第九十八話 緑深き島の案内人たち
屋久島。
深い森の中。
彩葉は不思議な歌声に導かれるように、木漏れ日の差し込む道を進んでいた。
小鳥たちのさえずり。
川のせせらぎ。
葉の擦れる音。
そして。
どこか優しく、心が落ち着く歌声。
「この辺かな?」
周囲を見回したその時だった。
「誰です」
「わわぁ!?」
突然聞こえた声に、彩葉は飛び上がった。
「あっ、すみません!」
「綺麗な歌声が聞こえて......って、守護者だ」
そこには。
長い緑色の髪を風に揺らしながら、どこかおとなしい雰囲気を持つ少女が立っていた。
少女は少し驚いたように目を丸くした。
「......ありがとうございます」
「............あ、私は屋久島の守護者『屋久』、です」
彩葉は嬉しそうに頭を下げた。
「あ、バッグの守護者『彩葉』です!」
その時。
後ろの方から元気な声が聞こえてくる。
「なんだ?」
「どうした急に、お?」
さらに。
幼い声も続いた。
「問題でも起きた?」
彩葉が振り返る。
そこには。
背中に二門のグレネード砲を背負った少女。
そして。
毛布を首に巻いた赤子のような小さな存在がいた。
屋久は静かに首を振る。
「いえ」
「なんでもありませんよ」
背中に武装を背負った少女が笑う。
「そうか」
「オレは硫黄島の守護者『硫黄』だ」
「よろしくな」
小さな赤子もぺこりと頭を下げた。
「......私は赤子の守護霊『瑞子』」
「......よろしくね」
彩葉も慌ててお辞儀する。
「バッグの守護者『彩葉』です!」
「......守護霊?」
瑞子はこくりと頷いた。
「......あぁ」
「守護霊を見るのは初めて?」
「守護霊は人を守る霊のことです」
すると屋久も優しく説明する。
「守護霊には一人を守護する霊と」
「少ないですが特定の歳まで守護する霊の二種類がいるのですよ」
瑞子が小さな胸を張った。
「私は後者だね」
「赤子全般を守る霊」
「そうなんですね」
「だから小さいんだ」
すると。
瑞子は少し頬を膨らませた。
「私はこれでも七十五歳くらいですよ」
「え!?」
彩葉の目が大きく開かれる。
硫黄が豪快に笑った。
「そんな歳にみえねぇよな」
「そうだ、彩葉」
「ここにはなにしに?」
「あ、はい」
「フィリピンに行く前にここを見ていこうと」
屋久が優しく微笑んだ。
「なるほど」
「ここは良いですよ」
「よかったら案内しましょう」
彩葉の顔がぱっと明るくなる。
「お願いします!」
「ふふ」
「では、行きましょう」
こうして。
彩葉の屋久島観光が始まった。
◇
しばらく歩く。
すると。
「わぁ~!」
彩葉が声を上げた。
「大きい木!」
何人もの人間が手を繋いでも囲めないほど巨大な杉の木。
太く。
高く。
空へ向かって伸びている。
「すごい......」
「こんなに大きい木、初めて見ました!」
屋久が嬉しそうに微笑んだ。
「屋久杉です」
「長い年月を生きてきた木たち」
「ここには千年以上生きている木もあります」
「千年!?」
彩葉が驚く。
「そんなに!?」
硫黄が腕を組んだ。
「中には数千年なんて言われてる奴もいるからな」
「オレでも驚くぜ」
「すごい......」
彩葉は大きな幹を見上げる。
すると。
木の枝に小さな猿たちが現れた。
「キキッ!」
「わぁ!」
「お猿さん!」
その下では。
鹿がゆっくりと草を食べている。
「鹿さんも!」
「かわいい!」
瑞子が微笑む。
「ここは命がいっぱいだからね」
「赤ちゃんたちも安心して眠れる島なんだ」
「そうなんだ~」
さらに歩く。
今度は透明な川が現れた。
「綺麗......」
底まで見える。
魚たちが泳いでいる。
「宝石みたい」
屋久がしゃがみ込む。
「この水も島の宝物です」
「雨が森を巡って」
「川になって」
「海へ帰っていくんです」
彩葉は目を輝かせた。
「なんだか生きてるみたい」
「はい」
「島全体が一つの生命のようなものですから」
すると。
硫黄が空を見上げた。
「そういや腹減ったな」
「お!」
彩葉もお腹を押さえる。
「そういえば!」
「朝からあまり食べてません!」
瑞子がくすっと笑った。
「食いしん坊」
「えへへ」
屋久も少しだけ笑った。
「でしたら」
「近くに美味しいものがありますよ」
「本当ですか!?」
「飛魚や果物」
「あと名物のお菓子もあります」
「行きます!」
「ふふ」
「元気ですね」
穏やかな時間。
優しい風。
緑の香り。
そして。
楽しそうな笑い声。
そんな平和な時間の中。
不意に。
屋久が足を止めた。
「......?」
硫黄も表情を変える。
「おい」
「屋久」
「お前も感じたか?」
瑞子も真剣な顔になる。
「......うん」
彩葉は首を傾げた。
「どうしたの?」
屋久は森の奥を見つめる。
先ほどまでの穏やかな表情ではない。
少しだけ。
困ったような顔。
「......おかしいです」
「島の奥から」
「泣き声が聞こえます」
「え?」
彩葉が目を丸くする。
「泣き声?」
硫黄も眉をひそめた。
「人間じゃねぇ」
「動物でもねぇな」
瑞子が小さく呟く。
「......精霊?」
風が吹く。
サァァァ……
緑の葉が揺れる。
そして。
誰かの悲しそうな声が。
確かに。
森のさらに奥から聞こえてくるのだった。
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次回もお楽しみに




