姉妹ですか? 前編
改行設定を間違えていたため読みにくかった思います。申し訳ありません。
改行設定の見直しと誤字脱字の報告していただいた分の修正しました。
グランダーレ帝国の12ある騎士団。その12番目の団の団長セルティナ。齢31という若さと女性で団長に就任することは極めて珍しい。そもそも11までしかなかった騎士団を新たに1つ増やしその団長となったのがセルティナなのだ。
たしかに剣の腕前は騎士団の団長を務めるに相応しいものを持ってはいるのだが、セルティナ以外にも同等かそれ以上の剣の腕を持つ者も他にもいたのだ。
ではなぜセルティナなのか。簡単なことであった。その優れた容姿と性別である。軍の上層部はセルティナを一種の広告塔として第12軍の団長に任命したのだ。突如として現れた英雄のように民衆には言い伝え支持を得ようというのだ。
確かに民衆には好評ではあったが軍の一部では彼女を妬む声も少なからずあった。もちろんセルティナ自身もそういった軍の思惑があることや周りの評判などもよく知っていた。
決して気持ちのいいやり方ではないとは思ったがそれが軍の、帝国の役に立つならばと団長へと就いたのだ。
結果的に彼女は団長の権限で諜報活動の傍らに部下達に妹の所在を知らせてもらうことができたので感謝はしていた。ただ最後には残念な知らせを聞くことになったのだが。
そしてセルティナは高山のダンジョンが出来た森への本格的な調査が開始されることを機にその調査隊へと名乗りを上げてここまでやってきたのだ。
森に住む者達を下手に刺激しないために人数を絞りやってきた先行偵察部隊は団長のセルティナ、副団長のシェイクを含む精鋭約50名。
脅威となりうるダンジョンの調査と部下には誤魔化していることに若干の負い目を感じながらも彼女の本当の目的である『バベルの塔』へと侵攻を開始したのだった。
「変わった連中?」
「ええ、今まではとは違い皆さんが揃った鎧を着ています。まるで西洋の騎士のような」
高山に呼ばれダンジョン内を映すモニターの前にやってきたアイリは驚愕する。
「騎士のようなじゃないわ。間違いなく彼らは帝国の騎士よ!」
(でももう国が軍を動かすなんていくらなんでも早すぎる。近隣の村を襲った訳でもないのに。知名度だってようやく冒険者に知れ渡ったぐらいで軍がわざわざ騎士団まで動かすなんて)
「アイリさん彼らは強いのでしょうか?」
ふと考え込んでいたアイリに高山が声をかける。
「そうね。今までの冒険者達なんかとはレベルが違うはずよ。それに見てのとおり数が多いわ」
入り口から入ってきた騎士達はおよそ50人。今までの冒険者達は多くても十数名のグループだったのだ。
「アイリさん、今ダンジョン内にいる冒険者達をボスのフロアに誘導してください。フェンリルさんとナイアスさんは4階のフロアで待機を」
珍しく高山からの迅速かつ的確な指示にアイリは驚くがすぐに言われたとおりに配置をする。
普段ならじわりじわりと削った後にボスで止めを刺すのだが騎士達の進行速度がわからない今、先に進む冒険者達と近づくと不利だと判断した高山は冒険者達を早々に倒すように手配する。
今までにない大人数の侵攻でダンジョンの機能がどこまで通じるのかはわからない。
「それからイリアさん」
(ようやくダンジョンマスターとしての自覚が出てきてのかしら)
そう感心するアイリ。
「お茶にしましょうか」
「かしこまりました」
その場で転びそうになるのをアイリは何とか踏みとどまる。
「あんたねぇー! 少しは見直しそうだったのに!」
「まぁ焦っても仕方がありませんからね。1時間や2時間であがってくるわけでもありませんから」
ハハハと笑う高山に釣られ、溜息と共につい口元を緩めてしまったアイリはハッとして表情を引き締める。
「いつでも動けるように準備はしときなさいよ!」
セルティナ達は入り口で隊形を整えるとダンジョンへと侵攻を開始した。今までの冒険者達もしっかりと連携のとれたグループはあった。それは何度も同じ面子で戦闘を行ってきた彼らの知恵と経験に基づいたものだ。
それに対してセルティナ達が行うのは訓練された連携だ。様々なパターンを想定して行われた訓練を元に彼らは着実にダンジョンを進んでいく。
地下1階部分は砂漠地帯を選んだ彼らは突如として現れるスケルトンや地面から襲い掛かるマミー達を冷静に対処していく。
冒険者達に比べ幾分か慎重と思われる速度だが確実に進む彼らは大きな被害もなく地下1階のボス『ゴーレム』の元へと辿り着いた。
無難に立ち回る彼らだったが剣が主体の騎士達はゴーレムのその硬い体に思うように刃が通らず攻めあぐねていた。
それを見かねたセルティナが剣を抜こうと柄に手をかけたとき、それまで周りに指示を出していた副団長のシェイクがそれに気付く。
「団長の手を煩わせていいのかお前達!」
周りに檄を飛ばすと気合一閃。ゴーレムの足を切り落とした。頼もしい副団長の活躍にセルティナは抜きかけた剣を鞘へと納める。
後は副団長の檄に応えた団員達によりゴーレムは機能を停止させるのだった。
「今日はここまでのようですね」
モニターの中に映る騎士達は1階のおよそ7割ほど進んだところで程よい広さの部屋を制圧するとそこで野営の準備を始めていた。
(少しは削れると思ったのですがねー)
怪我人らしい怪我人を出していない騎士達の様子を見て高山は頭を悩ませる。
「ご主人様も今日の所はお休みください。モニターは私が監視していますので」
私は睡眠は特別とる必要はありませんのでというイリアと徹夜なんかして倒れられたら困る! というアイリの言葉に促されて申し訳なさそうに高山は自室へと向かうのだった。
----騎士団突入2日目----
セルティナ達は攻略再開早々に1階のボスのフロアに到着。これをすんなりと撃破する。
2階のアイリ曰く「おばけ屋敷」にもまったく動じることはなく明かりを持つものを中心に着実に進軍する。
(これは訓練されているのもあるのでしょうが、知っていたと考えるのが妥当でしょうかね)
あまりに的確な侵攻を続けるセルティナ達の姿を見て高山はそう考える。
事実、セルティナは町であったダラスという男にこのダンジョンの構造を詳しく聞いていた。そして大きな狼と水を操る少女がこのダンジョンの要であるということも。
影の中から突如として現れるシャドーも天井に潜むアラクネーも事前にその存在を知られていては本来の効力は発揮できない。
それでも初日とは違い幾人かの負傷者を出すことはできていた。
2階のボスフロアで待ち受けるのは死霊系モンスターの中で上位に位置するリッチだ。
リッチ本体の戦闘能力は特別脅威というわけではない。厄介なのは「死霊召喚」と呼ばれる特殊能力にある。ワイトやスケルトン、ボーンナイトといった下級の死霊系モンスターを次々と召喚するのだ。戦闘時間が長引けば長引くほどその威力を発揮する。
こういった手下を呼び出すタイプのモンスターを攻略するならば本体の素早い撃破が必要となる。
もちろんセルティナ達騎士団もそのことは理解している。そしてリッチ自身も自分が倒されないように身の回りには通常召喚するモンスターより上位にあるスケルトンナイトを配置してある。
一点突破でリッチを倒して短期決戦に持ち込みたい騎士団と騎士団の初撃を受けきりリッチの召喚能力による数の力で圧倒したいリッチ達。
騎士団は怪我がなく比較的余力のある者を前衛に隊列を組む。対するリッチ達は騎士団の突撃を受けるべく先頭のスケルトン達が盾を持ち腰を低く落とし衝撃に備える。
副団長のシェイクがセルティナに目配せをするとセルティナは静かに頷く。それを確認したシェイクは声を高らかに叫ぶ。
「全軍突撃ー!!」
シェイクの号令で騎士団は気合の雄叫びと共に待ち構えるスケルトン達へと突き進む。
派手な衝撃音が響き渡りスケルトン達が吹き飛んでいく。
「このまま突き進めぇー!」
最前列を突破されたスケルトン達はなんとか騎士団を止めるべく槍や剣を突き出すが致命傷を与えることは出来ず勢いのままに突破されていく。
足を止めるわけには行かなかった。もし足が止まれば数で勝るスケルトン達に前後左右を挟まれてしまうのだ。いくら個々の能力が騎士達の方が高いとはいえ一気に窮地に立たされる。だから前へ前へと突き進むのだ。
順調に進んでいると思われた騎士団の突撃だが、隊のやや後方で周囲を警戒していたセルティナがまず気付いた。
リッチの能力でぽつりぽつりと地面から湧いて出てくるスケルトン達とは別に突如として左右から多数のスケルトン達が現れたのだ。
「伏兵!? いや、しかしこの数は多すぎる」
ふと思考を巡らせたセルティナは1つの可能性に気付く。
「足を止めるな! 前に進め!」
セルティナより僅かに遅れて騎士団の面々も出現した多数のスケルトンの存在に気付くとその驚きと共に足が止まりかける。セルティナの声により完全に足が止まることはなかったがそれでも始めの勢いはなくなってしまう。
(やってくれたな。ダンジョンマスター)
彼女は小さく舌打ちをすると前線を立て直すべく前へ向かうのだった。
(なんとか78体召喚できましたか。これで諦めてくれればいいのですが……)
モニターの向こうで戦う騎士団の様子を見ながら高山は1つ息をつく。
そう、騎士団の左右から現れたスケルトン達はリッチの能力とは別に高山がダンジョンの機能として召喚したものである。
昨日の騎士団の侵攻する様子をみた高山はこのリッチのフロアまで確実に到達するだろうと予想した。騎士団が辿り着くまでの時間とそして疲労と傷。何かを仕掛ける場所としてはちょうどいいと考えた高山はその時から延々とモンスターを召喚し続けたのだ。
(思ったよりも騎士団の皆さんは消耗してないようですがね)
ダンジョンの機能としてある召喚は無制限に出来るわけではない。まずはポイントの消費。そして待機時間だ。
待機時間とは呼んで字のごとくモンスターを1匹召喚した後に次のモンスターを召喚する際に待たされる時間のことだ。
他にも侵入者の傍にモンスターを召喚できないといったルールが存在する。これらは高山などダンジョンマスターが知る由もないことだがこのダンジョンの、あるいは世界のルールを作った者による『ダンジョンマスターの圧倒的有利』をなくすために決められたものだ。そして『侵入者の圧倒的有利』をなくすためのルールとしてダンジョン作成当初の準備期間があったりするのだ。何故どちらかの『圧倒的有利』という状態を回避させるのか。それはこのルールを作った者にしかわからない。
それはさておき、高山はそういったダンジョンのルールがあるためばらばらのフロアに少しずつモンスターを召喚するより1つの場所で待ち構えたほうがいいと考えたのだ。
そしてその策は見事に効果を表した。
勢いを失った騎士団はなかなか前に進めずにいた。前が進まなければ当然後ろが詰まり、それは左右のスケルトン達の格好の的となる。数はスケルトン達の方が多いのだ。じわりじわりと追い詰められていく騎士団。さらにはリッチの能力により数は一向に減る様子がない。
騎士団に焦りの色が見え始めたとき、これまでのダンジョン攻略ではずっと後方で待機していたセルティナが先頭に踊り出る。
「私が道を切り開く! 続けぇー!」
掛け声と共に振り下ろされた剣は衝撃波を生み前方にいたスケルトン達を一斉に吹き飛ばす。そして空いたスペースにセルティナが駆け出す。
「団長に続け! 団長を1人で行かせるな!!」
今まで戦闘に参加していなかった分、余力があったというのもあるだろう。しかし、それを差し引いてもセルティナの勢いが、剣の腕が他の騎士団とは段違いに高い。行く手を阻むスケルトン達を一太刀で切り捨てていく。
セルティナが前に出ることにより下がり始めていた騎士団の士気は高まる。そしてついにリッチの目の前まで辿り着く。
「周りは我々が相手します! 団長はリッチを!」
リッチを守るために召喚された上位種である4体のスケルトンナイトを騎士達も同じように団内でも精鋭であるシェイクを含む4人がその相手を務める。
シェイク達により身を守るものがいなくなったリッチにセルティナが肉薄する。リッチの戦闘能力は確かに特別高いわけではないが、決して弱いというわけではない。ましてや周りのスケルトンナイト4体を相手にしたとしてもリッチの方が強いぐらいには。
だからだろうか、この日初めてセルティナの初撃をリッチは受け止めた。だが受け止めたその腕は持っていた杖と共に大きく上へと弾かれ無防備となる。次の瞬間にはリッチが体勢を整える暇もなくセルティナの次の一撃がリッチの体を引き裂いた。
そしてここからの出来事も一瞬のことだった。
セルティナがリッチを切り裂いたのを見た騎士達が勝利の歓声をあげ、セルティナが剣を鞘に納めつつ腹に溜めていた息を小さく吐いた時だった。セルティナの背後の影から何かが出現したのは。
一瞬の気の緩み。それが命取りになるということはセルティナも重々承知している。しまったと思ったときにはすでに遅い。
セルティナの背後から現れた影の正体はシャドウアサシン。フロアに存在していたシャドウの上位種であり、シャドウアサシン単体でもボスとして君臨してもおかしくないほどにその能力は高い。
そのシャドウアサシンを高山はここリッチの部屋にスケルトン達を召喚する前の1匹目として召喚していたのだ。高山の本命にして切り札となる一手。
死角からの絶対に避けられないタイミング。モニターを見つめる高山達は確実にその女騎士が助からないと思って疑わなかった。
しかし、セルティナは背後から現れた何かを感じ取ると反射的にその場で体を捻るとシャドウアサシンからのその致死性の攻撃を避ける。
そして驚愕すべきは体を捻ると同時に納めかけていた剣を抜き放ちシャドウアサシンの攻撃と交差するようにその剣をシャドウアサシンの胸に突き立てたのだ。
「うそでしょ……。人の動きじゃないわ」
そう呟いたアイリの言葉に高山やイリアも同じような感想を抱いていた。
「団長! 血が!」
たださすがに完全には回避しきれなかったセルティナのその左の肩から腕にかけて浅くはないだろう傷口ができていた。
「まだだ。まだ戦闘は終わっていない! 目の前の敵に集中しろ!」
手当てをしようと近寄る騎士団を下がらせ残るスケルトン達の殲滅へと向かうセルティナと騎士団を高山達はただ黙って見ていることしかできなかった。
「ちょっとどうすんのよ! ここまで上がってくるわよ!」
「いえ、団長さんも怪我をしていますし、騎士団の方たちもずいぶん怪我人が増えています。このまま引き返すかもしれません」
「あんたはほんと楽観的なんだから!」
モニターの前でアイリと高山が言い合っているのを尻目にイリアとラウルは食事をこのモニター室へと運んでいた。
「今から作戦会議だから! ご飯もさっさと終わらせるわよ!」
というアイリの言葉で急遽モニター室で食事を取ることとなったのだ。食事ぐらいゆっくり取りましょうよという高山の提案は見事に却下されていた。
普段はモニター室にあまり顔を出すことのないラウルもこの日は足を運ぶこととなった。モニター室ではいやでも人の死を目にすることになる。いまさらラウルもそれが怖いなどと言うつもりはなかったが、もちろん見ていて気分のいいものでもなければ一歩間違えば自身も同じ運命を辿っていただろうことを考えると自然と避けるようになっていた。
そしてラウルはこの日、目にしてしまう。自身の姉の姿を。傷ついた腕を治療するセルティナの姿を。
「おねえちゃん……?」




