第四十二話 二人の従者
随分と久しぶりに私の部屋に顔を出したデューイは、私の予想以上に疲れきった顔をしていた。
「ちょ、何だその顔色。まさかまだ体調が……」
「ははは、ご冗談を。俺はぴんぴんしてますよええ本当に。ここ最近まともに仕事させてもらえてませんし」
ははははは、とデューイは空ろに笑った。本当に大丈夫なのだろうか。実は頭の変なところをぶつけたとか義足の魔道具が暴走して人格破壊を起こしているとかそんなことは無いだろうか。
ひとしきり笑って落ち着いたらしいデューイは、そのあと深々と頭を下げた。
「すみません姫様。情報、まったくつかめてません。まともな隊員並の情報も回ってきてません」
「あー、うん、そうだろうねぇ」
私の耳目としてデューイが屋敷を出入りしていたことはアルバードが把握済みだ。デューイにいくら釘を刺したとはいえ、わざわざ情報を流してくれるとは思っていなかった。当然ながら隔離されるだろう。多分異常なまでの疲労は、その情報網からなんとか情報を引き出そうとした努力の跡と見た。
「隊長は現在隊長室に軟禁状態とのことですが、どうも国王陛下と隊長の命を受けて秘密裏の作戦が動いているよう……ですが、それに関わっている者と肝心の内容についてはまったく拾うことができませんでした。申し訳ない」
「ありがとう。アルバードに目をつけられた中でよく頑張ってくれたよ」
「いえ……」
苦い顔をしているデューイを確認し、それから部屋の隅に控えているソフィアに視線をやる。
「デューイの苦労を無駄にするようで悪いけど、ブライアンの方から私に情報が入ってる。アルバード達は相手方の本拠地をある程度割り出したらしい。囮を連れて打って出るようだ」
「ブライアンのほうにも監視がついていたはずですが」
デューイの言葉に隣のソフィアも「いつの間に?」といった顔をする。
「なんだかんだで長い付き合いだしな。多少不自然ながらも裏の会話もできるんだよ。今回のは分かりやすかったしな」
表向き、ブライアンはなんでもないような話をした。幼馴染の話。これからの休暇の予定。ただそれだけだ。けれど、ある程度前回の事件と近衛隊について、そしてブライアン自信についての知識があれば、その話から情報を引き出せる。
「ブライアンはこの前、近々休暇を取るつもりだといっていた。この前捕まえた捕虜を連れての里帰りだそうだ。
これはすなわち休暇を装った囮捜査。もう少し細かい場所を絞り込むために残党と女が接触をとるのを待つつもりなんだろ。
女がどこまでこっちに協力する気があるのかは知らないけど、個人的に言えば近衛のやることじゃないな。明らかに。だからまぁこれはアルバードの身勝手な独断だろ。実際彼も許可を出してるらしいし。
ブライアンの出身地はボールドウィン領。ちょうどアルバードの実家だな。アルバードも謹慎なり何なりの理由で戻るつもりなのかと思ったのに、どうもそれはないらしい。このあたりがちょっと腑に落ちないんだけども、まぁ、大方今回の事件の責任やら何やらで足止め食らってるんだろーな。ま、動けないならこっちが勝手に動くのみだけれども」
ブライアンは素直でぽろっと情報を流しそうだが、今回は言葉を詰まらせつつも、無理くり会話の中に情報をねじ込もうとしている節があった。ということは暗に私に動けといっているようなものだ。ボールドウィン家のテリトリー内とはいえ、表立って近衛士が王宮を飛び出すわけにも行かない。すると自然、動ける人数は限られてくる。隊長が動かないと、やはり戦力的に不安があるのだろう。
せっかくの申し出だ。全力で助太刀させていただこう。ちろりと唇を濡らし、デューイとソフィアに指示を飛ばす。
「ということで、私はブライアンを追っかけてボールドウィン領に行こうと思う。アルバードの態度も気に食わないしね。いわゆる家出だよ家出。
で、さすがに何度も連続で起こるとは思わないけれど、デューイは王都に残って王宮の様子を見ていて欲しい。ソフィアも屋敷に残って、いざとなったらこの屋敷から引き上げられる準備を……」
「「ついて行きます」」
高低の二重奏で返事が返ってきて、私はしばし口を噤む。
「何がということで、なのかは分かりませんが、まぁ姫様のことです。止めても無駄でしょう。その代わりお供させていただきますからね。王族の姫君ともあろうものが、供の一人もつけずに出かけようなどと」
「そうですわ。私もお供させていただきます。そもそも、姫様が家出をなされたらまず追及されるのは私ですし」
好き勝手言う二人に、私は眉をひそめる。
「いや、ちょ、私一人で十分だから。それにデューイ一人ならともかく、ソフィアの身の安全まで保障できる自信がないし」
「俺が彼女を守ります。それで問題ないでしょう」
「大体、姫様を一人にするとろくなことがないんですから。お荷物がいる程度のほうが無茶ができなくてよろしいでしょ」
さらりとなんかかっこいいことを言ったデューイを見、いつも通り文句交じりのソフィアを見。
「しょーがないな。……一緒に行くか」
旅は道連れ。私は苦笑しながら、二人の肩を叩いた。
お気に入りはどんどん減っている気がするがもう何も怖くない。
リライト前提でとにかく完結させるのが目標だ。そのために突き進むのだ。




