第九十五話 呪いを断つ歌声と炎
鹿児島の大地。
異形の怪樹、呪年樹はなおも巨大化を続けていた。
頂上には禍々しい巨大な五寸釘。
その周囲には黒い雷が走り、不気味な怨嗟の声が響いている。
「ウラメシイ……」
「ニクイ……」
「ユルサナイ……」
無数の恨み。
無数の呪い。
長い年月を経て蓄積された怨念が、今まさに解き放たれようとしていた。
彩葉は息を呑んだ。
「すごい呪力……」
「こんなの……」
泉が険しい顔で呟く。
「まずいですわ……」
「このままでは周囲一帯が呪いに飲み込まれます!」
穂乃香が拳を握った。
「だったら!」
「その前にぶっ飛ばすだけだ!」
その瞬間。
呪年樹の頂上。
巨大な五寸釘が輝き始めた。
バチバチバチ!!
「キィィィィィ!!」
黒い雷が空へ放たれる。
ドォォォォォン!!
空が暗く染まる。
大地が揺れる。
リリアが青ざめた。
「まずい!」
「来るよ!」
次の瞬間。
無数の黒い雷が降り注いだ。
「ギャァァァ!!」
彩葉は咄嗟に両手を前に出す。
「収納防壁!」
シュルルルル!!
大量のストラップが編み込まれ、巨大な盾となる。
バチィ!!
黒い雷を防ぐ。
「くぅ……!」
しかし。
防壁には亀裂が入っていく。
「強い……!」
穂乃香が前へ飛び出した。
「だったら!」
「火山爆裂拳!!」
ゴォォォォ!!
炎の拳が呪年樹の幹を粉砕する。
さらに。
「火山流星脚!」
ドゴォ!!
巨大な蹴りが炸裂。
だが。
メキメキメキ……
またしても再生。
「ちっ!」
「しつこい!」
泉も続く。
「温泉大渦!」
轟音と共に熱湯の渦が呪年樹を包む。
蒸気が空を覆う。
しかし。
再び。
メキメキメキ……
「またですの!?」
彩葉も叫ぶ。
「収納拘束!」
無数のショルダーストラップが枝を縛る。
さらに。
「収納圧縮!」
ギギギギ!!
締め上げられた枝が砕け散る。
だが。
やはり再生。
「本当にしぶとい……!」
その時。
マイが前へ出た。
「みんな!」
「私に少し時間をください!」
リリアが驚く。
「マイちゃん?」
マイはマイクを握りしめた。
「呪いも……」
「声なら届くかもしれない!」
「私、やってみる!」
穂乃香が笑う。
「おう!」
「やってみろ!」
泉も頷く。
「わたくしたちが守りますわ!」
マイは深呼吸した。
「すぅ……」
「はぁ……」
首の大きなナットがゆっくり回る。
カチッ。
カチッ。
そして。
優しい声が響き始めた。
「歌声共鳴」
透き通る歌。
暖かい歌声。
まるで春の風のような優しい音色。
すると。
呪年樹が震えた。
「ギィ……?」
リリアが目を丸くした。
「効いてる!」
マイの歌声が呪力を揺らしている。
さらに。
背中の蓄音機が光る。
「私も!」
「共鳴増幅!」
キィィィィィン!!
音波が広がる。
歌声が何倍にも増幅されていく。
すると。
呪年樹の黒い瘴気が揺らぎ始めた。
「ギャァァァァ!」
「イヤダ!」
「ヤメロ!」
怨念の叫び。
彩葉は驚いた。
「苦しんでる……」
泉が目を見開く。
「そういうことですわ!」
「呪いは恨み!」
「優しい声と真逆の存在!」
穂乃香も笑った。
「なるほどな!」
「だから嫌がってやがる!」
マイは歌い続ける。
「大丈夫……」
「苦しまなくていいよ……」
「もう恨まなくていいんだよ……」
その歌声に。
どこか悲しそうだった怨念の声が少しずつ静まっていく。
「ア……」
「アァ……」
しかし。
突然。
呪年樹全体が赤黒く染まった。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
リリアの顔色が変わる。
「まずい!」
「呪力を暴走させてる!」
穂乃香が叫ぶ。
「自爆する気か!?」
泉も驚愕する。
「なんですって!?」
彩葉が目を見開く。
「そんな!」
次の瞬間。
呪年樹の全身から膨大な呪力が噴き出した。
ゴゴゴゴゴゴ!!
空が揺れる。
大地が震える。
巨大な五寸釘がさらに大きくなっていく。
マイの歌声さえ押し返すほどの力。
「きゃっ!」
マイが吹き飛ばされそうになる。
リリアが支えた。
「危ない!」
穂乃香が歯を食いしばる。
「まだこんな力を……!」
泉も冷や汗を流した。
「このままでは……」
彩葉は呪年樹を見つめた。
苦しそうな声。
悲しそうな叫び。
そして。
巨大な五寸釘。
その根元。
黒い年輪の奥。
そこに。
一本だけ。
古びた藁人形と錆びた五寸釘が深く打ち込まれているのが見えた。
彩葉の瞳が大きく開かれる。
「……あ!」
「みんな!」
「あそこ!」
「一番奥!」
「最初の五寸釘がある!!」
全員が一斉に振り向いた。
そして。
暴走する呪年樹の中心部で。
最初に打ち込まれた呪いの根源が、ついにその姿を現したのだった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




