第百話 旅立ちの海と南へ続く蒼き道
世界自然遺産として知られる屋久島。
深い森と巨大な屋久杉。
澄み切った川。
透き通る海。
その美しい島で数日を過ごした彩葉は、今日も朝早くから海辺を歩いていた。
朝日が水平線から顔を出し、海面が黄金色に輝いている。
潮風が優しく髪を揺らし、小鳥たちのさえずりが森の奥から聞こえてくる。
彩葉は両手を後ろで組みながら、大きく伸びをした。
「ん~~~~!」
「今日もいい天気!」
「屋久島、楽しかったなぁ」
後ろから穏やかな声が聞こえる。
「楽しんでもらえてよかったです」
振り返ると、そこには優しく微笑む屋久の姿があった。
さらに隣には腕を組む硫黄。
そして毛布を首に巻いた赤子の姿の瑞子もいる。
「彩葉、もう出発するんだろ?」
「うん!」
「次はフィリピン!」
「それからギリシャを目指すの!」
硫黄は豪快に笑った。
「ははっ!」
「相変わらず行動力あるな!」
「海の上を歩けるとはいえ、かなり長旅になるぞ」
「気を付けろよ」
「はい!」
屋久も小さく頷く。
「海は美しいですが、恐ろしい場所でもあります」
「急ぎすぎず、自分のペースで進んでくださいね」
「うん!」
瑞子も小さな手を振った。
「……無理しちゃ駄目」
「疲れたら休むこと」
「赤ちゃんも大人も、それが一番大事だから」
彩葉は思わず笑顔になった。
「ふふっ!」
「ありがとう!」
「みんな優しいね!」
すると硫黄が頭を掻く。
「別に優しくなんかねぇよ」
「旅人を見送るくらい普通だ」
その顔はどこか照れていた。
屋久も微笑む。
「またいつでも来てください」
「屋久島はいつでも歓迎しますよ」
「はい!」
「また来ます!」
彩葉は深々と頭を下げた。
「ありがとうございました!」
屋久も。
硫黄も。
瑞子も。
三人そろって手を振る。
「いってらっしゃい」
「気を付けろよ!」
「……またね」
「うん!」
「行ってきます!」
彩葉は笑顔で手を振り返した。
そして。
海へ向かって歩き出す。
足が水面に触れる。
しかし沈まない。
まるで地面を歩くように、波の上を歩いていく。
「やっぱり不思議だなぁ」
「日本生まれの守護者だけが使える水上歩行……」
「どういう仕組みなんだろう」
考えてみるが、答えは出ない。
「うーん」
「まあ、いっか!」
「旅の途中でわかるかもしれないし!」
そう言うと、彩葉は加速した。
ビューッ!!
青い海の上を一直線に駆けていく。
背後では屋久たちが小さくなっていく。
やがて島影も見えなくなった。
周囲にはどこまでも続く大海原。
上空には白い雲。
時折、魚が跳ねる。
「わぁ!」
「お魚さん!」
さらに。
遠くではイルカの群れが泳いでいた。
「すごーい!」
「イルカさんだ!」
イルカたちはまるで彩葉を歓迎するように海面から飛び上がる。
キュイイイッ!
キュイイイッ!
「こんにちはー!」
彩葉も手を振った。
するとイルカたちはしばらく並走し、再び海の中へ消えていった。
「えへへ」
「なんだか嬉しい♪」
旅をしていると。
色々な出会いがある。
守護者。
神様。
精霊。
魔法少女。
妖怪。
そして。
動物たち。
どれも大切な出会いだった。
彩葉は空を見上げる。
「私の存在理由……」
「生まれた意味……」
「まだわからない」
「でも」
「きっと」
「この旅の先にある」
バッグの守護者として生まれた自分。
どうして生まれたのか。
何のために存在するのか。
まだ答えは見つかっていない。
けれど。
旅を続ければ。
きっといつか見つかる。
そんな気がしていた。
数時間後。
太陽は高く昇っていた。
「ん~!」
「広いなぁ!」
「海ってすごい!」
彩葉は走りながら、バッグから先日もらったみかんを取り出した。
「ミカさんにもらったやつ!」
「いただきます!」
皮を剥いて一口。
「おいしい~!」
甘酸っぱい味が口いっぱいに広がる。
「元気出た!」
そのまま再び走り出す。
途中。
大きなクジラの姿も見えた。
「わぁ!」
「大きい!」
さらに夕方。
海は赤く染まり始める。
「綺麗……」
夕焼け。
赤く染まる空。
どこまでも続く水平線。
その景色に思わず立ち止まる。
「世界って、本当に広いんだなぁ」
日本を出る。
それは彩葉にとって初めてのことだった。
少し不安もある。
けれど。
それ以上に。
ワクワクしていた。
「よーし!」
「頑張るぞ!」
「目指すはフィリピン!」
すると。
遠く。
本当に遠く。
水平線の彼方に。
うっすらと陸地らしき影が見え始めていた。
彩葉の瞳が輝く。
「わぁ!」
「見えてきた!」
「あれがフィリピン!?」
夕日に照らされる南の島々。
新たな国。
新たな出会い。
新たな冒険。
バッグの守護者・彩葉の旅は。
ついに日本を飛び出し。
南の海を越えた先。
異国の地へと向かっていくのだった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




