その59 下宿
昭和◯◯年◯月◯日
親と一緒に街に行くと、いつもドックの近くにある家に向かう。
完全木造の鎧張りの家で、玄関から入ると土間がある本当に昔ながらの大きな家。
玄関の土間がそのまま廊下のように繋がっており、奥には炊事場が見えた。
土間のすぐ横には2階に上がるための急な階段。
ここがどこだかさっぱりと解らずに、ずっと親戚の家かと思っていた。
親戚の関係とか、親が全然教えてくれないから、どういうつながりなのかさっぱりと解らん。
例えば、祖母の時代で親戚でも、孫の俺の時代まで下ってしまうと、もう他人だよね~。
親戚だって話は聞いているけど、つき合いなんて、オカンの代で止まってるしさ。
俺が今住んでいる家も、購入するときに――「あそこの家と親戚なんすよ」と話したら、「ウチもなんですよ」
って結局、元は親戚同士じゃねぇか。
みたいな感じ。
それはさておき、港の家がどこだかさっぱりと解らなかったのだが、後々の会話から、オカンが女学生時代にいた下宿屋らしい。
下宿というのは、普通のアパートと違って、朝晩の飯が出る。
普通の一軒家みたいな所もあるし、食堂があるちょっと大きめの所まで様々。
オラが村には小学と中学しかないので、その上の学校に行くとなると、どうしてもこういう下宿の世話になった。
まぁ、今なら普通のアパートで自炊してもいいのだが、昭和の学生というと下宿という感じ。
そういえば、最近下宿という言葉も聞かなくなった。
かくいう俺も、高校時代は札幌で下宿していた。
飯が出るのはありがたいのだが、正直あまり美味くない(笑)
下宿人の好みに合わせて出してくれないからさ~、しゃーないよね。
よく、ハンバーガーや、ほか弁を買っていた。
アニメや漫画にも下宿なんて出ることはなくなったよね~。
オカンは下宿の女将さんと昔話をしているのだが、そこにはなにも遊ぶものがなかったから、暇だったな~。
子どもが、あまり行きたくない場所の一つだった。
そこから出ると、魚市場の入口にある食堂でいつも食事を摂る。
本当に食堂って感じの食堂。
ビニルを貼ったピンク色のパイプテーブルに、丸くて赤いパイプ椅子。
そこでいつもラーメンを食っていた気がする。
場末の食堂なので、当然子どもが好きそうなものはなにもない。
カレーもハンバーグも、お子様ランチも、クリームソーダもない。
まぁ、ラーメンでもいいのだが、俺の興味はテーブルの上にある丸い銀色の物体に向いていた。
昔よく見かけた、コインを入れる占い器だ。
全周にぐるりとコインの投入口があって、星座によって分かれている。
1回50円ぐらいしてた気がする。
俺はやってみたくて興味津々なのだが、親は「ダメダメ」と取り合ってくれない。
それでも、わがまま言って、1回だけやらせてもらった。
喜んでコインを入れると、小さな巻紙が出てくるだけ。
そこに占いの結果が書いてある。
この占い器、全周にコインの投入口があるのだが、結局中にコインが落ちるだけで、どこから入れても結果は一緒。
まぁ、親の言う通り子ども騙しだったね(笑)




