明かされる秘密
中枢会議
狭間暴走から一ヶ月。
傷ついた街は少しずつ日常を取り戻し始めていた。
学園では卒業式の準備が進んでいる。
シヴェリアとエルキアは卒業を控えていた。
正式に次期族長候補として認められ、族長教育へ入ることが決まり慌ただしい日々を送っていた。若く優秀な族長を早期に据える。それが近年、中枢が推し進めている方針であり、二人はその象徴でもある。
そんな折、中枢から召集がかかった。
重厚な扉が閉じられた。
低い音が石造りの会議室へ響く。長机の最奥には総統。
その左右には各属性の族長たち。さらに黒衣をまとった中枢機関の長老たちが静かに並んでいた。その中に、狭間の管理を行う一族の長であるジルベルトの父の姿もあった。重い空気にシヴェリアは無意識に背筋を伸ばした。隣のエルキアも珍しく口を閉ざしている。
対面には、光と炎の里、それぞれの次期族長候補が座っていた。シヴェリアたちより先に学園を卒業し、次代の族長として研鑽を積み続けている先輩たちだ。何で呼び出されたかわからない状態のシヴェリアとエルキアに対し。二人は落ち着いた表情のまま、静かに総統を見つめている。
(先輩方は、何か知っている……?)
総統がゆっくり口を開く。
「本来、この部屋へ入る資格が与えられるのは正式な族長のみだ。」
会議室には沈黙が流れた。
「だが、お前たちは既に“見てしまった”。」
シヴェリアの胸が跳ねた。見てしまった、とは。その言葉で脳裏へ浮かぶ黒い瘴気、裂ける空間、血まみれで戦う銀髪の友人。
総統の声が続く。
「これより話す内容は国家最高機密とする。許可なく漏らした者は、族長であろうと中枢の者であろうと処罰対象だ。」
エルキアがごくりと唾を飲み込む。総統は机上の黒い封印箱へ手を置いた。
「世界には“狭間”が存在する。」
その一言で、会議室の空気がさらに冷えた。シヴェリアは思わず息を止める。
「狭間とは、世界に生じる空間の亀裂だ。そこから黒い生命体——狭間体が流出し、瘴気を撒き散らす。」
シヴェリアの脳裏に、ヴァルアの声が蘇る。
『瘴気を吸うな!』
『核を狙え!』
『封印班を呼べ!』
総統が続けた。
「狭間体は核を破壊しない限り消滅せず、瘴気は生物を侵す。長期曝露した者の身体には黒い痣——瘴痕が残る。」
ヴァルアの傷に残っていた黒い傷跡。
それを思い出しながらエルキアが低く呟いた。
「……だからあの時、負傷者を隔離してたのか。」
「そうだ。」
総統は頷く。
「お前たちが遭遇したのは“狭間の暴走”だ。確認されている記録の中では最大規模の暴走だ。」
シヴェリアは震える声で尋ねた。
「では……ヴァルは……。」
総統の視線が静かに向けられる。
「ヴァルア・セントフレアは、傭兵団に所属している。傭兵団は、狭間討伐を目的として中枢が編成した特殊組織だ。」
会議室がざわめいた。エルキアが目を見開く。
「傭兵団って、どこの里にも所属していない人の集まりじゃ……。」
「表向きはな。」
今度は黒衣の老人が口を開いた。
「実際は中枢直轄。狭間対策のために編成された特殊組織だ。だが、集められた者たち全員がその真実を知っているとは限らん。」
老人はちらりとジルベルトの父へ視線を向けた。
シヴェリアの指先が震える。
(あの家で子どもたちと笑っていたヴァルが……。)
総統はさらに続けた。
「ヴァルア・セントフレアは光と炎の両属性を同時運用できる極めて稀な術師だ。浄化と殲滅を単独で実行可能であり、傭兵団でも中核戦力として扱われていた。」
シヴェリアは思わず立ち上がりかけた。
「そんな危険な戦場で、ずっとヴァルは戦ってたのですか……?」
「ええ。」
静かに答えたのは、光の里の族長候補だった。シヴェリアが振り向く。悲しそうに微笑む姿が目に入る。
「私は卒業後、里へ戻ってから機密を知りました。だから、彼女がどれほど危険な場所へ立ち続けていたのかも知っていました。」
「知らされていなかったのは私たちだけですか…。」
「ごめんなさい。規則で話せなかったの。」
シヴェリアは唇を噛んだ。怒りではない。自分たちだけが何も知らなかったという無力感だった。炎の里の族長候補も静かにやりとりを見つめていた。
総統が最後に告げる。
「そして近年、狭間には“意志を持つ個体”が現れ始めている。」
会議室が再び静まり返った。
「世界は変わり始めている。お前たち次代の族長は、その変化から目を逸らすことはできない。」
長い沈黙の後、シヴェリアは小さく呟いた。
「……ヴァルは、最初から全部知っていたんですね。」
誰も否定しなかった。エルキアは拳を握った。
「だからあいつ、俺たちを後ろへ下げたのか……。」
自分たちが何も知らない学生だと、最初から分かっていたのだと気づいた瞬間だった。その瞬間、シヴェリアの知っていた世界は静かに崩れ、そして新しい現実が姿を現した。




