第八十八話 歌声の少女と音を集める守護者
鹿児島県。
夕暮れも近づき。
彩葉たちは町の観光を楽しんでいた。
歴史ある建物を眺め。
商店街を歩き。
お土産屋を見て回り。
道端に咲く花に足を止め。
賑やかな時間を過ごしていた。
そして。
しばらくして。
夕日が空を赤く染め始める。
彩葉は大きく伸びをした。
「楽しかったです♪」
その言葉に。
隣を歩いていた穂乃香が得意そうに笑う。
「だろ!」
「鹿児島は良いところだからな!」
すると。
泉が優雅に髪を揺らしながら微笑んだ。
「お次は温泉を」
しかし。
穂乃香はすぐさま叫ぶ。
「だから行かねぇよ!」
「なんでそんなに温泉ばっかりなんだよ!」
「当然ですわ!」
「素晴らしい文化ですもの!」
「熱いだけだろ!」
「熱いだけではありませんわ!」
「効能がありますの!」
また始まった。
おなじみとなった二人の言い争い。
そんな二人を見て。
彩葉は苦笑いする。
「あはは……」
その時だった。
「ん?」
彩葉が立ち止まる。
穂乃香が振り返る。
「ん?」
「どうした」
彩葉は耳を澄ませていた。
風に乗って。
どこからか。
優しい鼻歌が聞こえてくる。
「♪♪♪~~~~~~~」
不思議な。
透き通るような声。
まるで鈴の音のように澄んだ歌声だった。
「鼻歌?」
穂乃香が首を傾げる。
すると。
泉は少し微笑んだ。
「……まぁ」
「この声は」
穂乃香もすぐに思い当たったようだった。
「あぁ」
「あいつだな」
彩葉は目を輝かせる。
「お知り合いですか?」
穂乃香は頷いた。
「あぁ!」
「とても勉強熱心でな」
「頑張り屋なんだ」
泉も嬉しそうに微笑む。
「それにかわいいんですわ」
「娘みたいに」
彩葉はますます興味を持った。
「……会ってみたいかも」
「あぁ!」
「行くと良いぜ!」
「久しぶりに私たちも会いに行きますわ」
三人は声のする方向へ歩き出した。
住宅街を抜け。
坂道を上り。
しばらく進む。
すると。
公園のような場所へたどり着いた。
夕日に照らされた芝生。
揺れる木々。
ブランコ。
ベンチ。
そして。
少し高くなった場所。
そこに。
一人の少女がいた。
首には大きなナットがチョーカーのように付いている。
手にはマイク。
そのコードは。
長い尻尾と繋がっていた。
少女は目を閉じ。
気持ち良さそうに鼻歌を歌っていた。
「♪♪♪♪~~~~~」
その声は。
聞いているだけで心が落ち着く。
彩葉は思わず見惚れていた。
「あの方は……」
穂乃香が笑った。
「マイだぞ」
泉も頷く。
「えぇ」
すると。
少女は三人に気付いた。
「~~~~?」
そして。
ぴょん!
軽やかにジャンプすると。
嬉しそうに近寄ってくる。
「穂乃香さん」
「泉さん」
「おはようございます!」
それから。
初めて見る彩葉へ視線を向けた。
「……えっと」
彩葉は笑顔で頭を下げた。
「あ、バッグの守護者『彩葉』です!」
すると。
少女も慌てて頭を下げる。
「あ、声優の守護者『マイ』です」
「はじめまして」
彩葉はにっこり笑った。
「こっちもはじめまして!」
穂乃香は嬉しそうにマイの肩を叩いた。
「マイはな」
「首のナットを回すことで」
「声帯とかを変えて声を変えるんだ」
「すごいだろ」
彩葉の瞳が輝く。
「すごいです!」
しかし。
マイは恥ずかしそうに頬を赤くした。
「い、いえ」
「私なんてまだまだ」
「私!」
「声優に憧れていて」
「いつか自分だけの声を出せたらなぁって……」
「えへへ」
彩葉は優しく微笑んだ。
「良い夢だね」
その言葉に。
マイの顔がぱっと明るくなる。
「ありがとうございます!」
すると。
泉が周囲を見回した。
「あら?」
「マイちゃん」
「あの子は一緒じゃないんですの?」
マイは思い出したように頷く。
「あぁ」
「リリアちゃんなら」
その時だった。
遠くから元気いっぱいの声が響いた。
「お~い!」
「マイちゃ~ん!」
マイが振り向く。
「あ、来ました」
そして。
坂道を駆け下りてくる少女が一人。
金色の髪。
元気そうな笑顔。
そして。
どこかレトロな雰囲気を纏った少女だった。
近付くなり。
その少女は元気いっぱいに笑った。
「お?」
「穂乃香さんと泉と」
「知らない子いる~」
そして。
彩葉へ向かって大きく手を振る。
「はじめまして!」
「私は『リリア=エジソン』!」
「蓄音機の守護者だよ!」
「にひひ♪」
明るく笑うリリア。
その笑顔を見て。
マイも自然と笑顔になる。
穂乃香は豪快に笑い。
泉は優しく微笑む。
そして。
彩葉もまた。
新たな出会いに胸を躍らせながら。
嬉しそうに笑うのだった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




