第八十一話 六花衆第五席との対話
長崎県佐世保。
潮の香りが風に乗って流れてくる。
軍港の街らしく、遠くには大きな艦船の姿も見え、規則正しく並ぶ建物からは厳かな空気が漂っていた。
そんな中。
彩葉は大きな門の前で立ち止まっていた。
目の前には、呉で見たものとは少し雰囲気の違う巨大な施設。
佐世保鎮守府。
歴史と重みを感じさせる場所だった。
彩葉は門を見上げながら目を輝かせる。
「ここが、佐世保鎮守府……呉にあった鎮守府と少し違う?」
すると。
門の近くにいた軍服姿の人間が、穏やかな笑顔で近付いてきた。
「おや、守護者様、なにかごようで?」
「あ、はい!時雨っていう守護者はいますか?菅原道真公さんからお手紙です」
その言葉を聞いた軍人は一瞬だけ表情を変えた。
「……少し待っててください」
そう言うと、建物の奥へと消えていく。
彩葉は辺りを見回しながら待った。
海から吹く風が心地よい。
しばらくすると。
奥から静かな足音が聞こえてきた。
少女の声が響く。
「はじめまして、六花衆・第五席『駆逐艦「時雨」の守護者「時雨」』です。……わざわざ、福岡からありがとうございます」
現れた少女は、美しい海色のワンピースを纏っていた。
落ち着いた雰囲気。
優しげな瞳。
しかし、その奥には歴戦の戦士のような強い意志が宿っている。
彩葉は目を輝かせた。
「あなたも六花衆なんだね!アリアちゃんと同じだ♪……あ、はい!これ!!」
封筒を差し出す。
時雨は丁寧に受け取った。
「アリアさんを知っているんですね」
そう呟くと、封筒を見つめる。
「……なるほど……入ってください。なかで話しましょう」
「はい」
二人は建物の中へ入った。
内部は広く、静かだった。
長い廊下がどこまでも続いている。
壁には古い写真や資料が飾られており、歴史を感じさせた。
彩葉は周囲を見渡しながら感心する。
「長いですね」
時雨は小さく微笑んだ。
「まぁ、あれから改築しましたから……ここです。会議室で話しましょう」
やがて。
二人は会議室へ到着する。
重厚な扉を開く。
中は静かで、落ち着いた空間だった。
時雨は椅子に腰掛ける。
彩葉も向かいに座った。
「さて、このたびは遠いとこからありがとうございます」
「いやいや、仕事をしただけだから!」
その返事に。
時雨は少しだけ微笑んだ。
「ふふっ、優しいんですね」
そして。
表情を引き締める。
「さて、本題に入りましょう……断界同盟幹部『怪鬼』が現れたと……」
「うん!すっごく強かったけど道真公さんがトドメをさしたの」
時雨は手紙を見ながら頷く。
「はい、書いてあります」
「……あいつには私たちも困っていました」
「まぁ、世界中にいるあいつらはいまでも悪さをしていますが……」
その言葉に。
彩葉の顔が真剣になる。
「私、とめたい……」
時雨は目を瞬かせた。
「え?」
「断界同盟をとめたい!みんなの幸せを奪うやつを野放しにしておけないよ!」
迷いのない言葉。
純粋で真っ直ぐな願い。
時雨はしばらく彩葉を見つめていた。
そして。
静かに微笑む。
「よく言いました」
しかし。
彩葉は少し俯く。
「でも、私、強くないし……」
すると。
時雨は穏やかな声で答えた。
「では、旅をしながら強くなれば良いのです」
「え?」
「手紙に書いてあります。あなたは旅をしていると」
「うん!自分の存在理由を生まれた意味を見つけたい!」
時雨はその瞳を見つめる。
まるで何かを確かめるように。
そして。
優しく頷いた。
「良い目ですね」
「うん♪これが私の『決意』だから」
「なるほど」
「その意思、素晴らしいです」
「えへへ……」
彩葉は照れ臭そうに笑った。
そして。
ふと周囲を見回す。
「そうだ、人間さんが少ない気がする、どうして?」
「そうですね」
時雨は窓の外を見た。
遠くでは艦艇が動き、訓練の準備が進められている。
「ここの鎮守府は今は訓練と自衛隊との演習がありますので、いつもより少ないのです」
「そうなんですね」
「そうです」
しばし静寂。
すると。
時雨は立ち上がった。
海色の髪が揺れる。
「私はこれから自主練するのですが、一緒にしませんか?」
「え?」
突然の誘いに。
彩葉は目を丸くする。
しかし。
時雨は優しく微笑んでいた。
六花衆第五席。
駆逐艦「時雨」の守護者。
その穏やかな瞳の奥には。
歴戦を生き抜いてきた者だけが持つ静かな強さが宿っていた。
そして。
新たな出会いは。
また一つ、彩葉の旅を大きく変えていこうとしていた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




