聖なるものに飢えた王女様がふたたび蘇る(5)
お部屋探しに行ったキナコとアンは、お部屋ではなく転職先を見つけて帰って来た。
キナコは、このマンションの護衛になった。
ひとり逃げたので、欠員補充なんじゃと。
この国でブラックなのは貴族の仕事だけなので、庶民がバックレるのは珍しいね。
蘇ったと思ったら、いきなり旅立つ近衛騎士。主君である王女様へ、別れの挨拶を始めた。
「お嬢様。今日から、あなたの騎士は、この町の庶民として生きていきます。最後まで、あなたをお守りできたことが、私の栄誉です。これからも、どうかお元気で。」
そう言って、元王女に敬礼をする元近衛騎士。
でも、最後まで守ってなくない?
「キナコ。あなたは、私にとって母であり姉であり、師でもある特別な存在でした。あなたが側に居てくれたことが私の誇りです。あなたに女神リーザの御加護があらんことを。」
元王女だけあって、ちゃんと喋ることも出来るんだな。わしのことを言われたようで、うひってなったけど、エタナル教の祭神のことだよね。
今生の別れみたいになってるけど。職場は、同じ建物の中なんだよね。しかも、キナコはここから通勤するのだ。職場まで徒歩1分。職住近接、うらやましい。
なかなかの茶番でしたわ。
我が家の人事異動は、これだけでは無かった。
「しばらくお暇をいただきます。」
うちのメイドさんであるミーが、そんな事を言い出したのだ。名前呼ばないから忘れかけてたよ。だって猫呼んでるみたいじゃん。
「何事じゃろうか?」
「私には、倒さねばならぬ敵がおります。」
また、なんか物騒なことを。
「俺も一緒に行くんだぜ。」
セリカ先輩とうちのメイドさんが同じ目的で行動するなんて。おそろしい。
「コルサ様。お嬢様をお願い致します」
「わかったのー。まかせるといいのよー」
コルサに後を託すと、ミーはセリカと共に旅立って行った。明日のぱんつと、ちょっとの大金を持って。
これで、終わりではなかった。
ハナちゃんが、コルサのクレジットカードを届けにきた。よく来るなこいつ。
つやつやピンクのカード。
裏面は塗装がないけど、杢目がきれい。素材はメイプルかな。
同じ色の革のケースに入って、ブロンズカードよりも、見た目が豪華。
やっぱ、わしもそっちがいいのう。
「どうよー。なのよー。」
コルサがカードを自慢してくる。主従というより、完全に友達。その方が、楽しいからいいわ。
「コルサちゃんは、正式にここのメイドになったのかしら?」
「なのよー。えいきゅうしゅうしょくなのよー。」
わしに嫁いだみたいな言い方だな。
「あら、良かったわね。もうズンダには戻れないのでしょう?」
「あの国には、戻れない、というか戻る資格が私にはありません。私は、あの国を見捨ててしまいました。」
たまに、饒舌になるけど、これがコルサの素なのかな。というか、迂闊なこというと元王女なのばれるよ?
「そう?今、王女帰国のシナリオが進行中だから、本物が戻ってもいいのよ?」
なんだよ、ばれてんじゃん。
「そういうことなら、またズンダに行くのかしら?」
ハナちゃんの物騒な話にクリームちゃんが参加する。
「いいや。今度はターマに行くんだよ。カステーラ家に手紙を届けるくらいのことならするよ?」
「お願いできるかしら?ただ訪ねてくれるだけでいいわ」
「なんか、おもしろそうな事企んでるのかな?一緒に行こうか」
腹黒幼女共は、謎の意気投合をすると旅立った。
アンは文句も言わずに、明日のパンツを鞄に詰めると、クリームについて行った。せっかく姉に再会出来たのにね。
我が家の人口密度は飽和しかけたと思ったら、直後にすっかすかに。
怒涛の人事異動じゃった。
妹と区別してもらうために縦ロールをとったキナコが、呆然と立ち尽くしていたよ。




