第八十四話 【女神の気配と旅路の助言】
長崎県佐世保。
佐世保鎮守府。
守護者専用訓練施設。
時雨の神装解放を見て感動していた彩葉だったが、次に告げられた言葉は、それ以上に驚くべきものだった。
駆逐艦「時雨」の守護者。
六花衆・第五席。
時雨。
バッグの守護者。
彩葉。
彩葉は目をぱちぱちとさせながら首を傾げる。
「リンクしてる神がいる?……でも……」
時雨は穏やかな笑みを浮かべた。
「今はわかりません」
「ですが、いつかはその力が目覚めるでしょう」
「そして私にはわかります」
「彩葉さんとリンクしている神は、とても高位です」
「……このエネルギーの波長は恐らく……オリュンポス……」
彩葉はきょとんとした。
「オリュンポス?」
「彩葉」
「オリュンポスに会ったことは?」
そう尋ねられ、彩葉はしばらく考える。
そして、ふと思い出した。
「あ……」
「東京の桜菊祭で『アテナ』っていう女神と会ったよ」
時雨は目を見開いた。
「アテナ様?」
「…………もしかしたら……」
彩葉は不思議そうに見つめる。
「時雨さん?」
時雨は腕を組んだ。
「いえ」
「アテナ様は、ほとんど裏方なので資料が少なく……」
「エネルギーの波長もわからないのです」
「でも、もしかしたら」
「そのアテナ様が彩葉とリンクしているかもしれません」
彩葉は驚きのあまり声を上げた。
「え!」
「あ、あの時、私が気になるみたいだった」
時雨は小さく頷く。
「……もしよろしければ」
「ギリシャという国のパルテノン神殿に行ってみてはどうでしょう」
「あそこはアテナ様の人間界の神殿です」
「もしかしたら、なにか教えてくれるかもしれません」
彩葉の瞳が輝いた。
「……うん!」
「わかった!」
「色々ありがとね!」
時雨は優しく微笑んだ。
「いえ」
「私はなにも」
「ギリシャに行くなら」
「南西」
「鹿児島から屋久島を通り、フィリピンから向かうと良いですよ」
彩葉は電子地図を取り出した。
灰原からもらった電子地図。
世界中の情報が記録された特別な地図である。
画面を眺めながら彩葉は首を傾げた。
「どうして、南西なの?」
時雨は地図を覗き込む。
「そうだね」
「北には『四季ノ王』の中の『春ノ王』がいるし」
「北西には『原初の台風の守護者・フウカ』がいる」
「そのせいで海が荒れていて危険なんだ」
「そして西には『四季ノ王』の中の『秋ノ王』がいる」
「だから南西がいい」
彩葉は目を丸くした。
「そうなんですね」
「春ノ王は聞きましたが」
「秋ノ王もいるんですね」
「ありがとうございます!」
時雨は優しく頷いた。
「あぁ」
「気を付けるんだよ」
「日本生まれの守護者だから海上を歩ける」
「でも長い旅になるからね」
彩葉は元気よく返事をした。
「はい!」
その様子を見ていた時雨は、ふっと微笑む。
「ふふっ」
「元気ですね」
「その純粋さは、きっと大切な力になります」
彩葉は少し照れ臭そうに笑った。
「えへへ」
「そうかな?」
「私、まだまだ弱いし」
「知らないこともいっぱいだし」
「でも!」
「もっとたくさん知りたい!」
「世界を見たい!」
「自分が生まれた意味も知りたい!」
時雨は静かに目を細めた。
「えぇ」
「その旅こそが」
「あなたの答えになるのでしょう」
訓練施設の窓から、夕暮れの空が見えていた。
赤く染まる空。
遠くに広がる海。
穏やかな波。
その景色を眺めながら、彩葉は胸に手を当てる。
(ギリシャ……)
(アテナさん……)
(私と繋がってる神様……)
(本当にそうなのかな……?)
すると。
遠く離れた場所。
神界。
黄金の神殿。
その一室。
長い銀髪を揺らしながら、一柱の女神が楽しそうに笑っていた。
知恵と戦いの女神。
アテナ。
机の上には大量の書類。
周囲には巻物や本が山のように積まれている。
そんな中。
女神はくすくすと笑った。
「ふふふっ」
「そろそろ気づくかな~?」
隣では小さな神使たちが慌てていた。
「アテナ様!」
「仕事が残っています!」
「あと三百七十二件です!」
「会議の資料もまだです!」
しかしアテナはどこ吹く風。
「あとで~♪」
「今は彩葉ちゃんの方が気になるし♪」
神使たちは頭を抱えた。
「またですか!」
「ゼウス様に怒られますよ!」
「大丈夫大丈夫~♪」
「怒られても慣れてるし!」
そう言って笑うアテナ。
その背後。
ふわりと現れる巨大なフクロウ。
神獣は優しく鳴いた。
「ホゥ」
アテナは嬉しそうに抱きつく。
「ふふっ」
「楽しみだね」
「彩葉ちゃん」
「君はどこまで成長するんだろう」
「そして……」
「君は、自分の答えを見つけられるのかな」
女神の瞳には。
遠く離れた人間界。
佐世保の空を見上げる一人の少女の姿が映っていた。
まだ知らない。
これから先。
海を越え。
国を越え。
世界を巡る長い旅が始まることを。
そして。
その旅の果てで。
守護者という存在。
そして世界の真実に近づいていくことを。
だが今はまだ。
少女は何も知らない。
ただ、目の前の世界に胸を躍らせながら。
次の旅路へと思いを馳せるのだった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




