第八十話 双子のみかん精霊と佐世保への道
長崎県佐世保。
九州の西に広がる海と山に囲まれた美しい港町。
海風は穏やかで、どこか福岡とは違う空気が流れていた。
仮想列車がゆっくりと停止する。
巨大な蒸気機関車の姿をしたハチロクは、いつもの柔らかな笑顔を浮かべていた。
「ここが佐世保……」
窓の外を見ながら、彩葉は感動したように呟く。
「はい!それでは、頑張ってください!」
「うん!」
「それでは~」
手を振るハチロク。
彩葉も笑顔で大きく手を振った。
「またね~!」
ハチロクの仮想列車は神力の粒子となって消えていく。
そして再び人の姿へ戻ったハチロクも、手を振りながら遠くへ走り去っていった。
「……よし、私も行こう」
彩葉は元気よく町へ向かって走り出した。
佐世保の町並み。
異国情緒の漂う建物。
海軍の町らしい雰囲気。
賑わう商店街。
どこを見ても新鮮で、彩葉は目を輝かせていた。
「わぁ~遠くからでもすごいですが近くで見るとさらにすごいです!」
すると。
元気いっぱいな声が聞こえてきた。
「みかんいかがですか~♪」
続いて、落ち着いた優しい声。
「いかがですか~」
「なんだろ?」
彩葉は声のする方向へ向かった。
そこには。
頭の上に大きなザルを乗せた二人の少女がいた。
大量のみかんが入った大きなザル。
二人とも小柄で、どこか人間とは違う優しい気配を纏っている。
「あの二人……精霊だ」
すると近くで遊んでいた子供たちが駆け寄ってきた。
「わぁ~い!」
「みかんください!」
元気いっぱいの少女は嬉しそうに微笑んだ。
「うん!待っててね♪……よっと!はい♪」
「ありがと~!」
もう一人の少女も穏やかに笑う。
「また来てね」
「うん!」
「ばいば~い!」
元気な少女は満面の笑顔。
「たくさんもらってもらったね♪」
静かな少女も優しく頷いた。
「まぁ、私たちは人間の笑顔が見れれば」
その様子を見ていた彩葉は、思わず駆け寄った。
「あ!あの!!精霊ですよね!私、バッグの守護者『彩葉』です!」
元気な少女はぱっと顔を明るくした。
「おやおや、かわいらしい守護者様だ♪」
「私はミカ!」
「みかんの精霊だよ♪」
隣の少女もぺこりと頭を下げる。
「私はリカ」
「みかんの精霊」
「お姉さまの妹……」
「みかんの精霊!?素敵ですね♪」
彩葉の瞳はさらに輝く。
ミカは嬉しそうに笑った。
「うん!」
「私たちは精霊と妖精の国『幻妖界』から来た双子の精霊なんだ♪」
「向こうの丘に見えるみかんの木から来たんだよ♪」
「あれは二代目の出入口ですが」
「二代目?」
ミカは少し困ったように笑う。
「あぁ~……あはは」
「一代目は空爆で燃えちゃったの」
「第一次共生世界大戦の時にね」
「……」
彩葉は表情を曇らせる。
リカが静かに続けた。
「まぁ、そのせいでアメリカは妖精と精霊に“も”喧嘩を売ったんだけどね……」
「も?」
「……あの戦いはすごかったから」
「あはは……」
そして。
普段大人しいリカの表情が少しだけ険しくなる。
「あの国は神の祠を破壊して八百万の神々に喧嘩を売り」
「同盟関係の神々の組織『オリュンポス』」
「『ヴァルハラ』」
「妖怪たちの組織『妖幻鏡』にも喧嘩を売り」
「あの木を燃やして私たち『幻妖界』にも喧嘩を売りました」
「そして神々が参戦したので」
「地獄の鬼と閻魔様」
「神界の神話生物と天使たち」
「さらに魔界の悪魔たちも加わりました」
「そこに守護者まで追加されているのですから……」
「あの国に勝ち目なんてありませんでした……」
「……」
彩葉はただ静かに聞いていた。
すると。
ミカが心配そうに妹を見る。
「リカ?」
「顔が怖い……」
「……あ」
「すみません」
いつもの穏やかな表情に戻るリカ。
彩葉も慌てて話題を変えた。
「あ!そうだ!」
「佐世保鎮守府ってどこにある!」
「鎮守府ですか?」
ミカは元気よく指を伸ばした。
「だったら♪」
「あっちを曲がって~」
「そのまま坂を下って~」
「大きな門が見えたらそこだよ♪」
「ありがとうございます!」
「いえいえ~♪」
「迷わないようにね」
「うん!」
すると。
ミカはザルの中から立派なみかんをいくつか取り出した。
「そうだ♪」
「こ~れ♪」
「受け取って♪」
「美味しいよ♪♪」
「わぁ!」
「みかん!」
「ありがとうございます!」
リカも微笑む。
「道、迷わないでね」
「はい!」
「それではまた!」
「うん♪」
「またね~♪」
手を振る双子。
彩葉も元気いっぱいに手を振り返した。
そして。
佐世保鎮守府を目指して走り出していく。
その小さな背中が遠ざかっていくのを見送りながら、ミカはぽつりと呟いた。
「……でも、よかったよね」
「なにがです?」
「魔法少女もあの戦いに参戦させる予定だったんでしょ?」
「純粋な女の子たちが血で汚れなくてよかったなって……」
リカは少し驚いたように目を丸くした。
そして。
ふっと優しく笑う。
「わからなくもありません……」
「ねぇ様」
「なにそれ~?」
「ふふっ」
夕暮れの風が吹く。
二人の頭上では、みかんの香りが漂っていた。
そして。
佐世保の町を駆けていく彩葉の前方には。
大きな門を備えた施設が、少しずつその姿を見せ始めていた。
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