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死姫のヒミツ  作者: 猫柳
第二章
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第二十二話 死姫、心配中

今年で確か二十を迎えるマリアナ姫は、一見しただけではまだ少女にも見える女性だった。ハーフアップにした艶やかな金の髪は傷んだ気配すらなく、ややつり目の青の瞳は現在少々気まずげに揺れている。

彼女の隣には、彼女より二周りほど大きな男がつまらなそうに茶菓子を頬張っていた。背は高いが、どちらかというと細身だ。切り揃えられた黒髪の奥から、探るような赤い瞳が私に向けられる。


「お久しぶりです。マリアナ姫、そしてヴェル殿」

「……毎度ご迷惑をおかけします、シアン殿」


マリアナ姫は、ちらりと隣の男に視線を向けると、深々と頭を下げた。


彼女がこの国に来るのは確か四度目だが、毎度毎度付いてくる護衛騎士のヴェルは、大の決闘好きだった。それはもう、一旅行に一決闘ぐらいの頻度で決闘を挑まれる。かく言う私も戦ったことがある。

しかしこの男の怖いところは、化け物じみた体力とスピード、そして筋力である。悪魔の血を引いているとも言われる彼の一族は、基本的に人間を凌駕している。


「毎度ながら、ヴェル殿はお強いですね。隊長がやられる姿なんて貴方が来ない限り滅多に見れませんよ」

「アルバードは強いからな。戦い甲斐がある」


デューイが笑いながら言うと、子供のように菓子を頬張りながら、ヴェルは頷く。それに合わせてマリアナ姫はスパーンとヴェルの頭を叩いた。

「調子に乗らないで頂戴。ほら、アルバード殿に謝りなさい!」

「また戦おう」

「戦わなくてよろしい!!」


相変わらずのやりとりに苦笑していると、マリアナ姫は諦めたようだった。「本当にごめんなさい」と頭を下げて、ヴェルを引っ張りながら立ち上がる。


「これ以上留まってアルバード殿のお邪魔になりそうですから、私はそろそろお暇させていただきます。本当にごめんなさい」

「こちらこそ、心遣い感謝します。ヴェル殿も、申し訳ないことをした。私の腕が未熟なせいで散々なことになってしまったようだ。また機会があれば手合わせを所望したい」


ヴェルはわずかに目を細め、そのまま扉をくぐった。……なぜか、扉の近くにいた私の首筋を掴んで。


「え、ちょ、ちょちょちょ!?」

「ヴェル!?あぁもう、申し訳ありません!必ずシアン殿は連れてきますので少々お待ちを!!」


慌てるマリアナ姫の声を聞きながら、ヴェルはどんどん進んでいく。後ろ向きに引っ張られる形で実に歩きにくいが、倒れ込むわけにも行かずなんとか足を動かす。

隊長のいる部屋から離れた通路で、彼はようやく手を離した。何を考えているのかよくわからない赤の瞳が、虚空を睨む。


「あいつの身辺に気をつけてやれ」

「…………はい?」


引きずってきたと思ったらいきなりそれか。意味が取れずに、目を瞬く。


「怪我。手合わせした時には既に体中ボロボロだった。反射神経、体力、共にだいぶ消耗されてたぞ。あいつ一人に背負わせるな。気をかけてやれ」


仮面のように無表情な彼の、瞳にだけ僅かに心配するような光があり、あぁなるほど、忠告をくれるためにここに来たんだ、と理解した。


「ありがとう。助かる。……こっちからも忠告だ。しばらくは荒れる可能性がある。マリアナ姫にまでとばっちりがかかるかはわからないが、とりあえず目は離さないでいてくれ」

「そのつもりだ」


軽く頭を下げて、私はもう一度隊長の部屋に戻るために歩き出す。しばらくして後ろからマリアナ姫の怒鳴り声が聞こえてきていたのに苦笑する。


部屋に戻ると、デューイは既に姿を消していた。ソファーに深く体を預けた隊長が、ちらり、と私に視線を向ける。


「隊長」

「お前口癖治ってるぞ。もうお前は部下じゃないんだ。名前で呼べ」

「……アルバード、怪我したって」


きっと自分は情けない顔をしていたんだろう。アルバードはフッと笑みを浮かべて、私を招き寄せた。

近くに寄ると、まくり上げられた袖口から覗く白い包帯が目に入った。どうやら怪我をしたのは腕だけらしい。そこまでひどくないことに僅かに安心したが、同時にヴェルの言葉が頭に反芻する。


「……アルバード」

「大した怪我じゃない。安心しろ」

「脱いでください」


しばし重い沈黙。やけに沈黙が長いので、包帯に落としていた視線をあげようとする……と、頭を押さえ込まれた。


「アリシア、あのな、いや、気持ちは嬉しいが時と場所を……」

「別に人もいないし問題ない。脱いで服」

「せめて家に帰るまで待て。な?お前も今シアンの格好をしているわけだし……」

「うん?関係ないでしょ。今脱いで欲しいんですけど」

「お前そんな積極的な性格だったか?それとも俺が待たせすぎたのか?」

「いやだから……いいや無理やり脱がせる」

「待て待て待てッ!!!」


何故かやけに抵抗するアルバードに、私は首をかしげる。アルバードは私の肩に手を置いて、深く深くため息をついた。


「……公私混同だ。ここは王宮の中だぞ」

「え、何がですか?怪我の確認ぐらい問題ないでしょ」

「え?」


私の言葉にしばらく硬直した彼は、そのまま深い深い溜息を付いた。

……まったく、何なんだ一体。

アルバードに対する口調を少々修正しました。

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