警鐘
舞踏会から数日後。
昼休みの学園は、いつも通り騒がしかった。
学業の話、恋の話、流行りの話。様々な話題が飛び交い、学生たちは明るく笑う。
「昨日の音聞いた?」
いつものように登校したシヴェリアが教室へ入った瞬間、そんな声が飛び込んでくる。
「南門の外で爆発があったんだって。」
「魔導炉の事故らしいぞ。」
「いや、軍の演習だって聞いた。」
窓際の席に座りながらシヴェリアは顔を窓に向けた。遠くの森の上空に、まだ薄い煙が残っている。ここ数日、都市内でのこういった噂が絶えない。エルキアが机に肘をつきながらぼやいた。
「最近こういう騒ぎ多くね?」
「多いわね。」
シヴェリアは頷いた。
「しかも毎回、森とか山とか人の少ない場所ばかり。」
教師が教室へ入ってくると、話題は自然に途切れた。いつもの日常、いつもの穏やかな空気。しかし彼らは知らない。
狭間の存在そのものを。
中枢が長年秘匿してきた事実を。
——狭間とは、空間の亀裂から生じる異常現象。そこから現れる黒い生命体が、狭間体だ。
——そして、その異変を最も早く察知していたのがヴァルアが所属している傭兵団であることを。
⸻
同じ頃。
都市外縁の廃倉庫。
簡易地図の前に傭兵団の主要メンバーが集まっていた。
机上には記録結晶が並び、赤い印が都市周辺へ次々と打たれている。団長が低く言う。
「一週間で亀裂確認七件。多すぎる。」
ジルが地図を睨む。
「しかも発生間隔が縮んでる。」
ヴァルアは無言で別の記録結晶を操作した。淡い光が浮かび、黒い波形が映し出される。
「狭間体の行動パターンも変だ。」
映し出された黒い瘴気の不気味な動きを確認しながらヴァルアは眉をひそめる。アンジールと共に負傷したあの時から現在までの間に狭間体の動きがさらに洗練されてきている気がしてならない。ただ速くなっただけではない。まるで、こちらの動きを学習しているようだった。
「移動速度が上がってる。群れの形成も早い。」
古参団員が顔をしかめた。
「でも発生場所は相変わらず森だろ?」
誰もがそう思っていた。狭間は魔力の密集地を避ける。
都市や学園のような魔力循環が安定した場所には現れにくい。それが長年の観測から導かれた仮説だった。現在も発生は増えている。だが、亀裂が確認された場所は全て郊外の森などの人里離れた土地だった。しかしヴァルアだけが地図から目を離さない。
「……本当にそうか?」
静かな声にジルが顔を上げる。
ヴァルアの勘はよく当たる。
「何か引っかかるのか。」
ヴァルアは赤い印を指先でなぞった。都市外縁を囲むように並ぶ発生地点。
「中心へ寄ってきてる。」
部屋が静まり返る。団長が低く問う。
「都市側へ寄ってるってことか?」
「まだ断定はできない。」
都市側へ寄ってきているように見えて、従来の郊外に亀裂が現れることもある。まだ断定できない情報にヴァルアは小さく息を吐いた。
「でも、嫌な感じがする。」
その時、遠くで鐘が鳴った。中枢都市の警鐘。
一度。
二度。
三度。
普段より長い鐘の音に全員の視線が窓へ向く。
ヴァルアは立ち上がった。
「行くぞ。」
誰も返事をしない。返事をする必要がなかった。全員が同じ予感を抱いていたからだ。
——今までとは違う。
そしてその予感は、数日後、最悪の形で現実になる。




