第八十九話 遠き英雄を想う心
鹿児島県。
穏やかな風が吹く公園。
緑の木々が揺れ、子どもたちの楽しそうな声が遠くから聞こえてくる。
そんな中。
彩葉は新しく出会った少女たちと一緒に、ゆったりとした時間を過ごしていた。
元気いっぱいの少女が胸を張る。
「バッグの守護者『彩葉』です!」
すると、蓄音機を思わせる装飾を身につけた少女が、にひひっと笑った。
「彩葉ちゃんね、よろしく!」
「はい!」
その隣では、首の大きなナットを指で触りながら、声優の守護者であるマイが微笑んでいた。
「リリアちゃんは、トーマス・エジソンさんのお友達なんですよ」
「トーマス・エジソン?」
彩葉は首を傾げる。
すると穂乃香が腕を組みながら頷いた。
「あぁ、昔に生きた英雄だな。いまは英霊っていうんだっけか」
「そうですね」
泉も上品に頷く。
「リリアさんは、トーマス・エジソンが作った初代機の蓄音機から生まれたと聞いています」
「すごい!」
目を輝かせる彩葉。
しかし。
リリアは少し照れくさそうに笑った。
「そんなにすごくないよ」
「あの人は確かにすごい人だけど」
「私を娘みたいに大切にしてくれたりもしたんだ」
「大好きなんですね」
「うん♪」
リリアは満面の笑みを浮かべた。
「いまでも、荒廃した国にあるお墓に行ってるもん」
「荒廃した国?」
彩葉が不思議そうにすると、穂乃香が真面目な顔になった。
「あぁ」
「墓を移動させる案も出てたんだが」
「リリアが『このままここにおいて』って言ったらしくてな」
「そのままなんだ」
「あそこは想霊がたくさんいて危険なのに」
「え? 守護者は?」
すると泉が少し寂しそうな顔をした。
「あの国は今は守護者のいない国と言われていますわ」
「旅をしているなら、いつかは行くでしょう」
「そうしたら気を付けてくださいまし」
「……はい!」
彩葉は真剣な顔で頷いた。
すると。
リリアは慌てて手を振った。
「あー! 暗い話になっちゃった!」
「ごめんごめん!」
「今日は楽しい日なんだから!」
その言葉にマイも慌てる。
「そ、そうですよ!」
「せっかく会えたんですから!」
「もっと楽しいことを話しましょう!」
「そうですわ!」
泉も笑顔になる。
「せっかくですし、お茶でもいかがです?」
「賛成!」
穂乃香も元気よく言った。
「腹減ったしな!」
「おぉ~!」
彩葉も嬉しそうに笑う。
そして。
五人は近くの和風喫茶へ向かうことになった。
店内には優しい音楽が流れている。
窓からは鹿児島の街並みが見えていた。
「いらっしゃいませ~」
店員の声が響く。
「わぁ~!」
彩葉は目を輝かせた。
「綺麗なお店です!」
「ここはお気に入りなんだ♪」
リリアが笑う。
「ケーキがおいしいんだよ!」
「へぇ~!」
席につくと、メニューを見た彩葉の目がさらに輝いた。
「すごい!」
「いっぱいあります!」
「迷っちゃいます~!」
その様子に穂乃香が笑った。
「ははは!」
「そんなに目を輝かせるなよ!」
「全部食べたくなるぞ!」
「うぅ~」
「迷います!」
悩み始める彩葉。
そんな姿を見て、泉は優しく微笑む。
「ふふっ」
「本当に純粋な子ですわね」
マイも頷いた。
「見ているだけで癒されます」
リリアもにひひっと笑った。
「なんだか妹ができたみたい!」
「妹?」
「うん!」
「なんか放っておけない!」
「えへへ」
彩葉は少し照れながら笑った。
「皆さん優しいです」
「旅を始めてから」
「たくさんの人と出会いました」
「みんな優しくて」
「みんな素敵で」
「私」
「もっともっと世界を見てみたいです!」
その言葉に。
穂乃香は満足そうに笑った。
「いいじゃねぇか!」
「その調子だ!」
泉も頷く。
「素晴らしいことですわ」
マイも微笑んだ。
「夢がいっぱいですね」
リリアは楽しそうに笑う。
「彩葉ちゃん」
「いつか外国にも行くんでしょ?」
「うん!」
「ギリシャに行こうと思ってるの!」
「ギリシャ?」
「うん!」
「アテナさんに会ってみたいから!」
「おぉ~!」
穂乃香が目を丸くした。
「女神様か!」
「すげぇ目標だな!」
「でも」
「きっと会えますわ」
泉が優しく言う。
「彩葉さんなら」
「うん!」
マイも嬉しそうに頷く。
「きっと大丈夫です!」
「だって彩葉ちゃん、すごく真っ直ぐだもん!」
リリアも笑顔になった。
「そうそう!」
「真っ直ぐな子には、きっと良い縁があるよ!」
「はい!」
彩葉は嬉しそうに返事をした。
窓の外。
青空には白い雲がゆっくり流れていた。
そして。
誰も知らない。
遠く遠く。
人の住まなくなった荒廃した大地。
崩れた都市。
草木に覆われた建物。
そして。
静かに眠る一人の英雄の墓の前で。
白い花が風に揺れていた。
まるで。
遠い昔に娘のように可愛がった存在が、今も元気に笑っていることを知っているかのように。
優しく。
静かに。
穏やかに。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




