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Re:アルケオン〜守護者として生まれた私は世界を旅する〜  作者: れんP
アジアの章 日本編

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第七十三話 雷鳴の神域と希望の一歩



 福岡県太宰府。


 太宰府天満宮神域。


 神聖な梅の香りに満ちていた世界は、今や黒い亀裂に覆われていた。


 怪鬼が放つ禍々しい力。


 断界の力。


 それは神域そのものを侵食し、空間を歪ませ、存在を分断していく。


 菅原道真公の結界でさえ破壊されつつあった。


 怪鬼の声が響く。


「終ワリダ」


 その声と共に、巨大な黒い腕が菅原道真公へ迫る。


 だが。


「それはどうかな」


 道真公は静かに笑った。


「……なに?」


 怪鬼の動きがわずかに止まる。


 次の瞬間。


 道真公の足元から無数の文字が溢れ出した。


 漢字。


 ひらがな。


 カタカナ。


 光り輝く文字たちが宙を舞い、神域を包み込んでいく。


 彩葉(いろは)は目を丸くした。


「文字……?」


 雷神も驚いていた。


「おお!?」


 風神も目を見開く。


「これほどの神力……!」


 道真公が扇を開く。


「ボクは学問の神」


「知識を司る神」


「そして言葉を愛する者」


「文字は人の想い」


「想いは決して断ち切れない」


「これがボクの神通力」


「『文霊結界』」


 無数の文字が結界となって神域を覆う。


 侵食していた黒いひびが止まった。


 怪鬼の赤い瞳が細くなる。


「ホウ……」


 だが。


「無駄ダ」


 怪鬼が拳を握る。


 黒い空間が弾けた。


 大量の裂け目。


 数十。


 数百。


 そこから黒い腕が飛び出す。


「!!」


 文字の結界へ激突する。


 轟音。


 神域が揺れた。


 しかし。


 道真公は微動だにしない。


「まだまだ」


「甘いよ」


 光の文字が回転する。


 腕を切断。


 浄化。


 消滅。


 怪鬼の攻撃が次々と消えていく。


 風神が目を輝かせた。


「すごいのじゃ!」


 雷神も笑う。


「やはり神様じゃな!」


 彩葉も嬉しそうに声を上げる。


「すごいです!」


 しかし。


 怪鬼は笑った。


「ククク……」


「面白イ」


「実ニ面白イ」


 怪鬼の胸から黒い霧が噴き出す。


 その量は先程までとは比較にならない。


 道真公の笑みが消える。


「……まだ隠していたか」


 怪鬼の周囲に巨大な穴が出現した。


 十。


 二十。


 三十。


 無数。


 そして。


 そこから現れた。


 巨大な黒い武者たち。


 鎧武者。


 落武者。


 異形の兵士。


 数百。


 いや。


 千に届こうかという軍勢。


 彩葉が息を呑む。


「うそ……」


 風神も顔色を変える。


「なんじゃあれは!」


 雷神も絶句した。


「軍勢じゃと!?」


 怪鬼が両手を広げる。


「断界兵」


「死者ノ怨念」


「憎シミ」


「悲シミ」


「絶望」


「全テヲ喰ライシ者達」


「サァ」


「蹂躙セヨ」


 一斉に襲いかかる黒い兵士たち。


 道真公は扇を振る。


「『天満筆陣』!」


 光の文字が無数の矢となり飛翔。


 兵士たちを次々消し飛ばす。


 だが。


 消した先から新たな兵士が現れる。


「……きりがない」


 道真公の額に汗が浮かぶ。


 彩葉が驚いた。


「道真公さん!」


 風神が焦る。


「まずいのじゃ!」


 雷神も険しい顔になる。


「数が多すぎる!」


 怪鬼は笑う。


「ククク……」


「神ヨ」


「疲レテキタナ」


 道真公の周囲を黒い兵士たちが包囲する。


 そして。


 怪鬼自身が動いた。


 瞬間。


「!!」


 道真公の真横。


 空間が裂ける。


 黒い拳。


 回避。


 しかし。


 その先に別の穴。


 さらに拳。


「くっ!」


 衝撃。


 道真公の身体が吹き飛ぶ。


 庭園の岩へ激突。


 梅の花びらが舞う。


 彩葉が叫んだ。


「道真公さん!!」


 雷神が飛び出す。


「この化け物が!」


 巨大な雷が落ちる。


 轟雷。


 しかし。


 怪鬼は片手で受け止めた。


「ナニ!?」


 風神も風の刃を放つ。


「これでもくらうのじゃ!」


 だが。


 風さえも裂け目に吸い込まれる。


「そんな!」


 怪鬼の拳。


 雷神を吹き飛ばす。


「ぐはっ!」


 さらに。


 風神も黒い衝撃波を受けた。


「うわっ!」


 二柱の神が地面へ転がる。


 彩葉の顔が青ざめる。


「風神さん!」


「雷神さん!」


 怪鬼はゆっくり歩き出す。


 その歩みだけで神域が軋む。


「弱イ」


「神モ」


「仏モ」


「所詮ハ存在」


「断界ノ前ニ平伏ス」


 道真公が立ち上がる。


 しかし。


 肩で息をしていた。


 消耗が激しい。


「はぁ……」


「これは予想以上だね……」


 彩葉は震えていた。


 今まで見てきた敵。


 ゼクロス。


 想霊。


 祟面。


 それらとは次元が違う。


 怪鬼。


 断界同盟幹部。


 その圧倒的な力。


 そして。


 怪鬼はついに道真公の目前まで辿り着いた。


 黒い右手を上げる。


「終ワリダ」


 道真公も迎え撃つため扇を構える。


 だが。


 彩葉の瞳に映った。


 わずかに。


 本当にわずかに。


 道真公の腕が震えていることを。


 彩葉の胸が締め付けられる。


「……ダメ」


「このままじゃ……」


 怪鬼の手が振り下ろされようとした。


 その瞬間。


 彩葉の中で。


 修行の日々。


 道真公の言葉。


 風神の笑顔。


 雷神の励まし。


 皆の声が蘇る。


『無駄な魔力を消すんだ』


『力を理解するのじゃ』


『信じることじゃ』


 彩葉は強く拳を握った。


 震える足を前へ出す。


 そして。


 道真公の前へ。


「彩葉!?」


 風神が叫ぶ。


「何をするのじゃ!」


 雷神も目を見開く。


「馬鹿者!」


 道真公も驚いていた。


「彩葉!?」


 だが。


 彩葉は逃げなかった。


 怪鬼を真っ直ぐ見上げる。


 そして。


 ぎゅっと両手を握りしめ。


 小さな声で。


 けれど確かな決意を込めて呟いた。


「……私」


「みんなを守りたいです」


 その瞬間。


 彩葉の体から。


 今までとは比べものにならないほど純粋で美しい光が溢れ始めた。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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