第七十七話 神殺しの刃と蒼き雷光
福岡県太宰府。
太宰府天満宮神域。
怪鬼の背後に広がる黒い空間。
そこから現れた巨大な刀。
切っ先が姿を見せただけで、神域そのものが悲鳴を上げるように震えていた。
彩葉は思わず後ずさる。
「……すごい嫌な感じがします……」
風神も顔色を変えていた。
「なんじゃあれ……」
雷神の表情からも余裕が消える。
「ただの武器ではないぞ……!」
テンが低く呟く。
「神力を侵食しています……」
エフも刀を見据える。
「危険です」
「非常に」
ハチロクも笑顔を消していた。
「これはまずいですね~」
怪鬼は狂ったように笑った。
「クハハハハハハ!!」
「恐レルガイイ!!」
「コレハ幹部タル我ニ与エラレシ神殺シノ刃!!」
「滅界刀『黒禍』!!」
刀身が完全に姿を現す。
禍々しい黒。
刃から漏れる怨念。
周囲の空間が歪み。
地面の草花は枯れ始める。
菅原道真公が目を細めた。
「厄介なものを持っているね」
「まるで呪いの塊だ」
怪鬼が刀を振り上げる。
「死ネェ!!」
ブォォォォン!!
巨大な斬撃。
テンが叫ぶ。
「皆さん!」
「避けて!!」
ドゴォォォォォォォン!!
神域の一部が吹き飛ぶ。
彩葉は目を見開いた。
「えっ!?」
「山が……!」
斬撃の先。
遠くの岩山が真っ二つになっていた。
風神が青ざめる。
「なんという威力じゃ!」
雷神も息を呑む。
「直撃すればただでは済まんぞ!」
怪鬼はさらに刀を振るう。
「死ネ!」
「死ネ!」
「死ネェェェ!!」
無数の斬撃。
テンが空高く飛ぶ。
「空撃・誘導弾!」
無数のミサイル。
だが。
怪鬼が刀を一振り。
シュバァァァァ!!
ミサイルが全て消滅した。
「なっ!?」
テンが驚愕する。
「嘘でしょう!?」
エフが姿を消す。
「後ろです」
だが。
怪鬼は振り返りもせず刀を横薙ぎに振るった。
「!?」
エフは慌てて回避する。
それでも装甲の一部が切り裂かれた。
「くっ……!」
ハチロクが蒸気を吹き上げる。
「では私が~!」
「特急突進!」
凄まじい速度。
しかし。
怪鬼の笑みが深まる。
「遅イ」
ドゴォォォォン!!
「きゃあ!?」
初めて。
ハチロクが吹き飛ばされた。
「ハチロクさん!」
彩葉が叫ぶ。
蒸気を上げながら地面に着地したハチロク。
しかし帽子が破れ。
額から血が流れていた。
「いたた……」
「強いですね~」
風神が歯を食いしばる。
「調子に乗るでない!」
袋を掲げる。
「暴風!」
ゴォォォォォ!!
巨大な竜巻。
雷神も太鼓を叩く。
「雷鳴!」
バリバリバリバリ!!
無数の雷。
しかし。
「無駄ダ」
怪鬼の一振り。
風も雷も両断された。
「なんじゃと!?」
「馬鹿な!?」
彩葉も震えていた。
「こんなの……」
「どうしたら……」
その時だった。
菅原道真公が静かに立ち上がる。
「十分だよ」
「みんな」
テンが振り返る。
「道真公?」
エフも怪訝そうに見る。
「何を」
ハチロクも目を丸くする。
「まさか……」
菅原道真公は笑っていた。
「君たちは十分戦ってくれた」
「ありがとう」
怪鬼が笑う。
「ヤット諦メタカ!」
しかし。
道真公の周囲に。
膨大な神力が集まり始める。
彩葉が目を見開いた。
「すごい……!」
風神が汗を流す。
「これは……!」
雷神も驚愕する。
「本気か!」
テンが息を呑む。
「まさか」
エフも珍しく動揺していた。
「これほどとは」
ハチロクは嬉しそうに微笑む。
「久しぶりですね~」
怪鬼の笑みが消える。
「……ナンダ」
「ソノ力ハ」
菅原道真公は静かに空を見上げた。
「君」
「一つ勘違いしているよ」
神域の空。
晴天だったはずの空に。
黒雲が集まる。
ゴロゴロゴロ……
雷鳴。
怪鬼が初めて警戒の色を見せた。
「……?」
道真公は微笑んだ。
「昔の人々は」
「ボクを何と呼んでいたと思う?」
次の瞬間。
空全体が蒼白く染まった。
彩葉が思わず声を上げる。
「わぁ……!」
風神が震える。
「まさか……」
雷神が目を見開く。
「この気配……!」
テンもエフもハチロクも。
三人揃って空を見上げた。
そして。
菅原道真公は優しく笑った。
「学問の神」
「天神様」
「色々呼ばれているけれど」
「その前は」
「雷を司る怨霊神だったんだよ」
その瞬間。
天を裂くような蒼い雷が。
ゆっくりと道真公の手の中へ集まり始めた。
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