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自作小説倶楽部 第13冊/2016年下半期(第73-78集)  作者: 自作小説倶楽部
第78集(2016年12月)/「初雪」&「ケーキ」
40/43

05 E.Grey 著  ケーキ 『源平館主人7 公設秘書・少佐』

   //粗筋//

.

 衆議院議員島本代議士の公設秘書佐伯祐は、長野県にある選挙地盤を固めるため、定期的に彼の地の選挙対策事務所を訪れる。夏のある日、空き時間で、婚約者・三輪明菜と混浴温泉デートをした。訪れた温泉宿は、源平館だ。二人が湯から上がったところで銃声がして、駆けつけてみると、宿の主人が密室になった一階書斎で、拳銃を握っているのが分かった。被害者の身内三人が容疑者として浮上した。

    07 ケーキ

.

 様式美を誇る推理小説では、ここらで会議をやって、容疑者たちの動機を明確化する場面となる。もちろん名探偵な佐伯はそういう手順を外さない。

 佐伯と私とは源平館旅館一階にある書斎に通された。続いて真田巡査部長、それから殺された津下吉秋氏の養子・津下明が部屋に入った。事件現場はすっかり片付けられていて、カーペットには血のりすらも気にならないほどに拭き取られていた。リビングセットの椅子には、女将の津下夫人と被害者の弟で番頭の次郎氏が待っていた。

呑気なものだ。殺人が行われたのだから、客足は遠のくに違いない。饅頭屋の試作品なぞの心配よりも、これからどうするかを心配したほうがいいと思うのだが。

 明智小五郎をきどったスーツ姿の佐伯が一同を見渡していった。

「お忙しいところをお集まりいただきありがとうございます」

 よくいうよ。みんな暇だ。

 女将が、近所の饅頭屋が新商品で、抹茶の蒸しケーキを試作したので持ってきたといって、テーブルの上に置き、お茶を注いだ。事件捜査と旅館主人の殺害があったのだ。営業はできない。葬儀のあと、旅館の従業員たちは自宅待機になっていたから、女将と番頭は暇だ。また、容疑者の津下明青年は長野県警の拘置所にいるから輪をかけて暇だ。

「明菜ちゃん、常套句というものじゃよ」真田巡査部長が小声で私をたしなめる。私の独り言をしっかりチェックしていた。やるな。真田さんの横に立っている明青年は、手錠が掛けられていた。

佐伯が本題へ切り出した。

「――ここにおられる皆様は、源平館で発生しました、津下吉秋氏の変死に少なからず関わっている。この会議のコンセプトは、皆様一人一人が犯人だとして、源平館主人を殺害する動機をシュミレートする必要からです」

 女将と番頭が立て続けに文句をいった。

「私は、殺された津下吉秋の妻ですよ。何で疑われなくちゃならないんです」

「事件はそこにいる明が逮捕されたことで解決したのでは?」

 真田さんが、鍵を取りだして、明青年の手錠を外した。

「明君、佐伯さんと明菜さんが駆けずり回って、おまえさんが父上を殺害する動機を潰してしまった。もっとも容疑者であることには変わりないが、拘留期限も過ぎたから保釈だ」

「僕は無罪じゃないんですね」

「贅沢いうな」

 椅子に腰かけた、ずんぐりした番頭が口角を尖らせた。

「すると私と女将のどちらかが犯人とでも?」

 番頭の横にいた女将はどぎまぎした顔で、湯呑みをひっくり返した。

 佐伯がいった。

「明青年は確かにギャンブラーだが、仲間うちにいわせると、もはや職人芸の域に達しているってことで、養子が解消され、旅館の後継ぎになれなくても、食いっぱぐれることはない。旅館に依存しなくても金に不自由していない。――そこでアングルを反転させる。そんな明青年が旅館の主になったとしましょう。女将さんと番頭さんとの立場はどうなるか?」

 佐伯が女将のほうに目をやる。

女将は、京の舞妓を人形にしたような、しゃなしゃなとした色香が漂っている。佐伯と目が合うとちょっと上気したかのように頬を赤らめた。――オバサン、あなたねえ、いまの自分の立場が分かってんの?

「女将さん、あなたは無意識のうちに男どもにモーションをかける癖がある。その気になった連中のなかには、人気のない部屋に無理矢理連れ込んで押し倒したこともあっただろう」

「ひどい」女将は涙を流した。――さすがにここは女将の肩をもちたい。佐伯の脛に軽く一発蹴りをくれてやる。佐伯君、軽くやったのにどうして、そんなに大げさに跳びはねるのだね。

 そこで退職間際になった、真田さんが口を挟んだ。

「旅館従業員、出入りの連中、みんな噂しておる。女将と番頭はできているってな――」

「根も葉もない話だ」番頭が顔を真っ赤にして怒鳴った。

「壁に耳あり障子に目あり、誰も知らないと思っているのは本人だけ」

「叔父貴と〝兄弟〟に……」そうつぶやいたのが明青年だ。

「そういう証言もあった」真田巡査が無慈悲にいった。

 佐伯が煙草を懐中の取りだして、一本を真田さんに渡し、ライターで火をつけ一服すると、少し遠い目で三人の容疑者を見渡してにいった。

「つまり、源平館主人・故津下義秋氏は、三人の関係に気づいてしまったのさ。明君と養子解消をしたいといったのは、夫人と明君が空き部屋で密通しているところを偶然にみてしまった。――明君は立場が弱いが金には困っていない、ごめん、じゃあ出て行くよとなったはず。しかし問題は番頭さんとの逢瀬はいけない。肉親だから揉めた」

 番頭は上げた拳を振り下ろせなくなったまま沈黙した。

「そして殺したのか?」真田さんがいった。

「やってない」

 一同の表情をじっくり観察していた佐伯が、煙草の煙をドーナッツ形に吐き出し、女将にいった。

「今度はあなたの立場。義秋氏は、物事の筋目を通すタイプだったって、旅館の旦那衆が証言している。義秋氏は、あなたにベタ惚れだが、バレたら離婚になるのは必定。するとこれから路頭に迷うことになるわけだ。しかし、ここでご亭主が死んだ場合はどうなるか。番頭さんと再婚して女将を続けるのもよし、旅館を畳んで浮いた資産をつかい、どっかの町で小料理屋を開くのもよしというところかな」

「でたらめいわないで。じゃあ、夫が握っていたあの拳銃、あれはどう説明するんです。女の私が暴力団から買ったとでもいうの?」女将は泣きじゃくりながら佐伯に抗議した。

 探偵小説だと、あくまでも可能性の一つを述べてみただけです。捜査の上でのお約束ですからね。とでもいう場面だった。――トリック解明は次回。

     つづく (※第7/9話まで了)

  //登場人物//

.

【主要登場人物】

佐伯祐(さえき・ゆう)佐伯祐(さえき・ゆう)……身長180センチ、黒縁眼鏡をかけた、黒スーツの男。東京に住む長野県を選挙地盤にしている国会議員・島村センセイの公設秘書で、明晰な頭脳を買われ、公務のかたわら、警察に協力して幾多の事件を解決する。『少佐』と仇名されている。

三輪明菜(みわ・あきな)三輪明菜(みわ・あきな)……無表情だったが、恋に目覚めて表情の特訓中。眼鏡美人。佐伯の婚約者。長野県月ノ輪村役場職員。事件では佐伯のサポート役で、眼鏡美人である。

●島村代議士……佐伯の上司。センセイ。古株の衆議院議員である。

●真田巡査部長……村の駐在。

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【事件関係者】

●津下吉秋……源平館主人。被害者。

●津下夫人……吉秋夫人、源平館の女将。容疑者。

●津下次郎……吉秋の弟、番頭。容疑者。

●津下明……吉秋夫妻の養子。容疑者。

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