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死姫のヒミツ  作者: 猫柳
第二章
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第二十一話 死姫、疾走中

それからしばらく私は、ダンとのんびり酒を酌み交わしていた。


基本的に、ダンは話し上手かつ聞き上手の素晴らしい男だと思う。打てば響き、話す内容は要点を得ていてなおかつ面白い。一度何かを相談すれば適度な相槌と共に、なかなか聞き応えのあるアドバイスを返してくれる。


軽くつまみを口に放り込みながらだべっていると、突然店の扉がはね開けられた。バン、と激しい音が鳴り、金の髪がさらりとなびいた。


「……ソフィア?」


そこにいたのはソフィアだった。濃紺の瞳に憔悴の色を宿し、彼女は私を見る。


「姫様、ひめさま……ッ!」

「ちょ、ソフィア!?落ち着いて、そもそも俺は姫様じゃない、『シアン』だよ」

「そんなことどうでもいいんです!!旦那様が、ケガ……ッ!」


後ろのダンを気にしながら慌てて訂正した私の肩を、ソフィアが掴む。


「旦那様がお怪我をなさったそうです、今すぐ王宮へお向かいください。馬車を今手配しますからッ、早く!」




……隊長が、ケガ?





しばらく、私は呆然とそこに立っていた。ソフィアの言葉を理解することができず、頭がフリーズしてしまったかのように。


「何してるんだ、早く行け」


ソフィアが来たからか、普通の言葉遣いに戻ったダンが私の肩を叩いた。鋭い鳶色の瞳が私を正気に戻す。


「今聞いたこと、聞かなかったことにしといてやるよ。固まってる暇があるなら走れ。お前それでも男か」

「……ははは。どうやら男じゃないっぽい」

「ごちゃごちゃ言う暇あったら行けッ!」


ダンに蹴り出されて、ようやく頭が回り出す。


「ソフィア、わざわざありがとな。行ってくる」

「は、はいっ!お気をつけて」


カウンターの上に代金を叩きつけ、そのまま開きっぱなしの扉を潜って大通りへと飛び出す。まばらな人の間を縫い、石畳を蹴る。


アルバードは強い。お飾り役職などと言われる近衛士にいるのは勿体無いほど、鬼気迫る強さを持つ人だ。身体能力が高い以上、あの人が怪我をしたところはあまり見たことがない。

しかし。心の中で、不安がよぎる。


あぁ気づいていたはずじゃないか。もう既にこの王都に、あの男・・・が戻ってきていることを。

のんびりと屋敷に閉じこもっている場合ではなかった。オブライエン伯爵家から情報を引き出し、すぐさまあの男の足取りを追うべきだったのだ。


荒れる息を押さえ込みながら、王宮の正門をくぐる。

くぐってすぐ、見覚えのある後ろ姿を見かけた。私は重い足を無理やり動かして彼に追いつく。


「デューイ!」

「ひ……副隊長!?なんでここにいるんですか!」

「隊長が怪我をしたって聞いた。原因は?事故?あぁいやそれ以上に怪我の状態は!?」

「落ち着いて下さい。隊長は大丈夫ですから」


腕を引かれ、そのまま王宮の中を歩く。


「現在隊長は医務室にいらっしゃられますよ。怪我も大したものではありません。俺は医者ではありませんが、恐らく日常生活に支障はないでしょう」

「どういう状況の怪我だったんだ?」


私の質問に、デューイは言いにくそうに口篭った。


「……えぇと……ですね……」


一歩前を歩いているため、デューイの表情を覗き込むことができない。苛立たしげに彼の返答を待っていると、遠くで怒声が聞こえた気がした。


「デューイ、今声が聞こえなかったか?」

「あぁ、それは恐らくデリエスタの第一王女の声ですよ。貴方の誕生記念パーティに出席するため、今日いらっしゃったところなんです」


デリエスタの第一王女といえば、現在兄達の代わりにデリエスタの看板を背負う、女性ながらに優れた外交官だ。名前を、確かマリアナ・ウィル・デリエスタ。

そこまで思い出したところで、あぁなるほどと納得する。


「喧嘩売られたのか、隊長」

「まぁ……今回は被害が少なかったですよ。兵舎も壊されてませんし、隊長が少々怪我をしたぐらいで」

「充分大事だからそれ」


別に、マリアナ姫が凶暴なわけではない。実際こちらまで聞こえてくる彼女の声は、口喧嘩などではなく一方的な説教だった。


「貴方はいつもいつもいつもいつもなんで同じことを繰り返すんですか単細胞何ですかそうなんですかそろそろ懲りなさい大馬鹿者あとアルバード殿に謝りなさい!」

「腹が減った」

「話聞いていましたか貴方は!」

「割とどうでもいい。怒鳴るな、耳が痛い」

「どうでもよくないから怒鳴ってるんでしょうが……ッ!」

「まぁ、落ち着いて下さいマリアナ姫。これは私の自業自得のようなものですから」


デューイが部屋の扉を叩くと、一旦会話が中断される。


「失礼します。隊長、見舞いに来ました」


ゆっくり扉を開くと、ソファーに腰掛けていた隊長がこちらに視線を走らせた。私の姿を視界に収め、わずかに目を開く。


「デューイ、とシアンか?お前までなんでここに」

「ははは、隊長を心配してすっ飛んできたんですよ、元副隊長は」


にやり、とからかうような笑みに、私はこっそりとデューイの足を踏みつける。そして、客人達の方に視線を向けた。

マリアナ・ウィル・デリエスタ


隣国デリエスタの第一王女。七人兄弟の第四子。

過去連載していた『Demon's heart』の主人公。

こっちに出てきたのはちょっとした遊び心です。許してください。

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