閑話 主人公と麗音――麗音の家庭教師❶
閑話「主人公と麗音――麗音の家庭教師❶」。
今回は、主人公と藤宮麗華の妹・麗音の少し変わった関係に焦点を当てます。
麗音は中学三年生。
主人公の弟・俊介とは、中学一年生から三年生までずっと同じクラス。
そして今では、姉・麗華が主人公と付き合い、さらに同棲していることも知っています。
つまり麗音にとって主人公は、
「三年間同じクラスにいる男子の兄」
であり、
「自分の姉の彼氏」
でもあるという、かなり不思議な立場の相手です。
そんな中、美晴から頼まれたのが、麗音の家庭教師。
高校受験を控え、数学や英語で少し苦戦している麗音に対し、高校三年生の主人公が勉強を教えることになりました。
教える側も受験生。
教わる側も受験生。
年齢も近く、家族同士の関係も深い二人だからこそ、普通の家庭教師とは少し違った空気が流れます。
勉強の合間には俊介の話。
麗華の話。
そして主人公と麗華の将来についてまで、麗音から思いがけない質問が飛び出します。
姉の彼氏として。
少し年上のお兄さんのような存在として。
そして今日だけは家庭教師として。
主人公と麗音の新しい関係が始まる一日です。
土曜日の午後。
俺はいつもより少し早めに家を出て、藤宮家へ向かっていた。
今日の目的は麗華に会うこと――ではない。
もちろん、藤宮麗華は俺の彼女だ。
二十歳の人気グラビアアイドル。
俺たちはすでに同棲していて、普段なら同じ家で過ごしている。
けれど今日は麗華とは別の用事があった。
その相手は――。
麗華の妹、藤宮麗音。
中学三年生。
そして俺の弟・俊介と、中学一年生から三年間ずっと同じクラスの女子生徒だ。
先日の家族同士の顔合わせで、俺たち二つの家族には驚くほど多くのつながりがあることが分かった。
母さんの美和子と麗華のお母さん、美晴さんは小学校から高校までの幼馴染で大親友。
父さんの慶介と麗華のお父さん、興毅さんは仕事仲間。
俊介と麗音は三年間同じクラス。
そして俺と麗華は――恋人。
そんな関係もあって、数日前。
美晴さんから俺へ一つのお願いがあった。
『もし時間があるときだけでいいんだけど、麗音の勉強を見てもらえない?』
麗音は中学三年生。
つまり受験生。
特に最近、数学と英語で苦戦しているらしい。
塾には通っているものの、分からない問題をその場ですべて質問できるわけではない。
そこで同じく受験を経験してきた高校三年生の俺に、時々勉強を見てほしいという話になった。
最初は、
『俺でいいんですか?』
と聞いた。
すると美晴さんは笑って、
『麗音も、知らない家庭教師よりあなたのほうが質問しやすいみたい』
と言った。
そういうことなら。
俺は引き受けることにした。
ただし――。
一つだけ妙な問題がある。
麗音からすれば俺は、
『三年間同じクラスにいる男子の兄』
であり。
さらに、
『自分の姉の彼氏』
でもある。
家庭教師としては、かなり変わった関係だった。
◇◇◇
午後一時五十分。
藤宮家。
インターホンを押す。
少しして。
「はーい」
聞き覚えのある声。
扉が開いた。
麗音だった。
「こんにちは」
「こんにちは」
麗音は部屋着ではなく、パーカーにロングパンツというラフな格好だった。
俺の顔を見ると少し笑う。
「本当に来た」
「呼ばれたから来たんだけど」
「なんか変な感じ」
「俺も」
「だって……」
麗音は周囲を確認してから小声になる。
「お姉ちゃんの彼氏が家庭教師って」
「その言い方やめてくれ」
「事実でしょ」
「事実だけど」
麗音が笑った。
「入って」
「お邪魔します」
玄関へ入る。
すると奥から美晴さんがやってきた。
「あら、いらっしゃい」
「こんにちは」
「今日は本当にありがとう」
「いえ。俺でよければ」
「十分よ」
美晴さんは嬉しそうだった。
「麗音、ちゃんと勉強するのよ」
「分かってる」
「分からないところは全部聞きなさい」
「はいはい」
「はいは一回」
「はい」
完全に母親と娘の会話だった。
俺が少し笑うと、麗音がこちらを見る。
「笑わないでよ」
「ごめん」
「俊介のお母さんもこんな感じ?」
「うちの母さん?」
「うん」
「似たようなもん」
「やっぱり」
「何せ二人とも大親友だからな」
「関係あるのかな」
美晴さんが笑う。
「美和子のほうがもっと細かかったわよ、昔から」
「母さんの昔知ってるの、なんか変な感じです」
「今度たくさん教えてあげる」
「やめてください」
「何で?」
「絶対余計な話ありますよね」
「もちろん」
美晴さんが笑う。
母さん。
今度美晴さんに何を暴露されるんだろう。
少し怖くなった。
◇◇◇
麗音の部屋。
勉強机の上には教科書、ノート、問題集。
そして模擬試験の結果。
俺は椅子を借りて座った。
麗音は机の前。
「まず何からやる?」
俺が聞く。
「数学」
「どこ?」
「ここ」
麗音が問題集を開く。
二次方程式。
関数。
図形。
受験生らしい範囲だった。
「一番苦手なのは?」
「関数」
「じゃあそこから」
「うん」
俺は問題を見る。
「これ、どこまで分かる?」
「最初から分からない」
「本当に?」
「本当に」
「じゃあ問題文読むところからやろう」
「そこから?」
「分からないまま解説だけ覚えても意味ないから」
麗音は少し驚いたようだった。
「なんか先生っぽい」
「まだ何も教えてないぞ」
「雰囲気」
「俺も受験生なんだけど」
「高校三年生だもんね」
「そう」
「自分の勉強大丈夫?」
「それ言われると痛い」
麗音が笑う。
「じゃあ家庭教師してる場合じゃないじゃん」
「美晴さんに言ってくれ」
「お母さん絶対『両方頑張りなさい』って言う」
「言いそう」
二人で笑った。
「じゃあ始めるぞ」
「お願いします、先生」
「先生はやめろ」
「じゃあ……お兄さん?」
「それも変」
麗音が少し考える。
「普通に名前?」
「それでいいよ」
「分かった」
そうして。
俺と麗音の最初の家庭教師が始まった。
◇◇◇
三十分後。
「ここ」
俺はノートを指差す。
「麗音、途中の計算が一個抜けてる」
「え?」
「ここからいきなりこの答えになってるだろ?」
「頭の中でやった」
「それが間違える原因」
「でも面倒」
「受験本番で間違えるよりいいだろ」
「……はい」
「途中式を書けば、自分がどこで間違えたか分かる」
「なるほど」
「もう一回やってみて」
麗音がシャープペンシルを動かす。
今度は一行ずつ。
「……こう?」
「そう」
「次が……」
「うん」
「これ?」
「正解」
「できた!」
麗音が嬉しそうに笑った。
「ほら」
「意外と分かりやすい」
「意外とは余計」
「だって家庭教師初めてでしょ?」
「当然」
「お姉ちゃんにも勉強教えてる?」
突然聞かれる。
「麗華?」
「うん」
「何で俺が麗華に教えるんだよ」
「一緒に暮らしてるから」
「一緒に暮らしてても勉強は教えない」
「じゃあ何してるの?」
俺は止まる。
麗音も止まる。
数秒。
「……普通に生活してる」
「何その答え」
「それ以上聞くな」
麗音が笑い始めた。
「顔赤くない?」
「赤くない」
「お姉ちゃんと何してるんですか?」
「勉強戻るぞ」
「逃げた」
「次の問題」
「はーい」
麗華。
妹に変な質問をさせないでくれ。
いや。
麗華は何も悪くないか。
◇◇◇
しばらくすると。
麗音のスマートフォンが震えた。
「誰?」
俺が聞く。
「俊介」
「俊介?」
「うん」
弟の名前が出てきて少し驚く。
「何て?」
「ちょっと待って」
麗音が画面を見る。
そして笑った。
「『今日数学の宿題どこまで?』だって」
「本人に聞けよ」
「だから私に聞いてるんでしょ」
「同じクラスだったな」
「三年間ずっと」
麗音が返信する。
すると、すぐに返ってくる。
「早い」
「何て?」
「『ありがとう』」
「それだけ?」
「うん」
俺は思わず笑う。
「俊介らしい」
「そうなの?」
「必要なことだけ聞いて終わる」
「確かに」
麗音がスマートフォンを置く。
「俊介、学校でもこんな感じ」
「どんな?」
「普通」
「説明になってない」
「本当に普通なんだもん」
麗音は少し考える。
「でも、最近前より話すかも」
「へえ」
「家族のこと知ってから」
「俺と麗華のこと?」
麗音が頷く。
「二人だけで共有してる秘密ができたから」
「学校で言うなよ」
「言わないよ」
麗音は真剣な顔になる。
「それは絶対」
「ならいい」
「俊介とも約束してる」
「そうなんだ」
「お姉ちゃんのことも、あなたのことも絶対学校では言わないって」
俺は少しだけ安心した。
「ありがとう」
「別に」
麗音は少し照れたようにノートへ視線を戻す。
「お姉ちゃん楽しそうだから」
「麗華が?」
「うん」
「そう?」
「お兄……」
麗音が途中で止まる。
「今、お兄さんって言いそうになった?」
「だって姉の彼氏って、何て呼べばいいの?」
「普通でいい」
「でも将来、本当にお兄さんになったりして」
「麗音」
「何?」
「勉強」
「逃げた」
「逃げてない」
麗音はニヤニヤしている。
「お姉ちゃんと結婚しないの?」
「中学生が聞く質問じゃない」
「関係ないでしょ」
「まだ俺も高校生」
「でも付き合ってる」
「そうだけど」
「同棲もしてる」
「そうだけど」
「両親も知ってる」
「そうだけど」
「じゃあ将来は?」
俺は少し黙った。
将来。
麗華との未来。
考えたことがないわけじゃない。
むしろ。
最近は少しずつ考えることが増えている。
家族同士の顔合わせ。
両親同士のつながり。
水族館でのデート。
毎日の同棲生活。
「……まだ分からない」
俺は正直に答えた。
「でも」
麗音が俺を見る。
「今の関係を大切にしたいとは思ってる」
麗音は数秒俺を見たあと。
「そっか」
と小さく笑った。
「じゃあいい」
「何が?」
「何でもない」
「気になる」
「教えない」
「質問したのそっちだろ」
「次の問題お願いします、先生」
「先生やめろって」
麗音は楽しそうに笑った。
◇◇◇
午後三時。
休憩。
美晴さんが飲み物とお菓子を持ってきてくれた。
「どう?」
「思ったより順調です」
俺が答える。
「思ったよりって何」
麗音が不満そうに言う。
「最初は関数全部分からないって言ってただろ」
「今は分かる」
「じゃあ進歩」
美晴さんが嬉しそうに笑う。
「良かったじゃない」
「うん」
「教え方分かりやすい?」
「結構」
「結構?」
俺が聞き返す。
「すごく」
「ならいい」
美晴さんは俺を見る。
「本当にありがとう」
「いえ」
「これならまたお願いしようかしら」
「え?」
俺と麗音の声が重なる。
「嫌なの?」
美晴さんが聞く。
「嫌じゃないけど」
麗音が俺を見る。
「大丈夫?」
「俺?」
「自分も受験生でしょ?」
「毎日は無理だけど、時間合う日なら」
「本当?」
「うん」
美晴さんが笑う。
「じゃあお願いしようかしら」
「分かりました」
こうして。
一回だけのつもりだった家庭教師は、どうやら続くことになりそうだった。
◇◇◇
休憩中。
麗音がクッキーを食べながら聞いてきた。
「ねえ」
「何?」
「お姉ちゃんから今日連絡来た?」
「麗華?」
「うん」
スマートフォンを見る。
「来てる」
「何て?」
「言わない」
「気になる」
「彼氏と彼女のメッセージ見るなよ」
「少しくらい」
「ダメ」
「ケチ」
実際。
麗華から来ていたのは。
『麗音ちゃんと勉強してる?』
『ちゃんと教えられてる?』
『麗音ちゃん寝てない?』
そして最後。
『終わったら帰ってきてね♡』
だった。
見せられるわけがない。
「お姉ちゃん、絶対変なこと送ってる」
「送ってない」
「じゃあ見せて」
「嫌だ」
「怪しい」
「次の問題やるぞ」
「また逃げた」
「休憩終わり」
「まだクッキーある」
「食べながらやればいい」
「厳しい先生」
「受験生だから」
麗音は口を尖らせながらも、問題集を開いた。
◇◇◇
午後四時。
英語。
「この文章、訳してみて」
「えーっと……」
麗音が英文を読む。
途中で止まる。
「分からない」
「どの単語?」
「これ」
「意味覚えてる?」
「見たことある」
「じゃあ辞書」
「教えてくれないの?」
「自分で調べたほうが覚える」
「先生みたい」
「だから先生じゃない」
麗音が辞書を開く。
「あった」
「意味は?」
「……なるほど」
「じゃあもう一回訳して」
少しずつ文章が完成していく。
「できた」
「正解」
「英語ちょっと楽しいかも」
「分かれば楽しい」
「分からないと嫌い」
「みんなそんなもん」
「高校の勉強難しい?」
「難しい」
「やっぱり?」
「中学よりかなり増える」
「嫌だな」
「でも楽しいことも増える」
「例えば?」
「学校行事とか」
「恋愛とか?」
「何でそこ」
「高校生の恋愛ってどんな感じかなって」
「俺に聞く?」
「一番身近な高校生だから」
「相手がグラビアアイドルだから参考にならないと思う」
麗音が吹き出した。
「確かに!」
「普通の高校生の恋愛じゃない」
「学校で言えないもんね」
「そう」
「デートも大変?」
「結構」
「お姉ちゃん有名だから?」
「うん」
麗音は少しだけ真面目になる。
「大変なんだね」
「でも楽しいよ」
俺は自然に答えた。
麗音が俺を見る。
「即答」
「悪い?」
「ううん」
麗音は少し笑った。
「良かった」
◇◇◇
午後五時。
今日の勉強は終了。
「疲れた……」
麗音が机へ突っ伏す。
「二時間半くらいだろ」
「途中休憩したけど疲れた」
「でも結構進んだぞ」
「関数ちょっと分かった」
「次まで忘れるなよ」
「次あるんだ」
「美晴さんがまた頼むって」
「そっか」
麗音は身体を起こす。
「じゃあ次もお願いします」
「こちらこそ」
「こちらこそ?」
「なんか変だな」
二人で笑う。
俺は教材をまとめる。
すると麗音が突然。
「ねえ」
「ん?」
「今日はありがとう」
「どうした急に」
「普通に」
麗音は少し照れくさそうだった。
「塾だと先生忙しそうで、分からないって何回も言いにくいんだよね」
「うん」
「でも今日は何回聞いても教えてくれたから」
「家庭教師だからな」
「先生じゃないって言ってたじゃん」
「今だけ家庭教師」
「どっちなの」
「まあ、分からなかったら何回でも聞けばいい」
「怒らない?」
「同じ説明十回くらいしたら考える」
「そこは怒るんだ」
「冗談」
麗音が笑った。
「次も頑張る」
「ああ」
◇◇◇
玄関。
美晴さんが見送りに来る。
「今日はありがとう」
「いえ」
「次回もお願いしていい?」
「予定が合えば大丈夫です」
「助かるわ」
麗音も玄関まで来ていた。
「じゃあまた」
「うん」
俺が靴を履く。
すると麗音が言った。
「お姉ちゃんによろしく」
「今日帰ったら会うよ」
「知ってる」
「何て言えばいい?」
麗音は少し考える。
「家庭教師、意外とちゃんとしてたって」
「意外は余計」
「じゃあ、分かりやすかったって」
「それなら伝えとく」
「あと」
「まだある?」
麗音が笑う。
「お姉ちゃんをよろしくお願いします」
「……何だよ急に」
「言ってみたかった」
「父親みたいなこと言うな」
「妹です」
「知ってる」
「じゃあまたね」
「ああ。また」
俺は藤宮家を出た。
◇◇◇
午後五時半。
俺たちの家。
玄関を開ける。
「ただいま」
すぐに足音。
「おかえり!」
麗華だった。
仕事から先に帰っていたらしい。
「どうだった?」
「何が?」
「麗音」
「ちゃんと勉強してたよ」
「本当?」
「本当」
「寝なかった?」
「寝てない」
「良かった」
麗華が安心したように笑う。
「何やったの?」
「数学と英語」
「分かってた?」
「最初は関数で止まってたけど、最後は結構できてた」
「へえ」
麗華は嬉しそうだった。
「ありがとう」
「俺ができる範囲だけだけど」
「それで十分」
「美晴さんから次も頼まれた」
「本当?」
「ああ」
「じゃあ家庭教師続けるの?」
「予定合えば」
麗華が笑う。
「なんか不思議」
「何が?」
「私の彼氏が妹の家庭教師」
「俺もそう思う」
「しかも俊介君と麗音は同じクラス」
「三年間な」
「家族関係複雑すぎない?」
「今更だろ」
二人で笑う。
すると麗華が少し近づく。
「麗音、何か言ってた?」
「麗華によろしくって」
「それだけ?」
「あと」
「何?」
俺は少し迷ってから言った。
「『お姉ちゃんをよろしくお願いします』って」
麗華が固まった。
「……麗音が?」
「うん」
「本当に?」
「言ってみたかったらしい」
麗華は少し顔を赤くする。
「何それ……」
「俺も父親みたいだって言った」
「妹なのに」
「同じこと言った」
麗華はしばらく笑っていた。
そして。
「でも嬉しい」
と小さく言った。
「何が?」
「麗音が、あなたのこと信頼してるってことでしょ?」
「そうかな」
「そうだよ」
麗華は俺の隣へ座る。
「家庭教師、よろしくお願いします」
「麗華まで?」
「姉として」
「はいはい」
「ちゃんと高校合格させてね」
「責任重すぎるだろ」
「冗談」
麗華が笑う。
「でも、できる範囲で助けてあげて」
「ああ」
「ありがとう」
そう言って麗華は俺の肩へ寄りかかった。
俺は今日のことを思い返す。
最初は。
ただ一度、勉強を見るだけのつもりだった。
でも。
分からなかった問題が解けたときの麗音の顔。
「できた!」
と嬉しそうに笑った姿。
そして最後の。
『次もお願いします』
という言葉。
高校三年生の俺が、中学三年生の麗音へ教えられることなんて、それほど多くないかもしれない。
それでも。
受験までの間。
少しでも役に立てるなら。
それでいい。
麗華の妹だから――だけではない。
俊介と三年間同じクラスで過ごしてきた友人でもあり。
今では二つの家族をつなぐ、大切な一人でもある。
こうして。
俺と麗音の少し変わった家庭教師の時間が始まった。
人気グラビアアイドル・藤宮麗華の彼氏。
その彼氏が。
今度は――。
彼女の妹・麗音の家庭教師になる。
次の勉強の日には。
今日より少し難しい問題へ挑戦することになりそうだった。
閑話「主人公と麗音――麗音の家庭教師❶」を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回は、麗音の高校受験をきっかけに、主人公が家庭教師を務めることになった一日を描きました。
最初は関数の問題を前に、
「最初から分からない」
と言っていた麗音。
しかし主人公が途中式から丁寧に確認し、一つずつ一緒に進めていくことで、
「できた!」
と自分で答えへたどり着けるようになります。
家庭教師の経験があるわけでもない。
主人公自身も高校三年生で、これから進路を考えていかなければならない立場です。
それでも年齢が近いからこそ、麗音にとっては塾の先生よりも、
「分からない」
と素直に言いやすい存在なのかもしれません。
また今回、勉強だけではなく、二人の家族関係についても改めて描かれました。
麗音の姉・麗華は主人公の彼女。
主人公の弟・俊介と麗音は三年間同じクラス。
母親同士は昔からの大親友。
父親同士は仕事仲間。
こうして見てみると、二つの家族の関係は本当に複雑でありながら、どこか自然につながっています。
そんな中で麗音が主人公に尋ねた、
「お姉ちゃんと結婚しないの?」
という質問。
まだ高校三年生の主人公にとって、すぐに答えを出せる話ではありません。
麗華との将来がどうなるのか。
いつか本当に結婚するのか。
それはまだ誰にも分かりません。
けれど主人公は、
「今の関係を大切にしたいとは思ってる」
と答えました。
今すぐ未来を決めるのではなく、目の前にある麗華との時間を大切にしていく。
その答えを聞いた麗音が、
「そっか。じゃあいい」
と笑ったところには、妹なりに姉を大切に思う気持ちが表れていました。
そして今回、特に印象的だったのが帰り際の、
「お姉ちゃんをよろしくお願いします」
という麗音の一言。
冗談交じりではありましたが、それは主人公に対する麗音なりの信頼でもあります。
姉が楽しそうにしている。
主人公と一緒にいるときの麗華は、芸能人としてではなく普通の女性として笑っている。
そんな姿を見ているからこそ、麗音も少しずつ主人公を“姉の大切な人”として受け入れているのでしょう。
そして一回だけの予定だった家庭教師は、今後も続くことになりました。
数学。
英語。
そして受験へ向けた勉強。
麗音がどこまで成長していくのか。
主人公はどこまで支えられるのか。
さらに二人の勉強時間の中で、俊介や麗華、家族についてどんな会話が生まれていくのか。
少し変わった家庭教師と生徒の関係は、まだ始まったばかりです。




