その52 ラジカセ
昭和◯◯年◯月◯日
夕飯を食い終わると、酔っ払った親父が突然電気屋に行くと言う。
電気屋といっても、家電量販店などなく、村の小さな電気屋である。
村だというのに、電気屋が二軒あった。
当時は人も多かったので、商売をやっていけたのだろう。
親父についていくと、「ラジカセを買ってやる」と、言う。
そのころ、ステレオのラジカセがちょうど流行りだしていたのだ。
以前よりモノラルのラジカセはあったのだが、それがステレオになり始めたさなか。
そんなわけで店に到着すると、棚にはピカピカのラジカセが数台並んでいた。
この親父、ちょっと金が入ると、デカいものを買うクセがある。
新しいもの好きもあって、貧乏なのに家にはものがたくさんあった。
まぁ、俺もそんな感じなので、人のことは言えないが。
自分の金でなにをするのも自由であるとは思うが、家族がいるなら、すこしは自重しなければならないと思う。
――とはいえ、ガキの俺は、そんなことも考えておらず、ラジカセを買ってもらえるということで喜んでいた。
一応、音なども聞かせてもらって、音質の良いものを選ぶ――ナショナル製だ。
当時は、まだPanasonicにはなってならず、Nationalだった。
値段は正確じゃないかもしれないが、7万ちょいだった気がする。
今なら、15~20万ぐらいか。
高いよな。
まぁ、買った日から、ラジカセは使い倒したので、十分に元は取っているかと思う。
高いラジカセを買ったが、聴くものがない。
レコードも、以前に買ってもらった宇宙戦艦ヤマトのドラマ編をカセットテープにダビングしたものだけ。
あとは、幼稚園の頃に買ってもらった、レコードつきの情操教育本?
童謡とか沢山はいっているやつ。
これしかなかった。
最初は、ラジカセのマイクを使って、TVの音を録音したりしていたのだが、TVのヒット曲やアニメを録音しても、生活騒音が入ってしまう。
それで俺は、新しいラジカセを使った技を発明した。
ライン入力である。
TVのイヤホンジャックからラジカセのライン入力につなぐことによって、周りの音を気にしなくても済む。
「これだ!」と、俺は思ったね。
だが、録音されるのはモノラル。
せっかくのステレオラジカセなのに、能力が開放されていない。
そこで俺が考えたのは、FM放送。
当時はNHKしかなかったが、新しいラジカセはステレオラジオ放送が受信できる。
試しNHKを受信してみると、クラシック音楽がステレオで聞こえてきた。
「やったぜ!」
これならFMから音楽を録音すればいいじゃん。
レコードもいらないし、タダで音楽が聴き放題。
喜んだ俺だが、エアチェックという言葉すら知らなかった。
それから、新聞のFM欄とにらめっこして、音楽番組をチェック。
タイマーとかはないので、その場にいなくてはならない。
時計とにらめっこしながら、FMを入れて、音楽が入ると録音ボタンを押す。
そうしないと、司会の声まで入ってしまう。
カセットテープは、もらった1本だけで、ずっと使いまわす。
録音すると、飽きるほど聴いて、飽きたら次の音楽を探す。
こんな感じだった。
よく聴いてたのは、アリスとか、映画音楽。
とくに映画のメインタイトルは、有名でいい曲が多いんだよね~。
昭和の終わりになると、FM北海道ができて歌謡ベストテンなどが放送されると、ヒット曲もやすくなった。
そんな昭和の光景だが、もうエアチェックとか死語なんじゃなかろうか。




