第十一話 お化け電車に乗り込む宝石ヒーローたちの一夜
やあ、こんばんは。
僕はツキモリジェムズのイエローダイヤモンド。
僕は今、お月様からの指令で電車を待っているところさ。
一緒にいるのは、ジェレメジェバイトとハックマナイト。今夜はこのメンバーによる出動で、廃線となって誰もいない駅のホームに立っている。
するとそこへ控えめな音を響かせた電車が、律儀に残された線路を走って入線してくるのが見えた。
「来ましたよ、お化け電車。私、こういうの苦手なのに……」
ちょっと怖がりなハックマンが、身をすくめながら腕をさする。
「今回は特に、ハックマンの分析能力が必要なんだ。僕らもついてるから、頑張ろう!」
ハックマナイトは色が変わる宝石だから、ツキジェムの彼は状態変化に強いんだよ。状況などの分析が得意なのは、その影響だね。
僕が努めて明るくハックマンを励ますと、ジェレも苦笑してそれに続く。
「瘴気の重さと濃さが凄いよね、あれ。俺も乗りたくないけど、自分の能力が向いてるのは分かるよ」
ジェレメジェバイトは、清廉な透明感が印象深い希少宝石なんだ。だからジェレは、浄化能力が抜群に高い。まさしく、ネガティブエネルギーの塊である瘴気駆除の要だね。
そんな会話をしているうちに、件の電車が僕らの前で停車した。
だいぶ年季の入った外観の車両は、やはりというべきか不気味で陰鬱な雰囲気が漂っている。お月様に聞いていた通り、電車は瘴気によって形作られていた。
この電車は、迷い彷徨う人間を惹きつけるらしい。乗り込んだと思われる人々は総じて行方不明になっている。外から攻撃して電車を葬ってしまえれば良いんだけど、そうすると乗車した人々の手がかりがなくなってしまう。
だから僕らがこうして、瘴気の電車の内部へ調査に向かおうとしているんだ。
綺麗に停車位置の所で止まったドアが開き、僕は皆と顔を見合わせる。
「行くよ!」
そして意を決し、僕らは瘴気が滲む電車の中に足を踏み入れた。
「うわあ、閉まった……」
プシュー…と電車らしい音を出して閉まるドアに、ハックマンが眉をひそめる。一応は電車だから客が乗った後に扉が閉まるのは普通だと思うけど、きちんと乗り込むまで待つ所や、最後が静かな閉まり方とかが、何だか本物の電車みたいに感じられた。
「人間が乗っちゃうのも、ちょっと分かるかな。瘴気の発生源の気質が表れてるよね」
そんなジェレの言葉に、僕は車内に広がる中吊り広告を眺めながら応える。
「繊細で優しくて丁寧で……いつも全力なところ、僕は凄く好きだよ」
「優しいから余計に、澱みを溜め込んでしまう訳ですね。でも具現化されるのは、世界の勝手な仕組みですから。そう、仕組み……」
不意に窓の外を見やったハックマンが、途端に青ざめた。真っ暗闇の向こうから、血走った人間の眼球が幾つもこちらを睨みつけている。電車は走っているのに、眼球たちはその場から動かない。
「ハックマン、落ち着いて。外の景色は本物じゃないよ」
流石に僕もビックリしたけど、ここは瘴気の中だ。どんなモノが現れても不思議じゃない。
「ダイヤくん、ハックマンくん。見て、これ」
そこへジェレが何かに気づいたようで、僕らを呼ぶ。彼が指し示す座席に目をやれば、そこにはスマートフォンが置かれていた。少し視線をずらすと、子供のものと思しき靴が片方だけ放り出されている。
「持ち主はどこに……?」
僕が眉をひそめた時、ハックマンが声を荒げた。
「ダイヤさん! スマホの持ち主の『存在』が、瘴気に飲み込まれています……!」
「えっ! ということは、この電車に人間たちが融けちゃってるの!?」
「そうなりますね。ただ、辛うじて本来の『存在』は残っていますから、完全に融合してはいません」
言いながら周囲を探るハックマンの横で、ジェレがすっと目を細める。
「うん。とても小さいけど、綺麗な命の光を感じるね。だから――」
そして言葉を切ったジェレの視線の先で、どろりとした黒い瘴気の塊が首をもたげた。
「そうじゃないモノは、すぐ分かるよ!」
そこにすかさずジェレは、美しい青色の光線を放つ。こちらに襲いかかろうとしていた瘴気は、あえなく一瞬で霧散した。
「あっ……『クリア・セレニティ・ジェレメジェバイト!』」
「ジェレさん、真面目ですねえ」
「技名叫ばないと、攻撃した気がしないじゃない?」
「分かる、ジェレ。やっぱりヒーローは技を叫んでこそだよね!」
「……今日の任務、お二人と一緒で良かったですよ」
何故か苦笑するハックマンは、いつの間にか普段の落ち着きを取り戻している。
「お陰様で瘴気の流れが読めました。人間のエネルギーと混ざっていて分かりにくかったですが、先頭車両に『心臓』がありますね」
ハックマンの言葉を受けて意識を集中させると、確かに先端のほうで瘴気の核のようなものを感じた。
「よし、行こう!」
僕らは急いで電車の連結部を幾つか通り抜け、先頭車両に到着する。
通常なら運転席があるであろう辺りには、大きく、どす黒く、ねっとりしたネガティブなエネルギーの塊が鎮座していた。
「……不安な心は更なる不安を呼び寄せる、か」
瘴気の核を前にジェレが呟けば、ハックマンが彼の隣りに並んで応える。
「連帯や共有自体は悪くない訳ですけど、手に負えなくなることも多いっていうのが何とも……」
瘴気は、ネガティブエネルギーの塊だ。
そのネガティブエネルギーを放出しているのは、ネガティブな感情を宿すモノたち。あふれ出たそのエネルギーは意思もなく漂い、時に混ざり合って嵩を増し、どんどん巨大になっていく。それが巡って発生源のモノたちに害を与え、再び瘴気が生まれる。
いつまでも終わらない、負の循環。
「だから、僕らがいるんだ。たまに気持ちが沈むことだって、世界の自然な反応さ」
僕はそう二人に声をかけ、掌を瘴気の核に向ける。すると意思を持たないはずの瘴気が何かを察したのか、もぞもぞとうごめき出した。
「ハックマン、核とその近くに人間はいる!?」
「核の中にはいません! でも電車部分には『存在』を感じます……!」
「それなら、ジェレ! 君の浄化能力でバリアを張って、電車を核からの影響と僕の攻撃から守って!」
「分かった!」
そして僕の作戦を聞いたハックマンは、すかさずジェレの背に手を触れる。ハックマンは状態変化に強い。だから、状態を安定させる力も有しているんだ。
ハックマンの援護を受けたジェレが、一切の不浄を寄せつけない清らかなバリアを広げる。それを確認した僕は、渾身のエネルギーを込めて叫んだ。
「シャイニング・イエローダイヤモンド!!」
電車やジェレのバリアを傷つけず、瘴気の核だけを消し去るように。
僕が放った黄金色の光線は瞬く間に瘴気の核を包み込み、圧縮するかの如く、核を漏らさず握り潰す。
核の影が失せたのを見届けた瞬間、僕らは電車ごと真っ白な空間に飛ばされた。
「……あれ?」
気がつけば僕らは、早朝の静かな駅のホームの端に佇んでいる。電車を待っていた廃線の駅ではなく、現在も利用されている駅だ。瘴気の電車は消えていて、本物の列車が始発を待機しているのが見える。
「清々しい空気だね。近くに瘴気の気配は感じないよ」
ジェレが安堵してそう言うと、ハックマンも頷いた。
「ホームのベンチで寝てる人たち、お化け電車に捕まってた人間ですよ。皆、無事のようですね」
「そっか、良かった。でも、電車はどうなったんだろう?」
「ダイヤくんの攻撃が電車側の瘴気にも伝わって、消し飛んだんだと思うよ。俺がバリアで守ってたのは、人間のエネルギーだけだしね」
「ジェレさん、器用すぎません?」
そうして僕らは、いつもの亜空間に戻ることにする。
ふと見上げた空には、白いお月様が優しく浮かんでいた。
ツキモリジェムズは、今日も平和を守っていくよ!
―第十一話 おわり―




