第六十六話 梅香る道と魔法の契約者
太宰府の空は、どこか柔らかい光に包まれていた。風が吹くたびに梅の香りがふわりと広がり、参道の石畳を歩く人々の足取りまでも軽くしているようだった。
彩葉は周囲を見回しながら、目を輝かせていた。
「わぁ~!ここも!ここも!ここも!どこも他とは違くて素敵な場所です~!これはなにでしょう」
立ち止まった先にあった屋台の前で、湯気の立つ丸い餅が並んでいる。それを見て首を傾げていると、店先の男性が優しく声をかけてきた。
「これは梅ヶ枝餅っていうんだよ。守護者様、食べてみるかい?」
「え、ありがとうございます!」
受け取った瞬間、ほんのりとした温かさが手に伝わる。かじった途端、柔らかい生地と甘い餡が広がった。
「ッ~~!美味しいです!」
男性は満足そうに笑う。
「そうだろう?ここに来たらみんな食べていくんだ」
「観光かい?ここいらじゃ見ない顔だけど」
「はい!旅をしてます!」
「お~お~それは良い。ここを楽しんでいってくだされ」
「ありがとうございます!」
彩葉は嬉しそうに頭を下げると、再び歩き出した。
「太宰府天満宮はどっちですか?」
「あっちだよ」
指差された方向へ視線を向けると、参道の奥へ続く大きな鳥居が見えた。
「はい!ありがとうございます!」
足早に進んでいく彩葉の前に、突然――。
「わぁぁぁ~!」
「え?」
空から何かが落ちてくる気配がした。
「その子!受けとめてください!」
「え!?わ!?」
反射的に両腕を広げる。次の瞬間、柔らかい衝撃が腕に収まった。
「ふぅ……」
抱えていたのは、小さなぬいぐるみだった。
「……やぁ、助けてくれてありがとう」
「え!?ぬいぐるみがしゃべりました!?」
目を丸くしていると、少し離れた場所から息を切らした少女が駆け寄ってきた。
「はぁ、はぁ、はぁ……ありがとう……ございます……」
白い衣装に身を包んだ少女は、額の汗を拭いながら頭を下げた。
「え、う、うん」
状況が追いつかず、彩葉はぬいぐるみと少女を交互に見た。
「私は水鏡真白。魔法少女です、守護者様」
「ボクはフェルル。魔法の妖精だよ」
「魔法少女?」
初めて聞く言葉に、彩葉は首を傾げる。
「魔法少女を見るのは初めてですか?」
「うん、近くで見るのは。遠くからなら見たことあるよ」
「そうなんですねっ」
フェルルがふわりと宙に浮かびながら説明を続ける。
「ボクは魔法の妖精の国から来たんだ。人間の少女と契約して魔法少女を増やし、想霊やエラーを倒す手伝いをしているんだよ」
「エラー?」
彩葉が聞き返すと、真白が頷いた。
「エラーは空間のバグから生まれる存在です。フェルルと契約した魔法少女しか倒せないんです」
「そうなんだ……」
彩葉は少し考え込むように視線を落とした。
「……あ!ねぇ!太宰府天満宮ってどこ?地図はあるんだけど、ちょっと迷っちゃって……あはは」
真白は一瞬驚いたあと、すぐに笑顔を見せた。
「あ、でしたら私が案内しますよ」
「いいの?」
「はい!ちょうどそこで仲間と待ち合わせてたんです」
「そうなんだ、よろしく!」
「はいっ!」
フェルルがくるくると回転しながら笑う。
「もう仲良くなったようだね」
その瞬間、フェルルの尻尾についた大きな鍵が淡く光った。
「?その鍵は」
「これかい?これは契約の鍵だよ。魔法少女と契約するときに渡されるんだ。それを使って変身するんだよ」
「そうなんだ~」
彩葉は興味深そうに鍵を見つめた。
そのとき、真白が前を向く。
「いきますよ~」
「あ!そうだった!」
彩葉は慌てて後を追った。
梅の香りの中、二人と一匹は太宰府天満宮へと歩き出す。静かな参道の奥で、まだ見ぬ出会いと出来事が、確かに待っていた。
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次回もお楽しみに




