第七十話 【風と雷の神々と新たなる修行】
福岡県太宰府。
太宰府天満宮神域。
梅の香りが風に乗って流れる美しい庭園。
縁側で休憩していた菅原道真公は、近付いてくる気配に微笑んだ。
「ふふっ……今日は賑やかになりそうだね」
彩葉は首を傾げる。
「え?」
すると。
神域の入り口の方から元気な声が響いた。
「おーい!遊びに来たのじゃ~」
さらにもう一人。
「なんじゃ?客人が来ておったのか?」
現れたのは二人の幼い少女。
一人は大きな風袋を背負っている。
もう一人は雷太鼓を背負っていた。
しかし、その小さな身体から放たれる神力は凄まじい。
まるで自然そのもの。
いや。
自然そのものが人の姿を取ったかのようだった。
道真公は苦笑する。
「風神、雷神、なにか用かな」
「ん?久しぶりに小娘の様子を見に来たのじゃ」
「うむ、怨霊となり大暴れした挙げ句神になった小娘をな」
「君たちもわざわざ博多から来たのかい?、昔はあんなに大暴れしたくせに」
「なんじゃと!?」
「仏様のこっぴどくしかられて反省しておるわ!」
「そうなのかい?毎日のように喧嘩して嵐と雷雨を呼び暴れていて困っていると人間がいっていたような?」
「な!そ、それは……」
「もうしとらんから良いではないか!そ、それより、そこの守護者はなんじゃ?」
「そうじゃそうじゃ、弟子でも取ったのか」
「"力"の使い方を教えているだけだよ」
彩葉は慌てて立ち上がった。
「バッグの守護者『彩葉』です!」
「雷神じゃよろしくな」
「風神じゃよろしくなのじゃ」
「はい!」
「そうだ、風神、雷神も彩葉に修行に協力してよ」
その言葉に。
二柱の神は同時に目を丸くした。
「「は?」」
そして。
二人は顔を見合わせる。
「わしが?」
「わらわが?」
「うん」
「ちょうどいいでしょ?」
「自然を操る神の修行なんて滅多に受けられないよ」
雷神は腕を組んだ。
「ふむ」
「まぁ、暇ではあったが」
風神も頷く。
「うむうむ」
「面白そうじゃ!」
彩葉はぱあっと顔を明るくする。
「本当ですか!?」
「もちろんじゃ!」
「遠慮するでない!」
「神の修行じゃぞ!」
「わぁ~!」
彩葉は目を輝かせた。
その様子を見て道真公は微笑む。
「よかった」
「さて」
「まずは何から教える?」
すると。
風神が胸を張った。
「まずは風じゃ!」
「風は流れ!」
「流れを知れば魔力の流れもさらにわかる!」
雷神も負けじと胸を張る。
「いや!」
「雷じゃ!」
「集中力を鍛えねば話にならぬ!」
しかし。
「風じゃ!」
「雷じゃ!」
「風!」
「雷!」
「風!」
「雷!」
再び始まった。
彩葉はあわあわする。
「え、えっと」
「喧嘩?」
道真公は呆れたようにため息をついた。
「相変わらずだねぇ」
すると。
二柱は慌てた。
「ち、違うぞ!?」
「喧嘩ではない!」
「そうじゃ!」
「仲良しじゃ!」
その瞬間。
ゴロゴロゴロ……。
空が曇る。
ビュオォォォ!
神域に強風が吹いた。
彩葉の髪がばさばさと揺れる。
「きゃあ!?」
道真公は額に手を当てた。
「ほら」
「喧嘩してるじゃないか」
「「してない!」」
ピシャーン!!
ドゴーン!!
空で雷が鳴った。
ビュオオオオ!!
梅の花びらが舞う。
彩葉は慌ててスカートを押さえる。
「ひゃあああ!?」
「すごいです~!」
すると。
風神と雷神はハッとした。
「いかん」
「またやってしまった」
「むむむ」
「癖とは恐ろしいのう」
道真公はため息をついた。
「人間たちから苦情が来る前にやめて」
「うぅ」
「すまぬ」
そして。
二柱は彩葉を見る。
「では!」
「修行じゃ!」
「はい!」
「まずは逃げる!」
「え?」
「追いかける!」
「え?」
「捕まえる!」
「え?」
「それだけじゃ!」
「ええ!?」
彩葉は目をぱちくりさせた。
風神はニヤリと笑う。
「風を読むには風になることじゃ!」
「逃げるぞ~!」
シュン!
姿が消えた。
「はやっ!?」
雷神も笑う。
「わしも行くぞ!」
バチィッ!
雷と共に消えた。
「ええええ!?」
彩葉は目を白黒させる。
道真公は笑った。
「はははっ」
「頑張っておいで」
「昔からああなんだ」
「悪い神じゃないから」
「はい!」
「行ってきます!」
彩葉も走り出した。
しかし。
風神と雷神の姿はどこにも見えない。
「わわっ!」
「どこですかー!?」
すると。
頭上から笑い声が聞こえた。
「こっちじゃ~!」
「遅いぞ!」
見上げると。
二柱は木の枝の上。
次の瞬間。
シュン!
別の木へ。
さらに。
シュン!
また別の場所へ。
「待ってくださーい!」
彩葉は走る。
跳ぶ。
転びそうになりながらも追いかける。
そして。
そんな賑やかな光景を見ながら。
縁側でお茶を飲む道真公は楽しそうに笑った。
「ふふっ」
「若いっていいなぁ」
しかし。
その笑顔の奥。
誰にも気付かれないほど小さな声で。
学問の神はぽつりと呟いた。
「……怪鬼」
「断界同盟」
「そして、彩葉」
「君を狙う運命も、少しずつ近付いているみたいだね」
だが。
今だけは。
この賑やかな時間を見守ろう。
そんな優しい微笑みを浮かべながら。
道真公は静かに湯飲みを傾けた。
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次回もお楽しみに




