どらごん戦争(12)Angel Dust
全裸の女騎士達が、ひしめき合っている。
25人が浸かるには狭過ぎる。湯舟の拡張は急務じゃな。温泉宿も建てよう。
猫型魔王に嫌われた女騎士は居なかったので、全員が悪魔の湯フリーパスゲット。
猫嫌いも、猫アレルギーも居なかった。
ズンダ神獣は猫なので、近衛騎士が猫嫌いなはずはないのだ。
神獣にはツノがあるそうだが、猫なのかあ。この世界、なんでも猫か幼女だよ。
悪魔の湯の効能は、不老不死。他にも万病に効く。
女の騎士の一人が、痔が治りそうだと喜んでいる。
痔は手術で治るが、術後に3か月はのたうち苦しむのじゃ。患っている人は、今すぐ病院に行くべき。
しかし、この湯、必ずしもいいとは言い切れないのでは?
「女騎士は20歳前後じゃろ?永遠の17歳とか地獄じゃろ?」
思春期が永遠に続くなんてつら過ぎでしょ。
「石碑に効能が書いてあるでしょ?不老不死の効能だけは6歳児以下にしか効かないのよ」
「私も17歳なので、不老不死の効能はないな」
ん?
6歳児が銀行の頭取なのは、おかしいと思っていたけど。ハナちゃんは17歳だったのかあ。17歳でもおかしいけどね。
「あんた来年から学校通うって言ってなかった?」
「7歳で入行して、14歳で頭取になった。学校に行っている暇は無かった。早期リタイヤして、ニンゲンの7歳児として、やり直すつもりだった」
「あんた、もしかして魔女とか?」
「そんな上等なもんじゃないよ。天使の幼体だよ」
「天使だからと言って、今さら追い出したりしないわよ。早く言いなさいよ」
前歯折る必要なかったじゃん。折られる前に白状しておけば良かったのに。
「ああ、まったくだ」
女神、ドラゴン、魔王の幼体が居るのじゃ。
天使の幼体が居ても驚かない。
うちに揃っているのは驚きじゃが。
「天使にそそのかされて領民を大量虐殺しちゃった!税金を徴収出来ないよ!どうしよう!?」という神話に出て来る天使の名がハナだ。それにあやかって名前を付けたのだろうか。妙なものにあやかったなあ。
魔女は上等なもので、天使は忌むべきもの、みたいなニュアンスが今の会話にあったけど。
この世界の神話では、天使はろくでなしのクズで、魔女は人類を救うヒロイン、というのが多いのだ。「この神話がスゴイ」という書評集にそう書いてあった。
この世界の神話は、ほぼラノベじゃし、聖書はおおむねブログじゃ。
ハナちゃんも成体したら、人を騙すお仕事をするのじゃろうか?
「ところで、生まれた場所って」
「魔王猫を拾ったところだよ」
やっぱり。
女騎士達の湯治に話を戻そう。
キナコを、この湯に漬けているのは、PTSDの治療のためでもある。
どうやって克服したのか知らんが、彼女はこの森で殺された衝撃が後遺症になっている。
今は、片手で熊の頭を刎ねながら、森の開拓にあたっているが。
前に来た時は「こわいです」と震えていた。
「森の中で我々を倒したのは、ドラゴンです」
亡命中のコルサとキナコを森で倒したのは、ドラゴンであったことが判明。
正確には、先代のドラゴン。代替わりして、当代のドラゴンはうちの子になっている。
「コルサ様が寝ている時に、襲われました。そうでなければ、不覚をとることは無かったのですが」
「ドラゴン相手では仕方ないかと思いますが」
近くに居た、近衛騎士が言う。こいつは、ベーコンだったかな。
25人も居ると、覚えるのが大変だよ。アンとキナコみたいな、双子も居るし。
「でも、当代のドラゴンは、ドラちゃんですから。恐れる必要はないのです」
そうはいっても、PTSDは簡単に寛解するものではなかろう。働き過ぎないように配慮しよう。仕事上がりに、ここで湯治してくれ。朝風呂もいいぞ。
ところで、先代のドラゴンが、コルサ達を襲ったのは何故じゃ?
「どらごんのむらのドラゴンなら、ズンダ王家には恨みがあるだろうからねえ」
ハナちゃんの家の聖書にも、どらごんのむらの話があるそうだ。
「それ、私が知っている話とは、ちょっと違うのよねえ。ドラゴンは、当時のズンダ王女の飼い猫を殺してしまったから、ひけめを感じているはずよ」
クリームちゃんは歴史の生き証人だが、この件については伝聞のようだ。
「ズンダでは、王女が神獣をドラゴンにけしかけた事になっていますね」
さっとは違う近衛騎士だ。こいつは、レタスだったか。ベーコンとレタスは、仲が良いようだ。
「何が事実かは神のみぞ知る、ってことかな?」
ハナちゃんはそう言うが、女神であるわしが一番ものを知らない。
「結果的には、ドラゴンのお陰で助かった事にならないかしら」
「そんな気もするね?ちょーっと無理があるけど」
「あの場所で倒されていなければ、今もどこかを彷徨っているか、誰にも見つからない場所で果てていたか」
「なのよー」
楽器ケースの中に隠れて亡命したおっさんが居たが。白骨死体となって、墓の中に隠れて亡命するなんて、他の誰にも出来まい。
「既に起こった事を気にしていても仕方ないじゃろ。これからどうするかじゃ」
わしらは永遠に幼女なので、過去よりも未来の方が長い。やることは沢山あるのじゃ。




