表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
昭和の話  作者: 朝倉一二三


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/52

その22 自由研究


 昭和◯◯年◯月◯日


 夏のさなか、寺に行く。

 母方の実家が檀家になっている寺なのだが、鬱蒼とした森に囲まれている。


 森の中に入ると、会話ができないぐらいの蝉時雨。

 マジで、どこにこんなにいたんだってぐらいの蝉が鳴いている。


 そんなわけで、蝉を採りに行くのだが、採れたことがない。

 かなり高い場所で鳴いているので、ガキンチョには難しい。


 よく本では、長い竹竿の先にトリモチをつけて取る――みたいなことが書かれているのだが、トリモチなるものは売ってないし、見たこともない。


 今なら、ネットでググれば、虫の採り方みたいな情報が沢山出てくる。

 あれだけ立派な森なら、虫トラップを作れば沢山採れて、ヒーローになれたに違いない。


 森の中には、小さな池があり、春には黄色い花のエゾノリュウキンカが咲いていた。

 まぁ、花の名前を知ったのは、大人になってからだが。

 ガキの頃には、花の名前はどうでもよかったし。

 蘭やキノコも沢山生えていたのだが、ガキの俺には食指が動かず。


 ――そんなある日の夕方。

 いつものように、寺の森で遊んでいた。

 空も赤くなってきて、そろそろ帰ろうと思っていたのだが――大木の根本でなにか白いものが見える。


 近寄ってみると、大木の脇芽にしがみついたアブラゼミの幼虫だった。

 一面緑と茶色なので、白いのが目立つ。


 幼虫も茶色なのだが、すでに背中が割れて、中の白いものが露出していたのだ。

 俺は脇芽を折ると、そのまま家に持って帰った。


 親に見せる。


「羽化の様子を自由研究にしたほうがいいんじゃない?」

 と、言われて、そうすることにした。


 まずは、玄関に置いて写真を撮る。

 今ならスマホで簡単に写真を撮れるだろうが、昭和の時代はフィルムカメラ。

 家で使っていた、キヤノンのダイヤル35というハーフカメラを持ってきた。


 ――説明しよう、ハーフカメラとは?

 当時のフィルムは高かったので、普通のフィルムを半分だけ写して使うというハーフカメラが登場した。

 フィルムに半分だけ写して、次は残りの半分を使う。


 すると、なんということでしょう~。

 12枚撮りのフィルムで、24枚撮れるではありませんか~。


 まぁ、解像度は半分になるので、画質は落ちるんだけどね。

 それでも、普通の観光地のスナップ写真などは、それで十分だった。

 そこに行ったという証拠がのこれば満足だった時代だし。


 そんなカメラで、羽化している蝉を撮りまくった。

 当時のカメラはその場で確認などできないから、上手く写っているかどうかも解らない。

 そもそも、接写できるようなカメラじゃないし。


 撮影していると、みるみる白く輝くエメラルド色の身体が出てきて、最後には自分の殻にぶら下がった。


 写真を撮り終わりそのままぶら下げて置く。

 翌朝には、白かった蝉の身体は茶色になり、いつものアブラゼミに変わっていた。

 そいつを掴むと、外に出る。

 朝もやの中で、蝉を放り投げると、ジージー鳴きながら飛んで行った。


 写真はすぐにカメラ屋に行って、現像してもらう。

 普段は、フィルムを撮りきらないと現像しない。

 5年ぐらい放置とかも普通にあった。

 忘れた頃に現像に出して、「あ~、こういうのもあったね~」みたいな感じが常だった。


 現像代が高いからだが、今回は「勉強のため」という大義名分がある。

 親も高い金を出してくれた。


 1週間ぐらいして、写真を取りに行く。


 プリントを見れば、なんとかエメラルド色の蝉が写っていた。

 ボケボケの写真ばかりだが、まぁ形は解る。

 でも、嬉しかった。


 大きめの模造紙を買ってくると、できあがった写真を貼り付けて、経過を書き込む。

 それを持って学校へ行き、教師に見せると、教室の後ろに貼ってくれた。


 俺も得意げだった。

 ――という、ガキの俺の自由研究だったのさ。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
自分がやった自由研究で覚えてるのは、かまぼこ板2枚と発泡スチロールくっつけて周りに段ボールの胴体というか囲いを貼り付けて底にマブチモーターくっ付けて軍艦もどきを作ったくらいです。
自由研究……小学校二年生の時に町役場の図書室に通って郷土史をまとめた研究が評判良かったのに味をしめて、街の学校二つ目に転校した小学校五年生の時も市立図書館に通って郷土史をまとめて高評価を貰ったのが一番…
キヤノンのダイヤル35というと、確かゾーンフォーカス。 一眼レフと違ってファインダーを覗いてピントを合わせることができず、撮りたいものに合わせて近中遠をダイヤルで選択する方式だったかと。 後の使い切り…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ