第八十三話 神装解放と見えない絆
長崎県佐世保。
佐世保鎮守府。
守護者専用訓練施設。
静かな空気の流れる広い訓練場の中央で、彩葉は時雨と向かい合っていた。
先ほどまで拘束魔法の練習を行っていた彩葉だったが、時雨はどこか楽しそうな表情を浮かべている。
そして。
海色の瞳を細めた。
「そうです、良いものを見せましょう。」
「良いもの?」
時雨は静かに息を吸う。
深く。
ゆっくりと。
「すぅ~~……はぁ~~……『神装解放』!」
その瞬間。
ドォォォォォン!!
眩い蒼白の光が訓練場全体を包み込んだ。
「ッ!?」
彩葉は思わず目を閉じる。
あまりにも強烈な光。
神々しい気配。
まるで海そのものが目の前に現れたかのような圧倒的な力。
やがて。
光が収まる。
「彩葉、もう良いですよ」
恐る恐る目を開く。
そして。
彩葉は目を丸くした。
「……わぁ~!」
そこに立っていた時雨の姿は、先ほどまでとは全く違っていた。
背中には巨大な艤装。
主砲。
副砲。
高角砲。
無数の砲台が整然と並び、その上部には特に巨大な二門の艦砲が存在していた。
まるで一隻の軍艦そのもの。
しかし。
それらは不思議と美しく、神秘的な光を放っていた。
彩葉は感動したように見上げる。
「それ、重くないんですか」
時雨は少しだけ苦笑する。
「そこですか……」
「まぁ、これは力の現れですから重くないですよ。」
「へぇ~!」
「すごい!」
「神装解放って」
時雨は頷いた。
「良い質問です」
「『神装解放』とは契約した神の力でパワーアップすることを言います」
「神の力……」
「はい」
その時だった。
訓練場の入り口から元気な声が聞こえてきた。
「その力はエンタープライズと戦ってたときに身に付けたんだよね!」
「え!?」
彩葉が振り返る。
そこには元気そうな少女が立っていた。
明るい笑顔。
どこか人懐っこい雰囲気。
時雨は驚くことなく小さく頭を下げた。
「来てたんですか、ホウシャン」
少女は元気いっぱいに手を振る。
「こんにちは!」
「私は『ホウシャン』!」
「放射線の守護者だよ!!」
「あ、バッグの守護者『彩葉』です!」
「……ホウシャン……?」
「…………あ!」
「灰原さんが言ってた!」
ホウシャンは嬉しそうに目を輝かせた。
「お?」
「灰原ちゃん知ってるの!?」
「はい!」
「会いました!」
「それで、エンタープライズと戦ってたときに身に付けたって?」
「ん?」
「そのままの意味だよ?」
ホウシャンは懐かしそうに笑う。
「『第一次共生世界大戦』の時」
「時雨ちゃんは敵の原子力空母『エンタープライズ』と戦って負けそうだったけど」
「海の神とリンクして『神装解放』を使ってエンタープライズを修理不可能状態にして解体確定に持ち込んだの」
彩葉は驚く。
「守護者でも壊せない船……」
時雨は静かに頷く。
「まぁ、第一次共生世界大戦時に生まれましたし……」
「破壊しようとしたら敵の守護者に邪魔されたんですよ」
「そうなんだ……」
ホウシャンは笑顔のまま続ける。
「まぁ、私も灰原と同じで想霊と怨念に取り憑かれて大暴れしたんだけどね」
「時雨ちゃんはね」
「砲撃や魚雷の他に鎖を出せるの」
「鎖?」
「うん!」
「でっかい鎖にでっかい錨がついてるの!」
「それで、敵軍艦を一撃で沈めてたんだ!」
「もちろん海に逃げた敵兵も一匹残らず駆逐したんだよね」
時雨は穏やかな顔のまま答える。
「そうです」
「敵は残さず消す」
「それが守護者の戦いです」
「…………」
彩葉は黙っていた。
今まで見てきた優しい時雨。
穏やかな時雨。
しかし。
第一次共生世界大戦を生き抜いた守護者としての姿もまた、本当の時雨なのだろう。
そんな空気を察したのか。
ホウシャンは慌てて両手を振った。
「あ!」
「ごめんねぇ!」
「じゃ!」
「またいつでも遊びに来てください」
「うん!」
そう言うと。
ホウシャンは元気よく去っていった。
再び静寂が戻る。
時雨は艤装を消しながら彩葉を見る。
砲台は光となって消えていき、元の姿へ戻った。
「さて、彩葉……」
「あなたはもう神装解放を使えるはずですよ」
「え!?」
彩葉は思わず大声を出した。
「わ、私が!?」
「はい」
「私にはわかります」
「すでにリンクしている神がいます」
「えぇぇ!?」
「でも!」
「そんな神様、知らないよ!?」
時雨は優しく微笑んだ。
「本人が気付いていないだけです」
「神と守護者の絆は目には見えません」
「ですが、確かに存在する」
「あなたの中に流れる力」
「その波長」
「どこか懐かしくて」
「とても暖かい」
「そして」
「不思議と知性を感じます」
「知性?」
「はい」
「戦いを好む神ではありません」
「導く者」
「見守る者」
「そんな気配です」
彩葉は自分の胸に手を当てた。
「私の中に……神様……」
しかし。
どれだけ考えても分からない。
誰なのか。
どこにいるのか。
どんな神なのか。
全く分からない。
「う~ん……」
「わからない~……」
時雨はクスッと笑った。
「焦らなくて良いですよ」
「その時が来れば」
「きっと向こうから姿を見せてくれます」
「そういうものですから」
「うん!」
「その時を楽しみにする!」
「ふふっ」
「それが良いですね」
その頃。
遥か彼方。
神界。
雲海に囲まれた美しい神殿。
金色の柱。
白い大理石。
神々が集うその場所で。
一人の女神が椅子に腰掛けながら楽しそうに笑っていた。
長い髪を揺らし。
瞳を細める。
「ふふふっ」
「そろそろ気づくかな~?」
知恵と戦いを司る女神。
アテナ。
その顔には、まるで娘の成長を見守る母親のような優しい笑みが浮かんでいた。
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