その28 熊
昭和◯◯年◯月◯日
学校の脇の林道を上って、皆で遠足に向かう。
ガキンチョがデカいリュックサック(死語)を背負っててくてくと細い林道を上っていく。
ナップサックなんて言い方もあったな。
おやつは300円まで、バナナは含まれません(笑)
当時の300円なら、今の600円~900円ぐらいか。
今300円渡されても、たいして買えないよな~。
お菓子2つ買ったら終了かもしれん。
今歩いている林道は、熊はいないと言われていたが、今は熊だらけ。
直接目撃しなくても、道が熊の糞だらけなので、すぐに解る。
崖の上に紫色のデカい花が咲いていたので、採りたくて石を投げるが……無理。
教師に「あれは毒だから止めとけ」と、言われて諦めた。
家に帰ってから図鑑を引っ張り出して、花の正体を調べた。
似たような花に「ノボタン」があったので、ずっとそれだと思っていたのだが――違った。
今なら解るが、あれは「シラネアオイ」だったな。
まぁ、そんなに珍しい花ではなかった。
林道の果てには、砂防ダムが作られている。
そこが最終地点――というか、その砂防ダムが作られたときに作られた林道だからな。
その他、伐採のために作られた林道が多数ある。
すべてを走ったことはないが、結構自転車で走り回った。
今は熊だらけなので、無理。
あっちもこっちも熊だらけ。
どうしてこうなった。
まぁ、獲る人がいなくなったからなんだが。
昔沢山いたハンターは、歳で引退。
若い人は、狩りなどにはまったく興味を示さない。
そりゃ、ハンターは減る。
定期的に駆除は行っているので、減ってきてはいるのだが……。
昔から、「あそこの山には熊はいない。あそこは駄目」という感じで、村人に情報が共有されていた。
熊ってのは、テリトリーの生き物なので、だいたい住む場所が決まっていたわけだ。
昨今、熊が増えすぎて、若い熊の居場所がなくなり、今までいなかった場所まで熊が現れた。
熊なんて見たことがなかった海岸沿いまで出てきたりして大騒ぎ。
それぐらい、熊の住む場所がないのだろう。
別に熊が悪いわけではないのだがね~。
そんな熊だが、昭和30年代。
熊の胆ブームが起きた。
熊の胆が、何十万円にもなるというのだ。
当時って初任給5000円とかの時代だから、10万円って今の200万円~300万円――まさに一攫千金。
村の人口の半分が鉄砲を持って、連日の山狩りを行って、熊を狩り尽くした。
まぁ、そういうことをやったので、かなり山の熊が減ったんだよね。
そこから徐々に回復して、また山の中が熊だらけになったってわけ。
でも、もう熊の胆ブームもないし、命がけで狩りをしても金にならない。
そりゃ、誰もやらんよな~。
そんなわけで、今は税金を使って公的に駆除を行っているわけだが……。
熊に襲われた話も結構ある。
山菜採りにいって行方不明になると、だいたい熊にやられたことになるし。
村に自然派みたいな家族が住んでいたことがあった。
夫婦で教員免許を持っているので、子どもも学校には通わせず自分たちで教育して、自然の中で暮らす――みたいなことをやっていた。
他にも、廃校になった分校を買い取って、完全自給自足をしている人などもいるのだが――。
まったく村との交流がないので、どうなっているのかまったくの不明。
行きているのか死んでいるのか……。
たまに近くを通りかかると、畑は耕されているので、生きてはいるようである。
その自然と暮らす自然派家族がどうなったかというと――。
山中の河原でキャンプしているときに、ヒグマに襲われて一家離散しました。
南無~。




