その51 ドレミ号
昭和◯◯年◯月◯日
「ヒャッハー!」
俺は今、自由への道へと解き放たれた。
胸を締めつけていた鎖が音もなく断ち切られたような解放感が、全身を駆け巡る。
目の前には一直線の村のメインストリート。
頬を打つ風は冷たいはずなのに、それさえ心地よく感じ、遥か先には誰にも縛られない未来が待っている。
ペダルを踏み込むたびに、太腿の筋肉が力強く収縮し、その力はクランクを回し、車輪へと余すことなく伝わっていく。
高速で回転するタイヤはアスファルトをしっかりと噛み、地面を後方へ蹴り飛ばすように前へ前へと進んでいった。
速度が上がるにつれ、景色は流れる帯となり、風は轟音へと変わる。
それでも脚は止まらない。
いや、止める気など微塵もなかった。
誰にも追いつけない。誰にも止められない。
俺は自由を得たのだ。
――と、なにかすごいことをしたように書いているが、自転車に乗れるようになっただけである(笑)
数日前まで、俺の自転車には補助輪がついていたのだが、それがなくなったのだ。
それは、三輪車から始まった。
小さな俺の身体には鉄の乗り物は大きく感じたが、日々大きくなっていく身体はすぐに三輪車を追い越した。
三輪車をひっくり返して、手でペダルをグルグルと回して遊ぶ。
そんな俺の元に、次の自転車がやって来た。
フロントに輝く、仮面ライダーのお面と、赤色灯?
ブリジストンの仮面ライダードレミ号である。
もちろん、小さな俺には補助輪つき。
もちろん、嬉しかったね~。
はしゃいで、しばらくそのまま乗っていたのだが、すぐに不満が出る。
補助輪のせいで、スピードが遅い。
コーナーリングで倒れそうになる。
ガラガラと煩い。
すでに、補助輪なしで乗っている子もいる。
一大決心した俺は、親父に補助輪を外してくれと頼んだ。
「それじゃ、片方だけな」
いきなり両方の補助輪を取るのは危険だと思ったのか、左側だけ補助輪が外された。
今思うと、あまり意味はなかった気がする。
そのまましばらく乗っていたのだが、やっぱり補助輪が煩わしい。
親父に残った補助輪も外してもらい、自転車の練習をする。
当然コケまくった。
親父に後ろから手伝ってもらったりしたのだが、補助輪なしで上手く乗れなかったのだ。
泣いて、その日はそのまま終了。
――そして次の日。
親父は仕事でいない。
小屋から自転車を出すと、俺は一人でペダルに脚をかけて、踏み込んだ。
「やった!」
昨日の連続転倒がウソのように、俺は補助輪なしで走り始めたのだ。
本当にあっさり成功した。
昨日との違いがどこにあるのか解らない。
うれしさのあまり、そのままメインストリートに飛び出し、祖母の家まで行ってしまう。
祖母に、補助輪なしでやって来たことを自慢げに話したのだが、彼女はニコニコしているだけ。
まぁ、子どもの俺には偉業だったが、大人には日常だからなぁ(笑)
そんなわけで、この仮面ライダードレミ号とのつき合いはしばらく続いた。
村でも同じドレミ号が結構走っていたため、間違って他のガキに持っていかれる事件もあったり。
やっぱり、名前をかかないと駄目よね(笑)




