36. スカウト・アタック
入学式から数日後
新任の教師の説明や所属する委員会、新しいクラスの仲間との集合写真等々を行なう数日間が過ぎ、とある一日の放課後
『こちら銀嶺with星霧team。位置に着いた』
『……こちら鷹宮、水爪班。位置に着いた』
『こちらオペレーター。了解。それではこれより任務を行なう……開始だ』
今回の任務は『スカウト』だ
俺は一階、科学準備室の前でインカムから聞こえる音を聞きつつ、誰もいないながらケータイをいじって自然を装っているが、他の隊員たちも今回はわりと校内のいろんな場所に散らばっている
先日数名のSVT候補者を確認し、数日で完璧に調べ上げた
今回はその候補者をスカウトする任務だ
だが、白昼堂々「たまに法を破っているボランティア組織に入らないか?」などと言う事は出来ない
だからこの放課後に、SVTを動かして、徹底的にスカウトをするのだ
細部にまで全力のSVTはやはりこうでなくては
『こちら銀嶺。太陽は昇りだした』
『こちらオペレーター。太陽は昇りだしたら南中する』
意味のわからないやり取りだが、これは所謂『隠語』だ
今回の調査で、相手はPCや通信機に関する高い知識を身につけていて、常に通信機器を複数個持ち歩いている事が確認されていたから、インカムでの会話も相手に動向を探られにくくする為に行なっている
意味を取ると
銀嶺先輩たちが陽動作戦を開始して、冴崎が、その報告を聞いたことを応えたのだ
そう、今回の作戦は陽動作戦に始まる
『こちら裏寡。時計は1時を過ぎた所だ』
『こちらオペレーター。1時は授業の時間だ』
……(ターゲットは教室を出た)
あらかじめターゲットの放課後の動きを把握しておいたため、相手に悟られないような隠語が出来る
『こちら銀嶺。太陽は輝く』
『こちらオペレーター。太陽は陰を作れ』
(陽動作戦を続ける)
(陽動作戦の効果を示せ)
現在、銀嶺先輩と星霧先輩は二人一組で4階を動いている
しかも、ただ動く訳ではない
部活の勧誘をちらつかせて歩いている
それも明確に部活の名前を言わずに「部員足りない」「探さないと」と言い続けて歩き回っている
実はこれは数日前から行なっている事だ
前もってターゲットの付近で銀嶺先輩と星霧先輩を同じように動かしていたのだ
つまり、ターゲットは銀嶺先輩たちを『部活勧誘の人たち』と認識している
そして、大抵の場合、そう言うのは避けるのが日本人だ
連日の実験でターゲットも避ける事を確認した
『こちら裁凪。時計の針は加速するみたいだ』
『こちらオペレーター。時計は後で直そうか』
各地点に配置されたSVTメンバーがターゲットの動きを見て報告
(ターゲットは移動速度を上げた)
(そのまま続けろ)
そう、ターゲットは後方から迫る部活勧誘の二人組の気配に気付き加速した訳だ
逃げられる……と言う事ではない
計画通りだ
『こちら葉城!時計はそろそろ3時を示すかも?』
『こちらオペレーター。3時にはまだ早いだろう?』
(ターゲットは3階に下りるかも)
(まだ降りるのには早い)
うちの高校には一つのフロアでも6箇所の階段がある
そのうちの、1年1組教室から見て東側の廊下には2箇所の階段があり、今はそのうちの教室に近い方の階段にターゲットが近づいている事の報告が入った
『こちらオペレーター。3時にはまだ早いから時計の針を調節しよう』
『こちら荒威。力づくでも調節かな』
(階段を使えなくしろ)
(了解した)
ここでターゲットの動きを操作する
階段では現地待機している荒威先輩と五十嵐が殴り合いをし始めただろう
一方的にフルボッコにされそうなもんだが、金髪の不良面の男とガタイが良過ぎるゴリマッチョが階段の踊り場で乱戦してたら誰も通りたくはないだろう
『こちら葉城!早くおやつが食べたかった!』
『こちらオペレーター。ティーブレイクは後でしよう』
無事に、ターゲットはそちらの階段を使わずにさらに東の奥の階段を目指して居るようだ
全ては、計画通りに動いている
やがて、ターゲットは階段に着いたみたいだ
『こちら裏寡。砂時計の砂は落ちる』
『こちらオペレーター。砂時計は綺麗だ』
(ターゲットは下の階に降りて行く)
(引き続き観察を続けろ)
裏寡は学校の外から階段踊り場にある窓を見て、中の動きを見ている
どうやら、ターゲットは下へ向かっているらしい
『こちら銀嶺。太陽も動き続ける』
『こちらオペレーター。日影は憩いの場だ』
陽動はまだ続いている
ターゲットの背後を追い続けている
階段はどの階で話していてもわりと下の階まで声が届くため、ターゲットはそちらに気をとられる
『こちらオペレーター。日陰は暗い』
『……こちら鷹宮。誰が居るのか、わからない』
「待っていましたよ。1年1組、隠牙光さん」
「うわっ!」
「……ご同行願います」
一階、階段を下りた所から唐突に現れた鷹宮先輩と水爪に対して、ターゲットの驚く声が聞こえる
というか、やり取りは俺から見えている
俺がいる科学準備室の前から階段は、その階段が目の前で見えるようになっているからだ
隠牙さんは、入学式の時に一番最初に見た、根暗な感じの子だ
ただ伸ばしただけの感じのヘアスタイルで、やはり所々寝癖が撥ねている
新しい制服をピシッと着ているのだが、色が濃いせいかどうにも根暗に見える
銀色の細いフレームの眼鏡をかけているのも、似合って入るがやはり根暗だ
きっとファッションとかに興味が無い子なんだろうな……
女の子である事はその制服でわかるんだけど、女子っぽくはない
「……あなたたちは一体……?」
隠牙さんが水爪たちに聞く
「2年2組。水爪 祥です」
「……3年3組。鷹宮 幽麒」
二人は、胸ポケットから生徒手帳を取り出して見せつつ名乗る
「は、はぁ……それで、ボクに何か用なんですか?」
あっさりと名前を明かした水爪たちに対してどんな反応をしたら良いものかという空気だ
「あなたと話したがっている人が居ます」
「ボクと……?」
不思議そうな顔をする隠牙さんの背後に銀嶺先輩と星霧先輩が辿り着き、声をかける
「あのー……こんな状況で言うのもなんだけど、危害を加えるつもりは無いからさ」
「うわ!部活勧誘の人たち!」
完全に、包囲した
SVTは14人もいるからな
一人を包囲するなんて簡単だ
「さて……では、話を聞いてもらえるかな?」
銀嶺先輩が声をかける
「……もはや完全に包囲されているようですしね、わかりましたよ」
「よかったです。それでは……」
水爪がこちらを向いたので俺が黙ったままケータイをしまって、科学準備室のドアを開ける
「どうぞ」
俺は呟き、隠牙さんに視線を向ける
「は、はい……」
隠牙さんが入ったのを確認してドアを閉めて、ドアの前で再びケータイをいじる
いわば、ドアマンだな……俺の今回の仕事は
簡単だ
ここから先この部屋に刺客が襲って来る可能性を踏まえての配置だが、そんな事起きない
「さて……あたしたちは帰りましょうか」
「解散って言ってたしね」
「……結果は後で知れる」
「赤木さん。仕事頑張ってくださいねー」
俺の前の面々はそれぞれ散って行く
さて……こいつが隠牙 光か
「来たようだな。安心した。そこに座ってくれ」
「は、はい!」
しまった少し厳しい口調だったか
『元』科学準備室の中は長机が二つ、入り口から見て横向きに二つくっつけられた状態で置いてある
机の前の椅子に……座ったな
俺は一応、SVTの総隊長として面接を行なう訳だが……
「あなたが、隠牙さん?」
俺の左隣に座るSVTメンバー、鎌月が隠牙の目を見ながら聞く
「はい!隠牙光です!」
やはり密室になると緊張しているみたいだな
……机の上に両手を乗せる癖。肘はテニス肘に近い。指も長め。眼鏡はブルーライトカットの最新の眼鏡。
本人と見て間違い無い
それも、かなりPCに馴れているようだな
「さて……俺たちは君を脅したい訳ではない。ほんの少し世間話をしたいんだ。気楽にしてくれ」
すこし口調を穏やかにするように努めて言う
「は、はい……」
俺はどうにも最初の威圧感がひどかったみたいだな
「こちらの自己紹介をしようか。俺は3年2組、静道彰だ」
「2年2組の鎌月舞」
さて……ここまで一言も喋っていない……
「さ、3年1組の御奈沢雨羽です!!」
やっぱり緊張していたのか……
不慣れだから仕方ないが、だいぶひどいぞ
「さて……では、世間話だ。君は、誰かの為の活動ってどう思う?」
「誰かの為の活動……?」
唐突な話題の振り方で、面食らっている様子だが、答えてくれるようだ
「ボランティアとか、そう言う大層なものじゃなくても、人助けとか、素晴らしいと思います」
「そうだよね。慈善事業は美しい。理論上、地球上全ての人間が自分の為に動く事よりも地球上全ての人間が他人の為になる事を考える方が世界は有意義に動くんだよ」
「あの……そう言う難しい事はよくわからないので……」
「簡単に言えば、自分一人でやれる事には限界がある。だから、自分の事は他人に手伝ってもらって、手伝ってくれた人が困っていたらこちらも手を貸すんだ。それが全地球規模になれば個人の目標で出来ない事はほぼ無いと思う。募金なんかも同じ考えでしょ?」
「は、はぁ……」
少なくとも、ボランティアは良い事だとは思ってくれているようだ
関心も持っている
「じゃ、次の話だ。君は、ボランティアはどう言うものか?説明できるかな?」
「説明……?」
「ボランティアには定義があるんだよ。知っているかな?」
「他人の為に無料で働く事がボランティアでは……?」
やっぱり……あまり知っている人は居ないか
「ボランティアは、『自主性』『利他性』『無報酬性』って言う三つの原則を守った上で呼ばれるんだよ。自ら無報酬で、誰かの為に働く事をボランティアと呼ぶんだ」
「ああ、なるほど」
「つまり、学校とかで休日に参加が呼びかけられるボランティアは自ら動いているとは言いにくいから、ボランティアと呼ぶには怪しいよね。昼食とかも支給されたりするし、最近のボランティアは矛盾が多いかな」
「はい」
緊張もとけて来たみたいだな
根暗に見えたが、中身は平気みたいだな。鷹宮と比べると
「君は、SVTを知っているかな?」
「は、はい?SVT??」
「聞いたことはあるんじゃないのかな?』
「まぁ……確か、巨大な雪だるまを作ったり、鳥の巣箱を作っている人って言う噂が流れていますよね?」
聞いたことあるようで話が早い
「あの人の事、どう思う?」
「どうって……何やってるんだかよくわからない変な人ですよ」
「もしも、SVTがボランティアをやっているのだとしたら?」
「ボランティア?」
「そう。無報酬で雪かきしたり、鳥の巣箱を設置しているのなら?」
「うーん……凄い意欲的な人だと思いますよ。あの人は有名になるくらい色々やっていますからね」
「でもさ、一人にしては手際が良すぎない?」
「確かにそうですね」
さて……
「もしかしたら、SVTって集団なのかもね」
「なるほど。いいですね、社会奉仕をする組織ですか。NPOとかに似ています」
「NPOが働かないような、一住宅地の雪かきまでやってくれるんだから凄い組織じゃない?」
「凄いですね。本当に存在するなら入ってみたいです」
よし来た!
ここからは鎌月にバトンパスだ
「もしも、SVTに入れるとしたら。入りますか?」
「はい。人の為に動くのは良いと思いますよ」
「それでは……あなたをSVTにスカウトしましょう」
…………。
「……え?」
冗談だと思われているな
「わたしたちは、秘密ボランティア組織、SVTです。隠牙光さん。あなたはわたしたちの組織に入りますか?」
「え……あの……」
戸惑っているが、答えは見えているな……
「わたしたちと、人の為に働きませんか?」
「……!入ります」
よし……
「SVTに入るだけの覚悟はあるのかな?」
俺は問う
「はい。あります!」
眼鏡の奥の眼光は本物だな……
「……隊長。彼女は噓をついていません」
「わかっている」
鎌月に言われずとも、それはわかる
「それでは、君は今日からSVTの隊員だ。我々の秘密は他言無用で頼む。あと、この御奈沢は見た事あるだろ?」
「はい。御奈沢先輩は……確か入学式で新入生歓迎の言葉をやられていましたね?」
「生徒会長なんだよ。だから、この高校の生徒の中では一番高い権力を持っている」
「い、いや……権力なんて……」
「万が一SVTの情報が外部に漏れても、この御奈沢にはそれを『噂』に変える力があるんだ。だから、意図的でなく漏れた場合は責任を感じなくていいからな」
「はい。わかりました」
「それでは、一緒に社会の為に、働こう」
こんにちは永久院悠軌です
新人隊員一人目!!
なかなかまとまらずに文字数かさみましたが、これくらいが良いですかね
はい。これからもSVTは戦います




