04 柳橋美湖 著 初雪 『北ノ町の物語』
【あらすじ】
東京のOL・鈴木クロエは、母を亡くして天涯孤独になろうとしていた。ところが、実は祖父がいた。手紙を書くと、お爺様の顧問弁護士・瀬名さんが訪ねてきて、北ノ町に住むファミリーとの交流が始まった。
お爺様の住む北ノ町。夜行列車でゆくそこは不思議な世界で、行くたびに催される一風変わったイベントが……。最初は怖い感じだったのだけれども実は孫娘デレの素敵なお爺様。そして年上の魅力をもった瀬名さんと、イケメンでピアノの上手な小さなIT会社を経営する従兄・浩さんの二人から好意を寄せられ心揺れる乙女なクロエ。さらには魔界の貴紳・白鳥さんまで花婿に立候補してきた。
このころ、お爺様の取引先であるカラス画廊のマダムに気に入られ、秘書に転職。
そんなオムニバス・シリーズ。
31 初雪
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クリスマスはカラス画廊のマダムと親しい人たちと過ごす。離れて暮らしている、マダムのお子さんとそのご家族、お得意様、新しい顧客を紹介にきた関係で、瀬名さんが五階ホールでのパーティーをした。不肖、私が司会進行役。ちょっととちりながら、大任を果たしました。
マダムが、亡き母の実家・北ノ町をご覧になりたいとおっしゃるので、お連れしたい旨をいうと、電話のむこう側にいるお爺様は、ぜひお連れしなさいといってくれたのでお誘いしてみました。そうそう、北ノ町には、もう一人。守護天使の護法童子くんを連れた、瀬名さんもご一緒してくださいます。
上野発の夜行列車に乗り、コンパートになった寝台室の車窓から外をみると、赤や青のネオン、それから黄金食のイルミネーションが華やかに点灯していた。道路を行き交う自動車はゆるやかなのだけれども、それでもせわしなく感じました。私たちはラウンジ風になった食堂車で、欧風カレーを食べ、それから軽く飲み物を飲んで時を過ごしました。
マダムの装いは黒調でナポレオンハットと毛皮のコート。私はといえば、ブラウンのウシャンカ帽に、ニットのロングスカート、ジャケットを羽織っています。なんといっても冬の北ノ町ですからね、防寒対策はしっかりしないと。マダムからのクリスマスプレゼントは、シックですてきなブーツ。これなら雪道で歩いても平気平気。
山間部の地方都市を抜けるとき、スキー場・ゲレンデの光がさながら天国へ昇るの階段のよう。
午後八時を回ったころ、車掌さんのアナウンスで、
「本列車は、星ノ町駅で、後ろから三両の列車切り離し作業を行います。三十分ほど停車いたします」
星ノ町駅から先は乗客が少なくなるので、十両編成列車のうちの三両を切り離すのだとか。
瀬名さんとマダムはホームでシガレットタイム。
その瀬名さんの守護天使・護法童子くんは、私の手をとって、ホームにでて行き雪合戦。みかけ小学生くらいの護法童子君は、ニットキャップにジャンパーの格好。ぷっくらした頬っぺをしている。
雪は、ホームで十センチほど積もっていて、ランプに強くなってきたそれが、白く反射していました。
護法童子くんの雪玉は、けっこう反則。ふつうストレートでしょ。フォークとかナックルとかはやめて、変化球はなし。私、雪まみれ。
列車に戻るとき、切り離しをされる、列車の前を通ったとき、中がみえました。その三両は、寝台車ではなく、木調のクロスシートのボックス席になっていました。そこに女の子がポツンと一人だけいて、私をみつけると、ハッとした顔で、曇った車窓に小さな両手をつけたのです。
あなたにはどこかで遭ったことがある。――どこかで……そうだ。湖に臨んだ北ノ町一ノ宮神社にいた、白地に赤の斑がついた浴衣の女の子。神社の宮司夫妻の娘さんで〝障り神〟のために神隠しになっている、あの子だ。ここでは、ロール帽に、ケープ、下は膝丈のワンピースという格好だった。私をみつけて窓を叩いている。私はその車両に入ろうとしたのだけれども、ドアが閉まっていて入れない。そのうちに、切り離された三両は青い電気機関車に牽引されて、どこかに回送されていった。私はただ見送るしかありません。
護法童子くんと列車に戻った私は、無力でしょげてみえたのでしょうか、喫煙所で瀬名さんと並んで一服なさっていたマダムが戻ってきて、そんな私に声をかけてきました。
「ここで切り離して回送される列車って、たまに乗客が乗っていることがあるって噂をきいたことがある。ふつうは降りなきゃ駄目でしょ。それがなんでかしらね。……クロエさんのお爺様と亡きお婆様が若かったころ、私たちもご一緒して旅行したことがあって、この星ノ町駅で、あなたと同じような体験をしたことがある。あれはねきっと――」
「あれはなんですか?」
「たぶん、障り神の回送車。神隠しにあった人が異界へむかうもの……」
私は急に寒気とめまいを感じた。もしかすると、風邪をひいたかもしれません。
それではまた。
by Kuroe
【シリーズ主要登場人物】
●鈴木クロエ/東京暮らしのOL。ゼネコン会社事務員から画廊マダムの秘書に転職。
●鈴木三郎/御爺様。富豪にして彫刻家。北ノ町の洋館で暮らしている。
●鈴木浩/クロエの従兄。洋館近くに住む。
●鈴木ミドリ/クロエの母で故人。奔放な女性で生前は数々の浮名をあげていたようだ。
●寺崎明/クロエの父。公安庁所属。
●瀬名武史/鈴木家顧問弁護士。
●小母様/お爺様のお屋敷の近くに住む主婦で、ときどき家政婦アルバイトにくる。
●烏八重/カラス画廊のマダム。
●メフィスト/鈴木浩の電脳執事。
●護法童子/瀬名武史の守護天使。
●白鳥玲央/美男の吸血鬼。




