第九十九話 森の涙と小さき精霊
「......おかしいです」
「島の奥から」
「泣き声が聞こえます」
「え?」
彩葉が目を丸くする。
「泣き声?」
硫黄も眉をひそめた。
「人間じゃねぇ」
「動物でもねぇな」
瑞子が小さく呟く。
「......精霊?」
風が吹く。
サァァァ……
緑の葉が揺れる。
そして。
誰かの悲しそうな声が。
確かに。
森のさらに奥から聞こえてくるのだった。
◇
「行ってみましょう!」
彩葉が真っ先に走り出す。
屋久も頷いた。
「はい」
硫黄は背中のグレネード砲を軽く叩く。
「何かあったらオレが吹き飛ばしてやる」
「ほどほどにしてくださいね」
「わかってるって」
瑞子は毛布に包まりながら、ふわふわと浮いてついていく。
「......急ごう」
四人は森の奥へ進んだ。
屋久島の深い森。
太陽の光も届きにくい場所。
苔に覆われた岩。
大きな木々。
澄んだ小川。
神秘的な空気。
そして。
「ひっく......」
「うぅ......」
小さな泣き声。
「いた!」
彩葉が声を上げた。
岩の陰。
そこに。
葉っぱでできた服を着た小さな存在が座り込んでいた。
身長は二十センチほど。
蝶のような羽。
頭には小さな花。
涙をぽろぽろ流している。
彩葉はしゃがみ込んだ。
「大丈夫?」
「どうしたの?」
すると小さな存在は驚いて飛び上がった。
「ひゃあ!?」
「ご、ごめんなさい!」
「怒らないでください!」
「え?」
「怒らないよ?」
「私はバッグの守護者、彩葉だよ!」
小さな存在は目をぱちぱちさせた。
「守護者様?」
「うん!」
屋久も優しく近づく。
「安心してください」
「私たちは敵ではありません」
「屋久様!」
小さな存在は目を輝かせた。
どうやら知り合いらしい。
「まぁ」
「木の精霊さんでしたか」
「知ってるの?」
「えぇ」
「この子たちは森を守る精霊たちですよ」
硫黄が腕を組んだ。
「で?」
「何があった?」
すると小さな精霊はまた涙目になった。
「ぐすっ......」
「お姉ちゃんとはぐれちゃったの......」
「お姉ちゃん?」
「うん......」
「一緒に歌ってたの......」
「でも」
「気がついたらいなくなってて......」
「寂しかったの......」
彩葉は胸をなで下ろした。
「迷子なんだ!」
「よかった~」
硫黄も安心したように笑う。
「なんだ」
「戦いじゃなかったか」
瑞子も微笑む。
「......よかった」
屋久は小さな精霊の頭を優しく撫でた。
「探しましょう」
「きっと近くにいます」
「ほんと?」
「はい」
「屋久様が言うなら......」
すると。
「~~~~♪」
遠くから歌声。
小さな精霊が顔を上げた。
「あ!」
「お姉ちゃん!」
バサッ!
羽を動かし飛び上がる。
すると。
木の上から。
もう一人。
少し大きな精霊が降りてきた。
「あ!」
「いた!」
「心配したんだから!」
「お姉ちゃ~ん!」
二人の精霊は抱き合う。
「ごめんなさい!」
「ごめんね!」
「寂しかったよぉ」
「私もだよぉ」
彩葉たちは顔を見合わせる。
「よかった~」
「平和的解決だな」
「......うん」
屋久もほっとしたように微笑んだ。
「よかったです」
すると。
姉の方の精霊が頭を下げた。
「ありがとうございました」
「守護者様」
「屋久様」
「硫黄様」
「瑞子様」
「えへへ」
「どういたしまして!」
彩葉が笑顔で答える。
すると。
二人の精霊は顔を見合わせた。
「お礼!」
「そうだね!」
「お礼!」
「え?」
「いいよ?」
「ううん!」
「お礼しないと!」
「ついてきて!」
「え?」
「え?」
四人は精霊たちについていく。
しばらく歩く。
そして。
森が開けた。
「わぁ......」
彩葉が思わず息を呑む。
そこには。
一面の花畑。
色とりどりの花。
蝶。
小鳥。
透明な泉。
そして。
大きな屋久杉。
夕陽が差し込み。
まるで幻想の世界。
「すごい......」
「綺麗......」
硫黄も驚いていた。
「こんな場所あったのか」
瑞子は嬉しそうに笑う。
「......素敵」
屋久は懐かしそうに目を細める。
「ここは精霊たちの遊び場」
「秘密の場所なんですよ」
「すごいです!」
彩葉は花畑の中を走る。
「きれーい!」
「すごーい!」
「素敵です!」
精霊たちも楽しそうに笑う。
「ふふふ♪」
「ありがとう!」
「また遊びに来てね!」
「うん!」
「また来る!」
夕陽が沈み始める。
空が赤く染まる。
屋久島の森。
優しい風。
穏やかな時間。
屋久が空を見上げた。
「もう夕方ですね」
「明日には出発ですか?」
彩葉は頷く。
「うん!」
「フィリピンに向かわないと」
「会いたい神様がいるから」
硫黄が笑った。
「海は広いぞ」
「気を付けろよ」
「はい!」
瑞子も微笑んだ。
「......無事を祈ってる」
「ありがとう!」
そして。
夕日に染まる屋久島で。
彩葉は明日から始まる新たな海の旅を思いながら、静かに空を見上げるのだった。
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