家族ぐるみで会っているときの麗華さんとも。
兄ちゃんと一緒にいるときの麗華さんとも。
サイン会でファンに向けて笑っていた麗華さんとも違う。
一人のプロのグラビアアイドルとして仕事をしている姿を、俺は初めて間近で見た。
そして今日は――。
前回より、もう少し特別だった。
麗華さんから事前に、
『今度来たとき、社長とマネージャーさんにもちゃんと紹介するね』
と言われていたからだ。
これまで俺は、二人が俺たち家族について把握していることは聞いていた。
兄ちゃんと麗華さんの交際。
二人が同棲していること。
俺たち両家の家族関係。
母さんの美和子と麗華さんのお母さん・美晴さんが、小学校から高校まで一緒だった幼馴染で大親友であること。
父さんの慶介と麗華さんのお父さん・興毅さんが、親会社と子会社を通した仕事仲間であること。
俺と麗華さんの妹・麗音が、中学一年生から三年生までずっと同じクラスであること。
そのすべてを。
事務所の社長と担当マネージャーはすでに知っている。
ただ。
俺自身が二人ときちんと座って話すのは、今日が初めてだった。
「……何話すんだろ」
芸能事務所の社長。
グラビアアイドルのマネージャー。
中学三年生の俺からすれば、普通ならまず接点のない人たちだ。
しかも向こうは。
俺の兄ちゃんが、所属タレントである麗華さんの彼氏だと知っている。
考えれば考えるほど変な状況だった。
スマートフォンを取り出す。
『着きました』
送信。
数秒。
既読。
『今行く!』
前回と同じだ。
そして一分もしないうちに。
入口から藤宮麗華本人が出てきた。
「俊介君!」
「こんにちは」
「こんにちは。今日も早いね」
「時間ちょうどです」
「五分前」
「普通でしょ」
「真面目」
「麗華さんが時間に適当なんじゃないですか?」
「ひどい!」
俺は笑う。
前回来たときより。
今日は少しだけ、この場所で麗華さんと話すことに慣れていた。
「今日は社長いるんですか?」
「いるよ」
「マネージャーさんも?」
「うん」
「……やっぱり緊張する」
麗華さんが笑う。
「大丈夫」
「何が?」
「二人とも俊介君のこと、かなり知ってるから」
「それが逆に怖いんですけど」
「ふふっ」
「俺、何も話してないのに」
「お兄さんと私の関係を事務所として認めるために、必要なことは確認してるからね」
「麗音と三年間同じクラスなのまで?」
「そこまで」
「やっぱり事務所すごい」
「今日は本人に聞いてみれば?」
「聞きます」
麗華さんが入口を開ける。
「じゃあ、二回目の事務所へようこそ」
「お邪魔します」
◇◇◇
受付で来客証を受け取る。
前回と同じ受付の女性が俺を覚えていた。
「あ、俊介君ですね」
「こんにちは」
「今日は社長とのご挨拶だそうですね」
「はい」
俺が少し緊張しながら答えると。
受付の女性が笑った。
「そんなに固くならなくても大丈夫ですよ」
「社長って聞くだけで緊張します」
「分かります」
麗華さんが横から言う。
「社長優しいよ」
「麗華さんにはでしょ?」
「俊介君にも優しいと思う」
「思うって」
「たぶん」
「急に不安になってきた」
三人で笑う。
受付を通過して廊下を歩く。
麗華さんが時計を見る。
「社長との挨拶は十時から」
「予定組まれてるんですね」
「もちろん」
「社長って忙しいんじゃ?」
「忙しいよ」
「なのに中学生の俺に時間取るんですか?」
麗華さんは少しだけ表情を変えた。
「俊介君だからだよ」
「俺だから?」
「うん」
「麗華さんの彼氏の弟だから?」
「それもある」
麗華さんは前を向きながら続ける。
「お兄さんとの関係を守るってことは、お兄さん本人だけじゃなくて、ご家族のこともある程度守るってことだから」
俺は黙った。
「俊介君も麗音も学校生活があるでしょ?」
「はい」
「もし私たちの交際がどこかから漏れたら、二人にも取材とか変な噂とかが行く可能性がある」
「……そうですね」
「だから社長もマネージャーさんも、家族のことまでちゃんと考えてくれてる」
「そこまでしてくれてるんですね」
「うん」
麗華さんは少し笑った。
「だから今日、俊介君とも一度直接話しておきたいって」
なるほど。
単なる挨拶ではなさそうだった。
俺は少し背筋を伸ばした。
◇◇◇
午前十時。
社長室の前。
前回来たときは、ここまで来なかった。
扉には小さく『社長室』。
俺は無意識に唾を飲み込んだ。
麗華さんがこちらを見る。
「緊張してる?」
「してます」
「顔に出てる」
「だって社長室ですよ」
「入れば普通だから」
「それ麗華さんの感覚でしょ」
「まあね」
コンコン。
麗華さんがノックする。
「失礼します。藤宮です」
中から声。
「どうぞ」
扉を開ける。
「失礼します」
俺も続く。
部屋の奥。
大きな机。
応接用のソファ。
書棚。
そして。
一人の男性が立ち上がった。
麗華さんの所属事務所の社長。
初めて直接会う。
「君が俊介君だね」
「はい。初めまして」
俺は深く頭を下げる。
「俊介です。本日はありがとうございます」
「こちらこそ、来てくれてありがとう」
社長は穏やかに笑った。
「そんなに緊張しなくていいよ」
「すみません」
「謝ることじゃない」
麗華さんが横から笑う。
「ほら、優しいでしょ?」
「藤宮さん」
「はい?」
「君は少し静かに」
「えっ」
俺は思わず笑いそうになった。
麗華さんが社長に普通に注意されている。
社長も笑った。
「冗談だよ」
「もう、社長」
「今日は俊介君が主役だからね」
俺がさらに困る。
「俺、主役なんですか?」
「今日この部屋ではね」
社長がソファを示す。
「どうぞ」
「失礼します」
俺と麗華さんが座る。
すると。
再び扉がノックされた。
「失礼します」
入ってきたのは担当マネージャー。
俺は顔を上げた。
これまで話に何度も登場し、麗華さんからもよく名前を聞いていた人物。
そして俺たち家族の事情を社長とともに把握している人。
きちんと向かい合って挨拶するのは、今日が初めてだ。
「こんにちは、俊介君」
「こんにちは。初めまして」
俺は立ち上がる。
「いつも麗華さんがお世話になってます」
言った直後。
「あれ?」
自分で変なことを言った気がする。
社長が笑う。
麗華さんも吹き出した。
マネージャーも笑う。
「逆じゃないかな?」
麗華さんが言う。
「麗華さんがお世話になってますって、俺が言うのおかしくない?」
「かなり家族側になってる」
「……恥ずかしい」
マネージャーが笑いながら答える。
「でもありがとうございます」
「すみません」
「気持ちは伝わりました」
社長まで、
「もう完全に親族の挨拶だね」
と言う。
「やめてください」
「美和子さんが聞いたら喜びそう」
麗華さんが言う。
「母さんには絶対言わないでください」
部屋の空気が一気に柔らかくなった。
緊張していたのが少し馬鹿らしくなる。
◇◇◇
社長とマネージャー。
麗華さん。
そして俺。
四人で少し話をする。
社長が最初に口を開いた。
「改めて、今日は来てくれてありがとう」
「いえ」
「まず俊介君に一度直接伝えておきたかったことがある」
俺は表情を引き締めた。
「はい」
「お兄さんと麗華さんの交際について」
麗華さんも真剣になる。
「事務所としては認めています」
「はい」
「同棲についても同じです」
俺は頷く。
「ただし現時点で、公表する予定はありません」
「分かっています」
「俊介君の学校でも?」
「誰にも言ってません」
「麗音さんとは?」
「麗音とは話します。でも、二人で学校では絶対言わないって約束しています」
社長とマネージャーが目を合わせる。
「それは助かります」
マネージャーが言った。
「噂というのは、本当に小さなところから広がるので」
「はい」
社長が続ける。
「別に君たち中学生を疑っているわけじゃない」
「分かってます」
「むしろ、今まで秘密を守ってくれていることに感謝している」
そう言われると。
少し不思議だった。
俺はただ兄ちゃんの秘密を言わないようにしていただけ。
それが事務所にとっても大切なことらしい。
「ありがとうございます」
俺は自然と頭を下げた。
社長は少し笑う。
「だから今日は、難しい話をするために呼んだわけじゃないよ」
「そうなんですか?」
「うん」
「じゃあ何を?」
「君自身がどう思っているのか、一度聞いてみたかった」
「俺が?」
社長が頷く。
「兄の交際相手が芸能人という状況について」
いきなり難しい質問だった。
俺は少し考える。
麗華さんは黙って俺を見ている。
マネージャーも待っている。
「最初は……」
俺はゆっくり話し始めた。
「信じられませんでした」
麗華さんが小さく笑う。
「だよね」
「兄ちゃんに彼女がいるって聞いて、その人が藤宮麗華だって分かったとき」
社長も少し笑う。
「普通は驚くね」
「テレビとか雑誌で見る人だったから」
「今は?」
マネージャーが聞く。
俺は麗華さんを見る。
「今は……麗華さんって感じです」
「どういうこと?」
麗華さん本人が聞く。
「前は芸能人」
「うん」
「今は兄ちゃんの彼女」
麗華さんが少し照れた。
「あと麗音のお姉ちゃん」
「そこも」
「母さんの親友の娘」
「急に親戚みたいになるね」
「父さんの仕事仲間の娘」
「全部つながってる」
「だからもう、有名人だからどうこうって感覚が薄いです」
社長が少し興味深そうに聞く。
「サイン会にも来たんだよね?」
「はい」
「一般のファンとして」
「一度仕事してる麗華さんを見てみたくて」
「どうだった?」
「すごかったです」
「事務所にも来て、撮影も見たね」
「はい」
「それで今は?」
俺は少し考える。
「兄ちゃん、すごい人と付き合ってるなとは思います」
麗華さんが恥ずかしそうに笑う。
「でも」
俺は続けた。
「兄ちゃんは、多分そういうの関係ないんだと思います」
社長が目を細める。
「どうしてそう思う?」
「前に俺が『すごい人と付き合ってるな』って兄ちゃんに言ったら」
少し思い出す。
「『俺にとっては普通の彼女だよ』って言ってたから」
麗華さんの表情が止まった。
数秒。
「……そんなこと言ってたの?」
「本人から聞いてない?」
「聞いてない」
「何回も似たようなこと言ってますよ」
麗華さんは少し俯いた。
耳が赤い。
社長が楽しそうに笑う。
「いい彼氏じゃない」
「社長……」
マネージャーも微笑んでいる。
「麗華さん、今かなり嬉しそうですよ」
「言わないでください!」
俺は少し笑った。
◇◇◇
午前十時半。
スタッフが社長室へ来た。
「藤宮さん、そろそろ撮影準備をお願いします」
「あ」
麗華さんが時計を見る。
「もう?」
「十一時からグラビア撮影です」
「分かりました」
麗華さんが俺を見る。
「俊介君」
「はい」
「私、これから撮影行ってくる」
「はい」
「今日ちょっと長いから」
「どのくらい?」
「一時間半くらいかな」
「じゃあ俺は?」
麗華さんが社長を見る。
社長が笑う。
「よければ、ここで話していけばいい」
「え?」
麗華さんも少し驚いた。
「社長室で?」
「マネージャーも残る予定だから」
マネージャーが頷く。
「撮影は別のスタッフも同行しますので」
麗華さんが俺を見る。
「大丈夫?」
「俺は大丈夫ですけど」
社長とマネージャーを見る。
「邪魔じゃないですか?」
「全然」
社長が答える。
「むしろちょうどいい」
「何が?」
「麗華さんがいないところで話してみたいこともあるから」
麗華さんが目を細める。
「社長?」
「心配しなくていい」
「何話すんですか?」
「内緒」
社長が言う。
マネージャーも、
「内緒ですね」
と続ける。
麗華さんが俺を見る。
「俊介君」
「はい」
「変なこと言わないでね」
「俺より社長たちに言ったほうがいいんじゃ?」
「それもそう」
「藤宮さん、早く準備」
マネージャーに言われる。
「はい……」
麗華さんは少し不満そうに立ち上がった。
そして社長室を出る直前。
「俊介君」
「何?」
「私の昔の失敗とか聞かないでね」
「急に興味出ました」
「ちょっと!」
社長が笑う。
「行ってらっしゃい」
「社長!」
麗華さんは結局、少し心配そうな顔のまま撮影へ向かった。
扉が閉じる。
部屋に残ったのは。
俺。
社長。
マネージャー。
三人。
急に静かになった。
俺は思わず言った。
「……本当に三人になりましたね」
社長が笑う。
「そうだね」
マネージャーも席へ座る。
「では、麗華さんには聞かせにくい話でもしましょうか」
「怖い言い方やめてください」
二人が笑った。
◇◇◇
俺の前に飲み物が用意された。
社長室。
芸能事務所の社長。
人気グラビアアイドルのマネージャー。
中学三年生の俺。
どう考えても変な三人だった。
社長が聞く。
「学校は楽しい?」
いきなり普通の質問。
「はい」
「中学三年生だよね」
「はい」
「受験?」
「そうです」
「志望校は?」
「いくつか考えてます」
「勉強は?」
「……やってます」
マネージャーが笑う。
「間がありましたね」
「最近みんなそこ突っ込むんですよ」
「麗音さんにも?」
「一番言われます」
社長が笑う。
「三年間ずっと同じクラスなんだよね」
「はい」
「一年、二年、三年」
「ずっとです」
マネージャーが言う。
「私たちがその情報を確認したときも驚きました」
「やっぱり?」
「三年連続は珍しいですから」
「俺も毎年クラス発表で『また麗音いる』って思ってました」
「麗音さんも同じだそうですよ」
「そこまで知ってるんですか?」
「美晴さんから聞きました」
「事務所、本当に何でも知ってる……」
社長が笑う。
「何でもではないよ」
「かなり知ってます」
「仕事上必要な範囲」
「母さんと美晴さんが幼馴染なのも必要なんですか?」
「必要だったね」
社長が答える。
「どうして?」
「もし二人の交際がどこかから知られた場合、家族関係まで掘られる可能性がある」
「……あ」
「例えば、美晴さんと美和子さんが昔から大親友だと分かれば」
マネージャーが続ける。
「『昔から家族ぐるみの付き合いがあって、そこから二人が出会ったのでは?』という推測が出る可能性があります」
「実際は違うけど」
「そうです」
「父さんたちも?」
「同じです」
社長が言う。
「親会社と子会社で仕事上の接点がある」
「そこまでつながったら、確かに色々言われそう」
「だから先に把握しておく」
俺は妙に納得した。
芸能人の恋愛。
ただ『付き合っています』で終わる話ではないらしい。
周囲の人間関係まで関係してくる。
「大変ですね」
俺が言う。
社長は少し笑った。
「そうだね」
「麗華さんも?」
「もちろん」
マネージャーが答える。
「でも麗華さんは、自分でこの仕事を選んでいます」
「はい」
「だからこそ私たちは、できるだけ仕事以外の部分で守れるところは守りたい」
「兄ちゃんも?」
俺が聞く。
二人は同時に頷いた。
「もちろん」
社長が答える。
「兄ちゃん、一般人なのに?」
「だからこそ」
俺は社長を見る。
「どういう意味ですか?」
「麗華さんは芸能人として注目されることをある程度受け入れて仕事をしている」
「はい」
「でもお兄さんは違う」
「普通の高校生です」
「そう」
社長はゆっくり続ける。
「もし写真を撮られて名前が特定されれば、学校生活まで変わる可能性がある」
「友達にも?」
「そう」
「俺たち家族にも?」
「可能性はある」
その言葉は少し重かった。
今まで頭では分かっていた。
でも。
社長から直接聞くと、現実味が違う。
「だから」
マネージャーが言う。
「俊介君にも秘密を守ってもらっていることは、本当に助かっています」
「俺は別に何もしてないです」
「何も言わないことが大事なんです」
「……そういうものですか」
「そういうものです」
俺は少し考えた。
学校では。
友達が麗華さんの話をする。
「可愛い」
「彼氏いるかな」
「サイン会行きたい」
そんな会話。
俺は答えを知っている。
でも言わない。
麗音も知っている。
でも言わない。
それだけでも。
兄ちゃんと麗華さんを守ることにつながっているらしい。
「じゃあこれからも言いません」
俺ははっきり答えた。
社長が笑う。
「ありがとう」
◇◇◇
しばらくして。
社長が少し表情を柔らかくした。
「ところで」
「はい」
「君から見て、麗華さんってどんな人?」
俺は一瞬困った。
「どんな人……」
「芸能人としてではなく」
マネージャーも聞く。
「兄の彼女としては?」
それはさらに難しい。
「えっと……」
俺は考える。
「普通?」
社長が笑う。
「お兄さんと同じ答えだ」
「本当ですか?」
「君たち兄弟は似てるのかな」
「どうだろ」
「もう少し詳しく」
俺は仕方なく考える。
「優しいです」
「うん」
「あと結構話します」
マネージャーが笑う。
「それは分かります」
「ゲーム負けると本気で悔しがるらしいです」
「知ってるの?」
「兄ちゃんから聞きました」
「なるほど」
「あと俺のサイン会のとき、勉強頑張れって書かれました」
社長が吹き出す。
「サインに?」
「はい」
「麗華さんらしい」
「家族みたいですね」
マネージャーが言う。
俺は少し考えて。
「最近は、ちょっとお姉ちゃんみたいです」
そう答えた。
二人が少し意外そうに俺を見る。
「お姉ちゃん?」
「はい」
「麗音さんのお姉さんだから?」
「それもあるけど」
俺は続ける。
「会ったら学校どうって聞くし、受験勉強どうって聞くし」
「確かにお姉さんだね」
「兄ちゃんと付き合ってるから、余計そう感じるのかも」
「嫌じゃない?」
「全然」
俺はすぐ答えた。
「むしろ」
少し言葉を探す。
「兄ちゃんの彼女が麗華さんで良かったと思います」
言ったあと。
少し恥ずかしくなった。
社長とマネージャーが顔を見合わせる。
「本人に言った?」
社長が聞く。
「絶対言いません」
「どうして?」
「恥ずかしい」
マネージャーが笑う。
「麗華さんが聞いたら喜びますよ」
「だから言わないでください」
「どうしましょう、社長」
「報告したいね」
「やめてください!」
「冗談」
二人が笑う。
なんだ。
この人たち。
思っていたより普通に話しやすい。
◇◇◇
社長が今度は少し意地悪そうに聞いた。
「お兄さんと麗華さん、家では仲いい?」
「それ俺に聞くんですか?」
「知ってる範囲で」
「社長なのにそこ気になるんですか?」
「人間だからね」
マネージャーが苦笑する。
「社長、あまり中学生を困らせないでください」
「ごめんごめん」
俺は少し考える。
「仲いいですよ」
「そう」
「俺も何回か二人の家行ってますけど」
「うん」
「普通に二人で生活してる」
「喧嘩とか?」
「知らないです」
「麗華さんは何か言ってる?」
マネージャーが聞く。
「麗華さん?」
「お兄さんのこと」
「俺にはあんまり」
少し考える。
「あ」
「何かある?」
「兄ちゃんの話するとき、嬉しそうです」
二人が同時に笑った。
「やっぱり?」
マネージャーが言う。
「事務所でもそうなんですよ」
「そうなんですか?」
「本人は隠してるつもりですけど」
社長も頷く。
「お兄さんからメッセージ来たあと、機嫌が分かりやすい」
「マジですか」
「俊介君」
マネージャーが言う。
「これ本人には言わないでくださいね」
「分かりました」
「特に『事務所でバレバレ』とは」
「絶対怒りますね」
「怒るというより恥ずかしがる」
三人で笑う。
麗華さんがいないと。
こんな話まで出るんだ。
◇◇◇
午前十一時半。
麗華さんはまだグラビア撮影中。
社長室の壁掛け時計を見る。
俺は少し気になっていたことを聞いた。
「グラビア撮影って、今日みたいに一時間半とか普通なんですか?」
マネージャーが答える。
「内容によりますね」
「長いと?」
「半日、場合によっては一日」
「そんなに?」
「衣装を何パターンも変えたり、場所を移動したりしますから」
「大変」
社長が頷く。
「見た目以上に体力仕事だよ」
「サイン会も大変そうだったけど」
「イベントはイベントで違う大変さがある」
「テレビも?」
「全部違う」
俺は少し驚いた。
外から見れば。
写真に写る。
テレビに出る。
サインを書く。
それだけに見える。
でも。
それぞれに準備がある。
練習がある。
スタッフがいる。
何時間もかかる。
「麗華さん、弱音吐かないんですか?」
マネージャーが少し考える。
「疲れたとは言います」
「普通ですね」
「でも仕事を嫌だと言うことは、ほとんどない」
「へえ」
「それだけ仕事が好きなんでしょうね」
社長が言う。
「本人にも聞いたんじゃない?」
「前回聞きました」
「何て?」
「好きだって」
社長が頷く。
「だから私たちも応援したい」
「兄ちゃんも多分そうです」
「どうして?」
「仕事邪魔したくないって言ってるから」
社長の表情が少し変わった。
「本人が?」
「はい」
「それは初めて聞いた」
「兄ちゃん、そういう話、麗華さんにはあんまりしないんだと思います」
「なるほど」
マネージャーが静かに言う。
「だから二人、うまくいってるのかもしれませんね」
「どういうこと?」
俺が聞く。
「麗華さんが芸能人であることを、お兄さんが必要以上に特別扱いしていない」
「ああ」
「でも仕事そのものは尊重している」
俺は頷く。
「確かに」
俺も何度か見てきた。
麗華さんの仕事が朝早いとき。
兄ちゃんは普通に送り出す。
帰りが遅ければ待っている。
仕事が増えれば、
『頑張ればいい』
と言う。
だから。
家では普通の彼女としていられるのかもしれない。
◇◇◇
正午前。
社長がふと俺を見る。
「俊介君」
「はい」
「一つ聞いていい?」
「何ですか?」
「もし将来、お兄さんと麗華さんが結婚したら」
「社長までその話するんですか?」
二人が笑う。
「ご家族みんな似たような話をしているらしいね」
「母さんと美晴さん、特にうるさいです」
「父親同士も?」
「父さんと興毅さんはそこまで言わないけど、たぶん話してます」
「俊介君はどう?」
俺は少し考える。
「別にいいんじゃないですか?」
「軽いね」
「だって俺が決めることじゃないし」
「確かに」
「でも」
俺は続ける。
「もし本当にそうなったら」
「うん」
「麗華さん、本当に姉ちゃんになるんですよね」
言ってから。
妙に現実味が出た。
社長が笑う。
「そうなるね」
「変な感じ」
「嫌?」
「全然」
「じゃあ楽しみ?」
「まだ早いです」
「ごもっとも」
マネージャーが言う。
「お兄さんもまだ高校三年生ですから」
「そうですよ」
俺は少し笑う。
「でも、麗華さんならいいです」
言った瞬間。
「あ」
また口が滑った。
社長の目が光る。
「本人に伝えておこう」
「やめて!」
マネージャーまで笑う。
「今日、俊介君から嬉しい発言がたくさん出ますね」
「もう何も言いません」
「遅い」
「社長!」
三人で大笑いした。
◇◇◇
午後零時二十分。
社長室の扉がノックされた。
「失礼します」
ドアが開く。
「終わりましたー……」
麗華さん。
少し疲れている。
撮影用の髪型とメイクのまま。
「お疲れ」
社長が言う。
「お疲れさまです」
そしてすぐ俺を見る。
「俊介君、どうだった?」
「何が?」
「二人と話して」
「普通でした」
「普通?」
「思ってたより」
社長が笑う。
「失礼だな」
「社長ってもっと怖いと思ってました」
「よく言われる」
マネージャーも。
「私も?」
「マネージャーさんは、もっと仕事の話しかしない人だと思ってました」
「そんなことありません」
麗華さんが俺の向かいへ座る。
「何話したの?」
俺と社長とマネージャー。
三人で顔を見合わせる。
「秘密」
社長。
「秘密ですね」
マネージャー。
俺も。
「秘密です」
麗華さんの目が細くなる。
「絶対何か言ったでしょ」
「何も」
「俊介君、顔に出てる」
「出てないです」
「社長?」
「本人たちとの約束だから」
「マネージャーさん?」
「私も言えません」
「何なの!」
麗華さんが不満そうになる。
俺は少し笑った。
たぶん。
本人が聞いたら一番恥ずかしい話をしていた。
『兄ちゃんの彼女が麗華さんで良かった』
『もし姉ちゃんになるなら麗華さんでいい』
そんなこと。
絶対に本人には言いたくない。
少なくとも今は。
◇◇◇
麗華さんが飲み物を一口飲む。
「撮影疲れた」
俺が聞く。
「大丈夫?」
「大丈夫」
「一時間半ずっと?」
「途中で衣装替えとか休憩あるよ」
「今日は何パターン?」
「三つ」
「結構多い」
「今日はまだ少ないほう」
俺は社長たちから聞いた話を思い出す。
「半日とか一日撮影もあるんでしょ」
麗華さんが俺を見る。
「聞いたの?」
「うん」
「何か今日、私の仕事のことすごく詳しくなってない?」
「社長とマネージャーさんに色々教えてもらったから」
麗華さんが二人を見る。
「変なこと教えてませんよね?」
社長が笑う。
「君が仕事を好きだって話くらい」
「それなら」
マネージャーが付け足す。
「あと、お兄さんから連絡が来たあとは機嫌が分かりやすいとか」
「ちょっと!」
俺は吹き出す。
「言った!」
「マネージャーさん!」
「すみません」
「俊介君忘れて!」
「無理です」
「お願い!」
「兄ちゃんに言おうかな」
「絶対やめて!」
麗華さんの顔が真っ赤になる。
社長は完全に楽しんでいる。
「いいじゃない。仲がいい証拠」
「社長まで!」
俺は笑いながら思った。
仕事中は。
本当に格好いい。
でも撮影が終わって戻ってくると。
やっぱり、いつもの麗華さんだった。
◇◇◇
午後一時。
四人で簡単な昼食を取ることになった。
社長室の応接スペース。
俺には少し場違いな昼食だった。
「まさか社長室で昼飯食べるとは」
俺が言う。
社長が笑う。
「学校で自慢できないね」
「絶対言えません」
「『土曜日何してた?』って聞かれたら?」
麗華さんが聞く。
「家族の知り合いのところ」
「便利」
「嘘じゃない」
「そうだね」
マネージャーが言う。
「それくらいの説明で十分です」
「麗音には話していい?」
俺が聞く。
「麗音さんなら大丈夫です」
「じゃあ月曜話します」
麗華さんが少し笑う。
「麗音絶対『私も行きたい』って言う」
「ありそう」
「今度二人で来る?」
「いいんですか?」
社長が答える。
「事前に相談してくれれば」
「麗音、喜びそう」
「でもあの子、私の事務所来ても普通そう」
麗華さんが言う。
「家族だから?」
「うん。昔何度か来たことあるし」
「あ、初めてじゃないんだ」
「妹だからね」
「じゃあ俺だけ特別に緊張してる」
社長が笑う。
「普通はそうだよ」
◇◇◇
昼食後。
俺は今日の記念に。
社長とマネージャーとも一枚ずつ写真を撮らせてもらった。
もちろん。
外には出さない。
学校にも見せない。
家族だけ。
最後は四人で一枚。
麗華さん。
社長。
マネージャー。
俺。
スマートフォンの画面を見る。
「すごい写真」
俺が言う。
「何が?」
麗華さんが聞く。
「俺だけ一般人」
社長が笑う。
「それどころか中学生」
「確かに」
「絶対学校の友達には見せられない」
「何でここにいるのってなるもんね」
「麗華さんとの関係説明できないから」
俺が小声で言う。
麗華さんも小さく頷く。
「家族だけの写真にしよう」
「うん」
その一言。
家族だけ。
今のところ麗華さんは。
まだ本当の家族ではない。
でも。
なぜかその言葉が自然に聞こえた。
◇◇◇
午後二時。
帰る時間。
受付へ来客証を返す。
麗華さん。
社長。
マネージャー。
三人がわざわざ入口近くまで来てくれた。
「今日はありがとうございました」
俺は社長へ頭を下げる。
「こちらこそ」
マネージャーにも。
「色々ありがとうございました」
「受験勉強も頑張ってくださいね」
「そこまで知られてる」
「麗華さんから聞いています」
麗華さんが笑う。
「みんな俊介君の受験応援してる」
「プレッシャー」
「頑張って」
「はい」
社長が俺を見る。
「俊介君」
「はい」
「これからも、麗華さんとお兄さんのことをよろしく」
俺は少し驚いた。
事務所の社長から。
そんな言葉を言われるとは思わなかった。
「俺が?」
「弟として」
俺は兄ちゃんを思い浮かべる。
そして麗華さんを見る。
「……はい」
小さく笑った。
「できる範囲で」
「それで十分」
マネージャーも。
「何か困ったことがあれば、ご家族を通してでも構わないので相談してください」
「俺が?」
「学校で噂が出た、とか」
「ああ」
「麗華さんに関係することなら、こちらでも対応を考えます」
「分かりました」
俺はしっかり頷いた。
これは。
俺自身も少しだけ、この秘密を守る側の一員だということなのかもしれない。
◇◇◇
事務所を出る。
麗華さんだけが少し外まで見送りに来た。
「今日どうだった?」
「楽しかったです」
「社長怖くなかった?」
「全然」
「マネージャーさんは?」
「普通に優しかった」
「でしょ?」
「でも」
「何?」
「二人とも麗華さんのことよく見てますね」
麗華さんが少し驚く。
「そう?」
「仕事のことも」
「うん」
「兄ちゃんとのことも」
「……何聞いたの?」
また警戒する。
「内緒」
「俊介君!」
「言えません」
「絶対私が恥ずかしい話でしょ」
「まあ」
「やっぱり!」
俺は笑う。
「でも」
少しだけ真面目に言った。
「いい人たちですね」
麗華さんの表情が柔らかくなる。
「うん」
「麗華さん、大事にされてるんだなって思った」
数秒。
麗華さんは少しだけ驚いた顔をして。
「……ありがとう」
と答えた。
「何で麗華さんがお礼?」
「何となく」
「変なの」
「俊介君に言われると嬉しい」
「そうですか」
「うん」
俺は少し歩く。
そして振り返る。
「じゃあ、仕事頑張って」
「俊介君も勉強」
「またそれ」
「受験生!」
「分かってます」
二人で笑う。
「また来てね」
「はい」
「今度は麗音と?」
「本人に聞いてみます」
「待ってる」
俺は手を上げる。
麗華さんも手を振る。
そして俺は駅へ向かった。
◇◇◇
帰りの電車。
今日撮った写真を見る。
社長。
マネージャー。
麗華さん。
俺。
初めて直接話した二人。
正直。
来る前は少し怖かった。
芸能事務所の社長。
人気タレントを担当するマネージャー。
もっと近寄りがたい人たちだと思っていた。
でも実際は違った。
兄ちゃんの学校生活を心配していた。
麗華さんの仕事を守ろうとしていた。
俺や麗音が巻き込まれないようにまで考えていた。
そして。
二人の交際を、単なる芸能人のスキャンダルとして扱っていなかった。
大切な一つの関係として見てくれている。
だからこそ。
兄ちゃんと麗華さんも。
この事務所を信頼しているのかもしれない。
俺は兄ちゃんへメッセージを送る。
『今日、社長とマネージャーさんと初めてちゃんと話した』
既読。
『どうだった?』
『いい人だった』
数秒。
『だろ』
また短い。
『兄ちゃんのことも色々聞かれた』
今度は少し間が空いた。
『何言った?』
俺は笑う。
『秘密』
すぐに。
『おい』
さらに。
『麗華の前で変なこと言うなよ』
俺は返信。
『社長たちと3人のときだけ話した』
『余計怖い』
俺は声を出さないよう笑う。
そして最後。
『でも二人とも、兄ちゃんと麗華さんのことちゃんと考えてた』
しばらくして。
『知ってる』
その一言。
兄ちゃんはもう知っている。
だから信頼している。
俺はスマートフォンを閉じた。
◇◇◇
その夜。
家。
母さんに今日の写真を見せる。
「これ社長?」
「うん」
「へえ」
「マネージャーさんも」
「みんないい顔してるわね」
「社長室で話した」
「何を?」
「色々」
「お兄ちゃんと麗華ちゃん?」
「それも」
母さんは少し笑う。
「秘密?」
「秘密」
「最近みんな私に秘密増えてない?」
「母さんは美晴さんと何でも話すだろ」
「それとこれとは別」
「今日は男同士……じゃないか」
社長とマネージャー。
性別は関係ない。
「事務所側との秘密」
「何それ」
母さんが笑う。
俺も笑った。
◇◇◇
夜。
自分の部屋。
勉強机の前。
数学の問題集。
英語の単語帳。
その横にスマートフォン。
勉強を始める前に。
もう一度だけ今日の写真を見る。
そして思う。
俺はまだ中学生。
芸能界とは何の関係もない。
普通なら。
事務所の社長やマネージャーと直接話すことなんて一生ないかもしれない。
でも。
兄ちゃんが藤宮麗華という女性を好きになったことで。
俺の世界にも少しだけ、新しい場所が増えた。
サイン会。
芸能事務所。
撮影現場。
社長室。
そして。
兄ちゃんと麗華さんの秘密を守る人たち。
家族。
社長。
マネージャー。
それぞれ立場は違う。
でも。
みんな二人を大切に思っている。
今日、それが少し分かった。
俺は写真を非公開フォルダへ保存する。
外には出さない。
学校でも見せない。
これは。
俺たちだけが知っていればいい一枚。
そして問題集を開く。
その瞬間。
スマートフォンが震えた。
麗華さん。
『今日は来てくれてありがとう!』
続いて。
『社長もマネージャーさんも楽しかったって言ってたよ』
さらに。
『あと受験勉強頑張ってね!』
「結局それかよ……」
俺は笑う。
返信。
『分かってます』
すぐ既読。
そして。
『今度は麗音ちゃんも一緒に来てね』
俺は少し考え。
『麗音に聞いときます』
と送った。
これで終わりかと思ったら。
最後にもう一通。
『お兄さんにもよろしくね』
俺は画面を見ながら笑った。
「同じ家に帰るのに」
兄ちゃんと麗華さんは、今日も同じ家へ帰る。
俺は俺の家。
麗音は藤宮家。
今はそれぞれ別々。
それでも。
二つの家族と一つの芸能事務所は。
兄ちゃんと麗華さんを中心に。
少しずつ同じ秘密の中でつながっていた。
そして今日。
俺も初めて。
その秘密を一緒に守っている社長とマネージャーの顔を知った。
ただの“芸能事務所の偉い人たち”ではない。
兄ちゃんと麗華さんの味方。
そして。
俺たち家族のことまで気にかけてくれている人たち。
二度目の事務所訪問。
そこで俺が一番知ることができたのは。
華やかな芸能界の裏側よりも――。
藤宮麗華という一人の女性を支えている人たちの存在だった。
閑話「俊介と麗華――俊介が麗華の居る事務所へ遊びに行く❷」を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は二度目の事務所訪問となった俊介が、ついに麗華の所属事務所の社長と担当マネージャーへ正式に挨拶する一日を描きました。
最初は、
「芸能事務所の社長」
「人気グラビアアイドルのマネージャー」
という肩書きだけで緊張していた俊介。
しかし実際に話してみれば、二人が気にかけているのは麗華の仕事だけではありませんでした。
麗華と主人公の交際を事務所として認める以上、主人公の学校生活も守らなければならない。
さらに必要であれば、俊介や麗音を含めた家族への影響まで考える。
今回、社長が語った、
「麗華さんは芸能人として注目されることをある程度受け入れて仕事をしている。でも、お兄さんは違う」
という考え方は、二人の交際を守るうえで大切な部分でした。
主人公はまだ高校三年生。
もし交際が知られれば、学校が特定されたり、友人関係へまで注目が集まったりする可能性があります。
そして家族である俊介も、まったく無関係ではいられない。
だからこそ、学校で何も話さないこと。
麗音と一緒に秘密を守り続けていること。
それだけでも十分に、二人を守る力になっています。
俊介自身は、
「俺は何もしてない」
と思っていました。
しかしマネージャーから返ってきた、
「何も言わないことが大事なんです」
という言葉によって、自分もまた二人の秘密を守る一人なのだと少しずつ理解していきます。
そして今回は、麗華がグラビア撮影をしている間に、俊介と社長、マネージャーの三人だけで話すという珍しい時間も描かれました。
麗華がいないからこそ出てきた、俊介の本音。
「兄ちゃんの彼女が麗華さんで良かったと思います」
そして、
「もし本当に姉ちゃんになるなら麗華さんでいいです」
という言葉。
本人が聞けば間違いなく恥ずかしがるため、俊介は必死に秘密にしようとしましたが、それだけ麗華を“有名人”ではなく、自分たちの家族に近い存在として受け入れ始めていることが分かります。
一方、社長とマネージャーからも思わぬ暴露がありました。
主人公からメッセージが届いたあとは、麗華の機嫌が分かりやすい。
本人は隠しているつもりでも、周囲から見ればかなり分かりやすい――。
仕事中はプロのグラビアアイドルとして完璧に振る舞っていても、主人公のこととなると、やはり一人の二十歳の女性。
撮影を終えて戻ってきた麗華がその事実を知らされ、真っ赤になって慌てる姿も、彼女らしい一面となりました。
また俊介は、社長とマネージャーから麗華の仕事についても詳しく聞きました。
一時間程度で終わる撮影もあれば、半日、一日かかることもある。
衣装を何度も変え、撮影場所を移動し、長時間カメラの前に立つ。
華やかに見えるグラビアの仕事も、実際には体力と集中力が必要です。
それでも麗華は、
「仕事が好き」
と続けている。
そして主人公も、その仕事を邪魔するのではなく、尊重しながら彼女を支えている。
社長とマネージャーも、そこをきちんと見ています。
今回の最後。
社長から俊介へ送られた、
「これからも、麗華さんとお兄さんのことをよろしく」
という言葉。
俊介はまだ中学生です。
二人の恋愛に責任を持つ立場ではありません。
けれど弟として。
家族として。
学校で秘密を守り、時には兄や麗華を見守る。
それだけで十分なのだと思います。
そして俊介にとっても今回の訪問は、“麗華の職場を見る日”から、“麗華を支えている人たちを知る日”へと変わりました。
社長。
担当マネージャー。
家族。
それぞれ立場は違っても、主人公と麗華が安心して交際を続けられるよう見守っている人たち。
二つの家族だけではなく、事務所まで含めて少しずつ広がっていく二人の秘密の輪。
二度目の事務所訪問は、俊介にとってその輪の中にいる人たちを、初めて自分自身の目で知る大切な一日となりました。




